5.乙女の突撃
月は困っていた。
授業が始まるたびに先生にジロジロ見られ、休み時間になれば隣のクラスや他の階から僕のことを見に来るからだ。特に男子の視線が熱い。
「月は人気者だな」
「僕も同じ男なのにな…」
翔馬とそんな会話をしていると……見つけてしまった。あの人を。
男子たちの群がる後ろに見えたのは、間違いなく母だった。
母は、いつ買ったのか、カメラ片手に僕を撮っていた。
「なんでお母さんがいるの…」
「ははっ、月のお母さん、相変わらず元気だね」
僕は仕方なく机に突っ伏した。突っ伏していると周りの声が聞こえてきた。
「月ちゃん可愛い」
「男に生まれてよかった」
「月ちゃ~んこっち見て!」おいおい母よ、そろそろ帰れ。恥ずかしいから。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴ると、廊下に集まっていた生徒達は自分の教室に帰っていった。
もうじき授業が始まるというのに、いろいろあって疲れたのか僕は眠くなり眠ってしまった。
しばらくしてだんだんと意識が戻ってきた。
「……な……おい月、起きないとイタズラするぞ~」
「…んっ、なに…?」
「お前可愛すぎ、そんなんじゃ襲われるぞ」
僕は、翔馬に起こされ目をこする。意識がはっきりとし、今がお昼を過ぎたことに気づいた。
「月、お昼にしようぜ」
「うん、ちょっと待ってね」
僕はカバンをあさり、弁当を探すが見つからなかった。
「ごめん、弁当忘れちゃった」
「なら購買行くか。彩乃と美玖もどうだ?」
「そうね、たまには購買で買おうかな」
「いいの?なら行く!」
僕達は、購買へと向かった。購買では数人の生徒も買いに来ていた。
僕達は、パンと飲み物を持ち、レジへと並んだ。
レジに並んでいると、違和感を感じた。
「はい、168円になります」 聞き覚えのある声がした。
レジの順番がまわって来て、商品を渡す。
そこには………母がいた。僕の違和感が当たってしまった。
「なんでお母さんがいるの!帰ったんじゃなかったの!?」僕は思い切り叫んでしまった。
「何って、バイトよバイト、本業は主婦よ?でも、家にいると月ちゃんに会えないから来ちゃった!」
母は手でピースを作り、ウインクをした。
「”来ちゃった!„じゃないよ!おかしいでしょ!学校でバイトなんか始めちゃって!」
「あら、おかしくないないわ、乙女には秘密があるのよ」
そう言って、母は人差し指を口に当てもう一度ウインクをしたのだった。
いろいろあったが、僕達は昼ご飯を買い購買を後にした。
「ふふ、月のお母さんやっぱりおもしろいね」教室に戻る途中、彩乃が僕にそう言ってきた。
「でもここまでするとは思わなかったよ…」
そんなこんなで、今日1日、母の話題が尽きなかった。
まぁ、こんな毎日も悪くないな。そう思いつつ、僕は窓から空を見上げるのだった。