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16 アオイさんとの合宿②

 自室で合宿用の荷物を纏めているとアオイさんが部屋に入ってきた。彼女は何かを言いたげで圭太は用事があるのだろうかと首を傾げる。


「僕に何か用ですか?」


 圭太が向けられた視線に耐えきれずアオイさんに問いかけると彼女は少しだけ表情を暗くさせた。まるで今から大事な話をするかのような空気に圭太は思わず息を呑む。


「圭太君は気にならないの? 今日のこと」

「今日のこと?」

「うん」


 今日のこととはどの時のことなのかと一瞬だけ考えてパッと出てくるのは今日の部室掃除前に起こった一件だった。アオイさんが必死に隠していたこの学校の昔の卒業アルバム、気にはなるが本人が教えたくないのなら無理に詮索することはしたくないというのが本心。誰だって話したくないことの一つや二つはある。


「それは気になりますけどアオイさんが話したくないなら無理に話さなくてもいいと思います。だからあまり気にしないで下さい。でもそうですね、出来れば話しては欲しいです」


 圭太は最後に笑顔で『やっぱり心配ですから』と付け加える。詮索はしないが、それでも心配という気持ちはもちろんある。もはやアオイさんの隠し事に何も思わないほど他人ではないのだろう、と圭太はいつの間にか彼女との関係が他人ではない何かに変わっていることに内心驚かずにはいられなかった。


「ありがとう、圭太君。やっぱり圭太君は優しいよ。今は無理だけどいつかその時が来たらきっと教えるから」


 アオイさんはそう言って部屋を出ていく。ドア越しに聞こえる彼女の足音が軽かったのは言うまでもない。



 それから合宿の準備が終わり、行く前に食事を済ませようとしていた二人は揃ってダイニングルームにいた。


「アオイさん、ご飯よそってもらってもいいですか?」

「はい了解だよ」


 圭太はその間に冷蔵庫から事前にカットしておいたレタスが入ったフリーザーバッグとミニトマトのパック、かいわれ大根に粉チーズ、アオイさんが作った肉じゃがを取り出す。

 ちなみに肉じゃがはアオイさんが肉じゃがを覚えて以来頻繁に食卓に並ぶようになっていた。最近流石に肉じゃがが並びすぎなのでそろそろ別の料理も教えた方が良いのかもしれないと思わないでもない。


「圭太君、準備終わったよー」

「ちょっと待って下さい」


 肉じゃがは電子レンジで温め、他は豪快に混ぜ合わせサラダにする。時間が無いときの簡単な料理、そもそも料理と言えるのか分からないが彩りは確保されるので良しとしよう。


「アオイさん、こっちも大丈夫です」


 電子レンジのチンという音と同時に混ぜ合わせたサラダをボウルのまま食卓に並べる。総料理時間五分で完成した夕食をとるため圭太とアオイさんは急いで席につくとすぐに手を合わせた。


「じゃあ早速食べましょうか、アオイさん」

「そうだね、今日は時間あまりないからね」

「「いただきます!」」


 夕方五時半という新海家の夕食にはまだ早い時間だが今日は合宿がある。学校に集合する時間が七時、家から学校までは歩きで三十分ほどかかるので、遅くとも六時半には家を出たかった。



 それから四十分ほどだろうか夕食を終えた二人はバタバタと家の中を走り回っていた。食器洗いと準備した荷物を玄関に持ってくるのに合計で十分、実際に二本の傘を手に家を出たのは夕方の六時二十分頃のことだった。


 雨が降るなかで家から学校へと向かう道中、アオイさんはどこか浮かれた様子で圭太の方へと振り返る。


「圭太君、何だかワクワクするね」

「そうですか? 僕はあんまり……というか前にも同じようなことがあったので」

「そういえば私と初めて会ったときも夜の学校に調査しに行ってたんだよね?」

「はい、学校に無断でですけどね」


 『全く圭太君はいけない子だよ』とアオイさんは圭太の頬をツンとつつき、彼を咎める。そんな普段とは違う見た目の年相応の対応をしたアオイさんに圭太は少しの間だけ彼女が実際に姉であるような錯覚に陥るが、すぐに気のせいかと首を横に振った。


「そういえばアオイさんはどうしてそんなに楽しそうなんですか?」


 話の切り替えついでに圭太がアオイさんに質問すると彼女はうーんと唸りながらも『そうだね』と一言発し、圭太の方を見た。


「特に理由はないけど、強いて挙げるなら圭太君が一緒だからかな?」


 アオイさんの返答に圭太は『何ですかそれ』と顔を俯かせながらも照れ混じりに言葉を返す。俯いた彼の顔は赤く染まっていて、それを見たアオイさんは追い討ちをかける。


「圭太君、もしかして照れてるの?」

「違いますよ! ただアオイさんが急に変なこと言うから」

「ん? 私が何を言ったのかな?」


 アオイさんのニマニマとした笑みは確実に誰かをからかっているときの表情で、圭太は押し黙ることしか出来ない。それもこれも何か言えば自分の首を絞めることになると圭太自身よく分かっているため。何も話さないことが今のところ彼女がからかってくるときの唯一の対処方法だった。


「やっぱり圭太君はからかいがいがあるね。ほらもう学校につくよ。私は先に行くからね」

「あ、待って下さい。一人で先に行かないで下さいよ、アオイさん」


 追い討ちが続くと思いきや、いきなり一人先に行ってしまうアオイさんに、圭太は前にも似たようなことがあったなと既視感を覚えながらも彼女の後を追いかける。

 天真爛漫なことが彼女の魅力だと重々分かっているつもりではあるが、ここまで自由だと流石の圭太も手に負えなかった。


「アオイお姉さんは待たないよ、どこまでも突き進むんだから」

「それってなんだか猪みたいですよ」


 小声で呟いたはずの圭太の言葉は少し遠くにいたアオイさんの耳にも届いていて、すぐさま彼の近くまで戻ってくる。それから彼女は少し心外そうな顔をして圭太に詰め寄った。


「圭太君、それってどういう意味かな?」


 そんな彼女の忙しさが何だか面白くなっていた圭太は笑いを堪えることが出来なかった。彼はその場で必死にお腹を押さえる。


「ちょっと何笑ってるのさ!」

「すみません、でもおかしくて……」


 本人は何故笑われているのか分かっていない様子でその姿がさらに圭太の笑いを誘っていた。


「もう、私本当に先に行っちゃうから」

「ま、待って下さいって……」


 夕方六時半過ぎ、日が完全に落ちきった住宅街には雨粒が地面を叩きつける音と、圭太の笑い声が響いていた。


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