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人工勇者の生成

まだ書き終わってないです。

「御堂さんに是非ともいい人を紹介して欲しいんッスよー」

「普通に無理だ、諦めろ。それより手ぇ動かせ、そっち焦げるぞ」

即刻振られた話を切り捨てると、そんなー。と言いながら雄二は器用にヘラを使ってお好み焼きをひっくり返す。

「話があるんすけど」と真剣な面持ちで声をかけてきて、何を言い出すのかと思った開口一番に先の話である。

しかし詳細を聞かず、いきなり話を切り捨てるのも可哀想かと思えた。

「で、なんでいきなりそんな話に至った」

話を振ると、目を輝かせてこっちを向いて話しかけてくる。

「だってせっかくの学園祭じゃないですか、可愛い彼女と一緒にキャッキャウフフと露店巡りしたいんですよー」

と笑いながら返してきた。手を止めないあたり素直さが伺えて好感が持てる。

俺、御堂 司は大学の学園祭でサークルの露店を手伝っていた。

話しかけてきた望月 雄二は同じ大学の後輩で大学一年生。大学二年生の俺とは同じサークルの仲間だ。気の良い奴だがしかし、おおっぴらに彼女を求める故に彼女ができない悲しい奴である。

同じく彼女のいない俺も人のことは言えないが……しかし憎めない奴なので力になってやりたいのは事実だ。

「俺にも彼女いないことは知ってるだろ? 他に適役を探した方がいいんじゃないのか?」

「他にって言っても他の知り合いなんて同じ学部の先輩位しかいないんすよ。それに先輩の薬学部と、こっちの工学部じゃどっちが女子多いかなんて分かりきったことじゃないですかー」

そう返してきた雄二の言葉に納得がいく。

うちの大学は理系の学部が多く、工学部と薬学部では女子の比率が段違いだ。

薬学部は大体男女の比率が五分五分位なのに対し、工学部は女子が一割いたら良い方である。それ故工学部の女子は既に彼氏持ちが多い。

「あと、御堂さんには三ケ島先輩みたいな知り合いもいますし」

そういいながら雄二がテントの後ろを見る。そこにはコックリと赤毛の髪を揺らしながら、椅子の上で眠る女子がいた。

赤毛の女子--三ケ島 姫織は俺の同級生で同じく薬学部の仲間だ。本人曰くどこかの国とのクォーターであり、セミロングの赤毛と目が青いのが特徴である。顔は他の女子と比べるとかなり整っている方だと思う。

「いや、俺は女子の知り合い自体少ないからな? 姫織は偶然知り合えただけで他は全くと言っていい位しかいない」

そもそも姫織と友だちになれたこと自体が奇跡みたいなものなのである。出席番号が偶然隣同士で、実習の班で一緒になれて、更にはたまたま同じサークルに入ったことが大きい。偶然続きの縁でようやく知り合えた数少ない女子だ。

そもそもゲームが趣味で、コミュニケーション能力を磨いて来なかった俺に、女子の知り合いを期待するだけ野暮というものである。自分から女子に話しかけるほどのアクティブさを俺は持ち合わせていない。

そう雄二に姫織と知り合えた経緯を話していると本人が夢から覚めたらしく、大きな欠伸をして立ち上がった。こっちに来るようだ。

「おっはよー。店番任せちゃってごめんね、代わるよ?」

「いや、いいから後ろで座ってろって。具合大丈夫か?」

「んー、もう大丈夫だよ。でもうん、一応お言葉に甘えさせてもらっちゃおうかな」

と笑みを浮かべながら元の椅子へと戻っていった。

姫織が椅子で寝ていたのは、調理中に失神しかけたのが原因である。姫織は病弱な体質な様で、定期的に熱を出したりして大学を休んでいた。

今日はお好み焼きを焼く鉄板で火傷するといけないからと、特に注意して下がらせたのだ。

しかし、起きたならちょうど良いのかもしれないと思う。

「そうだ、姫織」

声をかけると「なにー?」とこっちを見て返してくる。顔色を見ると血色が戻っており、体調は回復してるようで安心した。

「いや、姫織に大学の知り合いでいい人を紹介してもらえないかなーと思ってさ」

そう続けた瞬間からの反応は驚愕だった。目を見開いたと思ったら一瞬で五歩分はあったであろう距離を詰めてきたのである。

「なに!? 万年草食系な司がついに色づいたの!? なんで!?」

「いや、俺じゃない! 雄二が学園祭を一緒に回る彼女が欲しいって言い出したんだ!」

あまりにも凄い剣幕で詰め寄ってきたために、思わず俺も声を張り上げて返してしまった。

テントの周囲では、なんだ!?とでも言うようにギョッとした表情でこちらを生徒や大人が伺ってくる。

しかし姫織は気にした様子もなく「なんだ、雄二くんのいつものかー」と下がっていった。ただ話を聞く気はあるようで椅子をこちらへと近づけてくる。

それに気づいた雄二も嬉しそうだ。大きく振られる尻尾が幻視できそうな程である。

「それでー? 今回はどうしてそう言い出したのかなー?」

と言いながらニヤニヤとした表情で雄二に話しかける姫織。今回は、というのは定期的に雄二が「彼女が欲しい!」と言い出す事に所以している。

その度にサークルの誰かが雄二と会話しているが--それでも呆れられないのは雄二の持ち前の人懐っこさと人徳故なのだろう。

「だってそこかしこにカップルがいるんですよ! 見せつけるように! 俺もあんな感じに彼女と回りたいっす!」

と言いながら雄二が表を指さした。

指の先には--確かにどこかの高校の制服を着た男女が一緒に学園祭を回っていた。しかも男女とも美男美女で結構様になっている。男子の方は茶髪の爽やか系なイケメンで、女子の方は凛とした表情をしており艶のある黒髪をポニーテールにしている。その美男美女オーラに周りの大人や販促の生徒達も近づけない様であった。

「やー、流石に雄二くんにはああいうのは荷が重いんじゃない?ちょいとばかしイケメンオーラが足りないと思うのですよ」

「ひでぇ! ……ってそういう事じゃなくて! ああやって女の子と一緒に回れたらいいなーって事ですって!」

バッサリと切って捨てた姫織に雄二が分かりやすくガーンといったポーズをとっていた。

振られていた尻尾もだらんと項垂れてそうな様子に思わず俺も姫織もクスリと笑う。とはいえこのまま放っておくのも少しばかり可哀想なので助け舟を出しておこう。

「けど、あの二人はカップルではなさそうに見えるぞ?」

と言いながらそのカップル(仮)を指さす。

「まず二人とも手を繋いでいないのもそうだが……周囲からの視線を恥ずかしがっている様だしな。男の方も頭を掻きながら苦笑いしてるだろ?」

長い付き合いであれば恥ずかしがる事もないだろう。付き合いたてならそういうこともあるだろうが、アレはどちらかといえば、そういう関係に見られる事をどうにか誤魔化したい様にも見える。

「少しばかり意識的に距離を置いてるようだしな。カップルなら普通に隣同士で歩くだろうに間一人分は距離がある」

「ふむむ、言われて見ればたしかにそうかも」

そう姫織が同意を打った。そして少しの間考え込む仕草をしたと思えば、ふと何か閃いたかのように指を立てる。

「つまり、雄二くんが一緒に回る子がいない原因は顔と性格、あと空気の読めなさだね!」

「さっきよりヒデェっす!」

あ、雄二が頭を抱え込んで苦悶し始めた。あまりの様子に流石の姫織も「冗談だよー」と肩を叩いている。

実際、雄二の顔は悪くない。髪を金髪に染めており、格好や雰囲気からチャラく思われがちだが、顔はどちらかといえばイケメンだし、性格も言動に多少問題がある事を除けば親しみやすい良い奴なのである。

「ごめんごめん、じゃあ話を戻して、と」

と言いながら姫織が席に戻る。流石にからかい過ぎたと反省したのか真面目な顔つきになり、話を続けた。

「正直に言うと私も紹介できるほど知ってる子多くないんだよね。女の子の知り合いは、ほとんどここのサークルの子達だけだからさー」

そう苦笑いをしながらいう。雄二も真剣な面持ちで聞く様にしているが少しばか困り顔が混じっているように見えた。

実際言われたらそうなるだろうな、とは思う。

真正面切って知り合いを紹介してくれと頼んだのに「私友達少ないんだ」とか言われたらどういう表情をしていいのか、分からないだろう。

「とはいえ、このまま雄二くんをポイッと放るのはこの私も心が痛むワケです。そこで、ちょっとした神頼みをしてみないかい!?」

雄二の気持ちを分かっていたのかピンと人差し指を立て、少しばかり大袈裟な身振りを加えながら姫織がそう続けた。

しかし、あまりにも唐突な話な内容に、俺も雄二も困惑の表情を浮かべながら「……はぁ?」としか言えなかった。




「ここ……本当に御利益あるんすか?」

思わずそう言っていたのは雄二だった。

あれから、シフトの時間が終わるまで三人で店を回し、その後姫織の案内で大学近くにある神社に連れられてきた。

しかし、連れられてきたのはこう言ってはなんだが、すごくボロい。そして、こじんまりとした神社だった。雄二が言葉を思わず吐いてしまったのも頷けるほどである。

「大丈夫だって!ここ、縁結びで有名な神様がいる神社なんだから!」

姫織曰く、ここの縁結びの神様は人と人の縁を繋ぐだけでなく、仕事探しの縁や失せ物探しもできるそうだ。

しかし……失せ物探しは縁結びの神様の管轄なのか? 聞くのも野暮だから言わないが。

「いいから先行こうよ? ちゃんとお社の方は綺麗だから大丈夫大丈夫!」

たしかにその言葉は本当だったらしく、入口付近の鳥居は一部塗装が剥げていたが、お社の付近にある鳥居や建物は綺麗に整備されていた。

社や注連縄、祀ってある御神体?の荘厳さに思わず息を飲む。

「おぉ、意外と綺麗だな」

「そうっすね、これなら期待できるかもっす」

雄二がそういいつつ、早速賽銭箱の前まで行き、財布を取り出していた。

「折角だから、司もお参りしようよ」

「まぁ、ここまで来てなにもしないのも勿体ないしな」

声をかけられ、同様に俺も姫織も賽銭箱の前へと並ぶ。

二礼二拍手一礼だったか。うろ覚えの手順を踏みながら願いを考える。

就職はまだだし……雄二と同じで良い人との出会いがありますように、と。

そう願をかけて、頭を上げた。

周りを見ると雄二は終わっていたが、姫織はまだの様だ。目をつむったまま、まだ何かを願っている。

その後十秒程してから姫織も目を開け、礼をして下がった。願っただけにしてはやけに笑顔だ。

「何を願ってたんだ?」

「うーん、秘密って事で!あと、感謝を伝えてたんだー」

「感謝っすか?」

「うん、お礼参りって奴かな?前にここでお願いした事あるからさー」

そう言いながら嬉しそうに笑う姫織。その様子だと願いは叶った様だ。

「だから、大丈夫!私に御利益あったんだから、雄二くんもちゃんと御利益あるって!」

「そっすね! 御利益信じて彼女探してみます!」

雄二もその様子を見てまたやる気を出した様だ。

「お、早速可愛い子いたんで声かけて来ます!」

なんていきなり声を上げて神社の入口の方からやってくる女子にかけていった。

しかし、あの女子どっかで見たような気がする。

女子は高校の制服を着ていて、凛とした表情、黒髪ポニーテールをしていて……ん? さっき見たカップル(仮)の片割れじゃないか。

そのまま様子を見ていたが、どうやら雄二は玉砕したようだ。何度か言葉を交わした後、しょぼくれた表情をしながらこちらへと帰ってくる。

「今はそういう事に全く興味無いって言われたっす……」

「あちゃー残念、まぁ今回は縁がなかったってことでしょうが無い!」

肩を落とす雄二に姫織がドンマイと声をかけながらその肩を叩く。しかし願掛けした瞬間から玉砕とは幸先悪いな。

「ていうか、あの子さっきお前が言ってたカップルっぽかった子だろ? なんで行ったんだ?」

「いやー、カップルじゃなくてフリーなら御利益パワーで行けるかなと思いまして」

それにあんな可愛い子なかなかいないですし、と続ける。

たしかに美人な顔立ちで可愛い子だが……あんな爽やかイケメンと一緒にいたのを見て勝つ気でいたのか。

そういえばイケメンの方がいないな、と気づき女子の方を見る。

どうやら少しばかり遅れて来ていた様で、そのタイミングでイケメンが女子と合流していた。

そしてこちらがそれを見ていたのに気づいたのか、イケメンの方も俺達を見、なにを思ったのか、イケメンの方がこちらの方に来た。

「あの、すいません。ここの近くの大学の方ですか?」

「ん? そうだが、どうかしたのか?」

どうやらこちらの事は分かっていないようだ。

まぁ、実際に声をかけた訳でもないし当たり前だが。


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