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07話「サード-新たな出会い」

「うーむ」


俺は悩んでいた。

サードの街に来てからソロ活動に限界を感じていたからだ。

1つは攻撃力の低さによる物だ。

サードまで来ると前衛職の攻撃力は50を余裕で超えくる武器を皆所持している。

元々のステータスと合わせて230超えの攻撃力を持つプレイヤーがいる。俺は120と低いそうだ。


【ワイヤーリール:25,000G】


サードの武器屋で見つけた糸使い専用武器を見たが単体価格が跳ね上がった。

他の近接武器を見ると1万以下の物がゴロゴロと売っていた。

なぜ高いのかと尋ねると、糸使いが居ないから職人が滅多におらず希少価値だけが上がってしまっている様だ。


需要と供給のバランスが取れていない武器という事なのか・・・


仕方なしにギルドに趣いて金策に走るとする。

この前のサードに来る時につかった消耗品なんかでセカンドで貯めた金は殆ど吹き飛んでしまった。

途中で狩っていたモンスター素材を売った所で装備のメンテナンス代で消え所持金が残っていない。


ギィイイイイ


両開きの扉を開くと様々なプレイヤーがクエストボードの前に居て何を受けようか談義している。


今、俺が戦えるモンスターは街周辺にいるワーウルフが良い所でそこら辺のクエストがないか見る。


『あの』


俺の後ろで小さな声が聞こえた気がしたが、気にせずクエストボードに視線を向け続ける。


『あの!』


今度は少し大きな声と後ろのマントが引っ張られる感覚で振り向く。


視線を下にズラすと俺より背の小さい男の子が居た。


「なんだ?」

『一人かな?』

「そうだが?」

『あの、よかったら俺とPTを組んで欲しいんだけど』

「何故だ?」

『サードの街までくると固定PTが多くて、野良のプレイヤーは中々入れないんだ』

「俺だって固定PTかもしれんぞ?」

『いや、アナタはソロだよ』


力強く男の子は否定してきた。


『俺の勘がそう言っているんだ』


勘かよ・・・せめて理論立ててからにしろよ。


「勘だけじゃ相手次第じゃ失礼になるぞ。「アナタはボッチです」と言っているものだからな」

『あ!』


天然か・・・


「お前だってサードに来るときにPT組んでやって来たんじゃないのか?」

『その時はお姉ぇ・・・いや、5人の野良PTを組んで来たんだ。だけど一時的な物だったから中々会えないよ』

「なるほどな」


俺も似たような物か・・・あいつ等とは次の街に移動する際の一時的なPTだからな。


『それで、駄目かな』

「そうだな」


ペリッ


クエストボードからワーウルフ退治のクエスト用紙を剥がす。


「コレで何処まで戦えるか見てやる」

『あ、有難う!!』


俺と男の子とはPTを組んでクエストを受諾しギルドを出る。


「名前は?」

「おが・・・いえ、ガッキーだよ」


リアルの方を言いそうになるなんてMMOゲーム自体が初めてなのかもしれないな。


「俺はアオイ。その格好からして前衛だよな?」


ガッキーは鉄装備で固めている。


「うん。兄ちゃんは後衛?」

「後衛だな」

「魔法使いや弓使いじゃないけど?その両腕のは武道家かな?でもそれは前衛?あれ?」

「武道家でもないな。戦えば分かるさ。ファーストアタックは俺がする」

「わかった?」


ガッキーは納得していなさそうだ。

俺だってこんな説明では納得しない。


「アオイ、これから狩り?」


途中でイロハとであった。


「あぁ。こいつとな」

「だれ?」

「今日であったばかりだ」

「そう」

「ガッキーだよ。初めまして」

「イロハ・・・」

「お前は何しに行くんだ?」

「薬草集めにファストに行く所」

「そっか、頑張れよ」

「ん」


イロハは広場の復活ポイントから転移していった。


「あの、イロハさんは調薬師の?」

「あぁ」

「荊棘姫だ!」


久しぶりに聞いたな。


「掲示板でしか聞いた事なかったから会えて感激だなぁ。綺麗な人だったね」

「そうだな」

「荊棘姫に無視されなくてよかった」

「荊棘姫は本人の前で言わない方がいいと思うぞ、勝手に付けられたアダ名なんだろうから」

「わかったよ。では、早速行こう!」

「あぁ」


俺達は草原に出てワーウルフ討伐へと向かう。


カシャッ


両手のガントレットについていたペンディラムを外し戦闘態勢に入る。


「アソコに居る、ワーウルフにファーストアタック(FA)して釣る」


大体30m程度離れたワーウルフにターゲットして宣言する。


「わかった、もっと近づこう」

「ここで良い。接近してきたら前に出てくれ」

「?」


シッ


30mを物凄い速さで右の貫通鏃が飛んでいき感づいていないワーウルフに攻撃がヒットする。

クリティカルヒットと飛距離ボーナスのエフェクトがダメージ量を大体伝えてくれる。

120(総攻撃力)×2.0(クリティカル)×2.0(飛距離)で480の物理ダメージである。

ワーウルフの防御力もさながら一撃で沈むほど甘くない。


ダッダッダッダッ


巻き戻しよりもワーウルフが接近してくる。


シッ

ズガンッ


左の分銅がワーウルフに二擊目を与える。


ズシャァアアン


ワーウルフの頭部にヒットし転倒、頭の上に星が数個回転するエフェクトが発生。


「お、気絶したか」

「なっ、ななな」


見ていたガッキーは口を大きく開けて驚いている。


「ガッキー、前に」

「あ、え、うん!」


混乱しつつもガッキーは前に出る。

武器は分厚い大剣を構える。


「サポートはするから思う存分戦え」

「わかった!」


ガッキーは小さな体とは思えない力を出して大剣をぶん回しワーウルフに果敢に挑んでいった。

振り回すと大剣の自重と遠心力でガッキーの体は引っ張られて隙が大きくできる。


「糸防御術一式」


その隙を突いてワーウルフの攻撃を仕掛けるが俺が逸らして不発にさせる。

体制を整えたガッキーが追撃するコンビネーションである。


ワォオオオオオン

ズズゥン


ワーウルフは断末魔を出してその場に倒れドロップ品を残して消えていった。


「お疲れ様です。俺の戦いはどう?」

「お疲れ。大剣故に振り回されるのは仕方がない事なのか?」

「大剣使いの一撃は強くても隙が大きいよ。そこをPTで補うの」


ソロじゃキツいようだな。


「ソロの時だけ片手剣と盾持ちで行けばいいんじゃないか?同じ剣士職の武器だろ?」

「それも考えたよ?でも、片手剣と大剣ではスキル構成が違うから効率的じゃないんだ」

「共通スキルとかもないのか?」

「初期スキルは共通なんですが殆どバラバラなんだ。片手剣術、直剣術、大剣術のスキルツリーで分かれているよ」

「直手剣と大剣の違いはなんだ?」

「直手剣は片手でも戦える剣だね。盾を持ちながら攻撃でもできたりできるし。大剣は両手じゃないと攻撃ができないんだ。片手剣は両手剣程の攻撃力はないけど2本持った戦い方もできるだ」

「なるほど」

「それよりもアオイさんって全プレイヤー唯一の糸使いなの?」

「ん?あぁ」

「やっぱり!掲示板で何度か謎の糸使いについて盛り上がってたよ」

「感想は?」

「ソロで活動しているだけはあるね。後衛職としてこれほど頼りになる職業があるとは思わなったよ。ノーダメージでの勝利したからね」


PTに回復役が居ることはダメージ覚悟の戦闘を前提にしている。それをノーダメージでクリアできるならば誰だってしたいに決まっている。


「そうか。っと、リポップしたし次行くぞ」

「うんっ!」


それから休憩と戦闘を繰り返しクエストクリア条件を満たして街へと戻る。

俺のサポートから大剣の一撃は侮れない事も分かった。糸使いの弱点は近接戦闘にこそある。

距離が離れていればいるほど有利に戦いに持ち込めるが初期段階で近いと前衛無しだと厳しい事が改めてわかったな。


「フレンド登録して解散だな」

「え、いいの!?」

「しないつもりだったのか?」

「する!するよ!!」


≪ガッキーがフレンド申請をしてきました。受けますか?≫


YES


≪ガッキーがフレンドになりました≫


「改めてよろしくな」

「よろしく!」


この日はこれで解散となった。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


『有難うございましたー』


ソロでワーウルフ狩りで金を貯めてようやくワイヤーリールを買うまでに至った。


早速、ミモザの所に行ってワイヤーをガントレットに組み込めないか相談に向かう。


「ワイヤーリール買ったのね。大変だったでしょ?」

「ソロ狩りだとな」

「残念だけど、サードの街からだとリール機構が規格外になるから乗せ変えられないわ」

「なん・・・だと?」

「リール部分が全く別物に分類されるのよ。考えみて貰いたいけど今までは糸のように細い物だったでしょ?コレは結構太いのよ。限界距離も30mと短くなっているしね」

「俺の確認不足だ。クソッ」


ワイヤーリールには30mと書かれていた。


「アナタが言っていた切り離しのスキルもできない代物だと思うわよ?」

「なっ!?」

「ワイヤーが簡単に切れる方がおかしいわよ。ただコレまでの物に比べて頑丈だという事は使い道はあるわね」

「そうなのか?」

「今までは細い糸状だったから糸自体の強度は弱かった筈よ。この前イロハさんを引き寄せた際に耐え切れなくて切れたでしょ?」

「あ、あぁ」

「アレは糸自身の耐久値がゼロになったから起こった現象ね」

「糸にも耐久値があったんだな」

「ちゃんと見れば耐久値は分かるわよ」


・LT糸

 レッサータラテクトから作られた糸。

 衣類に最適とされている素材。

 糸使い用の糸としても活用できる。

 耐久値:25/25

 1束50m。

 ランク:ノーマル


「本当だ。25じゃ人は引き寄せられないって事か?」

「誰も検証はしてないけど個人的な意見としてはソレね。モブへの行動阻害スキルも1秒か2秒しか止められない理由は耐久値によるものなんでしょうね」



・ワイヤー

 鋼で作られた金属線。

 耐久値:250/250

 ランク:ノーマル

品質:1


「耐久値10倍かよ」

「人くらいなら支えられるでしょうね。もしかしたら武器も先端に着けられるんじゃないかしら?」

「武器もか?」

「ダガーから試してみましょうか?」


ゴトッ


20センチ位の短剣を取り出してミモザはワイヤーリールにダガーが取り付けられるのか試し始めた。


「付けられたわ」


・ダガー付きワイヤーリール

 【鉄製の短剣】が取り付けられた糸使い専用武器。

 これまでと違い限界距離が30mと短い。

 攻撃力:15(+5)

 耐久値:200/200

装備可能職業:糸使い

 ランク:クリエイト

品質:2


「攻撃力17か」

「他の職業に比べると低すぎには変わりないわ。このダガーもファスト辺りで手に入れたものだからね」

「今の俺にとっては少しでも攻撃力が上がるのは捨て置けないけどな」

「コレ、ダイチさんと話し合って改良してもいいかしら」

「壊すなよ」

「そこは信用してちょうだい」

「わかってる。そんじゃ、試作品用の資金稼ぎに出るわ」

「わかってるじゃない。出来たら呼ぶわ」

「おう」


ミモザと別れて資金稼ぎに出かける。装備は以前と変わらないガントレットのままだ。


「あ、アオイさん。こんにちは!1人なんですか?」


ギルドに行くとガッキーが話しかけてきた。


「まぁな。今日は1人じゃないんだな?」


ガッキーの隣には身長があまり変わりない少女が立っていた。


「はい」

「シズクです。ガッキーがお世話になりました」


礼儀正しい子だな。


「こちらこそ世話になったな」

「アオイさんのサポートがあったから勝てたんだ」

「アオイさんは普段一人で狩りをしてるんですか?」

「大体はな。最近攻撃力不足に悩んでいるがな」


ワーウルフとの戦いでノーダメージ戦闘は五分五分で回復薬の消費も馬鹿にならない。


「でしたら、私たちと一緒に狩りをしませんか?おと・・・ガッキーがアナタの事を絶賛していたので興味があるんです」

「たまにはPTで戦ったほうが楽だしな」

「では、よろしくお願いします」


≪シズクがPTに誘いました。承認しますか?≫



YES


「よろしくな。狩場は街周辺のワーウルフでいいか?」

「はい。私たちも普段はワーウルフで資金稼ぎをしていますので」

「格好からしてスピード重視の剣士という所か?」

「はい。ガッキーが一撃重視の剣士であれば手数と防御を併せ持った盾持ち剣士ですね」


シズクは金属のバックラーと片手剣が装備されている。急所の部分は金属防具だが手足は革製の防具を身にまとっている。


「なるほど」


シズクがいるからガッキーは一撃重視の剣士になったという所か。


「普段はシズクがタゲを持つのか?」

「はい。そういったスキル構成ですので」

「回復役が居なくて辛いんじゃないか?」

「そこは無理な戦闘はせず休憩などを挟んでコツコツと戦っています」

「とりあえず戦ってみれば分かるか」

「はい。ガッキーから戦闘順序は聞いていますのでFAはお願いします」

「あぁ。こちらこそよろしく頼むよ」


草原に出ていつも通りFAは俺がヒットさせてシズクと立ち位置を変えてから戦闘が始まる。


「こっちに来なさい!」


ガンガンガンっ


片手剣を盾にガンガン叩き、盾職なら必須の挑発スキルを使用しワーウルフの注意を引く。


俺に移っていたタゲはシズクに切り替わりワーウルフはシズクに向かう。


「糸拘束術一式」


ガッ


足に糸が絡み行動が阻害される。


「だぁあああああああ!」


ガッキーの大上段からの一撃が無防備の背中に入る。


「はぁああああ!」


正面からシズクが果敢に切りかかる。


グワッ


ワーウルフがシズクに向かって長い腕を振り上げて攻撃モーションを起こす。



「糸防御術一式」


シュル

ズッ


ワーウルフの攻撃が逸れてシズクにはヒットせず不発に終わる。


「ヤァアアアア」


ザシュザシュザシュッ



片手剣の三連撃が決まりワーウルフは地面に倒れ伏す。


人数が多いとそれだけ総攻撃力が増して安定的に狩れるな。


「本当にノーダメージで倒せた」

「でしょ。俺が言った通り兄ちゃんは凄いんだから」

「えぇ」


シズクとガッキーがヒソヒソと話しているが気にしないでおこう。


暫く休憩と戦闘を繰り返して報酬を均等に分けて解散となった。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


ゴトッ


「試作品は完成したわ」


ミモザに呼ばれて何時ものように喫茶店で依頼していた物を受け取った。


・ペンディラムワイヤーガントレット(改)

 【鉄製の短剣】が取り付けられた糸使い専用武器。

 これまでと違い限界距離が30mと短い。

 切り離すことは出来ない。

 攻撃力:17(+5)

 防御力:10

 移動速度-5%

 耐久値:250/250

装備可能職業:糸使い

 ランク:クリエイト

品質:2


「多々改良を施したけど30mの限界距離は伸ばせなかったわ。重さに比例して限界距離があるのかもしれないわ」

「なるほど」

「一応糸を多重に操れるように予め細工はしてあるからスキルを取得したら言ってちょうだい。調整するわ。ただしコレだと3本までが限界よ左右合わせても6本が限界ね。それも1本につき20mが限界距離なのよ」

「わかった。幾ら掛かった?」

「35,000Gね」

「高くついたな」

「鍛冶師の私と細工師のダイチが居なかったらもっと掛かっていたわよ」

「それもそうだな。とりあえず糸を多重に操るように調整してくれないか?」

「少し待って頂戴」


カチャカチャっ

ガチャンガチャンッ


ミモザは手際よくガントレット後部にあるワイヤーリール部分を取り外して小さなワイヤーリールをセットする。


・ペンディラムワイヤーガントレット(改二)

 【鉄製の貫通鏃】が取り付けられた糸使い専用武器。

 これまでと違い限界距離が20mと短い。

 切り離すことは出来ない。

 糸は最大3本まで操作可能である。

 攻撃力:17(+6)

 防御力:10

 移動速度-5%

 耐久値:250/250

装備可能職業:糸使い

 ランク:クリエイト

品質:2


先端についているのは貫通鏃に変わっている。どうやら3本となるとダガーは取り付けられないようだ。


「ダガーは取り付けられないわ」

「攻撃力が上がっているようだから問題ない」

「ただ、ダガーよりも耐久値は低いから定期的に交換が必要よ」


・鉄の貫通鏃

 鉄で出来た捻れた三角錐

 攻撃力:6

 耐久値:25/25

 ランク:ノーマル

品質:1


「少ないな」

「本来は矢専用、使い捨ての鏃だからね。何度も使いまわす前提として作られていないわ」

「耐久値を伸ばせないのか?」

「伸ばすには大きくする必要があるのよ。それだと取り付けられないの」

「わかった。鏃の方も幾つか欲しいな」

「えぇ。1つ500Gよ」

「高いな」

「売れないし希少価値が高いものよ。普通の鏃だともっと安くできるけど脆いし攻撃力は半分以下になるわよ?」

「6個買う。3,000Gだ」

「毎度」


ミモザと別れて新たなスキルを取得する。


・多重操糸術(レベル?)

 糸の操れる本数が変動する。

 本数=レベル(最大10まで)

 前提:糸使いレベル15

    操糸レベルMax

    SP2の消費。

消費魔力:操作本数×2/1s


≪スキル:多重操糸術をSP2消費して取得いたしますか?≫



YES


≪スキル:多重操糸術を取得しました。既に2本の糸を操っている為レベル2からのスタートとなります≫

≪スキル:多重操糸術の必要経験値が満たされています。多重操糸術はレベル3になります≫

≪スキル:糸拘束術二式が取得可能状態になりました≫

≪スキル:糸防御術二式が取得可能状態になりました≫

≪スキル:三連脚をSP2消費して取得いたしますか?≫


YES


≪スキル:三連脚を取得しました≫


SP4を使って2つのスキルを取得する。


足技を取ったはいいがそろそろラビットクローブーツよりも上位互換なブーツが欲しくなったな。


「あらん゜゜♥珍しいわねぇ」


「足技用装備ってコレだけか?」


ミカにラビットクローブーツを指差して問う。


「そんな訳ないじゃなぁい。足技使いは格闘家なら取得する人は沢山いるわぁ」


それもそうか・・・


「でもねぇ。足技故に金属系が使われている物が多いからアナタには装備できないわよぉ」


ミカは露天に並べている足技専用のブーツを指差す。


【装備不可】

【装備不可】


どれも注視スキルで俺に装備できないことを連続で告げている。


「そうか」

「といっても、後衛職が装備できないだけであって作成出来ないわけじゃないわ」

「本当か」

「まず、後衛職が足技を取得しないから作られていないだけだしねぇ。需要がないのよ」


たしかに、需要のないアイテムを作る職人は限られているか。


「ミモザもそう言っていたな」

「そういう事よぉ。此処等辺のモンスターだとワーウルフの鈎爪を6本に毛皮が2体分は必要ねぇ」

「それだけで足りるのか?」

「素材2つで出来るほど簡単じゃないわよ。毛皮のブーツになるから、ワニの鱗皮や革紐も必要ね。裁縫師のアタシは革職人じゃないから別途手に入れてきてね」

「伝手とかないのか?」

「あるにはあるけど、それじゃ面白くないじゃない」

「自分で探して来いと?」

「えぇ。革職人ならすぐに見つかるだろうけど使うアイテムは大ワニの鱗皮よ」

「聞くからに爬虫類の革かよ。その言い方だとある程度の革職人じゃ作れないな?」

「ご明察よぉ。革職人レベル25以上でないと取得できない革紐なのよ。アナタは生産職じゃないから知らないけれどレベル25にするには沢山の時間と素材にお金を必要とするわ。初見で高難易度と言われるユニークモブであるアリゲートと戦って勝てるかしら?」

「ユニークモブ?」

「この街からフォースの街へ向かう鉱山地帯の他に沼地へ向かう道があるのよ。その沼地の奥に待ち構えているのがアリーゲートっていうユニークモブ。1週間に1度しかリポップしないからユニークなのよぉ」

「倒したら皮が手に入るのか?」

「それも運任せなのよ。今までの報告によると数度しか勝てたことが無いらしくて大ワニの鱗皮がドロップしたのは3回程。アタシのフレンドがその内の1回で大ワニの皮紐を作る事に成功したわぁ。ワニの鱗皮の方は道中で手に入ると思うわぁ」

「つまり、その職人を見つけて来て、アリゲートを倒した上で大ワニの皮紐を持って来いと?」

「そういう事ね。頑張って頂戴ね!」

「情報くらいくれてもいいだろう」

「情報は十分にあげたわ。後はアナタが倒せることよ」

「そういう事かよ」

「大丈夫、アナタの武器なら倒せるわぁ」

「無責任だな」

「あら、本当のことよ。それはアナタが証明してくれるわぁ。じゃ、待ってるからねぇ。chu!」


ゾワゾワゾワ


背筋に寒気が走りこの場から退散する。


とりあえずアリゲートについての情報収集をする事にした。


『アリゲートの討伐は冒険者ランクE-にならないと受けれません』


ギルドに聞いてみたところアリゲートについての情報はすぐ手に入った。が、ランク制限によって受けられないと言われた。

現在のランクはF-だ。ここに来て素材ばかり売って金策していたのが仇になった。


ギルドランクは以下の通り

G- < G < G+ < F- < F < F+ < E- < E < E+ < C- < C < C+ < B- < B < B+ < A- < A < A+ < S < SS < SSS

という順番でランクが上がっていくシステムでアリゲートに挑戦するにはあと3段階ランクを上げなければならない。


ちなみにワーウルフ討伐のクエストはFで本来なら受けられない。が、PTの平均がFに到達していれば受けられるシステムが存在する。

ガッキー達のランクは既にF+ランクに達していて俺のランクが引き上げられて受けれただけでソロでは無理な話だ。素材は売れるだけでクエスト達成には至らない。


「まずはランク上げか」


セカンドの街へ戻ってF-ランクでも受けられるクエストを受諾しに向かう。


『グレーウルフの討伐ですね。受諾しましたのでお気をつけて』


クエストを受け、セカンドの街周囲に生息するグレーウルフ討伐へと向かう。

装備も新調し右手の射程は20mと短くなったが攻撃力増大に伴い問題ないと判断する。


門を出て早速近くのグレーウルフにアウトレンジコンボを決めて戦闘を強いる。

ウルフ達は次々にリンクし俺へとターゲットし殺到し始めた。


前も後ろも右も左も360度からの同時リンク戦闘が始まる。


ギャウゥウン

キャウゥウン


20m以内に近づけないよう優先順位を決めて連続的に攻撃を放つ。


「三連脚」


一撃で死ななかったウルフが接近戦を強いてくるが足技で残り少ない体力を消し飛ばして事を終わらせる。


俺は街を一周する形で移動をしてウルフとの戦いを継続させる。


『グレーウルフの毛皮が364枚。討伐回数として72回分ですので14,400Gとなります。端数4枚は別途買取しますと14,600Gになります。さらに貢献度が規定値を2回超えましたのでアオイ様のランクがF-からF+になります』


3時間弱の戦闘を経た結果は満足するものであった。時間をかけたのはワザと真っ直ぐ街を回らず蛇行しながらグレーウルフにリンクさせていたからだ。

レベル差もありこの戦闘では経験値は殆どはいらずレベルアップは一度もしなかった。一定以上のレベル差による経験値取得減衰効果である。


サードの街に戻り、今度はワーウルフの討伐クエストを受けてランクアップする為の貢献度上げに勤しむことにする。グレーウルフと違いワーウルフになった途端効率は激減

戦闘の一つ一つがヒヤヒヤしながらとなった。これでもウルフハンターの称号で少しは楽に戦闘できているのだが基本がPT狩りを前提としたMMOゲーム故に他とは難易度が違う。


≪スキル:操糸のレベルがMaxに達しました≫

≪SPが1増えます≫

≪スキル:斬糸が派生します≫


この戦いで新たなスキル派生が発生した。


『ワーウルフの犬歯が72本、討伐回数として14回ですので15680となります。端数4本は別途買取しますと16,480Gになります。さらに貢献度が規定値を超えましたのでアオイ様のランクがF+からE-になります』


それからアリゲートが出現するポイントを掲示板やら攻略WIKIを見ながら情報収集しソロでの討伐をする。


『アリゲートの討伐依頼受理いたしました。今週は未だに倒されておりませんがコチラは他の冒険者様も複数受けておりますので現地で喧嘩になったとしてもギルドは介入致しません』

「それほど強力な相手という事か?」

『左様でございます。また、アオイ様はソロでの討伐をご希望されていますが通常ですとPTでの討伐を推奨しています。よろしければコチラで他のメンバーを斡旋致しましょうか?』

「今回は遠慮しておく。斡旋もしてくれるのか?」

『はい』

「頼む時が来たら声を掛ける」

『畏まりました』


俺はサードの街を出て沼地へと向け歩き出す。道中に現れるワーウルフを倒しながら進むと草原地帯から湿っけを帯びた地面が現れ始め景色はガラリと変わり水の溜まり場が幾つも出来た

沼地が出現した。見える範囲にはリアル世界にでも居そうなワニが何頭も沼を巣として獲物を待ち構えているようだ。


≪スキル:遠視のレベルが27になりました≫


時々スキルのレベルアップアナウンスが発生する。

スキルのレベル上限には段階毎にある事に最近気がついた。

第一段階「二連脚」等は20がMAX。

第二段階「注視」が30でも上限に達しない所を見ると40が上限なのだろう。


ガァアアアア

ガチンッ


歩いていたらワニモンスターの探知範囲に引っかかり戦闘が始まる。


「ハッ」


ガンッ


なんて固い奴だ・・・


ワニの皮膚に張り付いている鱗が思いのほか硬くダメージが殆ど通っていない事が伝わってくる。


ブシュッ


貫通鏃2本を使って徐々に体力を削ってはいるがかれこれ20分はコイツに戦闘時間を取られてしまっている。エリアボス並みの硬さを雑魚モブが所有しているとなると後衛職の中でも攻撃力が一番弱い糸使いとしては最悪の相手だ。辛うじて倒した所でも次の戦闘で時間が奪われてしまうのが辛い所である。


ガチンッ!


「糸拘束術一式」


グルルルルッ


ワニの強力な噛み付き攻撃で口を閉じた瞬間を狙い、ワイヤーで口を開かせないようにスキルで封じる。


「三連脚!」


ガガガッ


分厚い皮を蹴る感触を感じ攻勢に移るが防御力が高いし、ラビットクローブーツの攻撃力の前じゃあまり意味を成さない。


グォオオオオ


30分の戦闘の末ワニを1頭倒し終えたが精神的に疲れた。


「一旦諦めるか」


俺は沼地を引き返してサードの町へと戻る。

途中でワーウルフと戦うがワニ戦直後だといかに柔らかい敵だという事が分かる。


ここで俺には攻撃系スキル不足に気づいた。


基本的に糸使いのポジションは後方からの援護攻撃が主体で敵モブへの行動阻害系がスキルの構成で成り立っている。

ワニの行動阻害中は一方的に攻撃できる筈なのに強力な攻撃スキルが無い為、無駄に時間が割かれてしまったのだ。

もう一度取得スキル一覧から使えそうなスキルを見る必要があるようだ。


・斬糸

 斬属性を乗せ相手を斬る事ができる糸を一時的に作りだす。

 魔力消費量に比例して対応する装備ランクの切れ味が増す。

 総攻撃力×1.5

通常、一段階(2.0倍まで)消費で石以下を切断する。

 製作、二段階(3.0倍まで)消費で鉄以下を切断する。

 魔法、三段階(4.0倍まで)消費で鋼鉄以下を切断する。

 特異、四段階(5.0倍まで)消費で魔法金属以下を切断する。

 伝説、五段階(6.0倍まで)消費で神鉄を切断する。

 前提:糸使いレベル15

    操糸レベルMAX

    SP2の消費。

 消費魔力:10

CT:10s


今のところ、このスキルが有力候補だな。

基本的糸の先端に付いたペンディラムでの攻撃が主体である打撃か貫通しかなかった。

しかし斬というのは今までに無い攻撃方法となる。


≪スキル:斬糸をSP2消費して取得いたしますか?≫


YES


≪スキル:斬糸を取得しました≫


攻撃力1.5倍のスキルって事は・・・20mのダメージボーナス1.5倍とクリティカルヒット2.0倍と掛け合わせたら大した初撃ダメージになりそうだな。


ミモザに左手用のガントレットを制作してもらう。多重操糸術がレベル3の為、操れる糸は3本のままだが攻撃力の底上げがされる。


120(総攻撃力)×1.5(スキル)×1.5(飛距離)×2.0(クリティカル)の物理攻撃力480が上手く入れば前衛よりも強力なダメージが入りそうだ。


追撃として2本目3本目も与えればクリティカルは入らずとも120×1.5×1.5の物理攻撃力240である。

ガッキーの持つ大剣の攻撃力が80オーバーでステータスと合わせて175にスキルダメージ1.5倍で物理攻撃力262と大差ない計算となる。


早速ワーウルフに対してどれだけの威力か試してみるが大体5分弱掛かっていた戦闘時間が2分弱と半分近く短縮された。

現在確認されている各職業のスキルによるダメージ補正は1.5倍が平均値でありフォースの街に拠点を置くトッププレイヤー達の極少数が2.0倍のスキルを所持している事となる。

サードの街では、まずお目にかかれないダメージ補正だった事が検証掲示板を覗いてわかった。


「あ、アオイさん」

「こんにちわ」


ギルドに赴くとガッキーとシズクと出会った。


「今日でランクE-になれました」


と軽く報告された。


「そうか」

「それで力試しにE-クエストであるユニークモブのアリゲートに挑戦しようと思ってました」

「過去形か?」

「色々情報を収集していたらPT上限6人推奨や優れた装備が必要だと分かったので」

「ボク達にはどちらもないから挑戦は諦めるしかないなぁと」

「そうか。人員はギルドが斡旋してくれるらしいぞ?」

「たしかに人を集めるにはギルドを通したほうが早いんですが始めて組む人だと連携にぎこちなさ生まれるんですよね」

「うんうん」

「それは、行く途中のワニで慣れればいいだろ?」

「あれ?アオイさんは行ったことあるんですか?」

「ソロでな。ワニの防御力に負けて帰ってきたが」

「ソロで挑もうとする事が凄いね!」

「よかったら私たちともう一度行きませんか?」

「俺は別にかまわない。今の目的はアリゲートのドロップアイテムなんだ」

「わかりました」



≪シズクからPT申請が送られてきました。受諾しますか?≫


YES


≪シズクのPTに加わりました≫


「改めてよろしくお願いします」

「よろしくです」

「あぁ、よろしく」

「早速3人で向かってみます?」

「アリゲートは6人推奨なんだろ?」

「アオイさんの援護がアレば少なくても大丈夫だと思います」

「俺も同じ意見だよ」

「まぁ、後々考えればいいか」


とりあえず3人で沼地に向かう事となった。

お疲れ様でした

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