2.奴隷の少年
空はだんだんと暗くなってきた。あれから四時間経ったが未だに起きる気配がない。
流石に四時間も経つとすることがなくなった。様子をみに行くと子供は目を覚ましていた。
「お、目が覚めたか。
体調はどう?」
「……ぁ……へい、き……」
「そっか、でもあんま無理するなよ」
子供は頷く。そして小さな腹の虫が鳴った。
「お腹空いただろ? 今持ってくるから待ってろ」
「うん……」
少し離れて【無限の収納】から温かい野菜たっぷりのスープを取り出した。
「おまたせ。
熱いから気をつけろよ」
「うん……あつ!」
「言ったそばから……貸して」
スプーンを受け取り、スープを掬いふー、ふーと息を吹きかけ冷ます。ある程度冷めたの確認して子供に飲ませた。
子供は目を大きく開き小さく「……おいしい」と呟いた。
頭を撫で「ゆっくり飲めよ」と言い俺も食事を始めた。うん、美味いな。
空になった容器を洗っているのと子供が近づいて見てくる。
「どうした?」
「手伝いしたい」
うーん、手伝いたいか。もう終わるんだけどな。仕方ないもう一度洗い直すか。
子供に容器を渡し上から水筒の水をかけてあげた。
洗い終わった容器の水気を切って【無限の収納】にしまった。
焚き火の近くに座っている子供の隣に腰掛ける。しばらく焚き火を一緒にみてると子供が呟いた。
「ハヤト兄ちゃん……あのね」
おおお、初めて名前呼ばれた。それに兄ちゃんか……ちょっと、じゃないなかなり嬉しい。顔がにやける。
「ん?」
「ぼくの名前、ヴェルって言うんだ」
「いい名前だな。
お母さんがつけてくれたのか?」
「うん……お母さんが、お母さんがつけてくれた大事な名前」
そう言いながら子供、改めヴェルは静かに泣いていた。
ヴェルを持ち上げ胡座かいている上に座らせ優しく包み込むように抱いた。
「ぐす……ぼくのいた村、こわい大人達におそわれたんだ。目の前でお父さんもお母さんをころされたんだ」
涙声になりながらもヴェルは一生懸命に昔の辛い思い出を話しす。話しを聞きながら俺は拳を強く握っていた。
「ぼくもころされると思ったのに頭に布をかぶせられて気がついたら知らない家いたの。
それで……ひっく……それで」
ヴェルは泣崩れひたすら泣いた。
その様子みてこんな酷いことした奴ら見つけ次第八つ裂きにしてやると密かに誓ったのだ。
しばらく経ち、泣崩れたヴェルは落ち着きを取り戻し、話しの続きを聞いた。どうやら別の家に行くところでドラゴンに襲われたそうだ。
「話してくれてありがとうな。
はい、とりあえず水飲め」
「ありがとう、ハヤト兄ちゃん」
ヴェルは水筒を受け取り一気に飲み干した。
大分落ち着いているが顔が暗いな。ヴェルには笑顔でいさせたいけどどうしたもんかな……そうだ、いい事思いついた! 俺は短剣を装備した。
「今から面白いことするからみてろよ?」
「うん?」
短剣を掲げ俺の周りに水球をどんどんと生成する。いくつかヴェルの周り飛ばした。喜んでいるようだ、よかった!
だがこれだけでは終わらせない。今度は水球を色んな形に変える。星やハートなど色んな形や生き物の形に。
ちらっとヴェルの顔を見る。目は輝きに満ちていた。
「ハヤト兄ちゃん! すごい綺麗! ハートや星とかもいっぱい! 鳥さんとか魚さんもいっぱい!」
興奮し過ぎてなにいってるかわからん! でもやっと笑顔になった。
焚き火を一緒に眺めているとだんだんとヴェルの身体は前後に揺れ始めた。
「ヴェル、眠いなら寝ろよ」
「ううん、まだ起きる……」
「さっきから目をこすってるぞ。
今日は疲れただろ? 朝になったら移動するんだからもう寝なさい」
「いっしょに、寝る……」
「はぁーわかったよ。
周りに結界張ってくるから少し離れるけど動くなよ?」
「う、ん」
急いで結界を張り戻ってきたら体育座りで寝ていた。起こさないようにそっと抱っこしてテントに移動した。
「ハヤト……兄ちゃん……」
「あっ悪い、起こしちゃったか? 」
呼ばれたので返事をしたけどすーって規則正しい寝息が聞こえた。
「寝言か……」
やがてテントにつき横にさせる。毛布を掛けようとしたら「いか、ない、で……」って言う寝言が聞こえた。
「ばーか、どこにも行かねーよ。
約束しただろ? お前を守るって。
例え世界中の人類が敵に回ろうとも俺は味方だから」
既に夢の世界に旅立っているヴェルに呟いた。
そして約束どおりに隣で横になり、これからの人生にどうか幸福がありますようにと想いながら眠りに就いた。