08話「サード-沼地のアリゲート」
「なんだかアオイさんの攻撃力上がってない?」
草原のワーウルフ狩りでガッキーが質問してきた。
「新たなスキルが手に入ったからな」
「操っている糸の本数も増えてますね」
「まぁな」
「最大で何本まで操れるんですか?」
「レベルが上がれば6本までだそうだ」
「6本同時に操れるって1人6役が出来るってことになりません?」
「同時に操るってのは結構難しいんだぞ?3本を難なく操っている訳じゃないんだからな?」
「そうなんですか?」
「ものすごい神経使うぞ?剣を振り回しているのと訳が違うと俺は思う」
「それもそうですね。糸2本なら両腕の延長線と考えられますが未知の3本目ですと混乱しそうですね」
「その代わりボク達は楽に目の前の敵と向き合えているんですけどね」
「そういう役割に徹しているからな」
PTの場合、俺は補助を主体にする戦い方にシフトしている。
斬糸も余裕がある時、限定で殆ど使わない予定だ。
沼地に到着しワニが至る所で冒険者を待ち構えている。
「連携はいつも通りで」
「はい!」
「お願いします」
ワニの攻撃範囲に入らないように気を付けながら20mからのFAを決める。
エフェクトがちゃんと飛距離とクリティカルを伝えてくれる。
追撃の2撃、3撃を来る途中でダメージを与えて俺は2人と交代し戦いが始まる。
シズクの盾によるヘイトコントロールとガッキーの一撃必殺のスキルに加え俺の援護によってソロで戦っている時と比べてスムーズに戦闘が進んだ。
ワニの攻撃パターンも単純で突進、噛み付く、尻尾の振り回ししかないから攻撃モーションさえ見ていれば対処しやすい相手である。
グォオオオオ
1回の戦いで5分程度で終わってしまった。PT戦が有利に戦闘ができると改めて実感する。
「やっぱりノーダメージ戦闘は楽ですね」
「そうだね」
「1体だけだからな。複数リンクされるとダメージ覚悟しろよ?」
「情報によるとワニはリンクしないそうですよ」
「まぁ、沼自体が離れているしな」
ポツポツと見える沼は等間隔に離れているからワニのリンクは起きにくい。
戦闘場所がズレない限り起こらない筈だ。
「そういえばアオイさん糸なのに相手を斬ってませんでしたか?」
よく見てるな
「新スキルで糸に斬属性を乗せることが出来るようになったんだ」
「斬属性!?」
「驚くことなのか?」
「初めて聞く属性でしたので・・・属性と言えば魔法職の方々しか言わないものだとばかり」
「物理攻撃主体の俺達はまず属性について語らないからね」
「よくよく考えたら糸スキルに主体となる攻撃方法がなかったから調べたら見つけただけだ」
「つまり結構強いスキルなんですか?」
「それなりには強いと思うが元々の自力が他より低すぎるのが難点だな」
接近戦に持ち込まれても攻撃力2倍になった所でガッキーの通常攻撃と大差ない事になる。
連続で攻撃した所で3回が限度だしスキルのクールタイムで動けなくなるのはマイナスだろう。
「俺の真価が発揮できるの離れたところによる初撃のみだな」
「それだけではないですよ。私たちが楽に戦えているのはアオイさんの援護によるものです」
「うんうん」
「さて、奥へ進んでみるか」
互いの魔力が回復した所で奥へと進む。
ワニの探知に引っかかる時以外は極力戦闘を避けながら戦闘を続ける。
≪アオイのレベルが26に上がりました≫
≪糸使いのレベルが20になりました≫
≪SPが1増えます≫
「レベルが上がった」
「「おめでとう御座います」」
道中レベルが久しぶりに上がった。
「ここがユニークモブの出現ポイントか」
今までと違い巨大な沼へとたどり着いた。湖位の大きさを誇っている程だ。
マップを開きアリゲートの出現位置へと俺達は到達した。
何度か攻撃が2人に通ってしまったがPTが全滅する程ではなかったようだ。
『あら?アナタ達もアリゲート狙い?』
沼の周囲を探索していると6人PTが沼の近くで留まっていた。
「まぁな」
『ブハハハハッ』
『たった3人でアリゲート狙いかよ!』
俺が答えると3人の前衛プレイヤーが笑いだした。
『アンタ等、攻略掲示板見てないのかよ!』
『ここは6人PT推奨クエストだぞ?』
『バランスの取れたPTでも難しいと言われているクエストだ』
『見てみろ、俺たちより先にアリゲートに挑戦しているPTが苦戦してるんだぜ?』
と男たちの視線を見てみるとモニターのような物が沼の上空に浮かび上がっている。
そこには6人のプレイヤーと巨大なワニ型モンスターと戦っている映像が流れていた。
『ここはエリアボスと同じで別空間に繋がっているのよ。ユニークモブであるアリゲートと戦うには順番を守って挑戦するのよ。私たちの前に別PTが挑戦を初めてかれこれ30分は戦っているわ』
最初に話しかけてきた後衛職の女性プレイヤーが説明をしてくれる。
『あ、ヒーラーが瞬殺された』
『ありゃ、駄目だな』
アリゲートの突進によって後方でメンバーの回復担当していたプレイヤーが一撃で死亡した。
ヒーラーが居ないPTはダメージ回復が滞り時間経過とともにバタバタと倒れていった。
ポンッ
モニターが消えて門のようなものが現れた。
『じゃ、次は私たちね』
6人PTが門をくぐり抜けて入っていく。
「アオイさん、どうします?」
「ボク達じゃ倒せそうにないね」
シズクとガッキーが今の光景を見て力不足を感じているようだ。
「今回は入らない事にするか。でも相手の動きが見れるなら見ておくか。別のPTが来たら順番を譲ればいいしな」
コクッ
2人が頷き俺達は観戦だけして帰ることとする。
ドバァアアン
6人PTが完全にフィールド内に入った途端に巨躯を誇るアリゲートが沼から飛び出てくる所から始まる。
盾職2人、剣士1人、回復職2人、魔法職1人の6人である。
一見バランスが悪いと思いそうだが長期戦を想定した戦いだと思われる。
グォオオオオオオオオオ
アリゲートの咆哮が轟いて戦闘は始まった。
巨躯故に遅い動きかと思いきや予想よりも早い動きでプレイヤー達へ突っ込むアリゲートであった。
「基本的にはワニと同じ動きだな」
「そうですね」
「うん」
15分戦いを見続けたが突進、噛み付き、尻尾回しと変わらない。
グワッ
アリゲートが前足だけの力で自身の体半分を持ち上げた。
ドスゥウウン
グラグラグラグラ
自信の体重を乗せて地面を叩きつけて周辺にいたプレイヤーに振動を与えて動きを鈍くする。
ブンッ!
追撃と言わんばかりに尻尾回しで一番近いプレイヤーに直撃し吹き飛ばされる。
回復職の1人が慌てて回復しに向かう。どうやら気絶状態に陥ったようだ。
ガッガッ
アリゲートは残った盾職に噛み付き攻撃を放って突破を試みている。
バキンッ!
鉄製のタワーシールドがアリゲートの噛み付きに耐えられずへし折れた。
耐久値の限界が来たようだ。
盾を失ったプレイヤーはアリゲートの猛攻に晒される。
後方で回復職が必死に回復を施すが若干アリゲートのダメージの方が上回っている。
ガバッ
気絶していたもう一人の盾職が気づいた。
『ぐあああああぁ』
しかし盾を失ったプレイヤーは遂に体力が底を着いて死亡。
『きゃあああああ』
更に回復しまくっていた回復職プレイヤーまでもがアリゲートに瞬殺されてしまう。
ダダダダダッ
『悪い!』
気絶から回復した盾職が前線に戻りターゲットを戻すがPTは4人となってしまった。
更に時間が経過し剣士プレイヤーの回復が追いつかず死亡した。
盾職のプレイヤーはタゲを写らないように攻撃に専念ができず、回復職も盾職の回復で精一杯。残った火力は魔法職プレイヤーだが魔力切れで魔力回復待ちとなる。
『あっ!魔力切れ』
遂には回復職の魔力切れで盾職の体力は削り取られる形で死亡。残った後衛2人は成すすべなく倒されて次のPTを向かい入れるゲートが開かれた。
「連携うんぬんの前にバランスをよく考えないと駄目のようだな」
「ですね」
「うん」
「じゃ、俺達は帰るから先どうぞ」
観戦中に別のPTがやって来た為順番を譲る。
『良いのか?』
「3人じゃ無理だからな」
『ありがとう』
「健闘を祈る」
そう言って俺達は帰路につく。
「どうしますか?」
サードの街で作戦会議となる。
「まず、回復職は必須だ。最低1人。それと盾職だ、シズクの防御だと簡単に突破されるだろう。あと鍛冶職人だ」
「回復職と盾職はわかりますが鍛冶職人もですか?」
「鉄のタワーシールドが耐久値の限界値を超えてあのPTは削り取られて沈んだ。戦う前に耐久値の回復は必須だ。鉄装備が主な防御になるなら鍛冶職プレイヤーが必要になる。鍛冶職人には伝が一人いるがソイツを誘ってもいいか?」
「私は構いません」
「僕も」
「ただ、そのプレイヤーのメインは召喚術師なんだ。経験値に拘りがなければソイツの召喚獣が壁役にもなる」
「構いません」
「うん」
「問題は回復職だな。一人だけ知っているがトッププレイヤーだし誘うのもな」
「募集かけてみますか?」
「ボク達も野良時代に何人か回復職のプレイヤーは知っていますが召喚術師が一緒となると皆嫌がると思いますよ」
「詳細情報を記載した上で受けてくれそうな人物を待つか」
俺はとりあえずミモザに連絡を入れてPTに入ってくれるか了承を得ることにする。
その間にシズクが募集用紙に記入情報を入れる。
「召喚術師から了承を得られた」
「わかりました。召喚術師と」
--------------------PTメンバー募集------------------
クエスト名:E-のアリゲート討伐
募集要項:ヒーラー募集
現PT構成:大剣使い、片手剣使い、糸使い、召喚術師(鍛冶職、召喚獣に壁役有り)
平均レベル:26
要件:ヒーラーの方を募集しています。経験値にこだわりがない方を募集しておりますので
内容をよく読んで納得した方はギルド員に申し出てください。
PTリーダー:シズク
-------------------------------------------------------------
「こんな物ですかね」
「分かるだろ」
「じゃ、持っていきます」
シズクがギルド員に募集用紙を手渡して時間を置くことにする。
とりあえずミモザを紹介してその実力を見て貰うことにした。
「ミモザさんの召喚獣ってすごいですねぇ」
「まぁ、手間暇掛けてるからね」
クマ吉の装甲が岩のように硬い皮膚に覆われていたからだ。
「名前はクマ吉なんだけど、種族は硬鎧熊に進化したのよ」
いつの間にかミモザのクマ吉が進化していた事に驚いた。
爪も岩のような硬さをもっているらしい。
ワニの攻撃を物ともしない防御力でクマ吉が前線を支えてくれるお陰で安定した狩りが続く。
カンカンカンカンっ
携帯簡易炉を使って消耗した鉄の武器防具はミモザの手によって耐久値を増やす。
「たしかにコレなら安心して次の戦いに備えられますね」
「その代わり私自身は戦力外なのよね」
「そんな事ないですよ。クマ吉の戦力も加えて立派に戦いに貢献してくれてますよ」
「ちょっと照れちゃうな」
どうやら関係は良好の様だ。
「それを言うなら、アオイの糸使いとしてのキレが上がってるわね。斬属性なんて聞いた事が無いわ」
「最近発見した所だからな」
「糸使いは謎が多いから新発見も新鮮ね」
「そうだな」
談笑も交えながら奥へと俺達は進む。
『あら、また会ったわね』
アリゲートとの戦いで参考にさせてもらったPTの女性プレイヤーと再び出会う。
「メンバが変わっているな」
『PTバランスが悪いとかで抜けることになったのよ。野良PTだったしね』
「なるほど」
『見たところアナタ達も挑戦かしら?』
「いや、回復職が居ないから挑戦は先送りだ」
『そう。もしかしたらまた合うかも知れないわね』
そう言って女性プレイヤーの6人PTはゲートをくぐっていき戦闘が始まった。
アリゲートの攻撃パターンをミモザにも見て貰うために来たような物だ。
今回のPTは壁役3人に回復職1人に魔法職2人の防御特化と火力特化といったPT編成だ。
「バランス悪いわね」
「だろうな」
しばらく見ていたが壁役の回復が間に合わなくなり魔力切れによって早々にPTは壊滅していった。
「少なくても魔力消費が少ない防御力もある前衛が2人居ないとね」
「魔法職ばっかだと、あぁなるな」
そう思いを告げて俺達はサードの街へと帰ることとなった。
目的も遂げて一旦PTは解散。回復職のプレイヤーは現れるのを待つ事となった。
1日を置かずにシズクから連絡が有り回復職プレイヤーが現れたそうだ。
俺達はギルドに集合し顔合わせとなった。
「アンタは」
『宣言通りね』
あの時の女性プレイヤーであった。たしかに回復職だという事は戦闘を見ていたから分かっていたがよもや募集に応えてくれるとは思わなかった。
「他にも何名かヒーラーが現れましたがちゃんと読まない人達でして召喚術師が居るだけで帰っていかれました」
『私は経験値欲しさに行ってないから条件的に合っていたわ。もちろん、ちゃんと内容を確認した上で声を掛けたわ』
「2回ともアンタの戦いは見させてもらった」
『あら、恥ずかしいわね。無様な所を見られてしまったなんて』
「アレはバランスの問題だっただろ?あと装備の充実さの問題もあったか」
『フォローありがとう。ヒーラーとして精一杯やってたのだけど何処か突破されちゃうとアリゲートに削り切られちゃうのよね』
「ワニよりも強いって事か?」
『フィールドに居るワニの数倍は強くて硬いって言っていたわ』
「なるほど」
「そろそろ、自己紹介しましょうか?」
シズクの声で自己紹介する事となった。
「このPTのリーダを勤めているシズクです。メインは片手剣士に小盾でサブの壁役程度にはなれると思います」
「次は俺だね。俺はガッキー。メインは大剣使いです」
「俺だな。俺はアオイ。メインは糸使い。後方で前衛の援護するのが俺の仕事だな」
「次は私ね。私はミモザ。メインは召喚術師。サブは鍛冶師。召喚獣は熊系で今回の盾職になるわ」
『私はスズ。メインは僧侶。それなりにPT戦はやってきたから足でまといにはならないと思うわ』
全員の自己紹介が終わり草原のワーウルフと沼地のワニでPT戦を行いなれる事にした。
「とまぁ、こんな感じのPTだ」
「なによ、私の居る意味あるのかしら?殆どノーダメージで戦闘が終わっているじゃない」
スズが活躍できる場はワーウルフ戦やワニ戦では殆ど訪れなかった。敵の攻撃は俺が尽く逸らしたり防御したりしてダメージを前衛に与えないようにしたからだ。
「ヒーラーが欲しかったのは保険の為、俺の補助が間に合わなかった場合に回復役が居ないと維持できないからな」
「鋼鉄なんてフォースの街で発見されたらしいじゃない。なんでサードの街で使われているのよ」
「それは企業秘密って事で」
こいつ、フォースの街にもう行ってるのか。
順調に進んで大きな沼に到着して入口へと向かう。
表側では待っているPTも居らず中で戦っているPT待ちとなる。
観戦しつつ俺達は待つ事にする。
カンカンカンカン
「PTに生産職がいると助かるわね」
「待機時間を使って武器防具の耐久値を戻すなんて考えられませんでした」
「そもそも俺達ってメイン職しか取らなかったプレイヤーとしか組まなかったね」
生産職プレイヤー達と攻略してきた俺にとっては普通に見えても3人には新鮮に映るようだ。
「はい、これで全員分の鉄装備の耐久値は殆ど回復したわ。経費はクエスト報酬から引くから」
殆ど俺達は万全の状態に戻りアリゲートに挑むだけとなった。
ブゥン
ゲートをくぐりアリゲートの領域へと足を踏み入れる。
ドバァアアン
グォオオオオオオオオオ
アリゲートが沼から這い出てきて咆哮が轟き戦闘は始まった。
ズンっ
力強い1歩を踏み出しアリゲートは俺たちに近づいて来る。
「グォオアアアアア」
クマ吉が覇者の咆哮スキルを発動しアリゲートのターゲットを奪い前進していく。
ガガァン
両者は直ぐにぶつかった。
クマ吉の攻撃をするがアリゲートの防御力がワニと比べて数倍高く軽く火花を散らしている。
ガキィン
ガァアン
「「硬っ!?」」
大剣のガッキーと片手剣のシズクがアリゲートの両側に付き武器を振るうが硬いウロコに弾かれてしまった。
「アリゲートの鱗は鋼鉄並みと言われているわ。スキルを使ったほうがいいわ」
「「了解」」
ミモザがアリゲートの情報を展開し2人は頷く。
「大爆斬!」
「乱れ切り!!」
バガァアアン
ザシュザシュザシュッ
今度は弾かれず鉄の大剣と片手剣はアリゲートに通る。
「俺の斬糸も無駄になるな」
スキル有り攻撃でようやく通る物理攻撃力なのだから・・・・
今回はサポートに徹する事にする。
アリゲートの基本攻撃噛み付きはクマ吉がキッチリガードしてくれるが尻尾の振り回しや突進の2つは俺が阻害しよう。
左右に陣取っている2人が尻尾に当たりそうなら糸防御術か糸拘束術の2つで防衛し突進でヒーラーのスズが余裕を持って避けられるようにする。
クマ吉のガード、ガッキーとシズクの挟撃、スズの回復、俺の阻害が今回のPT戦での連携となる。ミモザは基本敵に攻撃力不足で俺のように阻害系スキル等は持ち合わせておらず戦闘には直接参加はできないが体力回復ポーションや魔力回復ポーションを事前に渡しており時折ポーションの中身を俺達にぶっ掛けて
回復させてくれている。
グワッ
アリゲートが前足だけの力で自身の体半分を持ち上げた。
あの時、見せたワニには無い範囲攻撃であった。
「3人共退避」
クマ吉、ガッキー、シズクの3人が距離を取るように後退する。
「糸拘束術一式」
ガッ
更に拘束術で一瞬地面に叩きつけるのを阻害しさらに距離を取りやすくさせる。
ドスゥウウン
グラグラグラグラ
自信の体重を乗せて地面を叩きつけるが周囲には誰も居なくなり誰も被害は受けていない。
「ぐぉおおおおお」
クマ吉が再度、覇者の咆哮でターゲットを固定し攻撃が再開される。
ガパッ
グォオオオオオオオオオ!!
アリゲートが口を大きく開き大咆哮を発す。
グルンッ
「わっ!?」
「きゃっ!」
「グワォ!?」
今までに見たことのない攻撃パターンの全身を回転させる尻尾は遠心力を乗せた重い一撃はクマ吉、ガッキー、シズクの体力を大幅に削りながら吹き飛ばされる。
「え?」
「クマ吉を最優先に回復だ。引き寄せ!」
俺は3人の誰を回復すればよいか迷ったスズに指示を飛ばし、両手の糸を使い弾き飛ばされたガッキーとシズクの体に巻きつけて手元に引き寄せる。
「グレーターヒール!」
対象の総体力50%回復させる2段階目の回復魔法。
クマ吉の体力がグンっと回復した事が分かる。
キュピィン
アリゲートの両目が赤く光った。
「まずい。エリアボスの怒り状態だ!全員後退しろ!!」
ガァアアン
回復したてのクマ吉を突進で弾き飛ばし、さらに俺達の所へとやってくるアリゲート。
少なくてもあと4回も連続攻撃が残っている筈だ!
回復途中のガッキー、シズク、スズを引き寄せで引っ張りながら俺も大幅に後退する。
ガチンッ
ガチンッ
ガチンッ
3人が居た場所にアリゲートが大口で噛み付き攻撃を連続で放つ。
残り1回。
ブォオオン
体を一回転させて本来なら動けなくなったプレイヤーに追撃をする動きだ。
「回復終わったわ。行ってちょうだい」
「「OK」」
ガッキーとシズクがアリゲートを挟撃する位置へと戻っていく。
「魔力回復ポーションよ」
「ありがとう」
3人分を一気に回復してスズの魔力がかなり落ち込んだ。
俺も予備を振りかけて魔力回復させる。
「怒り状態なら奴の体力が少ない証拠だ!一気に畳み込むぞ!!」
俺の声に呼応して全員が頷き各々がタイミングを計らい攻撃をしていく。
グォオオオオオオオオ
アリゲートが状態を逸らし始めた。
周囲への地震攻撃か?
ドスゥウン
しかしアリゲートは仰け反った後、横に倒れた。
≪ユニークボス:アリゲートの討伐に成功しました≫
≪アオイはレベル28に上がりました≫
≪糸使いのレベルが22になりました≫
≪SPが1増えます≫
≪アオイはアリゲートから大ワニの鱗皮を手に入れました≫
・大ワニの鱗皮
ユニークモブ:アリゲートのレアドロップ
ランク:ユニーク
品質:4
【ステータス】
名前:アオイ
種族:ヒューマン
レベル:28
職業①:糸使い(Lv22)
職業②:裁縫師(Lv1)
SP:4
体力:1,000/1,000
魔力:371/371
攻撃力:125(+23)
防御力:98(+18)(+20)
状態:健康
称号:ウルフハンター,ドッグハンター
ランク:E-
アリゲートを倒したというアナウンスが鳴り一気に緊張感が抜けてガッキーとシズクが喜びの声を上げる。
「お疲れ」
「お疲れ様」
「やっと終わったのねぇ」
俺やミモザ、スズが互いに声を掛けて落ち着いて話し合う。
「糸使いの事は全然分からなかったけど、有用性はかなりあるんじゃないかしら?」
「ずっと前から組んでいるけど改めて思ったわ。アナタ、見ないうちにサポートスキルの幅が広がっているわね」
スズやミモザから糸使いについて感想を述べられた。
「その代わり攻撃系スキルが少ないんだよな。ここからはPTを組まなきゃダメらしい」
「それを覆すほどのサポートスキルだったわね」
「下手に後衛職を入れるよりアナタを入れたいと思う人は多いと思うわ。おそらく私たちの後で待っているPTがこの戦いを観戦しアナタについて掲示板に書かれるかもよ」
「げっ」
「あれだけ派手な妨害スキルや救出スキルを持っているプレイヤーは初めてよ」
「魔法使いでも1つか2つ位しか無いわね」
「とりあえず、帰るか」
「レアドロップは全員手に入ったのかしら?私は手に入ったわ」
「残念ながら手に入らなかったわ」
「俺は手に入った」
「ボクは駄目でした」
「私もですね」
俺とスズしかレアドロップは入らなかったようだ。
ゲートを潜り抜けるとソコはサードの街、中央広場であった。
「転移したんだが」
「ユニークボスのフィールドから街へ一気に転移してくれる仕様よ」
「調査不足ね」
「とりあえず報告しましょう」
冒険者ギルドへ赴きアリゲート討伐報告を済ませる。
『ユニークボス:アリゲート討伐した事を確認しました。5名のランクをE-からEへ昇格させます。報酬金は1人当たり57,000Gとなりました』
「ユニークを倒しただけでランクが上がるのか?」
『アリゲート討伐はE-ランク者から見れば相当強いと感じたはずです。よって討伐できる実力を持つ方々は漏れなくランクアップ対象となります』
「なるほど」
報酬金を受け取りギルドを後にする。
「今日はお疲れ様。フレンド登録いいかしら?」
「えぇ、いいわよ」
「分かった」
「「お願いします」」
≪スズがフレンド申請をしてきました。受けますか?≫
YES
≪スズがフレンドになりました≫
スズとフレンド登録を交わし解散となった。
『君が今日アリゲートを倒したPTの1人。糸使い君かな?』
街中を歩いていると建物の間に一人の男性プレイヤーが居て両腕を組み背を建物の壁に寄りかかりながら話しかけてきた。
「誰だ?」
『通りすがりの革職人って所かな?』
男はフフッと笑い答える。
「それで?」
『いや、なに。アリゲートのレアドロップ:大ワニの鱗皮を手に入れたのかと思ってね』
「手に入れたらどうだと言うんだ?」
『それを俺に譲ってもらいたいと思って交渉しに来たんだ』
「交渉?」
『レアドロップ品を使った生産は他の素材と比べて経験値量が大幅に貰えるからね』
「コレは他で使う予定だ。他を当たってくれ」
『君と一緒にいたPT全員に話しかけて大ワニの鱗皮は入手済みなのだよ。後は君の分というわけさ』
スズは大ワニの鱗皮を手放したという事か。
「もし、俺から買うとしたら幾ら出すと言うんだ?」
『そうだな。アリゲートは1週間に一度のユニークモンスターに加え。倒せるプレイヤーは極小数のひと握りしかいない。挑戦権はギルドランクE-のみに加えレアドロップという点で希少価値は跳ね上がるから・・・現時点で100万だそう』
「ちょっと待て、ランクE-のみってのはなんだ?初耳だぞ?」
『おや、調査不足だったようだね?このユニークモンスターに挑戦できるのはE-ランクのみなんだ。だから高ランカーは挑戦すら出来ない。まぁ、高ランク組に奪い取られない為の処置なんだろうけどね』
「つまり、俺が同じものを手に入れようにも挑戦すら出来ないということか?」
『そういう事だね。俺もその一人という事でね。だからフォースの街から態々足を運んできて高額で買い取っている訳さ』
「フォースの生産職人なのか・・・しかし俺もコレ欲しさに戦ったわけだからな。いくら積もうが譲れない」
『ふむ。レアドロップから作られるアイテムは大ワニの皮紐だけだけど必要だって事だね。それなら安心してくれ。俺は何度か大ワニの皮紐を作った経験がある。単に経験値が目的だから作られたアイテムは君に譲ろう』
「初対面の人にレアアイテムを渡すと思っているのか?」
『それは君次第だね。ちなみに他の革職人もレアドロップの交渉に来ると思うよ。それだけ価値が有るからね』
「少し考えさせてくれ」
『まだ、時間があるしいいさ。もし、俺に譲ってくれるなら連絡をしてくれ』
≪ユーキがフレンド申請をしてきました。受けますか?≫
YES
≪ユーキがフレンドになりました≫
「ユーキって言うのか?」
『そういえば、自己紹介がまだだったね。俺はユーキ。サブの革職人でロールプレイしている者さ』
「フォースに行ける実力があるなら俺以上のプレイヤーなんだろ?」
「次の街に行けるからといって強いとは限らないよ。メインは吟遊詩人だしね」
「吟遊詩人?あまり聞かないメインだな」
「糸使い程でもないよ。吟遊詩人は後衛職の中でも異色の部類に入ってね攻撃スキルが皆無なんだよ」
「それでどうやって戦うんだ?」
「基本はPTプレイさ。吟遊詩人の特色は装備によって発生するバフ効果にある。完全サポート職だよ」
「バフ・・・攻撃力上昇とかになる奴か?」
「一時的にね」
「需要なんてあるのか?」
「それなりにあるよ。一時的に防御力が増せばそれだけ生存する機会が増えるからね。更に相手の攻撃力ダウンさせるデバフ効果も付けられれば尚更PTの生存率を上げる事ができるのだからね」
「ふぅん」
「ま、そんな事よりも気が向いたら連絡をくれよ」
ユーキは颯爽と去っていった。
その後、何人か革職人プレイヤーが現れて金を積んで買い取ろうと交渉してきたが断り続ける。
「んふふっ。アナタも人気になったわねぇ」
俺はミカの所に行き、革職人の情報を引き出せないか話に来ている。
その途中、何人もの革職人プレイヤーが入れ替わり立ち替わり交渉しに来る。
「レアアイテムを持っているってだけで大変ねぇ」
「だから早く教えろって」
「あらあら、アタシに頼っても面白くないわよぉ。もしかしたら話しかけてきているプレイヤーの中に居たかもしれないわよねぇ。彼は」
「彼か・・・」
「あら、いけない」
彼という事は女性の革職人ではないのだろう。
「もう、これ以上はバラしたくないわぁ。でも、まぁ今のアナタはたどり着けないかもしれないけれどねぇ」
「たどり着けないか」
「情報を引き出さないでちょうだい」
「ペラペラ喋っているのはアンタだろう」
「一旦ログアウトするわぁ」
ミカは露天商を畳んでログアウトしていき一人となってしまった。
俺は考えることにした。
ミカからの情報は2つ、男性プレイヤーの俺がたどり着けない場所に居る革職人であることだ。
俺がたどり着けない場所とはまだ行ったことが無い場所。つまりフォースの街へ続くフィールドかフォースの街以降を拠点にしているプレイヤーである。
サードの街にもフォースへのフィールドを素材集めの狩場にしている生産職プレイヤーは居るらしいが主に鍛冶師だと言う。革職人となると沼地のワニの鱗皮を加工した
スケイルメイルを作り出す筈だ。それだと行けないには当てはまらない。候補として1人だけ挙げられる。
態々フォースの街からやってきたと言う吟遊詩人であるユーキというプレイヤーだ。
フレンドリストからユーキがログイン中である事を確認してコールする。
【連絡してきた所をみると譲ってくれるようだね?】
【あぁ。いい加減、他のプレイヤーからの交渉もダルくなってきたところだ。フォースの街に居るならば信用してもいいかと思ってな】
フレンドリスト機能の一部でリストに載っているプレイヤーが何処にいるかを教えてくれる。
【直ぐに向かうよ。また後で】
【あぁ】
数分後、ユーキが現れた。
「早速、取引開始だよ。出来上がった大ワニの革紐も貴重品だから譲る代わりに取引額は75万にするよ?」
「25万もの価値か」
「今までに数回しかアリゲートが討伐されなかったからだね」
「なるほど」
トレード画面を開き互いにセットする。
「取引成立。作るには集合工房を利用する必要があるよ」
「そうなのか?」
「個人で工房を持っているプレイヤーは今の所聞いた事がないね」
調薬師以外の生産職プレイヤーは町にある集合工房にて生産する事が主だとユーキが説明してくれる。
「じゃ、ちょっと待っててね」
ユーキが工房に入っていき5分もしないで戻ってきた。
「お待たせ。良い経験値になったよ」
トレード申請がなされユーキから大ワニの革紐を渡される。
・大ワニの皮紐
ユニークモブ:アリゲートの皮紐
ランク:ユニーク
品質:4
「こっちこそ助かった」
「俺はこの辺でお暇するよ」
「あぁ。・・・皮系について何かあったら連絡してもいいか?」
「もちろんさ。しかし、糸使いは布しか装備できなかったはずだよ?」
「今回は足装備を作る上で必要アイテムが大ワニの革紐だった。使う材料もワーウルフ系の革ブーツに成ると思う」
「なるほど、両腕の鉄篭手も装備できているみたいだし一部分の設定が曖昧なのかな?」
「それは分からない。糸使いは謎の多い職業だからな。出来るならそれでいいだろ?」
「それもそうだね。じゃ、これで」
「あぁ」
ユーキが去って行く。
「アンタ等、見てただろ。俺はもうレアドロップ品は持っていない。これ以上の交渉は無理だからな。他の連中にも伝えておいてくれ」
工房の出入り口付近で革職人達が俺達のやり取りを見ていた為、言っておく。
暫くした後、ミカに生産に必要なアイテムを渡して足技用の装備を作ってもらう。
「できたわよぉ。ワーウルフクローブーツ」
ワーウルフの毛皮が全体を占め、つま先には左右
3本ずつ生えるワーウルフの爪、所々にワニの鱗皮があしらわれていて大ワニの革紐で全体を支え固定している。
・ワーウルフクローブーツ
主にワーウルフ素材で出来た足技専用装備。
ワニ系の鱗皮を使う事によって防御力を底上げしている。
攻撃力:15
防御力:10
耐久値UP(小)
耐久値:300/300
装備可能職業:全職業
ランク:マジック
品質:3
性能が凄すぎるだろ・・・武器より攻撃力がある防具とはコレ如何に?
「マジック?これまでノーマルかクリエイトしか見なかったが?」
「ユニークのレアドロップを使ったからよぉ。レア素材を使えばマジックアイテムになるわぁ。あとは付与師に頼んで作り出す事も可能だけど素材の質が高くないとできないわぁ。ノーマル品じゃ無理ねぇ」
「耐久値UP(小)ってなんだ?」
「マジックアイテムは通常ついていない効果がついているのよ。今回は耐久値に小の効果がついているわね。小だと元々の耐久値の1.2倍ね」
「元々は250だったわけか」
「そういうことね。中だと1.5倍、大が最高で2.0倍よぉ。だけど間違って覚えていけないのは他の小中大と表記されている物については別物よぉ。状態異常の毒(小)だと毎10分ごとに総体力の2%ダメージを負うのよぉ」
「なるほど」
「ランク:マジックに対して品質:4も凄い事なのよ。普通なら品質は3になるんだけど4という事全体的に能力が向上している証拠なのよ。詳しくはヘルプを見ることをオススメするわ」
「具体的にどの程度の向上なんだ?」
「同名のノーマルとクリエイトでは性能に差があるわ。マジック級の殆どが品質3なのに比べてコレは4だから元々の性能×2.0が向上していくわ。最高で品質は5が検証班による報告が上がっているわね。計算式だとすると元々の攻撃力は15で品質4で2.0倍の30。同じく防御力は10の2.0倍で20。耐久値は50×1.2×2.0の600になるわ」
「なるほど、勉強になった」
「また、何かあったら言ってちょうだいねぇ。布系ならアタシが担当よぉ」
俺はミカの所から去り次のステップに進むべく準備を開始する。
お疲れ様でした