3.野営での決意
翌朝、俺たちはクレアスト王国に馬車で向かう為に定期便が出てるクルーレって街に向かう事にした。
俺一人なら空を駆けるなり、飛ぶなり、転移するなりで王国まではすぐ着くことが可能だがヴェルにいろんなことを見せたいために馬車で移動を選んだのだ。
急ぐ旅でもないしね! なのだが……
「ハヤト兄ちゃん、これなあに?」
「ん? あぁそれは薬草だね。
ポーションって言う怪我を治す薬を作るとき使うものだよ」
「そうなんだ! あっ、じゃあれは?」
「あれはたしか……」
こんな感じにヴェルは初めて見るものに興味を惹かれ質問されて俺が答えるっ流れが繰り返されてる。おかげで全然進まない。それに空がだんだん暗くなってきた……
うん、急ぐ旅でもないし別にいいけどね!
「ヴェル、そろそろ暗くなるし野営するぞ」
「はーい!」
結局、街までたどり着かなかった。諦めて野営することにしたのだ。準備を一人でしていると。
「僕も手伝いたい!」
キラキラした目でみてくる……うーん、どうしようかな。
「そうだな……そうだ。
ヴェルには焚火に使う木の枝を集めてきてくれるかな?」
「わかった!」
ヴェルは夢中で枝を集め始めた。
「あんま遠くにいくなよ~」
「わかった!」
ヴェルに気配を感じながら準備をしていると別の気配を感じ上を見る。そこには全身白色の梟がいた。
あれはクレアスト王族が使役してる使い魔だ。
『あーあーハヤト様、聞こえていまか?』
梟から若い女性の声が発せられた。
「聞こえてますよ、王女様」
『ハヤト様! 二人の時はアレーシアと何度言えば……』
アレーシア。
本名アレーシア・フォン・クレアスト。クレアスト王国、現国王の娘。
その日はたまたま森の上空を飛んでた。森の中、アレーシアが乗ってる馬車が魔物に襲われてるところを助けたのが最初の出会い。
そのあと王城に招待されそこで婚約を申し込まれた。国王と宰相は聞かされなかったみたいで一瞬驚いたあとすっごい睨まれた。
丁重に断ったのだがアレーシアは駄々をこねたので妥協して友人になったのだ。
「はいはい。
それで、アレーシア何の用だ?」
『ごほん。
今回依頼をしたドラゴンの討伐はもう終わったのですか?』
「あぁ、討伐済みだ」
『あら? そうなんですね。
いつもなら依頼が終わればすぐ戻られるのに』
「たまにはゆっくり帰ろうと思ってな今クルーレに向かってるところだ」
『クルーレですと、王国まで約四日ぐらいですわね。
わかりました。
戻られましたら、王城に着てくださいね?』
「わかった」
話し終わると同時に白い梟は光の粒子となり消えた。
「はっ、しまった! ヴェルのこと忘れてた!」
急いでヴェルの気配を探すと叫び声が聞こえた。
♦
「ふぅー、こんだけあれば褒めてくれるかな……急いで戻ろ!」
拾った枝を抱えて後ろ振り返ったが誰もいなかった。枝拾いに夢中になってしまいハヤトの注意を忘れ遠くまで来てしまったのだ。
「ハ、ハヤト兄ちゃん……どこ……」
一人になったことに気づき急に不安になってしまいひたすら兄の名前叫けびながら探し回った。
「ハヤト兄ちゃん! ハヤト兄ちゃんどこにいるの! ぐす……こ、こわいよ……ハヤト兄ちゃん! うっいだい」
突然黒い塊に目の前に現れぶつかった。黒い塊はのそりとこちらを見てくる。月明かりに照らされたそれは鋭い爪を持ち鋭い剣のようなものを肩につけてる熊だった。
「グラァぁ?」
恐怖のあまり動けなくなってしまった。すると熊はのそりとこちらに向いてきてにおいを嗅ぎ始めた。
「ぼ、ぼくなんか、おしいく、ない、よ?」
熊は口角を吊り上げにたっと笑った様な表情になり一撃で殺そうと立ち上がり腕を上げ振り下ろされた。
思わず目を閉じ身構えたが熊の一撃はいつまで経っても来なかった。
「怪我はないか、ヴェル?」
聞き覚えのある声を聞き目をゆっくり開けた。
「ハヤト、兄ちゃん?」
そこには大きな盾で熊の一撃を止めてる姿だった。
♦
ギリギリセーフだな。転移をつかって正解だった。
「グルルルル」
熊は突然出てきた俺に驚くもすぐ攻撃してきた。
「剣熊か。
普通の盾なら壊れていただろうが、こいつはかなり頑丈でな! はあっ!」
剣熊の攻撃を防ぎながらはじき飛ばした。
「グラッァ!?」
盾を解除して剣を取り出しはじき飛んだ剣熊に切りつけた。
「はああああ! 獄炎斬!」
剣熊は態勢を整え、肩の剣で防ごうとするが剣ごと溶かし切った。倒れた剣熊を【無限の収納】にしまいヴェルの向きなおった。
「ヴェルだいじょ……うお」
ヴェルが凄い駆けで寄り抱きつかれ支えきれず二人で倒れた。
「いってぇーどうし「ごめんなさい」た……」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
顔をぐしゃぐしゃにして泣きながら謝ってるヴェルの頭を優しく泣き止むまで撫でた。
泣き止み二人で野営場所まで戻り食事を食べた。食べ終わり昨日みたいに手伝いをするのかと思っていたがヴェルは静かに焚火をみていた。
そっと隣に座ったのだが、ヴェルは立ち上がり胡坐掻いてる俺の足の上に座った。
「どうした?」
「ハヤト兄ちゃん本当にごめんなさい……それと、助けてくれてありがとう」
「おう!」
「それとハヤト兄ちゃんにお願いがあるんだ」
俺の正面に身体ごと向きなおり真剣な眼差しで言われた。
「僕、強くなりたい。
ハヤト兄ちゃんみたいに強くなりたいんだ!」
「強くなりたいか……ヴェルの初めてのお願いだから聞いてあげたいけど、理由を聞いてもいいか?」
「えっとね! ハヤト兄ちゃんにはいつも助けてもらってばかりで心配させてるから僕が強くなれば安心すると思ったの。強くなれば一緒に戦えるの! ハヤト兄ちゃんことを今度は僕が守りたいの!あとねあとね……」
初めて守りたいって言われたなぁ……思えばいつも守る側だからなんか新鮮だ。
「ヴェルの気持ちはわかった」
「それじゃ!」
「あぁ、俺が修行つけるよ」
「やった! ありがとうハヤト兄ちゃん!」
「喜んでるところ悪いが最後の確認な。
俺の修行はかなりキツイし怪我をするかもしれない。逃げ出したくなるかもしれない死ぬかもしれないそれでも、修行をするか?」
「……うん!」
真っ直ぐな眼差しで力強く頷いたヴェルをみて覚悟を決めた。
「わかった。それじゃ修行は街についてから考える事にしよう。もう遅いし寝るぞ」
「はーい」
ハヤトは明日からの予定を考えて、ヴェルは修行についての期待や不安を胸に抱きながら二人は眠りに就くのだった。