表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/290

第百十三話 精霊色

「カナさん、この世界の魔法には五つの属性がある事はご存知ですわね?」


「ああ、土、風、水、雷、炎……だな」


「その通りですわ」


 ジルの説明が始まった。

 この世界の五属性。私も出逢ったばかりの頃に、カナから教わった記憶がある。


 例えば、私の得意な属性は『土』で、《剣創世(ソード・ジェネシス)》の元となった魔法《剣創造(クリエイト・ソード)》は『土』の魔法となっている。剣を構成する鉄は、土から採掘されるから。


 女神様――『創世の女神』様が、名前に『創世』を付け加えたから、ひょっとしたら『女神』属性かも知れないけど。


 《火球(ファイヤー・ボール)》を得意とするカナの属性は多分、『炎』かな?

 ……なんて事を考えている間にも、ジルの説明は続く。


「属性ごとに、『魔素(マナ)』というものがありまして……。まずは、それをお見せしますわね……《魔力可視化(ビジブル・マナエナジー)》!」


 《魔力可視化》は、大気中の魔力である『魔素(マナ)』を見えるようにするジルの魔法。実用性はいまいちよく分からないけど、とても綺麗な魔法だ。


 彼女が魔法を唱えると、周囲に色とりどりの淡い光球が現れる。


 ただ、私が初めて見せて貰った時と違って、光球の数はとても少ない。

 多分、カナが大きな魔法を使って、『魔素(マナ)』が枯渇しているせいだと思う。


「おお、(すげ)えー!」


 それでもカナには初めての事で、光球を見て驚き、手で掴まえようとして追いかけ始めた。まるでタンポポかシャボン玉のように、カナの手に触れると、ふわりと光球が避けてしまう。更にそれを追うカナ。とても可愛らしい光景だ。


「これが『魔素(マナ)』ですわ。属性に合わせて五色あるのが、見えますかしら?」


「えーと、緑、ピンク、青、黄色……それに赤があるな」


「それが属性。色と属性が対をなしていますわ。……もっとも、カナさんはこの属性を魔法陣の力で、無理矢理炎に変換して使い尽くしてますけど」


「へー……そー()う仕組みだったんだな。アタシ、なんとなく使ってたから全然知らなかったぜ」


 なんとなくで、あんな凄い魔法を使ってたんだ。……カナ、恐るべし。

 

「ところで聖女サマ」


「なんですの?」


「見たトコ、『魔素(マナ)』っつうの? 魔力がちょっぴりしかねえけど……大丈夫なのか?」


「あ……そうでしたわ……。もう……限、界……」


 ジルが真横に、ぱたりと倒れた。

 そうよね。これだけ『魔素(マナ)』が少ない状態なら、そうなるよね。



    §  §  §  §



 私たちは、ジルが起きるまで一旦休憩。


 こことは違う異世界からやって来た、この世でたった一体の真竜(ドラゴン)。彼女は大気中の『魔素(マナ)』を吸収して、その生命を維持している。周囲の『魔素(マナ)』が少なくなれば、このように倒れてしまう。


 世界の法則に無理矢理合わせて生きている彼女の生態は、面白いけれど……とても不便そうだ。


 しばらくして、ようやく目を醒ましたジルが説明の続きを始める。


「ええと……どこまでお話しましたかしら? そう、色。……色ですわね」


「だな」


「全ての『魔素(マナ)』には精霊が宿っていますの。つまり、先程の色は『魔素(マナ)』自体が放つ色ではなくて、精霊の色ですわ。そろそろ、大気中の『魔素(マナ)』も回復してますわね……」


 ジルは空中に手をかざし、もう一度『魔素(マナ)』が見えるようになる魔法を使う。


「《魔力可視化(ビジブル・マナエナジー)》」


「おおーっ! (すげ)え……(すげ)えーっ!!」


 大気中に沢山の光が浮かび、カナが興奮する。

 まるでおもちゃを与えられた子猫みたいに、飛んだり跳ねたりしている。


「つまり、この『色』が重要になりますの。カナさんの髪の色は?」


 カナが前髪を摘みながら上を見上げ、私もつられてカナの頭を見つめた。

 黄色。まるで小鳥の羽根のような鮮やかな黄色だ。


「これは、精霊が祝福を与えているために起こる現象ですわ。この世界の髪の色は……アリサさん、お分かりですわね?」


「えーと……金とか銀とか、それに茶色……かな?」


「そうですわ。普通は、濃淡こそあれアリサさんのような金、(わたくし)のような銀。それ以外は、ブラウンや亜麻色。ですが、特別に祝福を受けた人間だけが、色とりどりの髪色を示しますの」


「「へー……!」」


 驚くカナ。吊られて私も驚く。

 それと同時に、私は王子の髪を思い出す。

 王子――我が国の王太子は、海のような深い青色の髪。あの髪も精霊の祝福?


「それじゃ、王子は……」


「あれは、水の精霊の祝福ですわ。王族は、祝福を受けた子供が産まれやすい傾向にありますの」


「そうなんだ」


「……で、カナさんですけど。貴女の祝福は黄色ですから、雷……ですのに、炎系ばかりお使いになってますわよね?」


 《火球(ファイヤー・ボール)》に、《火炎放射(ブラスト)》……。《炎柱(フレイム・ピラー)》……《火炎縛鎖(フレイム・バインド)》……それに、《炎の世界ワールド・オブ・ファイア


 言われてみるとその通りで、カナの得意魔法は全部火に関するもの。先刻も、私はカナの属性は『炎』じゃないかと考えていた。


「そういや、そーだな」


 カナもそう思っていたらしく、そう呟いていた。


「アタシの場合、こまけー事がどーにも苦手でな……。雷系は繊細(センサイ)な操作ってのが必要で、威力は出るんだけどそれがな……」


「カナ……。カナは細かい魔法陣だって、十分描けてるじゃない」


「そーか? まあ、魔法陣ってのは『慣れ』だかんなあ……」


 慣れだけで、あんな細かいものを戦いながら描いてたなんて。

 性格は大雑把なのに、どうしてあんな緻密な戦い方が出来るのか、ずっと不思議で仕方がなかったけど。


「じゃあ、雷系にも慣れればいいんじゃない?」


「そんなもんかあ……?」


「そんなもんよ。威力が出るなら、これからは雷、使ってみない? 少ない魔力で威力が出るなら、ジルも倒れないで済むし」


 今は、カナが強めの魔法を使うたびに、ジルが倒れてしまっている状態。これからも三人で旅を続けるなら、不便な事この上ない。


「そうと決まれば、行きますわよ!」


「「どこへ?」」


「冒険者ギルドですわ。高ランクモンス……魔物の討伐依頼に向かいますわよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ