4.疲れる一日
「ハヤト兄ちゃん、大きい門がが見えてきたよ」
「あれがクルーレの街だよ」
夜が明け出発した俺たちは昼手前にやっとクルーレの街に辿り着いた。
クルーレの街、通称冒険者の街。この街は東西にダンジョンがあるため冒険者が一攫千金の夢を求めて集まる。そのおかげでダンジョンで取れる素材が売られ商人が買い取るという流れができ発展した街だ。
「ハヤト兄ちゃん、あの列なあに?」
ヴェルは門のところから伸びている列を指した。
「あぁ、あれは街に入るために並んでる人たちの列だな。
入るときに通行証かギルドカードをみせる必要があるが、無い人は鑑定水晶っての触れて犯罪経歴を映し出され何もなければ通行できる」
「そうなんだ! ハヤト兄ちゃんは持ってるの?」
首に提げている白銀のギルドカードをヴェルに見せた。
「わああかっこいい! きれい!」
渡してやると目をキラキラさせギルドカードを食い入るようにみていると急に表情が暗くなった。
「ハヤト兄ちゃん……ぼくもってない」
「心配するな、まかせろ。
ほら並ぶぞ」
そう言い俺たちは列の最後尾に並び順番が来るまで談笑した。一時間ほど話していたがまだ来ない。ヴェルがお腹に手をあてている。
「どうした?」
するときゅーっと小さく可愛い腹の虫がなった。
「ふふ、街入ったらとりあえず飯にするか」
「うん、ごはん食べる!」
それから少し経ちやっと順番がきた。長かった……
「次の方どうぞ」
「よし、行くぞヴェル」
「うん」
門兵の指示に従い鑑定水晶まで案内された。そこには西瓜並みの大きさがある水晶が台座に置かれ近くには案内してくれた門兵とは違う門兵が座っていた。水晶の前に移動したら門兵の質問が始まった。
「お二人はこの街を訪れるのは初めてっすか?」
「俺は何回来てるが、弟は初めてだ」
「弟っすか……全然似てないっすね」
まあ当然の反応だな俺の髪は若草色。ヴェルは白髪だそれに顔も似ていない。これで弟ですって言っても信じてもらえないのはわかっているから対策はしてある。
「腹違いだから似てないのは当たり前だ」
これで通らなければ最終手段使うまでだ。
「そうなんすね、納得したっす」
あっさり信じてもらった……まぁいいか!
「名前と訪れた目的を教えてほしいっす」
「俺はハヤトで弟がヴェルだ。
ここに来たのは冒険者ギルドに用事があったからだ」
門兵は一字一句間違わず紙に記入している。
「ハヤトさんとヴェル君っすね。
冒険者ギルドに用事っと。冒険者なんすね。わかったっす。ではギルドカードの提示お願いしまっす」
首に提げている白銀のギルドカードをみせたとたん門兵が動かなくなった。
「は、白銀のギルドカードおおおお!」
「うっさい」
動いたと思ったら急に叫んだから拳骨一発いれ黙らせた。
「っ……! なにするんすか……」
「お前が急に叫んだせいでヴェルが怖がっているだろうが」
「えっ! すみませんっす……でも!」
すると外が急に騒がしくなり門兵が二人来てしまった。その中には俺が知ってる人がいた。
「何の騒ぎだセゾン!」
「イヴェール隊長! それにヴェスナー騎士団長! どうしてここに」
「たまたま近くを通ったらお前の叫び声が聞こたのだ。今度は何をやらかしたのだ!」
「ち、違うんっす。まだ今日は何もやってないっす。ただ驚いて叫んだだけっすよ」
「また何かやらかす気か!」
「今のは言葉のあやで……」
「口ごたえするな! 正座しろ今日はみっちり説教してやる」
「勘弁してほしいっす!」
イヴェール隊長がセゾンを説教し始めた……長くなりそうだ。すると俺の隣にヴェスナー騎士団長が移動してきた。
「ハヤト殿、恥ずかしいところお見せして申し訳ない」
「気にしてないさ。久しぶりだね団長」
ヴェスナー騎士団長。クレアスト王都を守護する聖騎士団の長。剣技もすごく勇敢で人望も厚く義理堅い。クレアスト王国最強の男だ。
昔模擬戦で俺が唯一本気を出して戦った男だ。団長のスキル【オールガード】――すべての攻撃や魔法を防ぎ反射するスキル。突破するために本気になったのだ。
それ以来王都に来たときは団長と時間が合えば模擬戦やサシで飲んだりする仲になった。ちなみに俺は二十六だ。
「そちらの子は?」
話するか迷ったが団長との仲だし隠したくなかったからこれまでの出来事を伝えた。
「なんて酷いことを! ハヤト殿なにか手伝えることがあれば遠慮なく言ってくれ 」
「わ、わかったから団長顔近い!」
「おっと、失礼した」
そのあと軽く互いに近況報告を終え、説教されているセゾンを待つ予定だったがなかなか終わらない。さすがにそろそろ入りたいし、後続の人たちに迷惑がかかってしまうと思い団長に相談をした。
「ハヤト殿なら心配ないとイヴェール隊長に伝えておくから二人は街に入って構わない」
団長にお礼を言い俺たちはやっと街に入れた。空はだんだんと暗くなっている。門をくぐって直ぐに出店がたくさん並んでおり香ばしい匂いがあちこちする。食べ歩きしながら余分に買い【無限の収納】にいれ確保した。
空はすっかり暗くなり俺がいつも使っている宿屋に向かった。
しばらく歩き宿屋がみえてくる。スプーンとフォークが交差している下にベットのような物が彫られてる木の看板が特徴の『幸福な食の宿』だ。
ここはS冒険者の亭主が獲物の自ら狩に行き料理を提供してくれる珍しい宿屋だ。亭主とは気が合い一緒に珍しい素材狩りにも行った。料理勝負もした。結果は亭主の勝ちだ。本当に美味かった。俺は亭主の料理の虜になりそれ以来この街に来た時はこの宿屋を使っている。
入り口の扉を開け受付カウンターにはふくよかな女性がいる。この宿屋の女将のアリアさんだ。
「いらっしゃい。おや、ハヤトさんかい。
それと……その子は?」
「こんにちはアリアさん。
こいつは俺の弟のヴェルだ。
ヴェル挨拶して」
「えっと、弟のヴェルです! よろしくお願いしましゅう」
緊張して噛んでしまい恥ずかしさのあまり俺の後ろに隠れた。
「まぁなんて可愛いの。私はアリアよ。よろしくね!」
隠れているヴェルにアリアさんが近づき同じ高さの視線に合わせ頭を撫でながらアリアさんは自己紹介をした。
「アリアさん、いつも使ってる部屋空いてる?」
「えぇ、空いてるわよ。でもシングルだけどどうする? 宿泊費少し高くなるけどダブルベットの方にするかい?」
「シングルで構わない。それとしばらく泊まるからとりあえず一ヶ月分。延長も考えてる」
「あら珍しいわね。わかったわ。はい、これ鍵」
アリアさんに三十日分の宿泊費払い鍵を受け取り部屋に行こうとしたがアリアさんに呼び止められた。
「もうすぐ夕食出来るけど食べていくかい?」
「さっき食べたばかりだから夕食はパスするよ」
「わかったわ。お腹すいたなら厨房使っても構わないからね」
お礼を言い部屋に向かった。部屋は隅々まで掃除が行き届いており、ベットに皺一つもない清潔感があり綺麗だ。ヴェルは疲れていたのかベットにうつ伏せベットに倒れた。俺はベットの端に座った。
「疲れたか?」
「うん……少しだけ」
瞼は閉じかけている。かなり疲れた様子だ。明日の予定を伝えていると寝息が聞こえる。毛布をかけた。
「おやすみ」
優しく頭を撫で部屋の鍵をしっかりかけて王都にある家に転移した。この家は転移を隠すためにだけに買った家のため最低限の物しか置いていない。
王都の家に転移した途端アレーシアの使い魔が目の前に現れた。
『ハヤト様、こんな夜に転移とは何かございました?』
「今から王城に行っても平気か?」
『えぇ構いませんわ。直ぐ迎えの馬車を向かわせますわ』
「大丈夫だ、アレーシアの部屋に転移する」
『ま、待ってくだ』
アレーシアが制止する前に転移をした。一瞬で視界が変わり何故かアレーシアの上に転移していまい覆い被さる状況になってしまった。よく見ればアレーシアは寝間着に着替える所だった様だ。アレーシアから強烈なビンタをもらった。
謝り続けたがなかなか機嫌を直しくれない、大事な話があるのにどうしよ……
「本当に悪かった! なんでもするから機嫌なおしてほしい」
「……今、なんでもすると仰りました?」
「あぁ、出来る範囲でならなんでもする。但し結婚してくださいは無しだ」
「ちっ」
姫が舌打ちした! 嫌な予感がしたから先手打ったが正解だった。
「……なら、今度デートしてください」
「うーん、無理っていったら」
「さっきのことを国中に言いふらします」
満面の笑顔で言われた。これ以上言うと怖かったので渋々了承した。小さくガッツポーズしていて嬉しいそうだ。
「それでハヤト様本日は何用で?」
前回話してなかったヴェルの事と、しばらくクルーレに長期滞在することを伝えた。それに直ぐにデートが出来ない事も。アレーシアは真剣に話しを聞いてくれた。
「わかりました。
デートは弟さんの事が一段落してからでも大丈夫です。それと弟さんを王都に遊びに連れてきたくださいね」
「ありがとうアレーシア! じゃあそろそろ帰るわ」
「あ、あのハヤト様。しばらく会えないのですからぎ」ゅっとハグしてほしいです」
「……」
「さっきのこと……」
脅された。仕方ない……
両腕を広げる。アレーシアは嬉しそうに俺の所に飛び込んで来た。しばらく抱きあいアレーシアは満足したようで離れた。
「ありがとうございます、ハヤト様。お気をつけて」
「あぁ、それじゃ」
満面の笑顔で見送られ宿屋に直接転移をした。寝てるヴェルを起こさない様に隣に横になった。ヴェルの寝顔で少し癒され眠りに就いた。