9.弟と王女様
眩しい光が収まりヴェルは瞼を開けるとそこは豪華絢爛な部屋だった。
「ここは?」
辺りをきょろきょろと見渡していると一緒に転移したセゾンが言う。
「ここは王城にある転移部屋だと思うっす」
「そうなんだ」
その時、騎士の鎧を着た者が扉を開け部屋に入る。
「貴殿がセゾンか?」
騎士に尋ねられセゾンは姿勢を正し答える。
「はい!」
「そうか。話は騎士団長から聞いておる。私は副団長のアレスだ。ハヤト殿はこちらだ」
副団長のアレスは先に部屋を出る。
「行くっすよ」
「う、うん」
セゾンはヴェルの手を取り、アレスの後を続く。
長い廊下をしばらく歩くとアレスは部屋の前に止まる。
「ここだ。失礼します」
扉を開けると黄金のきらめくロングヘアーに薄い桃色のドレスを着た一人の女性がいる。
「アレーシア様、ハヤト殿の弟ぎみと連れのセゾンをお連れしました」
「ありがとうございますアレス」
「はっ!」
アレスは一礼した後部屋を出る。アレーシアは微笑んでヴェルの前に行く。
「ヴェル君だったね、私はアレーシア、よろしくね」
「弟のヴェルです。あの、ハヤト兄ちゃんは?」
ヴェルに尋ねられ頭を撫でた後、アレーシアは微笑みながら言う。
「こっちよ」
アレーシアは立ち上がり、幕が下りているベットに向かう。ヴェルも後を追う。
ベットの近くまで行くとアレーシアは紐を引っ張ると幕が上がり、深い眠りに就いているハヤトが目の前に現れる。
「傷は完治したのですが、いまだに意識が戻っていません」
「ハヤト兄ちゃん……」
ヴェルは無意識にアレーシアのドレスを掴む。アレーシアはそっと肩に手を置き言う。
「ヴェル君、ここには優秀な治癒師がたくさんいます。だから安心して意識が戻るの待ちましょう?」
「うん!」
幕を下ろしアレーシアとヴェルは部屋にあるソファに座る。ヴェルの隣にセゾンが座る。
「ヴェル君この後はどうしますか?」
「ハヤト兄ちゃんとは離れたくない……」
もう二度と離れたくないと思ったヴェルは伝える。
「では、ヴェル君にはお部屋を用意しましょう」
「アレーシアお姉ちゃんありがとう!」
きらきらとした笑顔でヴェルはアレーシアにお礼を言う。
「お姉ちゃん……お姉ちゃん……なんか恥ずかしいですが、いいものですね」
一人っ子のアレーシアはお姉ちゃんと呼ばれ嬉しそうだ。
「ごほん。セゾンさんはいかがされますか?」
「俺……私はヴェル君を届けに来ただけですのでクルーレの街に戻ろうと思います」
「セゾン帰っちゃうの?」
不安な眼差しでセゾンの顔を覗き込むヴェル。
「うん、ごめんね……」
その時扉が開きアレスが入ってくる。
「お話し中、失礼します。アレーシア様、団長よりお手紙が届きました」
アレスは手紙をアレーシアに渡したら、ちらっとセゾンを見たあと部屋を出る。アレーシアは手紙を読み終わるとセゾンを見る。
「セゾンさん、帰らなくてもいいみたいですよ?」
「え……と言いますと?」
おそるおそるセゾンは尋ねると笑顔でアレーシアは答える。
「手紙にはヴェル君についていること。身体が訛らないように騎士団の訓練に参加するようにと書いてあります」
「まじっすか……」
衝撃の事実に思わず敬語を忘れるセゾン。
「セゾンも一緒?」
「そうですよヴェル君。よかったですね!」
「うん!」
「はぁ……」
セゾンは深いため息を吐く。しかし、喜んでいるヴェルの姿をみて仕方ないなっと思うのだった。
そして、その日の夜。食事を終わらせたヴェルは直ぐにベットに入ったが寝付けないでいた。
ヴェルは身体を起こし隣の部屋で寝ている兄の部屋に行こうと扉を開けるとアレーシアが目の前に現る。
「アレーシアお姉ちゃん?」
「こんばんはヴェル君。トイレに行くところ?」
中腰になりアレーシアは尋ねる。
「ううん。ハヤト兄ちゃんの部屋に行くところ!」
「寝れないの?」
「……うん」
ヴェルは後ろに手を組みもじもじする。
「じゃあ私とお話ししません? ヴェル君が知らないお兄さんのお話しとかどうですか?」
「聞きたい聞きたい!」
「ふふふ、じゃ部屋に入ってもいい?」
「どうぞ」
ヴェルが先にベットに入った後、アレーシアはヴェルの隣に横になる。
「じゃあ何話そうかな……」
「なんでも聞きたい!」
期待を込めたキラキラした目でヴェル尋ねる。
「じゃあまず私とお兄さんが出会った時のことかな」
「うん」
そこからアレーシアはヴェルが寝るまで話をする。そして、しばらく話しているとヴェルの寝息に気づきアレーシアは話すのを止める。
「可愛い寝顔……」
ヴェルの頬をつつくアレーシア。
「おやすみヴェル君」
最後にヴェルのおでこに軽くキスをしたあとアレーシアは部屋に戻るのだった。