10話「サード-鉱山内部①」
「これがいいか」
鉱山都市内にも冒険者ギルドが設置されておりクエストボードから良さそうなクエストを選ぶ。
『クエスト:鉄鉱石の納品を受理しました。お気をつけていってらっしゃいませ』
道具屋でピッケルを購入して俺は鉱山へと足を伸ばすことにした。
「てりゃぁあああ」
「やぁあああああ」
ガッキー達を連れて。
「ようやく鉱山の入口なんですね」
「結構長かった」
鉱山都市と鉱山入口はそこそこ離れておりロックゴーレムとの戦闘が10回程続いた。
魔力強化版斬糸は使わずに来れたのはガッキー達戦闘職がいるからだ。
「ここからは先人達も道を覚えるのが大変らしい。迷わないように気をつけよう」
「「はい!」」
パチパチパチ
入り口付近は大空洞であったが細い道として至るところに分岐していた。
後衛職である俺が松明を持ち、坑道を進む。
「ん?」
糸を俺達よりも先行させて何か無いか探りながら進んでいた。
操糸の常時発動で魔力は消費され続けるが5分間に魔力-2はコスパは良い。
歩いている内に回復してくれるからな。
糸が何かにぶつかる感触を察知。
スッ
後ろの2人にハンドサインを出して一旦進行を止める。
「何か居るな」
更に糸を追加で操って暗闇の先を探りを入れる。
糸で触る程度ではアクティブモンスターだとしても攻撃されたと感じないらしい事は検証済みである。
「この先モンスターが居ると思う。2人は臨戦態勢で」
カチャッ
2人は素早く武器を抜く。
ヒュルッ
操っている糸に松明の持ち手に絡ませて奥へと運ぶ。
松明の光りが徐々に行く先を照らし出す。
ギャギャギャッ
成人した人より少し小さい人型の影を照らし出す。
注視発動!
生物の動きだと感知した。
「モンスターだと確定した。FAはこのまま俺がやる」
コクリ
何時もの様に俺がFAを放って近づいてきたモンスターに対してガッキー達が前線に立ってタゲを奪ってもらう。
ワーウルフ装備で防御面が上がったところでガッキー達の鉄装備には適わない事には変わりない。
ガキィン
ガィイン
「くっ!防御術式二式」
ギャギャッ
「イャアアア!!」
「セイヤァア!」
ギャギャァアアア
バリィン
「ふぅ。やっと倒せた」
「狭くて動きづらいですね」
「そうだな。サポートがし辛い」
坑道という狭いフィールドでは大剣での振り回しが難しい、それより短い直剣だったとしても前衛が2人横並びになると動きづらいらしい。
かくいう俺も前衛に視界が塞がりタイミングを見計らうのが難しく感じた。
「ここでは、狭い中での戦闘訓練所のような物なのか」
「みたいですね。今までのびのびと出来ていたのでやり辛いですね」
「進もうか」
俺達は先へと歩を進める。
「結局、相手はなんだったんだ?」
「相手はホブゴブリンでした」
「ゴブリンの進化系だね」
「強いのか?」
「ソコまで強くは無いと思います。ワーウルフより弱い感じですね」
「狭さとの戦いがメインか」
「だね」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「またか」
暗闇からホブゴブリンが現れた。
「今度は俺が少し相手してみたい。2人は直ぐに戦えるように準備を」
距離は10m程しか離れておらず飛距離ボーナスは無いな。
「斬糸」
通常版の斬糸でホブゴブリンを攻撃。
攻撃を受けて怒りを露にして俺に突撃してくる。
「引き寄せ!」
シュルル
グンッ
ギャギャギャッ!?
ホブゴブリンに引き寄せを使って強制的に俺の元へ引き込む。
「三連脚!!」
ドドドッ
ギャギャッ
無防備な胴体に三連脚をヒットさせ吹っ飛ばす。
ギャギャァア
バリィン
「案外、呆気なく終わったな」
予想以上に早く戦闘が終わってしまった。
「俺達が少し苦戦したのに」
「アオイさん、何かダメージに補正入ってませんか?」
「ん、そうか?」
戦闘ログを見てみると見慣れない奴があった。
・衝突ボーナス
対象の意志とは関係ない状態で衝突した場合ダメージが発生する。
通常攻撃時:総攻撃力×1.2
スキル発動時:総攻撃力×スキル倍率×1.2
「一度に三連脚×1.2が入った事が要因だと思うな」
「衝突ボーナスなんて初めて聞きましたよ。アリゲートの突進も衝突といえば衝突なんですが」
「意志とは関係ない状態での衝突・・・説明文からして、俺の引き寄せは相手の意思を失くすからだな。アリゲートの突進はモブ自身の動きだろ?」
「なるほど」
それから幾度かのホブゴブリンを倒しながら進む。
「ようやく、採掘ポイントか」
ずっと岩の壁を見てきたが、一部分色の違う場所を発見した。
「色からして銅鉱石だな」
「なんだ、銅か」
「いるか?」
「私たちの目的は高品質の鉄鉱石ですから不要です」
「なら、俺が頂く」
インベントリからツルハシを取り出して採掘をしてみる。
カーンカーンカーン
・銅鉱石
極一般的な銅の原石。
精錬すれば僅かな銅になる。。
ランク:ノーマル
品質:1
数個程、採掘したらポイントが消滅した。
「これ以上は駄目という事か」
「さ、行きましょうか」
更に奥へと俺達は進む。
「今度は鉄だな」
「私たちが掘ります」
カーンカーンカーン
「普通の鉄鉱石でしたね」
「出なかった」
鉄鉱石は俺に渡された。ガッキー達の欲しいのは高品質の鉄鉱石だけらしいので普通の鉄鉱石は俺が貰う事となっている。
鉱石を掘っては奥へ進み、モンスターと戦いを繰り返すこと幾数回程たった頃に久しぶりに分岐ポイントが現れた。上に向かう道と下に向かう道に分かれている。
「さて、どちらかに進むか」
「迷路だと左手の法則とかありますね」
「じゃ、左の下に進む道にするか」
「一応、目印つけておくね」
ガッキーが白いチョークみたいなのでガリガリと文様を付けていく。
「時間が経ったら消えるじゃないのか?」
「これは消耗品の特別なチョークでプレイヤーが鉱山を離れるか、消したいという意志がなければ残り続けるアイテムなんですよ」
「便利なチョークなんだな」
「冒険者ギルドで普通に売ってましたよ」
「それは、見落としていたな」
下の道を選び進むこと数分でホブゴブリンではない人影が現れた。松明の光量では何かまではハッキリ見えない。
「遠視があったな」
視界だけを50m範囲ならば飛ばす事ができるスキルの事を忘れていた。
グワッ
視界だけが動き、松明の周辺にいる人影を見ることにする。
『******』
NPCかプレイヤーだった。空中に浮く松明に驚いている感じだ。
「NPCかプレイヤーの様だ。PKは出来ない仕様だったから接触しても大丈夫だろう」
俺が先行してその人物のところへと近づく。
バシッ
驚いていた人は松明を攻撃し火を消してしまった様だ。
松明の耐久値は時間経過で減っていき自然と消えるか攻撃などによって直ぐ消えるアイテムだ。
カツカツカツカツ
『誰だ!?』
「そう、警戒するな」
互いに視認できる範囲になった所で話しかける。
相手は鉄装備を全身に装備した直剣使いのようだ。ソロでこの坑道に入ったようだな。
『いま、信じられないものを見ちまってな。動揺してたんだ』
「そうか。アンタはソロで?」
『ん?あぁ。鉱石を堀にな』
「という事はこの先の鉱石はアンタが掘った後か・・・」
『大体は掘ったな。何度か分岐点があったから別の道にはまだポイントがあると思うぜ。という事はソッチはソッチで掘ったって事だな?』
「あぁ」
「どうします?」
「引き返す?」
後ろからガッキーとシズクが不安そうに聞いてくる。
「分岐した数とか覚えているか?」
『そんなに分岐していないぜ。4、5回って所だな。コレでマークしているから反対側に行きたければ行けばいいと思う。そっちもそうしているよな?』
「あぁ」
『ソッチの分岐回数は?』
「1回だ。下りの道を進んできて出会った」
『わかった。頑張れよ』
「高品質の鉄鉱石って出るものなのか?」
『極稀に出るって噂だぜ。俺も掘り当てたことが無いがな』
男はそう言って笑いながら俺達が来た道を進んでいった。
「かなり、希少鉱石のようだな」
「また遠くなった感じです」
「余計に疲れてきたね」
「次の分岐ポイントに着いたら少し休むか」
鉱山都市を出発してから2時間は経過している。
しばらく歩くと男の言っていた分岐ポイントが現れた。
一つは道なりに進む物ともう一つは更に下る道だ。チョークでのマークは道なりに進む所から俺達が来た道を指しているから下への道を進む事になりそうだ。
「少し休憩だな」
「「はい」」
10分位、座って休憩をする。
一応周りの警戒はしながら各々はアイテムの確認などして微妙に減っている体力や魔力回復に専念する。
「そろそろ予備の武器に交換しなくちゃ」
「だねぇ」
ロックゴーレムやホブゴブリンとの戦いで消耗してきたと2人は呟いている。
「やっぱり前衛だと消耗が激しいのか?」
「一番敵と切り結びますからね」
「予備の武器は必須だよね」
「防具の方は?」
「防具の方も用意する方はいますが、私たちの場合は壊れる前に帰るようにしています」
「なるほどな。さて、行くか」
下り道を進み更に下層へと降りていく。
「やはり、MAP機能は当てにならないな」
自分が来た道を見ようとMAPを開くが来た道はくねり曲がり幾重に重なり一本道ではない事をハッキリと表示していた。
「方向感覚が狂っているな」
真っ直ぐに進んでいたと思っていたが全然違っていたことが分かった瞬間であった。
しばらく、歩いていると少し違和感を覚え始めた。
「なぁ、壁に変化があったか?」
「壁ですか?」
「さっきと変わらないよ?」
「気のせいか?」
なんだか壁の色が濃くなった様な感じだ。
バサッ!・・・バサッ!
前方で重い物が空気を打つ様な音が聞こえてきた。
例えるなら敷布団を勢いよく床に広げた時のような音である。
キキィ!!
ザシュッ!
「っ!?」
「「アオイさん!?」」
高速で何かが俺の横を過ぎ去ったかと思うと左肩に斬撃を受けたエフェクトが走った。
「なんだ!」
「コウモリ系モンスターです!」
「素早いよ!」
ガイィン
ガァアン
ガッキーとシズクが武器でコウモリからの攻撃を防いでいる。
「くっ!早すぎてターゲットが外れる」
松明の光りにチラチラとコウモリは映るがターゲットが直ぐに外れてしまう。
「こういう時はどうするんだ」
「点や線より面での攻撃が有効だと掲示板で以前見ました!」
「魔法での爆発系が有効だって!」
必死にコウモリからの攻撃を防ぎながら二人が答えてくれる。
前衛2人は線での攻撃が主体だ。俺も点や線の攻撃や防御ができるが面では難しい。
いや、出来なくもないか。
今の俺は4本も糸を同時に操れるのだから。
「できるか、分からんが試してみる。2人とも暫くもたせてくれ」
コクリッ
俺は急いで予備で持っている鉄の貫通鏃を取り出して糸の途中に括りつける。
シュルルルルルルルッ
等間隔に貫通鏃を4本の糸に十数個付ける。
「操糸」
フワッ
糸に接続された貫通鏃ごと浮かび上がらせる。
「ハッ!」
ガガガガガガガガガガ
ガッキー達の前に4本の糸をメチャクチャに交差させて貫通鏃を壁や天井に突き刺す。
ビィイイイン
キッキィイ
「引っかかった!2人ともやれ!」
「「はい!」」
糸で作られた網に絡み取られたコウモリは地面に落下し空中に羽ばたこうとするが絡まった糸に邪魔をされて地面でジタバタとしている。
「大地斬!」
「三連閃」
ガッキーの強力な一撃とシズクの三連擊を受けてコウモリは消滅した。
体力は相当低い様だ。
「ビックバットだった様です」
「糸、どうするの?」
ビックバットが暴れた為、更に複雑に糸が絡まった。
実は裏技がある。
ピピッ
シュンッ
一旦両手のガントレット装備を外しインベントリに収める。
インベントリにはガントレット2つと少し耐久値が減った貫通鏃十数個が収まっている。
シュッ
そしてガントレットだけ装備しなおすと糸は綺麗に収納されている。
「おぉ!」
「バグではな無さそうですね」
「仕様を逆手にとった収納方法だ。他の職業ではあまり意味はないんだがな」
「無限あやとりかになるかと」
「うんうん」
「俺も困るな、解ける気はしなかったからな。少し休憩するか」
コクッ
殆どサポートもできず2人にはダメージが残っている。
「あの技はスキルだったんですか?」
「それがスキルじゃない」
「スキルじゃないんですか?スキルの様に感じましたが」
「一応、操糸で操っていたからスキルといえばスキルだな」
「あれだけ派手なので糸を操るスキルからの派生になりそうですけど」
「スキル、固定型網とかかな?ワイヤーネットとか?」
ガッキーが嬉しそうにスキル名を発言をする。
≪スキル:ワイヤーネットが会得されました≫
「なるほど」
「何がですか?」
「いま、スキルが習得された」
「え!?」
「あの技にスキル名がシステム上なかったから会得できなかった。だが、あの技を認識している者が技名を発言する事でスキルとして昇華するようだ」
「俺が言ったことで決まったんだ。凄いシステムだね」
「驚きだな」
「この事、掲示板に載せましょうか?」
「あぁ、一例として載せてもいいだろ。中には同じような人も居るだろうからな」
・ワイヤーネット
4本以上のワイヤーに固定する杭を十数個合わせてクモの巣状の物を作り出す。
引っかかった相手はもがけばもがく程糸が絡まり動作が出来なくなる。
糸の長さによって出来ない為、森の中、洞穴の中など狭い空間が推奨。
草原など広い場所では発動すらしない。
前提:ワイヤー以上の糸
操糸会得
多重操糸術会得
固定用の杭を規定数以上持っていること。
操糸にて一定範囲を糸でクモの巣状に張り巡らせる事。
消費魔力:10
しっかりとスキルとして認識されたようだ。
「次からは魔力消費をするだけで時間をかけずに出せるようになった。進みやすくなるだろう」
「暗闇からの攻撃は怖いですからね」
「見えないって大変だよねぇ」
休憩を終わらせて更に進む俺達。
キキィ
パリィンン
「レベルアップしました」
「俺もー」
「おめでとう」
幾度かのビックバットとの戦闘を経て2人のレベルがアップしたようだ。
「そろそろ防具の耐久値が半分を切りました」
「そうだね」
「探索はここまでだな。ミモザが居れば手に入れた鉄鉱石から耐久値の回復を狙えるんだがな」
「それは思いますね」
「アリゲート前のアレは助かったね」
ビックバット、ホブゴブリンとの戦闘を続けながら俺達は来た道を戻る。
最後のロックゴーレム線で防具の耐久値が0になり幾つか破損するトラブルに見舞われたが、なんとか抜け切った。
「ヒヤヒヤしましたね」
「怖かった」
2人の鉄装備が破損し防御力が著しく低下している。
「一瞬にして街に戻る方法があればいいんだがな」
「今の所、デスルーラですね。ここまで来るとリスキーですよ」
「デスペナはいいんだけど。持っている物の中で一番レア度の高い物が1スロット毎のロストはねぇ」
「折角手に入れた高品質の鉄鉱石が全部ロストなんて考えたくもありません」
「うっ!」
俺が持っている中で高い価値と言えば、ワーウルフクローブーツじゃねぇか。
これが無くなるとキツイ。気を付けないとな。
高品質の鉄鉱石が残念ながら1個しか出ず、殆どは銅鉱石か鉄鉱石でインベントリは埋まっている。
「じゃ、クエスト納品とミモザの所に余った分を売るが売上は俺が7割でいいのか?結構消耗しただろ?」
「私達が必要とする分を譲ってくれたお礼です。消耗はしましたけど鉄鉱石の幾つか貰っていますので大丈夫です」
「なら、いいんだが」
銅鉱石と鉄鉱石はミモザに売り、3割を2人に渡して解散となった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「なんとか、光量が上がるアイテムは無いか?」
鉱山都市で見かけたダイチを捕まえて相談していた。
鉱山内部の暗さが松明の光だけだと心もとないのだ。
「うーん、光量を上げる方法かぁ。単純に松明を2本同時に使うとかは?」
「それじゃ、両手が塞がって戦えないだろ?」
「糸使いなら手は関係ないでしょ?」
「俺ならな」
「魔法職のスキルのライトボールという奴で視界を確保しているみたいだよ。光量は松明の非じゃないから鉱山探索に魔法職は必須らしいね」
「そうだったのか・・・」
「魔法職が居ないならば松明になるけど光量不足と来た」
「なんとかならないか?」
「鉱山といえばカンテラなんだけど、ガラスが作れる人なんて聞いた事ないし油も何処で摂れるのかも分からないしなぁ」
「懐中電灯とかは?」
「電気が作れないと無理だよ。電気を貯めておく電池ですら今の僕達じゃ作り出せないよ」
「そうか」
「光るというポイントならエンチャント武器のフレイム・ソードとかかな?」
「なんだソレは?」
「ロングソードに炎属性を加えた制作級魔道具だよ。魔力を常時消費する代わりに炎属性攻撃も加わるマジックアイテムだね」
「それで?」
「けっこう炎のエフェクト激しいらしくて眩しく感じる人もいるんだとか」
「つまり?」
「道具に炎属性エンチャントして魔力を使い光を得る道具。通称は魔道具って言うんだけどソレじゃないかな?って話」
「エンチャントか・・・希に聞くが付与師だったか?」
「その通り、付与師がエンチャント武器を作ってくれる。だけどプレイヤー数は限られている。有名なのが付与師のエンデバーだね」
「フォースの街か・・・」
「そ、制作依頼を出すにしても僕達じゃたどり着けないよ。ミモザさんなら行けるみたいだけどね」
「俺の問題を誰かに託したくないな」
「だね。皆嫌がるでしょ」
「そもそも付与師は限られた人しかしないみたいなんだよね。素材が足りないんだとか」
「足りない?」
「掲示板で嘆いていたけど、アイテム欄の評価が3以上無いと付与すら出来ないと聞いたよ」
「評価3ってマジックアイテム級じゃないか」
「そういう事。ファストの街でマジックアイテム級の武器や防具なんてまず手に入らないよね。よくてウッドゴーレムから出てくるウッデンコアを使った装備な訳だよ」
「レアドロップだから相当数が少ないんだろ?」
「ドロップ率は低いって噂だね。更に言うと絶対に付与が成功するとは限らない」
「ウゲッ」
「付与師としてのレベルで成功率が上がっていくシステムなんだ。だから最初は失敗し続ける。そこで挫折する人が多くて転生が発生するんだ。そう考えると付与師は副職業の中でトップを行く過酷な職業とも言える」
「付与師エンデバーの精神力が計り知れないな」
「まぁね。一時期はウッドゴーレムのソロ狩りに入り浸ってた話だよ」
「うわっ」
「と言ってもセカンドに行きたいプレイヤーがいれば道を譲る人だから横暴な人ではないと思うけどね」
「フレイム・ソードを持っているプレイヤーは?」
「トッププレイヤー、炎帝の二つ名で知られているエンってプレイヤーだね」
「そう言えば、エリアボスはなんでゴーレム系列なんだ?」
「僕にも分からないよ。その方が楽なのかもね」
「そうか。付与師に心当たりはないか?」
「さすがの僕でも顔はそんなに広くないよ。やはりミカさんに聞かないとね」
「聞いた所で自分で探すように促されるだけだな」
「マジックアイテムを必要としている人を探せば付与師の可能性がある位だね」
「その線で当たってみるか。相談に乗ってくれてありがとうな」
「この位ならいつでも乗るよ。じゃ、頑張って」
「おう」
≪転移可能の街:≫
ファスト:1,500G
セカンド:1,000G
サード: 500G
≪ファストに転移します。1,500Gが支払われました≫
鉱山都市の復活ポイントからファストを選び転移をする。
「久しぶりに来たな」
一見、どの街に来たのか分からなかったが屋根の色でファストだと認識する。
「さてと・・・まずはマーケットからだな」
もしかしたら、懐中電灯のような魔道具を作り出している付与師が居るかもしれない。
生産プレイヤーの集う市場にやって来た。
「あらん、珍しいわねぇ」
ミカが普通に販売業をしていた。
「なにをお探しかしらぁ?」
「言った所で、な?」
「そういう事なら助言は取っておくわねぇ。煮詰まったらいらっしゃい」
ミカと別かれて露天を見ながら市場をグルっと回る・・・が、目的に沿う物が売っている事は無かった。
「もう、根を上げちゃったかしらぁ?」
「いや、少し質問ができただけだ。欲しい物を手に入れる場合、どうしている?」
「複数あるわぁ。1つ目は自分で手に入れる。2つは持っている人に直接交渉しに行く、3つ目はギルドに依頼を出して譲ってくれる人を待つ、の3つが主になるわぁ」
「わかった」
「答えになったみたいで何よりだわぁ」
「困ったとき、また来る」
早速、ギルドに向かいクエストボードを眺める。納入系クエストにレアアイテムを条件にしている物が無いかじっくりと見る。
「ないな」
次は以前にそう言ったクエストが無かったか受付嬢に聞いてみる。
『はい、以前に数回程、レアドロップアイテムの購入に関するクエストが張り出されていました。既に納入されており終了しております』
「誰が欲しがっていたか分からないか?」
『依頼主の情報を開示する事は許されておりません』
「そうか」
『もし、その方に接触するのでしたらアナタがレアアイテムの販売に関するクエストを出せば良いかと』
「出来るのか?」
『購入が出来るクエストがあれば販売に関するクエストも張り出せます。如何致しますか?』
「クエストの依頼料はどうなるんだ?」
『一定期間の限定にしていただければ通常より安くなります。最短で1週間の張り出し期間で1,000Gとなります』
「それなりに高いんだな」
『規則ですので』
「内容はこっちが決めて良いのか?」
『はい。この紙の中でしたらどんな条件でも書き記して構いません』
受付嬢から張り出す紙を受け取り書いてみる。
--------------------レアドロップ販売に関すること------------------
クエスト名:ウッデンコアを販売する
募集要項:付与師限定販売
要件:最低でも30万以上で販売を考えるものとしている。
またコチラの要望の物が作れるのであれば値引きも可能
-----------------------------------------------------------------
「こんな物でもいいか?」
『はい、ではコチラをファスト~フォースのギルド全てに張り出させていただきます』
「フォースにもか?」
『そういった事を含み、高い料金を払って頂いています』
「なるほど。なら、コレで頼む」
『受諾者が居た場合、メールにて連絡いたします』
「頼んだ」
ギィイイ
ピロリロリンッ
ギルドを出た途端にメールを受信した。
--------------------ギルド依頼に関すること------------------
アオイ様が依頼された
【クエスト名:ウッデンコアを販売する】について受諾者が現れました。
受諾者からのメッセージはこのメールを見た後届きます。
-------------------------------------------------------------
ピロリロリンッ
-------------------------------------------------------------
from:エンデバー
to:アオイ
件名:貴殿のクエストを受託したエンデバーと申す
内容:貴殿のウッデンコアを購入したいと思い受諾した。
貴殿が要望したものが作れれば値引きも本当の事であるか?
直ぐに会えるのであれば直ぐに交渉に入りたいのだが、何処に行けば良いのか?返事を待つ。
-------------------------------------------------------------
大物が釣れてしまったようだ・・・
『ファストの復活ポイントにて待つ。
ワーウルフ装備で両手はガントレットの男プレイヤーがアオイ。』っと
返信し待つこと5分。
ファスト復活ポイントに初心者には見えない装備の男が現れた。
全身は黒いローブを身にまとっているが背丈ほどの木の杖、先端には何かの宝石が数種散りばめられている。
『貴殿がアオイ殿であるか?』
「あぁ。アンタがエンデバーでいいのか?」
『吾輩がエンデバーである』
「さっそく、商談に入りたい。喫茶店でいいか?」
「うむ」
復活ポイント近くの喫茶店へと入る。
ゲラゲラゲラ
俺がデスペナ食らっていた時にはやし立てていた3人組がまだ居た。
暇なのだろう・・・
「コーヒー」
「吾輩は紅茶である」
注文し暫し待つ。
『お待たせしましたー』
「それで、ウッデンコアなのだが」
「あぁ。ここにある」
木で出来た丸いコアを机の上に置く。中から薄らと光が漏れている。
「たしかにレアドロップ品のウッデンコアであるな。して主の要望とは如何に?付与師限定と書いてあったのだから魔道具の類であろう?」
「あぁ。マジックアイテムを作ってほしくレアアイテムを交換条件としてクエストに出した。事情を話していいか?」
「聞くのである」
俺はエンデバーに暗闇の洞窟内でも安定した光量を発生させる魔道具が欲しい事を伝えた。
「鉱山は吾輩も行ったことがあるのである。魔法職が居れば事足りるのである」
「固定に魔法職は居ないんだ。知り合いに居るにはいるが生産職メインだから誘うのもはばかれる」
「うむ。だから付与師を頼ったのであるか。魔力を消費して松明以上の光量を確保するマジックアイテムを作ることは出来るのである。しかし、材料が如何せん足りないのである」
「材料とは?」
「まず、魔道具の土台部分には最低でも高品質の鉄鉱石が20個必要なのである。20個でインゴットが1つ作れて持つ部分が完成するのである。さらに光量を外に放出するので宝石が拳大1つか同一の宝石が十数個必要になってくるのである」
「どこで手に入るんだ?」
「鉱山下層である」
本末転倒だろ・・・鉱山内部で光量を手に入れるマジックアイテムを作ってもらう為には鉱山から手に入るアイテムを必要とするなんて・・・
「もし、クエストで高品質の鉄鉱石や宝石が売りに出されている事もあるがどちらとも人気で直ぐに売れてしまうのである」
「そうか」
「すぐに叶えられそうにないので、コレは売値である30万で買い取るのである」
「わかった。今の材料が揃ったら作ってくれるのか?」
「鍛冶師にも頼むので別途制作費用が発生する」
「わかった」
≪エンデバーからトレード申請がきました。受けますか?≫
YES
ウッデンコアと30万Gでトレードは完了した。
もし30万が相場より安くてもトップ付与師エンデバーと繋がりを持てたのだから安くすんだのは俺の方なのかもしれない。
作成依頼をしても良いらしいからな。
「もし、吾輩の力が借りたいのであれば何時でも言ってくるのである。力になろう」
「わかった。その時は頼る」
一旦エンデバーと別れて鉱山都市へと戻る。
ギルドに向かい、高品質の鉄鉱石や宝石がを売る人が居ないかのチェックだ。
「やはり買い取るという事か」
数人の鍛冶師が買い取るというクエストを張り出している。
その中にミモザも含まれていた。
「自力で探すしかないか・・・」
望みが薄いと感じ、自力入手の方向で情報収集をする事にした。
高品質の鉱石と宝石は鉱山の何処で手に入るのかをだ。
掲示板や攻略掲示板を見ていると鉱山の下層に向かえば少しではあるが確率が上がっているそうだ。
たしかに俺達の場合も下に行く道を2回程分岐してようやく1つ出たな。
宝石については採掘ポイントと同じで輝くガラスの様な物がポイントらしい。色でどの宝石なのか判別出来る。
宝石の種類によってマジックアイテムにした時に属性効果内容が違ってくる。
白・・・ダイアモンド。光属性付与。武器なら光属性武器。防具なら光耐性防具。
赤・・・ルビー。 火属性付与。武器なら火属性武器。防具なら火耐性防具。
青・・・サファイア。 水属性付与。武器なら水属性武器。防具なら水耐性防具。
緑・・・エメラルド。 風属性付与。武器なら風属性武器。防具なら風耐性防具。
黄・・・シトリン。 土属性付与。武器なら土属性武器。防具なら土耐性防具。
黒・・・オニキス。 闇属性付与。武器なら闇属性武器。防具なら闇耐性防具。
例えばルビーの宝石をノーマルアイテムであるロングソードに付けるとマジックアイテムのフレイム・ソードに変化する。
もちろん組み込む事の出来ない宝石もある。
付与師でも同じ事ができるがマジックアイテム級からなので効率は悪いらしい。宝石が人気なのは手軽に属性武器を手に入れられるそうだ。
ただし宝石を一つではなく同種を複数個同時に混ぜないと失敗に終わるらしい。
「PTを組んで行くか」
お疲れ様でした