6.夕日の誓い
「イヴェール隊長! 来るの遅いわよ! 倒れているそいつらを連れてっておくれ」
「う、うむ。おい、こいつらを連れていけ!」
「「はっ!」」
アリアさんは倒れているバットたちを指さして言う。
相当怒っているアリアさんの迫力に圧され気味になるイヴェール隊長だが、素早く部下たち指示を出し気絶をしているバットたちを連れていく。
気絶している人を運ぶのは意外と大変だと思い、俺は気づかれないように重力魔法を掛け、軽くする。そのおかげか、部下たちの動きが早くなった。
「では、アリア殿。詳しい事情尋ねても?」
外に連れ出すとイヴェール隊長はアリアさんに詳細を尋ねる。アリアさんも前回注意したことも含め伝える。
俺も当事者だから残っているが、アリアさんが話終わるまで暇だ……。てか、腹減った……。
「ヴェル、お腹空いたか?」
さっきから足に抱き着いているヴェルに尋ねる。
「……うん」
お腹をさすりながらヴェルは言う。……ヴェルには悪いけど、可愛いと思ってしまった。
まぁそれは置いといて、『無限の収納』から赤くて丸い瑞々しい果物を取り出し渡す。
「これ、なに?」
「これはリンガの実って言って、甘酸っぱくて美味いぞ」
ヴェルはゆっくりリンガの実を齧る。すると目を輝かせて俺を見る。
「ハヤト兄ちゃん! これおいしい!」
そう言ったあとヴェルは食べるのを再開する。美味しそうに食べるヴェルの姿が小動物みたいで可愛い。とりあえず頭を撫でる。
「また、食べたくなったら言えよ」
「うん!」
満面の笑顔でヴェルは頷く。
その時、話終わったのかイヴェール隊長が尋ねる。
「貴方がハヤト殿ですか、お話はヴェスナー騎士団長から聞いております」
「そうですか。それで俺に何かようで?」
イヴェール隊長はアリアさんに聞いた話に間違いが無いかの確認だった。
「はい、それで間違いないです」
「ご協力感謝いたします。では、私はこれで」
「あ、イヴェール隊長。騎士団長によろしくって言っておいて」
イヴェール隊長は最後に敬礼した後に颯爽と出ていく。
騒ぎを聞きつけて集まった野次馬たちは解散し、食事を再開する人。食べ終わり出ていく人。やっといつもの平和な宿屋に戻る。
「ハヤトさん、巻き込んで済まなかったね……今食事を用意するから座って待ってて」
そう言いアリアさんはカウンターの行く。
俺とヴェルは座って待っていると、アリアさんが直ぐに頼んだ食事を持ってくる。
なんだか量が多い気がする……。それに頼んでいないものまでのもある。
「アリアさん、これは?」
「ああ、これはほんのお礼よ。遠慮なく食べてね」
いくら腹が減っていてもこの量は食べきれない。
「あ、ありがとう」
引き気味にお礼を言うと、アリアさんは「ごゆっくり」と言いカウンターに戻っていく。
「おいしそうだね! ハヤト兄ちゃん」
豪勢な料理にヴェルは喜んでいる。
「そうだな。冷めないうちに食べようぜ」
「うん!」
「「いただきまーす!」」
大分時間が経ってしまったが、漸く俺とヴェルは朝飯にしては遅いけど昼飯にしては早いを食事をとる。
食べ終わるまでお互いに黙々と食べた。
「ハヤト兄ちゃん、もうお腹いっぱい」
ヴェルは満足した顔で言う。
「俺もそろそろ限界だな」
やっぱり食べきれなかった。俺は【無限の収納】から保存容器を取り出し移し替える。
「腹減った時にでも食べようぜ」
「はーい」
全て移し替えてからこの後の事をヴェルと相談する。
「この後の事なんだけど、ヴェルさえよければこの街を案内しようかなと思ったけどどうする? 他にしたいことあれば――」
「このまち、あんないしてハヤト兄ちゃん!」
ヴェルは俺が最後まで言い切る前に、身体を乗り出す勢いで言う。
「お、おう。じゃ行こうか」
「うん!」
部屋の鍵をアリアさんに預けて街に繰り出す。
街は丁度昼時になっており、各お店は賑やかで人が溢れている。そのため、俺はヴェルと離れないように手を繋いでゆっくり街を巡る。
武器屋、防具屋、道具屋、冒険者ギルド、衛兵所、教会等々を順に巡る。俺が説明する度にヴェルは真剣に頷いて聞いている。
「ハヤト兄ちゃん、あれなあに?」
教会を出て少し歩いていると俺の袖をちょんちょんと引っ張り、指をさしながらヴェルは尋ねる。
その指の先を見ると、外壁の見張り台を指していた。
「あれは見張り台って言って外からの攻撃をいち早く見つける場所だ」
「そうなんだ! あそこに行けるの?」
「んーどうかな……一般公開してないと思う」
「そっか……」
明らかに落ち込んでいる。そんなにあそこからの景色みたいのか……。これは兄としてどうにかせねば!
「すこし待ってろ」
俺は【千里眼】を使い全ての見張り台を見る。ひっそりいけないか探していると、ちょうど知っている奴が見張り台で警戒しているのを見つけた。ラッキー!っと心中で呟きニヤリと笑う。
俺は素早くヴェルを抱き寄せる。
「ヴェル、俺が言うまで目を閉じてしっかり俺に掴まれ」
ヴェルは頷いた後しっかり抱き着き、そして目を瞑る。
「転移!」
すると足元に魔法陣が浮かび上がり、身体がふわりと浮くのを感じる。一瞬で視界が変わり、見張り台の所にいた。誰かと一緒に転移をするのを初めてだったけど、問題ないな。
「だ、誰っすか! って、ハヤトさん!?」
「えっと、セゾン?だったっけ 邪魔するぜ」
そう俺が見つけたのは街に入る際に、イヴェール隊長に説教されていたセゾンなのだ。目の前に現れたせいでセゾンを驚かせてしまった。
「ハヤトさんが俺の名前を……ってどうやって来たんすか!?」
「んー転移で、だけど」
「転移って空間魔術の最上位魔法じゃないすか! 流石SS冒険者っす! ……ってそうじゃないっす。ここは一般の人は立入禁止っすよ!」
「しってる」
「しってる……じゃないっすよ! なんで来たんすか?」
「そりゃ大事な弟にここからの景色を見せる為だけど」
俺はしれっとした顔で理由を告げる。その間もヴェルは目を瞑り抱き着いている。
「えぇ……まじすか」
セゾンは呆れ顔で言う。
「すこしでいいんだ。頼む!」
俺は両手を合わせて頼み込む。
「隊長にばれたら俺、怒られるどころかクビっすよ……」
「その時は、俺がなんとかするからまじで頼む!」
しばらく沈黙が続く。するとセゾンが深い溜息を吐く。
「仕方ないっすね。その時は助けてくださいっすよ」
「セゾンありがとう! 今度必ずお礼するぜ!」
「じゃ自分は見張りに戻るっす」
そう言いセゾンは少し離れたところで見張りを始める。
今まで言うこと聞いているヴェルに言う。
「もう、目を開けていいぞ」
そう言うとヴェルはゆっくり目を開ける。高所から見る景色にヴェルは目を輝かせている。
「わーすごい! すごいすごい! ハヤト兄ちゃんすごいきれいだよ!」
ヴェルは予想以上にはしゃぐ。そんなヴェルを見れて俺は心中で連れてきてよかったと思う。
GRUUUUUUUUU!
その時、咆哮が街の空に鳴り響く。
「な、なんすか!?」
「ハヤト兄ちゃん!」
セゾンは慌てて周りを見渡し。ヴェルは俺の後ろに隠れる。
俺は咆哮が聞こえた方に【千里眼】を使うと五体のワイバーンが街に向かっているを確認する。
本部から連絡が入ったのかセゾンは真っ青な顔をしていた。
「ワイバーンが五体接近しているっす! ハヤトさん、ヴェル君を連れて避難するっす!」
まだ本部と繋がっている状態の魔道具の送話口を手で押さえてセゾンは言う。
俺はその魔道具を無理矢理奪う。
「もしもし」
『む、貴様は誰だ』
イヴェール隊長の声だった。
「イヴェール隊長、ハヤトだ。あのワイバーンは俺がやる」
そう言い魔道具をセゾンに返す。イヴェール隊長はなにか言っているがセゾンに丸投げした。
「ヴェル、凄いの見せてやるからしっかり目に焼き付けてろよ!」
後ろに隠れているヴェルに言うと、『無限の収納』から一本の槍を取り出す。全体的に深みのある青色の両鎌槍。そして一番の特徴は黄金色に彫られた龍だ。
俺は槍の穂を上にして地面に突きたてて言う。
「轟け雷帝! 呻れ龍帝!」
晴れていた空はどんどんと黒い雲が広がり、やがて空を覆いつくす。そして激しい光と共に雷が鳴る。
ワイバーンたちはそんなの気にせぞに突っ込んでくる。俺は最後の言葉を叫ぶ。
「落ちろぉお! ドラゴニックライトニング!!」
空を覆いつくす雷雲から、一斉に雷が轟音と共に五体のワイバーンに降り注ぐ。雷が収まると同時に雲は消え、ワイバーンの体は全身丸焦げになる。口から煙を吐きながら地面に墜落していく。
「どうだヴェル、すごかっただろ?」
若干放心状態のヴェルに俺は笑顔で尋ねる。
「おーい、ヴェル?」
やっべぇ、反応が無い。やり過ぎた!
その時物凄い勢いで誰かが階段を登ってくる。イヴェール隊長と何故かヴェスナー騎士団長だ。
「……ハヤト殿、神話武器を使ったのだな」
俺が持っている槍を見ながらヴェスナー騎士団長は言う。
神話武器は、神や神獣等の力が宿る最強の伝説級の武器の事だ。神話武器にはそれぞれ意思があり、認められなければ使うことが出来ない代物。
ちなみに俺が持っているのは全て神話武器だ。めちゃくちゃ苦労したが全て認めさせ自分のものにしたのだ。
「この武器を見せたの初めてのはずなんだが……」
「確かにその武器は初めてだ。けれど、その神々しさですぐわかる」
「なるほど」
「まぁ、それは置いといて何故ハヤト殿がここにいるのか。ワイバーンの件含め聞かせてもらおうか」
「はいはい」
「それと、そこで隠れているセゾンもだ」
「は、はいっす……」
俺とヴェル、セゾンはヴェスナー騎士団長自ら事情聴取された。とりあえずセゾンに言った理由を言うと呆れられた。何故だ?
セゾンは俺が巻き込んだことにして、どうにか反省文だけで済んだ。ふー、どうにか約束は守れたぜ。
一時間程、事情聴取されやっと解放。太陽は沈め始めもうすぐ暗くなる。
街灯もつき始め、街はもう一つの顔を見せる。そんな中、ヴェルは疲れた顔をしていたのでおんぶしながら宿屋に向かう。
「ヴェル、今日はどうだった?」
「うん、楽しかった」
今日の出来事を思い出しながらヴェルは言う。
「それに……」
「それに?」
「ハヤト兄ちゃん、かっこよかった」
恥ずかしそうにか細い声で言うヴェル。
「ふふ、そっか」
俺は顔がにやけそうになるのを我慢する。
「ぼくもハヤト兄ちゃんにみたいにつよくなれる?」
「俺みたいか……ヴェル次第だな。修行頑張れるか?」
「……うん、ぼくやるよ」
ヴェルは力強く頷く。俺は安心した。
「わかった。明日から修行するから今日はしっかり休めよ」
「うん!」
宿に着いた二人はすぐに夕飯をとり、疲れを残さないように直ぐに眠りに就くのだった。