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異世界に転生したら、『剣聖の姫君』と呼ばれるようになりました。  作者: 姫騎士はるか
第三章 『剣聖、冒険者になる』編

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第九十六話 蜘蛛Ⅱ

「うふふ、武器もなくなった今、ワタクシとどう戦うおつもりですか?」


 妖艶な笑みを見せる大アラクネ。


 人間部分の両腕で、自らの両肩を抱きしめて打ち震えている。

 これから『剣聖を狩れる』という、その快感が彼女を身悶えさせていた。


「ねえ……アリサ様……」


 大アラクネが、うっとりとした声で私に尋ねた。

 挑発するように一本の前肢を私の鼻先へと向けている。


 じりじりと間合いを詰めてきて、また壁際へと追いやられる。

 こんな状態で、もう一度十二連撃を食らったら、ひとたまりもないだろう。


「では、更に本気で参りますわよ……! 《三連撃》!!」


 ちょっと待って……! 《三連撃》?

 六本二連の十二じゃなくて、六本三連の十八連撃!?

 まさか、そんな事まで出来るの?


 私、アリサ・レッドヴァルト。絶体絶命――。



    §  §  §  §



 その頃、アルラウネは必死に蜘蛛糸攻撃を受け流していた。

 もう壁にぴったりと背中を付けてしまっている。


「ほら、後がありませんわよ!」


 アラクネが叫び、お尻を振って大きな蜘蛛の『腹部』を叩きつける。

 壁と『腹部』に挟まれて、わずか数十センチの小さな体が押し潰される。


「きゅぅ……」


 苦しそうな鳴き声が聞こえた。

 ここにいる誰もが、これで終わったと思った。……しかし、アラクネが腹部をどけたその壁には、つぼみのように閉じた花弁に守られた姿が現れた。


 アルラウネの花弁は堅牢な盾になっていて、あらゆる攻撃を弾き返す。

 その花弁に守られていたため、アルラウネの本体には傷一つ付いていなかったのだ。


 アルラウネは花を開くと、蔦を伸ばして反撃に出た。

 勝利を確認するために、正面を向いてしまっていたアラクネは、蔦を前肢で防ぐしかない。


 こうなってしまうと先刻とは逆で、体の大きさよりも地力が勝敗を決める。

 アルラウネは幼生とはいっても、何十人もの冒険者を圧倒出来る魔物。大蜘蛛を瞬時に両断した実力は、間違いなく本物だった。


 対してアラクネは、大きさこそ勝るものの、アラクネとしてはまだ成長途中。練度が圧倒的に足りていない。糸で絡め取ろうとしていたのも、正面を切って戦ったら、こうなる事が見えていたからだ。


 今度はアラクネが後ろへ、後ろへと下がっていく。


 そして、アルラウネはある程度アラクネに防御をさせると、ぴたりと攻撃をやめた。


 五本の蔦をバネのようにして、ぴょんっと飛び跳ねてアラクネの頭の上に乗る。アラクネの頭の上で何度かぴょんぴょん跳ね上がるアルラウネ。そこで、アラクネがある事に気付いた。


「……ワタクシの負けですわ」


 まだ決着もついていないのに、急に敗北を宣言するアラクネ。

 誰もが困惑する中、カナが思い出したように言う。


「あっ……! 『眠り粉』か!」


 そう、彼女たちが戦い始めてから三分が経っていた。模擬戦なのと、味方まで寝てしまう事から出していなかったけれど、もし実戦だったらこの時点で決着だ。


 きゅうきゅうと鳴きながら、嬉しそうに飛び跳ねるアルラウネの姿がそこにはあった。まずは、アルラウネが一勝。



    §  §  §  §



 苦悶の叫びを上げたカナは……というと。

 脇腹を深々と刺されて、致命傷かに見えた彼女。しかし……。


「これくらい、大した事ねーな……」


 凄く痛そうのなのは間違いないけど、カナは私以上にやせ我慢が得意。


 刺さった脚を振り払い、痛みを堪えてまた円運動を始める。

 今度は四本全てに注意しているようで、全くアラクネの脚は当たらなくなった。


「くっ……やりますわね……。ですけど……もう、カナリア様の動きは見切りましたわ! これなら……どうです!?」


 そう叫ぶと、アラクネは下半身の蜘蛛に加え、上半身の腕でカナを襲う。

 アラクネの人間部分の爪は、長く鋭利になっていて、これも武器になる。


 これで合わせて六本。しかし、カナはそれすらも華麗に避けて見せ、最後にこう言った。


「アタシがテメーの攻撃を避けるためだけに、くるくる回ってたと思ってたか?」


「え……一体、それはどういう……」


 カナが床をどんっと踏みつける。その爪先から、炎のように赤い光の軌跡が、円形状に広がっていく。赤い光――それは空気中の魔力が集まり、放つ光だった。


 その軌跡があっという間に床を覆うと、出来上がったのは大きな魔法陣。


「アリサ……アタシ言ったよな?」


 私の方をちらりと見る、カナ。


 その一言で、私は子供の頃にカナから教わった事を思い出す。

 呪文の替わりに、魔法陣に魔力を巡らせる事で魔法を行使する事も出来る。


 ……カナはただ回っていただけではなく、ずっとその足跡で魔法陣を描いていたのだ。


「あっ……!」


「《炎柱(フレイム・ピラー)》……」


 カナが魔法名を呟くと、魔法陣から円柱状に炎が吹き出した。

 直径五メートルを越えるその柱は、アラクネの全身を燃やす。


 カナとアラクネの戦いも、これで終焉。

 炎が収まると、その中から真っ黒に焦げたアラクネの姿が現れた。


「手加減しといたぜ。ま、死にはしねーだろ」


 カナの華麗なる勝利。二勝目。

 これで、私たちは『ボス部屋』に行ける事になった。



    §  §  §  §



「まったく……中々、隙を見せやがりませんわね」


 脚に跳ね飛ばされて、気絶してジルの負けかと思われていたその勝負。

 ジルは、気絶をしていた()()をしてみせただけだった。


 本当にずるいんだから。これのどこが『聖女』よ?


 何事もなかったかのように起き上がって、法衣についた埃を払う。


「蜘蛛の目で、(わたくし)の体温や呼吸を見てやがりましたわね……。どうりで、戦闘態勢を崩さない訳ですわ」


「当たり前でしょう? あんな不意打ちを受けた後……ですもの」


 アラクネもしたたかだ。


「ですが……起き上がったところで、ただの人間の聖職者(プリースト)に何が出来ますの?」


「そうですわね。()()聖職者(プリースト)でしたら、何も出来ませんわ。ですが……もう、なりふり構ってはいられませんもの。奥の手を使いますわよ……!」


「奥の手……?」


 呆気にとられて動きが止まっているアラクネを横目に、ジルは胸に手を突っ込む。


 《次元収納(アイテムボックス)》――ジルの必殺かどうかよく分からない、『必殺魔法』の一つ。胸の谷間を出入り口として、様々な品物を別の次元へと収納する便利魔法だ。その《次元収納》から、何かを取り出した。


 おそらく、手の中に収まる程度の大きさの何か。

 ジルが力を入れると、ごりっ……という硬いものが潰れるような音がする。それと同時に、ジルの体が淡く光った。


「本当は、使いたくなかったのですけど……」


 瞬時にジルの左腕が巨大化し、竜の腕となる。

 それを、目の前で何が起こったの全く分らないアラクネに叩きつけた。


 アラクネは吹き飛び、壁に叩きつけられて、伸びてしまった。

 ジルと違って、今度は本当の気絶。


 ジルの勝利だ。……最後まで卑怯だったけど。


()()聖職者(プリースト)でしたら、(わたくし)の負け……でしたわね」

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