【プロローグ】
俺が生まれた家は幸せな家庭とは言えなかった。父は居らず、何故居ないのかさえ知らなかった。母は犬を飼っていたが、散歩はせずよく弱らせて死なせていた。そして、俺も同じように育てられた。
学校が終わったらすぐに家に帰るようにと言われて、その通りにしていたら友達は減って遊んでくれる人は一人も居なくなった。
中学、高校とイジメられる様になって、何故自分がイジメられるのか分からなかったが、今思い返すと多分、周りからは異質な存在に感じたのだろう。
いつも考えていた。ドラマの様にクラスのみんなは朝、お母さんからご飯と味噌汁と箸を用意して貰っていて、頼まなくても朝起きたら食べられるのだろうと。きっと、母から歪な愛を貰った自分はおかしな人に見えた事だろうと。
だから、漫画やゲームを知って大好きになった。そこには、誰からも与えられなかった愛や友情や常識的な会話があった。しかし、フィクションの中の常識を全て間に受けるべきでは無かった。俺はさぞかし変人に見えた事だろう。
それでも、「三つ子の魂百まで」とは良く言ったものだ。母は相変わらず命令ばかりしてきて家の中は散らかり放題のゴミ屋敷。息子より何代目かの犬を可愛がっている。俺は将来絶対に動物は飼わないと誓った。それでも、俺は俺のままだった。母が変わらない様に俺も母の様になりたいとは思わなかった。カエルの子はカエルとはいかないらしい。
しかし、大学に行く歳になって、俺の人生は更に歪になった。就職して金を持ってこいと言う母の言う通りに家事を手伝い、罵倒されて生活していたら友人とは連絡がつかなくなり、仕事も上手くいかなくなった。
お金を稼いで自分で大学に行けばいい? 就職したなら一人暮らしすればいい?
誰が大学に行く理由を教えてくれただろうか?誰が自立とはどういうものか教えてくれただろうか?
人は理由が分からない事、達成方法が分からない事はしないものだ。だから、俺は自分の人生を不安に思いながら母の言う通りにするしか無かったのだ。
でも、それも終わりだ。