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第七十四話 パーティ

 私たちは関所を越え、ジャッカ領に到着した。


 最初に訪れたのは領境に程近い村、コバック。

 このコバック村は、ナックゴンと同様に村人以外の人々で賑わっていて、旅人や冒険者が多く滞在している。ただ、通りですれ違う冒険者は、少々柄の悪い人たちが多めな印象。


 まずは色々な手続きのために、ギルドへと向かう。


 他の地域のギルドと比べても大きく立派な建物で、定番ともなっている両開きのスイングドアを開けると、中は沢山の冒険者でごった返している。受付カウンターの窓口も王都並に多い。


「沢山人がいるわね」


「ええ、賑わっていますわね」


「おっ……あっちの席が空いてるな」


 早速ホール内、酒場スペースのテーブルを取りにいくカナ。

 私もカナを追って、テーブルに着く。


 しばらく待つと、一人で受付カウンターに行っていたジルが戻って来る。


「アリサさん、カナさん!」


「嬉しそうにして……どうしたの、一体」


(わたくし)も遂に冒険者登録してしまいましたわ! これで、アリサさんとお揃いですわよ! Fですわ、F!」


 Fランクの冒険者プレートを高々と掲げ、満面の笑みで報告するジル。

 嬉しそうに両手でかざして、くるくると踊っている。


「そういう部分をお揃いにしなくても……」


「聖女サマなら、『聖女です』って言やあ、普通にAとかにして貰えるぜ?」


 ジルが喜んでいるところ悪いけど、あくまでFは『フリー』のFだから。私だってFから中々上がれなくて、そのせいで報酬のいい依頼が取れずに生活費に困っているんだから。手放しに喜んであげる事は出来ない。


「何を仰いますの? アリサさんとお揃いですのよ。(わたくし)だけお揃いを持っておりませんでしたのに、やっと……やっと、お揃いをゲットしましたのよ!」


「あー……」


「聖女サマ、こないだの首飾りのコト……まだ根に持ってたのかよ」


「……ですわ! 二人だけお揃いなんて狡いですわ!」


 頬を膨らせて怒るジル。


「えーと……それは付き合いの長さの違いだから……ねえ?」


「なあ?」


「もうっ、そういうのですわよ!」


 ジルは両手を腰に当てて、ぷいっと首を横に向けた。一万歳超えの人がやる仕草にしては子供っぽ過ぎるけど、貴族のお嬢様のようで上品で可愛らしい怒り方だと思った。


 とにかく、これで三人共冒険者。私たちは晴れて『冒険者パーティ』になった。



    §  §  §  §



 ジルも席に着き、飲み物と食事の注文を終わらせた。


 私とカナはミルクとパン。勿論、こういう場所でパンといえば黒パンだ。ジルはお高い肉料理を注文しようとしていたのを私たちが止めて、パンと安いスープとエール……が五人前。


「これでも自重して、減らしていますのよ?」


 ……というのはジルの弁。

 まあ、いつもの事だから仕方ないかな。


 しばらくすると、注文していた料理が運ばれてきた。


「あら、このスープ……お安い割に、美味しいですわね……!」


 瞳を輝かせて、スープの味に喜んでいる。それを聞いた私とカナもスープを注文。レンズ豆と、くたっとした柔らかい野菜のスープで、香草もよく効いていて、意外にも美味しかった。


「ジル、お手柄!」


「ああ、うめーな」


 お腹も膨れたところで……まあ、ジルはまだ物足りなさそうな顔をしていたけど……私たちは、これからの方針を話し合う事にした。


 そんな時、私たちの耳に飛び込んできたのが、この声だ。


「パーティ『スペード・アーツ』の皆様ー。報酬のご用意が出来ました!」


「『ダイヤ・ソード稲妻団』の皆様ー。魔石の査定が終わりましたー!」


「『ハート・キュート』の皆様。登録完了です」


「『クラブ・メガトン』様ー……」


 受付のお姉さんたちが、冒険者パーティの名前を呼んでいる。

 それぞれが、個性的なパーティ名だ。


 そういえば、以前私たちを助けてくれたモモのパーティも『黄色い砂塵』って格好いい名前が付いてたっけ……。


 冒険者パーティを呼ぶ声を聞いて、ジルの目が光る。


「まずは、()()()()()を決めましょう! (わたくし)たち、もう()()()()ですのよ!」


 ジルは、名実ともにパーティになったのが嬉しいらしい。『パーティ』という言葉を、ことさら強調して提案してきた。


「そっか、パーティ名か……どーせなら、かっけー名前がいーよな!」


 カナも賛同する。私たちがこの村に来て最初にする事は、『パーティ名決定』になりそうだ。実は、私にも腹案……いや、絶対にそうしたいと決めている名前がある。


 私は手を挙げて、強く二人に訴えかける。


「はい! パーティ名なら、『剣聖戦隊ケンセイジャー』ってどう?」


 そう、戦隊。パーティは戦隊みたいなものだって女神様も言っていた。

 だったら、戦隊でいいじゃない。パーティ名は戦隊にすべき。


「流石にそれは……ダサくね?」


「剣聖が二回重複してますわよ……無し、ですわね」


 何故か、二人には不評なようだった。こんなに格好いいのに。

 それなら……。


「じゃあ……『異世界戦隊ケンセイジャー』は?」


「なんで、異世界なんだ?」


「カナさんだけは現地人ですわよ。あっ……現地魔族でしたわね」


 これも駄目なんて、二人共わがまま過ぎる。


「『騎士道戦隊ケンセイジャー』なら、どう?」


「アタシも聖女サマも、騎士じゃねーだろ」


「それは、アリサさんだけの称号ですわね」


「『聖剣戦隊ケンセイジャー』は?」


「却下」


「無しですわ……」


 ――どれだけ候補をあげても、二人のお眼鏡に適う事はなかった。

 ケンセイジャー……絶対に格好いいのに。


 それに私、『ケンセイレッド』って名乗りたい。

 悪党や怪人の前で、こうポーズを決めて……。


『赤の剣士! ケンセイレッド!!』


 ……なんて叫んだら、凄く格好いいと思うんだけど。



    §  §  §  §




「だー、もう! パーティ名は保留! アリサも聖女サマも、それでいーよな!?」


「異議なし……」


「異論はありませんわ……。もう、どっと疲れましたわ……」


 どれだけ話し合っても、結局決まらなった。

 とりあえずパーティ名は置いといて、仕事を探しにいくという事に。

 ……しかし、クエストボードを見ても、あまり依頼らしい依頼がない。


 建物はナックゴンやゴレンよりも大きく、冒険者の数も圧倒的に多いのに、依頼の数はレッドヴァルト程度かそれ以下。ランクがFやEの依頼は全くない。

 当然、Sの依頼も。


「うーん……依頼、ないね……」


 中腰になって、下の方にあるランク違いの依頼を見ながら悩む私の肩に、カナが肘を乗せた。カナの方を見ると、カナは笑いながら言った。


「まー、そー慌てんなって。ジャッカじゃ、依頼を受けるよりも確実に稼げる方法があるんだぜ?」


 すると、空いている肩にもジルがそっと手を添える。

 ジルも楽しそうに微笑んでいた。


「そうですわ」


「え……そんなのがあるの?」


 不思議そうにする私に、二人は言う。


迷宮(ダンジョン)だぜ!」「迷宮(ダンジョン)ですわ!」


 ダンジョン? ダンジョンって一体……。


「ジャッカの迷宮(ダンジョン)つったら、有名だよな? な、聖女サマ」


「ですわ」


 どうやら、知らないのは私だけのようだ。


「まー、アリサは貴族のお姫様だからな。知らなくても無理はねーよ」


「貴族の家庭教師では社会情勢を教えても、ダンジョンなんて危険な事……教えるはずもありませんものね」


「とりあえず、迷宮(ダンジョン)に行ってみよーぜ! 行けば分かるさ!」


「ですわ!」


 ダンジョン……一体、どんな所なんだろう……?

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