【漫才】もうしょうがない
新潟。地方営業。公民館。観客は数十名程度。ほとんどが老人。子供も少しいる。
二人「はいどもー」
マイクスタンドの前に男二人組が立つ。ボケはフラフラとしている。紙袋持参。
ツッコミ「はいはい、いやーどーもです皆さーん、お元気ですかー。ねぇーそこの奥さん。お美しいですよ。ほんとに、ねぇー。そちらのお方も。ちょっと失礼。おい、おまえ、おい、聞いてっか! おい! ……えーっと」
相方の肩を叩くツッコミ。
気分が悪そうなボケ。
ボケ「……」
二人、小さな声で話を始める。
ツッコミ「どうしたんやお前、本番やぞ! 本番!」
ボケ「ご、ごめん。昨日、飲み過ぎた。続けといて……」
ツッコミ「そ、そんなんあかんて! 一人で漫才なんて無理やろ!」
ボケ「うぃ……」
ツッコミ「うぃってなんじゃい! うぃって! 仕事や! 真面目にせい、真面目に!」
ボケ「わかった。頑張る」
声大きくなる。
ツッコミ「いやーごめんなさいね、続けますわ。そうそう、僕、何を隠そう、新潟市出身なんですよー。ほんで、こいつは新潟高校で知り合ったんですー。え? なんで関西弁しゃべってるかって? 気にせんといてください。あっははははー」
ボケ「……」
声小さくなる。
ツッコミ「頼むからなんか喋って、やっぱり一人でなんて無理やて、頼むからしゃんとせい! しゃんと!」
ボケ「そんな言ったって、立ってるのがやっとで……」
ツッコミ「わかった。何ならできそうなん?」
ボケ「喋るのキツイ、ショートコントにして」
ツッコミ「喋るのキツイて、漫才師やろおまえ! 何しに来とんや!」
ボケ「だって、無理なものは無理やて……」
ツッコミ「よし、わかった、予定とちがうけど、漏らしたおっちゃんのやつにしよ。ええか?」
ボケ「わかった」
声大きくなる。
ツッコミ「すんませんね、ほんとに、こいつ昨日の夜ね、八海山、水みたいにがぶ飲みしおってね、ほんと馬鹿ですわー」
ボケ「うぅ……」
ツッコミ「どした?」
ボケ「なんでもない、ショートコントやろ、漏らしたおっちゃんのやつ」
ツッコミ「言うなああああ! ネタバレや、ネタバレ! 先に落ち言ってどうする!」
ボケ「あ、そうやった」
ツッコミ「もう、他のにするわー。冒頭しゃべるからついてきい!」
ボケ「わかった」
ツッコミ「いやこいつね、最近、許せないことがあったみたいなんですよ。言ってたよなさっき?」
ボケ「うん? そうだっけか? 痛! つねらんといて、あぁ、そやたそやた」
ツッコミ「昨日、家から山手線で上野駅まで電車に乗って、そのあと新幹線に乗って――」
ボケ「あぁ、あれか!」
ツッコミ「そんでもって――」
ボケ「あぁ、それ俺が言うわ、えっと……」
ツッコミ「……」
ボケ「そうそう、杖着いたおばあちゃんに席を譲らないやつがいてね。しょうがないからこっちきな、って言って、僕の膝の上に座らせたんですよ」
ツッコミ「お前も同じや! なんで膝の上に座らすん? どいたらええやん!」
ボケ「だって疲れるし、でもそのおばあちゃん。ありがとって言って座りましたわ」
ツッコミ「そんな訳ないやろ!」
ボケ「その後、屁こいて去っていきましたわ!」
ツッコミ「なんじゃそのばあちゃん! まぁ、嫌われたんやきっと。よし、分かったわ、俺がちゃんと教えたるわ」
ボケ「ああ、頼んます」
ショートコントが始まる。
ツッコミ「ガタンゴトン、ガタンゴトン」
ボケ「うぅ……」
ツッコミ「なあ、そこのばあちゃん、席、座ります?」
ボケ「ち、ちがう、あかん」
ツッコミ「どうしたんや! おい!」
ボケ「こ、この電車、俺には速すぎる!」
ツッコミ「速すぎるってなんや、ただのショートコントやろ!」
ボケ「う、想像したら、気持ち悪い……あ、出る出る出る!」
ツッコミ「え、まさか! あかんあかんあかん!」
ボケ「ぼおええええ!!!!」
ツッコミ「もーええわああああ!!!!」