15.兄の知人と出会う弟
夕焼けに染まる王都を背に俺とヴェルは川沿いの街道に馬に乗り進んで行く。
この街道を進んで行くといくつかの村を越え湖の上に浮かぶ街ーーウルカシュに着く。
ウルカシュの街は貿易が盛んに行われ各国の民芸品やら特産品などが買える珍しい街。
ヴェルには色んな物に触れてほしいし、食べて欲しいから欠かせないのだ。
そこから何日か進んだら目的地の海に辿り着く。
「ヴェルそろそろ野営の準備するぞ」
「うん」
沈みかけていた太陽は完全に沈み、月は天高く昇り月明かりが照らす夜が訪れた。
馬を適当な木に手綱を縛りヴェルに世話を任せて、【無限の収納】からキャンプセットを取り出し並べる。
石組みを作り、近くに落ちていた小枝を集め、生活魔法の一種、着火で火をつける。
それから底が深い鍋を設置し、水を張ってから少し大きめに切った野菜や肉などを入れ味付けにどうにか再現させた味の素を入れ煮詰める。
「ハヤト兄ちゃん、終わったよー」
地べたに座って鍋をボーっと見ていたら馬の世話が終わったヴェルが戻ってきた。
「おつかれヴェル、もうすぐ出来るからな」
「うん」
ヴェルは俺の前に来て座る。
顔の前にヴェルの耳がピクピク動いていてつい撫でたくなり優しく撫でた。
こうしていると初めて会った時を思い出すな。
「ハヤト兄ちゃん、初めて会った時のこと思い出すね」
ヴェルも同じこと考えていたようだ。
「だな……なぁヴェル」
「うん?」
鍋を眺めていたヴェルは顔を俺に向けて返事する。
「いや、やっぱなんでもない。そろそろ頃合いかな?」
無理矢理話しを変え立ち上がった俺は鍋蓋を開ける。
「お、美味しいそうに出来た」
ヴェルも匂いにつられ鼻をくんくんさせ近づき鍋の中を見る。
「美味しいそう! 早く食べよう!」
「すぐに用意するから座って待ってろ」
「はーい!」
ヴェルは先程座っていた場所に戻る。
おたまで具材を掬い深皿に注ぎ、【無限の収納】から硬いパンを取り出しヴェルに渡す。
「ハヤト兄ちゃんありがとう!」
自分の分も用意してヴェルの隣に座り食べる。うん、美味しく出来たな。
隣のヴェルを見ると、ふうふうして冷ましてからスープを啜っていた。
「美味しいね、 ハヤト兄ちゃん」
「そうだな」
そして食べ終わった後、魔物避けテントを張り明日も早朝から移動するためすぐに寝ることにした。
夜が一段と深まり、夜に活動する魔物が我が物顔で闊歩する中、珍しい気配を感じ目を覚ます。
「たく、何の用だよ。ふぁー……眠い……」
首を軽くならしてからヴェルを起こさないようにそっとテントを出る。
月の明かりが照られる街道を逸れ森の中に入っていく。
木々の間から漏れる月明かりの森の中を進んで行くと背後に気配を感じる。それも俺が一番知っている者の気配だ。
俺は隠れている方に声をかける。
「ヴェル、いるんだろう?」
草がガサゴソと音を立てるとヴェルが姿を見せ俺のもとまで駆けてくる。
「どうした?」
ヴェルは俺の服に埋めていた顔を上げる。するとヴェルの目から大粒の涙が流れていた。
「おいて、いかないでハヤト兄ちゃん!」
ヴェルの言葉に俺は目を丸くする。
おいていかないでか、クルーレの街での不安でいっぱいの記憶がよみがえったのか。
ヴェルの頭を優しく撫でながら微笑み言う。
「一人にさせちゃってごめんな。あの日ようにヴェルを置いていかないよ約束する」
「うん……」
ヴェルが落ち着くまで俺は優しく抱擁する。
しばらくするとヴェルも落ち着きを取り戻したヴェルは尋ねる。
「こんな夜になんで森に入っての?」
「あーちょっと知り合いの気配を感じてな。……そうだ! この機会だからヴェルにも会わせてやるよ」
ヴェルの手を握りどんどん森の奥に向かう。
しばらく歩くと開けた場所に出る。
「うわぁぁ綺麗!」
そこには月の光に照らされ花弁の周りを青く光らせている花が咲き誇り、幻想的な光景が広がっていた。
「ヴェル、この花はな月輪草って言ってな月の光が浴びると青く光る草なんだ」
「そうなんだ!」
「月輪草はある条件が揃わないとただの野草にしかならない特殊な草でな。その条件が妖精の女王から魔力を貰わないといけないんだ」
その時、突然風が吹き青く光る花弁が空に踊るように舞い散る。
「ニア、いるんだろう?」
すると月輪草が咲き誇る中心部に一人の女性が現れた。月明かりに照らされ煌めく腰まで伸びた銀色の髪に翡翠色のした瞳。顔立ちは整っていてこの世のものではないオーラを放つ絶世の美女。妖精の女王ニアだ。
ニアの姿をみたヴェルの目はニアに釘付けだ。
「ヴェルしっかりしろ」
「……ハヤト、兄ちゃん?」
体を揺すってヴェルを正気に戻せた。
ニアめ……オーラ全開で現れるなよ。
「ヴェル俺の後ろに」
「うん」
ヴェルが後ろに隠れてからニアに話しかける。
「久しぶりだな、ニア」
妖精の女王ニアは俺に微笑みと口を開く。
「お久しぶりですね、ハヤト」