09話「サード-鉱山都市」
「鉱山都市?」
「はい」
ガッキーやシズクと共に街周辺でワーウルフ狩りをしている最中の雑談で次に向かう場所について、その単語が出てきた。
「あれ?サードからフォースに向かうフィールドには鉄鉱石等が取れる鉱山都市があるの知らなかったんですか?」
「初耳だな」
「鉱山都市は主に鍛冶師が向かう場所ですからね」
「良質な装備が揃っているって噂だよ」
「つまり鉄装備が手に入りやすいと?」
「はい。私たちもそろそろ次の段階の装備が欲しくなりまして行こうかと思っています」
「鋼か?」
「鋼はフォースからと聞きました。同じ鉄の剣でも攻撃力が全然違う代物が沢山売っているそうです」
「同じ名前でも差があるのか」
「店売りと生産職が作る武器防具の性能は違いますよ?」
「あまり気にしていなかったな。これ(LTシリーズ)は店売りだったし、武器はミモザとダイチの合作に脚は需要のないブーツだから比較対象がないしな」
「LT防具はセカンドの防具屋でしたよね?サードの防具屋では何か後衛用のは売っていなかったんですか?」
「ここから裁縫師に頼まないと駄目らしい。一人知り合いにいるが材料が無いと作れないそうだ」
「後衛職の人たちって大体LT装備だったのはそういう理由でしたか」
「でも、白以外の人もいたよ?」
「染色はできるからな。カスタマイズなんだろ」
「なるほど」
「革装備は付けられないでしたっけ?」
「脚以外は職業上のルールで付けられないそうだ」
「武器は鉄使ってますよね?」
「何故か付けられた。売っている糸使い専用武器は全て木製なのにな」
「そうなんですね。っと、次のワーウルフが接近してきました」
「任せろ」
ある程度の討伐数を稼いだ後サードへ戻り精算をする。
数日後、ガッキー達は鉱山都市へ向かうと言うので一緒についていくことにした。
鉱山都市までに出現するのはロックゴーレムだ。セカンドのエリアボスとは性能は劣化しているが体力は変わらないそうだ。
ガキィン
ガァン
「やっぱり硬いですねぇ」
「アリゲート並みに硬い手応えだよ」
岩を剣で斬りつけているのだからそういった感想が出てきても可笑しくはないな。
俺の斬糸も殆ど効いていない用だしサポートに徹するしかないようだ。
ゴゴォン
ズズズッズズッ
ロックゴーレムがようやく倒れて土くれに還っていく。
「1体でこれだけ苦戦するなんて久しぶりですね」
「やっぱり盾と回復は必要だね。安定感が全然違うや」
俺のサポートも完璧ではなく一度や二度ほど2人に攻撃を通してしまう。
その場で体力の回復を待つこととなった。
体力回復ポーションはピンチの時、戦闘中にしか使わない様に2人に言ってある。
「そろそろ、レベル4になりそうなんだがな」
「何がです?」
「糸の操る本数が」
「え?それ以上に増えるの?」
「装備上、左右で最大6本まで増やせる。Lv上限が10と書かれていたから装備しだいで10本同士操作が可能なんだろうな」
「それって凄い事ですよね。10本も同時に操作してたら糸が絡まったりしませんか?」
「何も考えていないと絡まるな。3本でも結構しんどいし4本だと慣れるまで相当苦労しそうだな」
「ですよね」
「さっ、体力も回復したし行くか」
「はい」
「うん」
少しずつであるが俺達は前進する。
「見えてきました、アレが鉱山都市です」
大きな山の麓に石造りの家々が並ぶ都市が見え始めてきた。
「あと、一戦か二戦したらたどり着けそうだな」
≪スキル:多重操糸術がレベル4になりました≫
≪スキル:ストリングランスが派生しました≫
「お、レベル4か」
早速ミモザに取り付け方を教わった4本目のリールを左手のガントレットに装着する。
「これで行動選択が増えたな。あと新たなスキルが取得可能になったな」
・ストリングランス
4本の糸をより合わせて1本の槍を作り投擲する。
基本攻撃力の2.5倍
前提:多重操糸術レベル4
SP2の消費。
消費魔力:10
斬糸に続いて攻撃系のスキルか。
しかし、4本同時に使うのはタイミングが難しいし今回は見送りだな。
それよりサポートスキルの段階を上げるか。
・糸拘束術二式
対象のあらゆる角度から糸で拘束し動きを阻害する。
最低4秒。
※多重操糸術で操作した糸の本数で拘束時間にボーナスが付く。
2本以上の本数+5秒。
前提:糸拘束術一式レベルMax
多重操糸術の取得。
SP2の消費。
消費魔力:5
CT:10s
・糸防御術二式
対象の強力な攻撃を逸らす。
前提:糸防御術一式レベルMax
多重操糸術の取得。
SP2の消費。
消費魔力:5
CT:10s
≪スキル:糸拘束術二式をSP2消費して取得いたしますか?≫
YES
≪スキル:糸拘束術二式を取得しました≫
≪スキル:糸防御術二式をSP2消費して取得いたしますか?≫
YES
≪スキル:糸防御術二式を取得しました≫
「これで時間が増えるな」
「アオイさん、スキル確認ですか?」
「まぁな。1段階上げたからサポート時間も変わった。試しに付き合ってくれ」
「はい」
「わかったよ」
俺の一段階上がった拘束術と防御術のスキルテストを行う。
「糸拘束術二式」
まず1本での通常版4秒拘束。
【攻撃不可、拘束4秒】
「はぁああああ」
「やぁああああ」
ザシュザシュザシュッ
2人は動けなくなったロックゴーレムに3回攻撃する。
「糸拘束術二式」
ここでクールタイム無視か?と思われるだろうが糸1本毎にスキルのクールタイムが設定されている為に魔力が続く限り同スキルの連続発動ができる。
で、あれば1本ずつ直列にスキルを発動すれば拘束時間が延びると思われがちだが魔力消費量は2本同時の方が抑えられる。
今度は2本で拘束する。ボーナスタイムと合わせて9秒。
ザシュザシュザシュッザシュザシュザシュッザシュッ
2人は動けなくなったロックゴーレムに7回攻撃する。
キュピィン
グワッ
両腕を大きく振り上げる。
ロックゴーレムの技【中領域地震】が発動した。
「糸防御術二式」
最初の1本目と残っていた4本目の2本でロックゴーレムの攻撃を逸らす。
グワンッ
ズズゥン
両腕は在らぬ位置へ地面へ叩きつけられスキルが上手く発動されず。
その隙を突いて2人が一方的に攻撃を続ける。
ゴゴォン
ズズズッズズッ
ロックゴーレムが今までよりも早い段階で倒れて土くれに還っていく。
「凄いですね!」
「全然攻撃が当たらなかったよ!」
2人はロックゴーレムからダメージを殆ど受けず倒した事に喜んでいる。
「1本増えるだけでサポートするタイミングや組み合わせがの自由度が増えたからな」
「それよりも2段階目の拘束術や防御術は凄いですね」
「さっきまで時間が長いし、相手のスキルを崩すなんて凄いや!」
どの職業でも敵モンスターのスキルを根本から崩す事はできない、良くて盾でガードする程度で被害を最小限に抑える事ぐらいのようだ。
「とりあえず行くか」
ようやく鉱山都市へとたどり着いた。
「ようやく着きましたねぇ」
「装備がボロボロだよ。耐久値がギリギリでヒヤヒヤしていたよ」
岩を斬り続けた為、2人の鉄の武器は刃こぼれしてボロボロだった。
「打撃系の武器の方が相性が良いのか?」
「そうですね。相手が硬いと斬撃より打撃の方がダメージが入りやすいと聞いています」
「斧、大槌、メイスとかが相性いいらしいね」
「それは剣士として良いのか?」
「完全に剣とはかけ離れていますが装備は出来ますよ」
「剣士なのに槍使いに会った事あるしね」
「槍や斧使いは剣士に纏められているのか」
「ですね」
「変な設定だよね。スキルツリーもそれで増やしちゃっているし」
「そうなのか」
「剣士は様々に分類できますからね。私とガッキーのように」
「確かにな」
『ようこそ、鉱山都市へ。主等は初めてじゃな』
鉱山都市の出入り口である門番に声をかけられる。
ずんぐりむっくりしている背丈の半分ほどしかない髭を蓄えているNPCキャラである。
背中には背丈と同じくらいの斧を背負っている。
「ドワーフなんて初めて見た」
「サードの街にもたまに見かけるよ?」
「私たちも同じですがプレイヤーやNPCは殆ど人族ですからね」
「そういえば余り他種族を選んでいるプレイヤーは見ないな」
「一つは種族によって一癖も二癖もあるらしいとベータテストの時に大体的に言われてましたね」
「あぁ、リアルと架空種族とのギャップだろ?今までに無い感覚がプレイに支障を来すとかいう」
「はい。背の高い人が背の低いドワーフをやると動き難くなるらしいとか」
「逆に背の低い人が手足の長いエルフをやると違和感があって混乱するらしいんだって」
「ウンディーネを選んだ人は地上活動制限喰らうとかで不遇種族一位を獲得したらしいな」
「地上活動中は全ステータス半分は誰も選びませんよ」
「その代わり水中戦になれば全ステータス3倍は大きいな」
「リスクが大きすぎますよ。他にエルフなら森の中だと2.0倍。ドワーフなら荒野、鉱山だと1.5倍とかになるらしいですね」
「その内、水の都とか水中都市とか出てきてウンディーネ最強説とか出そうだな」
「ありえますね。フィールドの殆どが森の中ならエルフ最強等も出てきますね」
「世界樹とかを中心にエルフの街が作られていたりね」
「とりあえず、私たちは装備を直してきます」
「今日はありがとう」
「こちらこそな」
≪鉱山都市の復活ポイントが活性化されました。復活ポイントに指定しますか?≫
YES
≪転移可能の街:≫
ファスト:1,500G
セカンド:1,000G
サード: 500G
復活ポイントを設定した後はパーティを解散してガッキーとシズクは鍛冶屋に入り装備の耐久値を戻しに向かっていった。
今までの町並みと違いレンガか石ブロックで住居は建てられており山に近づくにつれて、そこかしこで鍛冶の音が響いてくる。
「おっ」
店前には鉄製の糸使い用武器が置いてあった。
・ワイヤーガントレット
重量感ある鉄のガントレット型糸使い専用武器。
使われているワイヤーは切断不可能。
30mが限界である。
攻撃力:15
防御力:4
移動速度-10%
耐久値:150/150
装備可能職業:糸使い
ランク:ノーマル
品質:1
たしかにミモザ達が作ってくれた物よりNPC作成の方が性能が落ちるようだ。
・ワイヤー
鋼で作られた金属線。
耐久値:200/200
ランク:ノーマル
品質:1
付属のワイヤーも性能は下か。
『あんちゃん、糸使いか?』
「まぁな」
『ここ等で糸使い用の装備を作っている奴は俺のところ以外はねぇぜ』
「いや、間に合っている」
『なに!?おい、アンタのその両腕の奴ぁなんだ?』
「知り合いに作ってもらったやつだ」
『ちょい見せてみろい!ほぅほぅ、それで、うむ。なんと』
ズイズイと来た店主のドワーフが俺の両腕に装備しているガントレットをマジマジとみて呟いている。
『あんちゃん、こんな素晴らしい装備を作れるなんて凄い人物だぜ。工夫が盛り込まれているしな』
「まぁな。・・・これは」
糸使い専用武器の隣には鉄の矢等が沢山置かれたコーナーが目に入った。
『おぉ、弓矢使いのコーナーじゃ』
「貫通鏃、分銅・・・これは初めて見る形状だな」
そこそこの大きさのするトゲの付いた球体だ。
『分銅と貫通鏃を合わせて見たんじゃが、鏃として使えない物になっちまった』
「矢としては使えないが俺の武器には使えそうだな」
『なんじゃと!?』
「大きさは短剣以下だし、貫通鏃と大差ないな」
射出口にハマっている矢の貫通鏃よりも大きい糸使い専用の貫通鏃を引っ張り出す。
『なるほど、これを飛ばしてダメージを与えているのか。ふむ大きさ的には同じくらいじゃ。付けられよう』
・鉄のモーニングスター
球体にトゲの付いたもの。
攻撃力:10
気絶発生率:10%
耐久値:25/25
ランク:ノーマル
品質:1
ガチャガチャッ
・ペンディラムワイヤーガントレット(改三)
【鉄のモーニングスター】が取り付けられた糸使い専用武器。
これまでと違い限界距離が20mと短い。
切り離すことは出来ない。
糸は最大3本まで操作可能である。
攻撃力:17(+10)
防御力:10
移動速度-5%
耐久値:250/250
装備可能職業:糸使い
ランク:クリエイト
品質:2
『ふむ。コレの使い道ができたわい。ソレはタダで譲ろう』
店主のドワーフは笑って店内に引っ込んっで行った。
総攻撃力が上がった分文句は言わないでおこう。
更に歩いていると武器屋の他に防具屋へと入ってみる。
「服も売っているのか?」
革製防具の他にワーウルフの毛皮を使った服が売っていた。
『へい。職人の集う鉱山都市であるココで生産されているんですよ』
「サードの街には普通の服しか売っていなかったのにな」
『あそこで生産されているのは主に日常に欠かせないものばかりです。コチラの方が戦闘向きの物が沢山売られているんですよ』
「なるほど」
・ワーウルフの服(+10) :9,000G
・ワーウルフのズボン(+10) :9,000G
・ワーウルフのマント(+7) :13,500G
全部で31,500Gか・・・
「革製防具と何が違うんだ?」
『革になりますと硬い所を使う事になります。沼地のワニの鱗革を使ったスケイルメイルがその部類になりますね。逆に毛皮は服の部類になります』
「わかった。全部買う」
『毎度有難うございます。古いLT装備は下取りしますが?』
「頼む」
『畏まりました』
店員がワーウルフ装備とLT装備の差額を計算して支払いが終わる。
バサッ
LT装備より重量があるが防御力はコレまでの倍に近いと嬉しい限りだ。その代わり移動速度が5%落ちるのが難点だ。
【ステータス】
名前:アオイ
種族:ヒューマン
レベル:28
職業①:糸使い(Lv22)
職業②:裁縫師(Lv1)
SP:0
体力:1,000/1,000
魔力:371/371
攻撃力:125(+27)(脚+30)
防御力:98(+50)(+20)
状態:健康
称号:ウルフハンター,ドッグハンター
ランク:E
【装備】
頭:なし
体:ワーウルフの服(+12)
腰:ワーウルフのズボン(+12)
足:ワーウルフクローブーツ(攻+30)(防+20)
背中:ワーウルフのマント(+6)
右手:ペンディラムワイヤーガントレット(改三)(攻+27)(防+10)
左手:ペンディラムワイヤーガントレット(改三)(攻+27)(防+10)
ワーウルフクローブーツの性能が飛び抜けてて後衛職としては防御力はかなり向上されたようだ。元々のステータスの防御力に届きそうな勢いだな。
ちなみに武器の防御力は総防御力に足されず、防御した時のみ性能が発揮される。
その逆も同じで脚防具は専用スキルが発動しないと攻撃力として性能が発揮されない。
店をでて鉱山都市を歩き回ってみたが殆どが武器類に関する店が大多数を占めている。NPC店の中には弟子NPCが打った物がファストやセカンドの武器屋に降ろされる商品もあるんだとか。
「あら、アオイさんも鉱山都市に来ていたのね」
ミモザと偶然と出会った。
「興味があったからな」
「よくソロで来れたわね」
「ガッキー達とやって来たんだ。盾役と回復役が居ないと辛いと分かったがな」
「なるほど。・・・あら?」
「これか?さっき武器屋のドワーフに取り替えてもらったんだ」
「なるほど、小型のモーニングスターといった所ね。矢には転用できないけど」
「まともに飛ばないんだとか。お前は鉱山都市に用でもあったのか?」
「ここは鍛冶師にとって聖地のような場所よ。鉄鉱石等を掘りに来たのよ」
「鉱山にはまだ行ったことないが掘れるのか?」
「ピッケルでね。採掘後はしばらく時間を置かないとポイントが復活しないから大変よ」
「そうなのか?」
「その前に坑道自体が入り組んでいて道を覚えるのも大変なのよね」
「ミニマップ機能は働いていないのか?」
全プレイヤーにはミニマップ、マップ機能が付いており自分が歩いた場所を記録してくれる。
「マップ機能はちゃんと働いているわよ。でも真上からの目線になるから自分が何処にいるかまでは詳細に分からないわ」
「なるほど」
「そういうアナタは来たばかり?」
「さっき到着したばかりだ。ワーウルフ装備が手に入るとは思ってもみなかったな」
「本格的な武器防具はコッチで生産しているわね。知り合いに作ってもらってから来る人が多いかしらね」
「ミカに聞いてみたが材料がないと作れないって言われたが」
「持ち込みじゃないと作ってくれないわよ?」
「・・・そうなのか?」
「彼の事、全然知らないのね?」
「凄腕の裁縫師って事位には知っているぞ」
「それじゃ、全然知らないのと一緒よ。彼は生産職プレイヤーの中で裁縫師のトップを行く人よ」
「ん?どういう事だ?俺達と一緒にサードの街まで来たからソコまで差はないんじゃないのか?」
「駄目ねぇ。全然わかってないわよ。彼はファーストの街に良く居たけどフォースの街まで行ける実力者なのよ。初心者にも装備が渡るようにファーストの街に今でも出かけているわ」
「そうだったのか・・・」
「で、そんな生産職のトップを行く人がタダで装備を作ったり譲ったりしないし。サードまで来たなら素材くらい一人で集めてこいって事なのよ。何度かそんな言い回しは無かったのかしら?」
「たしかに、このブーツの素材もヒントは出したが探して来いって言われたな」
「そういう事よ。まずは自分で欲しい装備の素材を調べて集めてからじゃないと受けてくれないわ」
「全然知らなかった」
「冒険者側だと生産者側はあまり伝わりづらいからね。でも、サードまで来たのなら有名な生産職プレイヤーも知っておくべき事ね」
「ミモザやダイチも有名だったりするのか?」
「私やダイチさんは中堅どころで有名じゃないわ。有名と言えば革職人のユーキ、鍛冶職人のガンジ、調薬師のマリネ、小細工師のヤモリ、木工師のライル、裁縫師のミカ、付与師のエンデバー、料理人のノノンの8人ね。生産職8連盟と言われていて各生産職プレイヤー達は彼や彼女等を目標としているわ。かくいう私もガンジさんを目標にしているのよ」
「全員フォースに行ける実力者なのか?」
「そうよ。普段はバラバラに行動しているけど定例会というのが開かれてトップ生産職プレイヤー達でアイテムの相場なんかも決めているのよ」
「8人中2人もフレンドにいるのか」
「1人はミカさんだとして、もう1人は?」
「ユーキだ。大ワニの鱗皮を大ワニの皮紐にしてくれた人だな」
「なるほど、革職人と裁縫師のトッププレイヤーの合作とも言えるのがそのブーツな訳ね」
「そういう事だな・・・品質が4というのはトッププレイヤーの制作だったからか」
「ちょっと羨ましいわね」
「偶然出会えた様なものだ。そのお陰ですごい性能防具なんだがな」
「ちょっと見せてくれないかしら?」
「あぁ」
ミモザはジッと俺の履いているワーウルフクローブーツを見る。
「性能が此処辺を凌駕してるわよ。フォースのトッププレイヤー達と肩を並べるレベルよ」
「鑑定スキル持ちか?」
「生産職なら誰しもが持とうとするスキルよ。ここまで来るのに時間も要したけど」
「未だに注視スキルがMAXに達しないからな」
「常時アクティブスキルは中々レベルは上がらない仕様なのよ。気長に待ちなさい」
「そうする。そう言えば斬属性について何か分かったか?」
斬属性についてミモザに任せていたりする。
「正直、検証プレイヤー達も初耳だそうよ。むしろ斬属性を使えるプレイヤーを出せと言われる始末だったわ」
「そうか・・・」
「魔力強化は試したのかしら?」
「まだ試していない。戦闘中に武器が壊れたら困るからな」
「私も居るのだから、其処らのロックゴーレム相手にやってみれば?」
「説明に従えばクリエイト級は2段階目の魔力消費量3倍で鉄以下を切断するらしいから岩相手は勿体ない気がするな」
「嘘・・・鉄を切断するの?」
「そうらしいが?」
「サードのエリアボスはアイアンゴーレムなのよ。アナタのそのスキルが本物なら最適性職業と言っても過言じゃないわ。物理のゴリ押しじゃ倒せないから魔法職メインパーティーで攻略しているのよ。前衛殺しとも言われているわ」
「そうなのか。アイアンゴーレムは鉱山の最奥なのか?」
「いつも通りね。店売りならロックゴーレムに1段階目を試せるわよ」
「それもそうか」
俺は先ほどの武器屋に向かってノーマルのワイヤーガントレットを購入してロックゴーレム相手に使ってみる事にする。
一応、壁役としてミモザのクマ吉を立たせる事となった。
「魔力強化一段階、斬糸!」
ブゥン
ワイヤーの一部分が淡く光り押さえつけられているロックゴーレムに斬糸で切りつける。
ズンッ
ズドンっ
斬糸はロックゴーレムの太い腕を支えている根元を捉え通り過ぎた。
「は?」
根元からスッパリと切られた腕は地面に落下した所で俺とミモザは呆けた。
「これが斬属性の力・・・強すぎってレベルじゃないわよ」
「いや、当たり所が良すぎた可能性がある。もっと太い胴体とか狙ってみる」
「そ、そうね。頼むわ」
ザシュゥ
淡く光る斬糸は太い胴体を切り裂く事はなかったか結構深くまで切り進んで途中で止まった。
今の一撃で攻撃力100未満のダメージだとは思えなかった。
ズズゥン
来る時よりも早くロックゴーレムは沈んだ。
戦闘ログを確認してみると初めて見るログがあった。
・魔力強化ボーナス(斬属性の付与)
武器に魔力を吹き込み斬れ味を持たせる。
一段階:総攻撃力×3.5+相手への欠損ダメージを付与
二段階:総攻撃力×4.0+相手への欠損ダメージを付与
三段階:総攻撃力×4.5+相手への欠損ダメージを付与
四段階:総攻撃力×5.0+相手への欠損ダメージを付与
五段階:総攻撃力×5.5+相手への欠損ダメージを付与
・欠損ダメージ
一段階:敵の一部を切り離すことに成功すれば総攻撃力×1.5倍
二段階:敵の中位部分を切り離すことに成功すれば総攻撃力×2.0倍
三段階:敵の大部分を切り離すことに成功すれば総攻撃力×3.0倍
つまり152×2.0×2.0の608が連続で入っていたわけか。そこに飛距離とクリティカルを合わせたらどうなるんだ?
30mからの魔力強化1段階、斬糸を使用してみた。
ザザンッ!
ドゴォン
152(総攻撃力)×3.5(魔力強化スキル)×2.0(欠損)×2.0(飛距離)×2.0(クリティカル)で4,256がはじき出された。
「圧倒的暴力じゃない・・・サード周辺でも一撃でロックゴーレムを倒せるなんて聞いた事ないわよ。防御力だって体力だって高い設定なのよ」
ミモザは信じられないと感想を述べる。
物理攻撃力4桁ですら前衛トッププレイヤーのスキルを使っても出せないと伝えられた。
検証班が様々な職業毎に記録を取っているらしい。
バキィン
「おっ」
右腕に装備していたワイヤーガントレットが砕けて地面に落ちた。
・ワイヤーガントレット(大破砕)
重量感ある鉄のガントレット型糸使い専用武器。
使われているワイヤーは切断不可能。
30mが限界である。
修理不可。
攻撃力:15
防御力:4
移動速度-10%
耐久値:0/150
装備可能職業:糸使い
ランク:ノーマル
品質:1
耐久値が0になって壊れたようだ。
「修理不可ってなんだ?」
「私も初めて見たわ。耐久値0でも修理は出来る筈なんだけど」
「魔力強化の反動がコレなのかもしれないな。となれば不用意に使えないスキルって事になるな」
「瞬間的な攻撃力増大はするけど装備そのものが直せない状態になるのね。デメリットもちゃんとあって良かったわ」
「いくらミモザがいたとしても現装備を壊したくはないな。それも戦闘中に起こりそうで怖いな」
「戦闘中での武器ロストや破損は致命的と言われているからね。予備を持っていたとしてもクイックチェンジが無いと使えないし」
「クイックチェンジ?」
「予備の装備をアイテムストレージの特定位置にセットしておいて、スキルであるクイックチェンジを発動する事で武器ロストや破損時にノータイムで替えることが出来るのよ」
「それ、いいな」
「プレイヤーレベル30以上、職業レベル25以上、副職業レベル20以上、消費スキルポイント5も食われてしまう。文字通り化物よ」
「どれも届いていないな。副職業なんかレベル1のままだし」
「副職業はかなりの時間と材料とお金が吸い込まれていく職業なのよ。自分で素材を取りに行くのもザラだし、失敗は起こりまくりでレベルなんて早々に上がらないのよ」
「よく、皆続けていられるな?」
「生産職プレイヤーはそれも込みで楽しんでいるのよ。失敗に失敗を重ねてようやく自分の思い通りの作品をゲーム内とはいえ作れるのだから。リアルじゃ作れないでしょ?」
「まぁ、このガントレットもそういった物だしな」
左手についてるガントレットを見ながら言う。
「また、何かあったら連絡を頂戴ね」
「あぁ」
ミモザと別れて俺は鉱山都市へと戻っていった。
お疲れ様でした