67話「無人島生活②-隣人」
グルルルルゥ
喉奥を鳴らし威嚇を始める動物。
・サーベルパンサー
太く硬い牙を持つ肉食獣。
素早く動き相手を翻弄する。
【鑑定】
名前:NoName
レベル:15
種族:サーベルパンサー
体力:110/320
魔力:0/0
状態:興奮
血の匂いに引き寄せられたか?
グルゥアァアア
大きな顎を開き威嚇し前足の鋭く尖った爪で俺に攻撃を仕掛けてくる。
ドッ
前足が両肩に掛かかった。爪はスーツを貫通できずにいる。
グワッ
頭上から太い牙が迫る。
「隙だらけだ」
ドッ
キャンッ
掌底を無防備な腹に当てると軽く吹き飛ぶ。
「ほぅ」
危機を察知して俺の腹を後ろ足で蹴り上げることによって衝撃を受け流した。
グルルルルゥ
ポタポタポタッ
パンサーから涎が地面に落ちる。
「中々、見所のある奴だな」
ベチャッ
「食え」
ボアの足を一本持ちパンサーの目の前に放り投げる。
「人の施しと受け取るか、恐れをなした人が自らの食料を献上させたと感じるのはお前次第だ」
よく見るとパンサーは左目と左耳が失われている。体も骨ばっていて痩せている様だ。
ガブッ
ダッ
パンサーはボアの足を咥えてその場を去っていった。
「あいつの縄張りだったか?」
残りの肉をボアの毛皮で包み残った血を川の水で洗い流してその場を去る。
「随分時間が掛かったのね」
「全部食べたのか?」
「アオイが遅いのが行けないのよ」
グゥウウ
アレだけでは物足りなかったようだ。
ドスッ
ボアの毛皮を床に置く。
「今日から眠る時は交代で見張りが必要だ」
「え?」
「さっき体長2m程の牙を持った肉食獣と対峙した」
「倒さなかったの?」
「一応強さを見せつけてから足を一本やったら去っていった」
「そう・・・肉あげちゃったのね」
「どの道、2人じゃ食べきれない量だ。保存方法も限られているしな」
「どうするの?」
「干し肉にするか、燻製にするかだな・・・干し肉にしようとすれば日中できる場所はあの海岸付近だからな目が離れる事になるしアイツに持って行かれそうだ。別の小動物だって嗅ぎつけて来そうだし」
「他には?」
「燻製にしようにも道具がないしな」
「こういうのを作ってみたわ」
「これは」
「肉を焼くと思ってね」
すこし拙いが木の枝を組み上げてその上に薄い石を置いてレバーを焼いたようだ。
「そうだな、この周りを包み込めればいいんだが・・・」
「無いわね」
そんな簡単には行かない。
それに猪の肉を燻製にするには燻す煙がもっと必要だ。
「取り敢えず食うか」
「ソレ貸して」
「気をつけろよ」
「だから子供扱いしないでよ」
見た目が子供だから仕方ないだろう・・・
石の刃をリリィに渡すとボアの肉を薄切りにして熱せられた石の上に置き焼き始める。
ジュウウウウ
「美味そうだ」
「そうね」
十分に火が通ったのを確認して2人して食べる。
「旨い」
「んぁ・・脂がいいわぁ」
程よい脂が肉の甘さを引き立てている。
塩でもあればもっと良いが贅沢は言っていられない。
暫く切って、焼いて、食べるのを繰り返す。
「美味しかったわ」
「あぁ。充実な食事だ」
少し休憩してこれからの事を考える。
近くに肉食獣が居る以上、寝込みを襲われたら敵わない。
すぐに襲われないような基地が必要だ・・・だが、材料も時間も足りなさすぎる。
「あの海岸の洞穴に戻る?」
同じことを考えていたようだ
あそこなら入口さえ見張っていれば良いが、満潮時は水の中に沈む問題がある。
「出来る事だけやってみるか・・・植物のツルを大量に見つけてきてくれないか?」
「分かったわ」
「俺は材料を確保してくる。ソレは護身用に持って行ってくれ」
石の刃をリリィに預ける。
「行ってくるわ」
「あぁ」
リリィがその場を離れて行く。
ヤシの木を一撃でへし折る彼女なら対処できるだろう。
「太い枝はと」
森の木々を見上げて良い塩梅の枝を見繕う。
ガシッ
ズルッ
樹皮が滑って登れそうに無い。
スゥウウ
「はっ!」
バキィ
正拳突きの一撃で木の幹が3分の1程削れる。
拳にはダメージは入らない。
ハイヒューマンというのは、ここまで強くなるのか?
バキバキバキ
ドスゥウン
木が倒れて太い枝が何本もゲット出来る。
欲しいと思った分だけの木をへし折るのを繰り返す。
ガランッ
「これで良いか」
100本近くの枝とへし折った木が数本転がっている。
「凄い音がしていたと思っていたら凄い惨状ね」
いつの間にかリリィが帰ってきていた。
その肩にはツルが大量に巻いて担がれていた。
「これで何とかできるだろう」
「家でも建つんじゃないかしら?」
「素材不足だ」
「小屋程度?」
「それも無理だ」
「テント?」
「それが妥当レベルだろ」
「何をすればいい?」
「ソレで枝葉を切って綺麗にしてくれ」
「分かったわ」
太い枝にも幾つか別れる枝葉があるから邪魔だ。
リリィは枝を手で枝葉を折っていく。
俺は支柱となりそうな枝を選んで地面に突き刺す。
硬い土ではなく湿気を帯びている為、楽に突き刺さる。
ギュギュギュッ
中央に一本の大黒柱の周りに5本の支柱を立てて細い枝で骨組みを作る。
「他に出来る事はあるかしら?」
「仕事が早いな」
「やれば出来るのよ」
「じゃぁ、そっちの壁を作ってもらいたい」
「やり方は?」
「骨組みに沿って、ツルで1本1本固定していくんだ」
俺のやっている作業を見せるとリリィが反対側の壁作りを取り掛かる。
・・・
「材料が無いわ」
4枚分の壁を作り終えて枝が尽きた。
「フンッ」
バキィ
「ありえない光景ね」
素手で木をなぎ倒す俺をみてリリィが呆れてる。
お前もヤシの木を倒す腕力はあるんだからな?
ボアの頭蓋骨も割るしな。
足りなくなった枝を補充する。
「この細い枝はどうするの?」
「火に使うがそのままじゃ燃えないからなそれを海岸に持っていき乾燥させる」
「任せて」
「森と海岸の境目に置いてくれ。海岸は満潮で水没するからな」
「分かったわ」
材料にならなかった細い枝は火の燃料になってもらう。
「なんとか完成したか」
数時間かけて多少ながら頑丈な家を作り上げた。
雨は防げないが肉食獣の侵入は防げるだろう。
「置いてきたわ」
「それじゃ、昼にしよう」
「そうね」
数キロは捨てる事になりそうだな。
まだ肉の保存方法を考えついていなく肉は悪くなる一方である。
・・・
・・・・・・
それから2日間がたった。
夜は交代で見張りながら火の番をするが、あの肉食獣は現れなかった。
・腐ったボアの肉
完全に腐ったボアの肉。
「これはもうダメだな」
騙しだましで食べていたが流石に食べられなくなった。
「どうしようか?」
「この2日間の散策で周囲の地形は把握した・・・」
食べられそうな物があるのは海岸が多い。
ヤシの葉で屋根を作り雨の侵入を防ぎ基地としては完成した。
「今日はアッチに行ってみるか」
川の向こう側はまだ行っていない場所だ・・・逆にあの獣の居た縄張りかもしれない。
「コレもあるしね」
ボアの牙を太い枝の先端に着けた即席の牙槍をリリィに持たせている。
やはり武器があるか無いかでは安心感が違うな。
ジャバジャバジャバッ
川を渡って未探索な場所へと向かう。
「ジャングルの様ね」
「風景が変わったな」
森とは違う雰囲気が川向こうに広がっていた。
こちらの方がより一層に湿気が多い感じがする。
「あ」
「どうした?」
「アレってバナナ?」
「ん?」
リリィが指差すのは何本も束になった緑色のバナナだ。
・若いバナナ
糖度もなく苦いバナナ。
毒性なし
「アレは食べごろじゃないな」
「アレは?」
今度は黄色いバナナらしきもの。
・完熟バナナ
糖度があり食べられるバナナ。
「アレなら大丈夫そうだ」
「どうやって取ろうかしら」
目がギラついている。
「俺の拳で」
「また実らせるかもしれないじゃない」
「登るか」
俺がバナナの木に登り始める。
木と違い登りやすい。
ブチッ
根元から引きちぎって下に落とす。
「リリィ!後ろだ」
高い位置だったらこそ分かったが、あのパンサーが木の上からリリィを狙っていた。
「え?」
リリィが振り向くがパンサーが既に動いていた。
「きゃぁ!」
パンサーがリリィを押し倒す。
「この!」
バッ
バナナの木から飛び降りて拳を振り上げる。
今度は手加減なしだ。
ペロペロ
「きゃはは、くすぐったいわ」
リリィがパンサーにベロベロと舐め回されている。
殺意を感じない所を見るとじゃれているだけの様だ。
振り上げた拳を下ろして近づく。
グルルゥ
唸るように俺を見上げるパンサー。
「大丈夫か?」
「これが大丈夫に見えるかしら?」
顔中ヨダレだらけだ。
「顔を洗ってきたほうがいいな」
「そうするわ」
パンサーの下から這い出て川へと向かった。
「お前はなぜ攻撃しなかった?」
グルルゥ
唸るだけで意思疎通が出来ない。
ただ、殺意がない所をみると敵対している訳じゃない。
ブチッ
「食うか?」
バナナを1本パンサーの鼻元に近づけるが顔を背ける。
肉食じゃ食べないか。
バク
モグモグモグ
「旨い」
甘みもあるバナナだ。
クゥン
スリスリ
俺がバナナを食べている所で頭を摺り寄せてくるパンサー。
「どうしてこうなった?」
俺とコイツは敵同士の筈だ・・・アレで餌付けが完了したとか無いだろう。
2日前にボアの足を与えただけだぞ?
「これは一体どうしたの?」
「分からん。どうやら懐いているみたいなんだが」
首元を触ってやるとゴロゴロと喉を鳴らす。
「私も触っていい?」
「こいつに聞け」
スっ
グルルゥ
警戒されているようだ。
「まだ駄目の様だ」
「ケチ」
「その内慣れるだろう・・・が、どうするかだな」
問題はコイツがどういった立ち位置なのか?
俺達と行動を共にするなら餌とかが大変になってくる。
たまたま、リリィがボアを倒したから肉を手に入れただけだ。
ガサッ
フゴォオオオ
「タイミング良すぎだろう」
「また!?」
今度は2mを越すファングボアだ。
【鑑定】
名前:NoName
レベル:12
種族:ファングボア
体力:84/84
魔力:0/0
状態:興奮
グルルルゥ
パンサーも唸って威嚇している。
「喜べ、今夜も肉だ」
「倒せるの!こんな装備だけで」
「どうせ奴は突進しかしてこないだろう」
グッ
ザッザッザッ
後ろ足を蹴り、突進の構えをみせるボア。
「来い!!」
ブキィイイイイ
ボアが時速60キロ近くで突っ込んでくる。
バシッ
「ぉおおおおおおお!」
ズシャアアアアア
牙の部分を掴み足に力を加えるが突進力が勝り後ろに押し出される。
ズダンッ
左足で後ろに迫ったバナナの木を蹴る。
バキィ
バナナの木が騒音を立てて倒れる。
フギィ!
目の前の起こったことにボアがタタラを踏んだ。
「今だ!」
「やぁ!!」
ボアの右側からリリィが牙槍を突き立てる。
グルァアア
パンサーが左側から牙を立てた。
ブシュゥウ
両脇腹から血液を噴出する。
ブギィイイイ
ボアは暴れるが速力を落とした以上俺の腕力が本領発揮する。
腕力だけでボアを押さえ込み隙を作り続ける。
ズブゥッ
ガブリッ
リリィとパンサーが何度もボアの体を傷つけて出血を促した。
次第にボアの抵抗力が落ちていった。
ドスゥン
【鑑定】
名前:NoName
レベル:12
種族:ファングボア
体力:0/84
魔力:0/0
状態:死亡
10分程戦って俺たちの勝利が確定した。
「やっと倒せたわ」
「スキルなしだとこんな物か」
「スキルなしで押さえ込めるアオイが凄いのよ」
「褒めるな・・・お前もよくやったな」
サスサス
パンサーの頭を撫でると嫌がるそぶりがなかった。
「リリィはバナナの回収だ。俺は川辺でコイツの解体をする」
「分かったわ」
「お前も来るか?」
パンサーを見ると来るようだ。
「すぐに解体してやるからな」
このままでも食べるだろうが俺たちの取り分が必要だ。
川辺には予め設置していた解体用の吊るし台がある。
ギュッ
ズルズルズルッ
植物の繊維で編んだロープでボアの両足を縛り、吊るし上げる。
ズブッ
ブシャァアア
首元の頚動脈を切ると大量の血が噴き出す。
「悪いな」
今かと見ていたパンサーの顔に血が掛かる。
バシャバシャ
パンサーは何でもないように川で血を落としに行った。
ビリビリッ
毛皮は使い物にならない為に雑に剥ぎ取る。
バキィ
肋骨をこじ開けて内蔵の取り出しに掛かる。
パチンパチン
「お前、そんなに待ち遠しか?」
ミィヤァ
犬のようにおすわりした状態で尻尾を地面に叩きつけている。
「心臓と肝臓は貰うが他は食べるか?」
ハツとレバーだけ抜き取り、ほかの臓器を地面に置くとパンサーがバクバクと食い始める。
さすが野生動物・・・俺が手懐けたから飼っている事になるのか?
「お前にも半分取り分だ」
ボアの半身をパンサーに与えると食べ始める。
俺達だってこんな量は食べきれない。
本格的に保存方法を模索しないとな。
基地に戻り、ボアの肉を入れる。
「狭くなったわね」
広くは作らなかった基地に俺とリリィにボアの肉だけで狭さを感じる。
「もっと本格的な物も視野に入れるか」
パンサーの驚異は去ったようだしな。
油断させているかもしれないから一応は警戒しておく。
大体、この辺りの地形は把握できた様だ。
日は俺達が最初漂着した砂浜方面から上がり反対側に回っている事を考えると東側からスタートした、温泉があった場所は更に西の森に入り進んだところで湧いていた。
温泉の流れる方向へ下り川を辿り別の海岸にたどり着いた。おそらくここは北側の海岸なのだろう。
海岸には魚や貝にカニ等の食料になりそうな物や川の向こう側にはバナナや動物が居た所をみると食には困らないかもしれない。
「もっと南に進むべきか」
「南?」
ザザッ
簡単に地図を作り、リリィに説明をする。
「南の山を登る気?」
南側には常に標高の高く幅広な山が見えていた。
この島を作り出した火山かもしれない。であれば温泉が湧いていても変ではない。
「装備が整ってからな」
この巨大な島はあの山で北と南で分断されているのかもしれない。
俺たちのいる場所は北側だな・・・
・・・
・・・・・・
バガンッ
今日は道具作りに精を出そう。
川辺の大きめの石を割って石斧の刃を作り出す。
「斧は必要ないんじゃない?」
「道具があったほうが力の入り方が違うんだ」
「そうなの?」
「見てろよ」
ブゥンッ
バキィ
一撃で木の半分を断ち割る。
メキメキメキメキ
ドォオオン
「呆れて物が言えないわ」
「褒め言葉として受け取っておく」
「何が必要なの?」
「ここ数日で火、水、食、住が確保出来始めたからな・・・周囲の探索だろうな」
俺達の装備と言えば、石斧に牙槍と包丁替わりの石刃が2枚だけだ。
まず、この島の全容が分からなければ駄目だろう。
グルルゥ
「また来たわ。随分となつかれた様ね」
「まぁな」
パンサーが俺に大分懐いている様だ。リリィには心を許していないようだが時間の問題だな。
「今日は何もないぞ?」
食べる物を持っていない。
グルルゥ
パンサーが俺達より先に歩き振り向く。
「付いてこいって事か?」
「そのようね」
果たして鬼が出るか蛇が出るかだな。
パンサーの後に着いていく事2時間、傾斜を登り続けた。
「ハァハァハァハァ」
「大丈夫か?」
「これくらい」
「無理するな」
スッ
腰を落として待ち構える。
「なに?」
「背負ってやる」
「大丈夫よ」
「イザって時に体力がないと困るだろ」
「・・・それもそうね」
リリィの牙槍を両手で持ち後ろに持っていく。ソレに乗ってもらう形で背負う。
ムニュッ
スーツ越しだが柔らかい感触が背中に伝わってきた。
これも役得ってやつか?
「変なこと考えてないでしょうね?」
「俺は62歳の紳士だぞ?」
「肉体は20代でしょ」
「否定はせん」
バシッ
「不潔」
何故か叩かれた。
ザッザッザッ
急斜面を幾度も登り前に居たパンサーがお座り状態で待っていた。
クゥン
「お前が見せたかったのはコレか?」
「凄い絶景ね」
おそらく島を分断しているあの山の次に大きな山に案内された。
「全てが見渡せるな」
俺たちが漂着した海岸線、温泉が沸いているポイント、俺たちが拠点にしている場所、バナナ園、木々の間からファングボアがチラチラと見える。
「アソコに湖があるわ」
俺達が立っている場所から右に視線を落とせば窪地に出来た湖が広がっている。
俺達の使っている川の源流はあの湖なのだろう。
周囲大小の山々が漏斗の役割を果たして湖として水が溜まったようだ。
「バナナ園より先は緑が濃くて分かりづらいな」
ジャングルのような場所から一転して再び森に変わっている。
この島の生態系が謎過ぎるな。
ガウガゥ
パンサーが外套を引っ張って視線を落とす。
グルルゥ
パンサーの見る先は島を分断している巨大な山の西側だ
「あれは山道か?」
「よく見えるわね?」
西側の山肌を削り取るようにされた道らしきものが見える。
反対側の東側をみるが、断崖絶壁の壁で通れるようではない。
「お前が伝えたかったのはあの道の存在か」
クゥン
「助かる」
頭を撫でてやると甘く鳴く。
「行くの?」
「まだ、行かない。それにバナナ園を通らなくては行けそうに無いしな装備を整えてからになる」
「そうね・・・そろそろ温泉を作らない?」
「そうだな、余裕も出てきたし」
「それに臭いわ」
「川で洗っているだろ?」
「あれで洗えているとは思えないわ」
「そうか?」
あまり自身の匂いは気にしていなかったな。
下山をして温泉と川の合流ポイントにやってくる。
「それで如何するの?コレは熱いんでしょ?」
源泉が流れている場所は高温で川と合流する事で温度が激減に落ち込んでいる。
「川辺に穴を掘って源泉と川の水を引き込むか」
「昔、そういうの見た事あるわね。でも道具とか無いわ」
「石とか使って掘るぞ」
「うへぇ」
「作るんだろう?」
「頑張るわ」
今日から穴掘りの時間だ、俺とリリィの腕力なら水分を含んだ水辺近くの土なら容易く掘れるだろう。
・・・
・・・・・・
「コレくらいの広さでいいか」
大体周囲10m、深さ50cmの穴が掘れた。
「ここに源泉と水を引き込むぞ」
「もぅ、疲れたわ」
「1日でここまで掘れたんだ。少し休んでいろ」
予め採取していたバナナを食べ始めるリリィ。
俺は源泉と川の水が穴に入るようにと水路を掘り続ける。
ジャアアアア
まず源泉が少量ずつだが貯めていく。
いきなり両方を入れてしまって温度が下がっては無意味だからな。
「入るには明日だな」
「えぇ・・今日入れないの?」
「こればかりはな」
「源泉の溝を深く掘れば」
「源泉に混じって土とかが入ってくるから止めたほうが良い」
「いつかは埋まるのね」
「そういう事だ」
「夜まで後は何をしようか?」
「衝立作りだな」
「必要?」
「俺も男なんだが?」
「御免なさい」
混浴でも良かったのか?
やはり女心は分からん・・・
「風呂に入ってる時に襲われたら困るだろう?」
「なるほど・・・アオイとかね」
俺ってそんな信用ないか?
「冗談よ。頼りにしているわ」
「あぁ」
バキバキバキバキ
上からの侵入も考えて、周囲の木々を軒並み倒して衝立の材料とする。
太い枝を支柱を2本1セットで温泉の周りに立てて行く。2つの支柱に同じ長さの枝を差し込み壁とする。
「今日はここまでだな」
半分ほど壁が作り終えて作業を終了とする。
パチパチパチッ
拠点で火を囲い後は寝るだけとなった。
「温泉楽しみね」
「あぁ」
元日本人目線からすれば風呂は心の洗濯場と言えよう。
・・・
「リリィ?」
翌日、温泉の最後を作り出そうとしたがリリィの調子が悪いようだ。
「今日は調子が悪いみたい」
時折、お腹を摩っている。
「何か悪いものでも食べたか?」
「昨日はバナナしか食べていないわ」
「そうだったな・・・何処か負傷か?」
「無かったわ・・・歩くのもやっとなの。今日は手伝えないわ」
「大丈夫か?」
「大丈夫。そこまで心配して貰わなくてもいいわ」
「そうか?」
明らかに昨日と体調に差が有りすぎる。
「その・・・言いにくいんだけど。言わないと心配するでしょ?」
上目遣いで顔を赤らめてボソボソと言い出すリリィ。
「あの日なのよ」
「あの日?」
「鈍感・・・生理よ」
・・あぁ~
「気づかなくて悪かったな・・・」
「分からなくても仕方ないわ・・・」
「・・・なるほど、ウミがあの状態だったのはそういう事か」
「アナタ達って4人で1年くらい旅してたのよね?」
「街も村もない魔王領だったからな、俺達4人でずっと旅を続けていたんだ。定期的にウミの体調が悪くなるもんだから俺達は不思議がっていたが」
「男3人も居て分からなかったわけ?」
「そういうのとは迂遠だったからな」
「呆れた・・・っつ、という訳だから数日は休ませてもらうわ」
「あぁ。牙槍だけは置いておくし。バナナ位なら食べられるだろう?」
「問題ないわ」
グルゥ
「おまえ、こんな所まで来たのか?」
普段、パンサーが俺たちの住処までは寄ってこないが今日だけは来た。
「何かあるのか?」
グルルゥ
パンサーは居住スペースの横に伏せると眠り始めた。
「よく分からないが大丈夫だろう」
俺は温泉の仕上げをする為に川辺へと向かう。
「ありがとうね」
リリィは横になりながらパンサーに礼を述べた。
パンサーはリリィが体調不良を悟り守るために近くまで来ただけだ。
アオイだけがその事を知らないのであった。
・・・
ガコッ
「これで問題ないだろう」
1人で黙々と作業を続けて温泉制作を終える。
直径15mの囲いに簡易脱衣所付きの露天風呂だ。
高さも5mにして侵入者を防ぐ様にしてみた。
周囲は切り株だらけになっていしまったが良いだろう。
・・・
ブゴォオ
バナナ園で今日の食料を手に入れている途中で1m程のボアが現れたが石斧で倒す。
川辺に持っていって吊るし台で毛皮、内蔵、肉と解体する。
「お前、まだ居たのか?」
昼ぐらいになりリリィの様子を見ようと帰ってくるとパンサーがまだ寝ていた。
スンスンッ
「起きたか?」
グルルゥ
匂いに気づいたのか背中に担いだボア肉を見ている。
「もしかして守ってくれていたのか?」
グルゥ
俺の言う事は良く分かっていないらしいが報酬が必要だな。
ボア肉の半分をパンサーに与えると巣穴に持ち帰る為に去っていった。
残りの肉もその内持ち帰るだろうと放置して中へとはいる。
「体調は大丈夫か?」
「全然・・・温泉は?」
「取り敢えず完成した」
「入る」
「その体調じゃ無理だろう。体調が戻ってからだ」
「これ以上臭いのは嫌」
「あの温泉は強酸性なんだ。体調が悪い時に入ったら悪化するぞ」
「・・・むぅ」
「今日は諦めろ。肉食べるか?」
「気持ち悪くて無理よ」
「じゃ、バナナだな」
「水も欲しいわ・・・悔しいけど温泉に入ってきて」
「いいのか?」
「アナタも臭いの」
「それは悪かったな。水を取ってくるから待っていろよ」
基地を出て日光で乾燥させたヤシの実を半分に割っただけの物を器にして川の上流から水を汲んで持ってくる。
俺は一足先に完成した温泉に入ることとなった。
ザバァア
「あちちっ」
水の量が少なかったらしく熱く感じた。
ズズッ
水を入れるための溝に設置したヤシの実を取り外して水を入れる。
反対側の源泉の溝に入れてこれ以上入らないように留める。
「ふぅぅう」
脚を広げて夜空を見上げる。
ヒョイッ
ザバッ
「なんだお前か」
パンサーが5mの壁を軽々しく超えてきた。
「お前も入りたいのか?」
ピチャッ
パンサーは鼻先を湯船につけて温度確認をしているようだ。
ザアァア
そして入ってきた。
「お前でも湯には入りたいのか?」
クゥン
相変わらず分からないが入りたいらしい。
「長湯はするなよ」
温度が水で低くなっているだろうが長湯は禁物だ。
ヤシの繊維で編んだタオルで水気を拭きスーツを着用する。
これでも裁縫師だからな、糸のように細い繊維だったら編むことは出来る。
まぁ耐久値は低いから普通のタオルより劣化が激しいのが難点だ。
・・・
「ん、いい匂い」
「そうか?」
「明日こそ入るわ」
「体調が戻ったらな」
夜は更けていく。
お疲れ様でした。




