14.最後の王都
「ハヤト兄ちゃん、朝だよー」
ヴェルに体を揺すられ俺は重たい瞼を開ける。窓から差し込む日差しに眩しさを感じる中、ようやく視界がはっきりしていき目の前のヴェルの顔が映る。よく見ると既に着替えていた。
「……おはようヴェル。早起きだな……」
「おはようハヤト兄ちゃん! これから朝練だから行ってくるね」
「騎士団の朝練だっけ? 辛くないか?」
「結構体力ついたから大丈夫だよ!」
ヴェルは元気に答える。
セゾンとの模擬戦でもヴェルはかなり動けていたしどれぐらいあるのかステータス確認しとうこうかな。
「そうか……」
「そろそろ行かないと遅刻するから行くね!」
ヴェルは駆け足で扉に向かう。ヴェルの手がドアノブにかけそうになった時俺は呼び止めた。
「ヴェル、話があるから少しいいか?」
「えー急いでいるの……早くしてよね」
ヴェルは文句を言いつつもベットの隅に座る。
「悪いな……。それで、話なんだけど……」
「うん!」
……早くして欲しいって目で見てくる。言いずらいけど言わないと!
「……急だけど今日中には王城を出ようと思う。勝手に決めちゃってすまん!」
俺は頭を下げヴェルに謝る。
しばらく沈黙が続く中ヴェルが口を開く。
「そうなんだ……わかった。今日中なら午後の訓練終わってからでもいい?」
「あ、ああ。構わない」
「わかった! 話は終わり?」
「う、うん」
「じゃ行くねハヤト兄ちゃん!」
ヴェルは颯爽と部屋を出ていく。
なにかしら言ってくるのだと思っていたけど、何も言わず素直に聞いてくれた。
『ダメダメなお兄さんだこと』
「……なんでいるんだよアレーシア」
声の発生源を辿るとそこにはアレーシアの使い魔の梟がいた。
『ヴェル君をフォローしにっと思いましたが……ヴェル君が大人だなっと思いまして』
「こっちをちらっと見るな!」
『はぁ……』
「そして溜息を吐くな!」
『面白いの見れましたし、私はこれで。ふふ』
アレーシアの使い魔の梟は光の粒子になり消えた。
俺は再びベットで横になり、朝食が運ばれてくるまで部屋でゴロゴロした。
朝食を食べ終え着替えている時に廊下から足音が聞こえ勢いよく扉が開く。
「ハヤトさん! 今日王城出るって聞いて!」
「お、セゾンか。おっすー」」
「おはようございまっす……ってそれ何処じゃないっすよ! なんで急になんすか?」
ちゃんと着替え終わらせてから俺はセゾンに言う。
「何でって……そりゃいつまでも王城で世話になるのも悪いしなさ、それにヴェルに色んな世界見せたいからなぁ、丁度いいかなって思ってな」
「そう、なんすね……」
セゾンは無理矢理笑顔を作り俺に言う。
「王都に立ち寄ったら絶対連絡くださいっすよ! ヴェル君も交えてご飯でも行くっす!」
「わかった。あ、そう言えばセゾン騎士団に配属おめでとうな。これ俺からの祝い品な」
【無限の収納】から銀色の槍を取り出しセゾンに渡す。
「俺のお古の槍になるんだけど、ちゃんと手入れもしているから」
セゾンはまじまじと槍を眺める。
「うわーハヤトさんが使っていた槍っすか……なんか凄そうっすね!」
「普通の槍だと思うけど……破壊無効に投げたら手元に戻ってくるようにしてあるだけのいたって普通の槍だぞ?」
「うわー……普通の槍じゃなかった……大事に使いまっす」
「おう」
「じゃ俺はこれで」
セゾンは部屋を出ていく。
俺は椅子に座り外で待っている誰かに声を掛ける。
「ヴェルいるんだろ?」
「うん……」
ヴェルは無言のまま俺に近づき膝の上に座る。そんなヴェルの頭を優しく撫でる。
「もうお別れはいったのか?」
「……うん。ハヤト兄ちゃん王都出たらどこ行くの?」
「ヴェルにはいろんな場所を見せたいしな……ヴェルは何処か行きたいところあるか?」
ヴェルに尋ねると考え始める。思いついたのかヴェルは口に出す。
「海、見てみたい」
「海か……わかった。海に行こうか!」
「うん!」
とりあえずの目的地も決まりヴェルは午後の訓練に出かけた。
俺は【無限の収納】の中を整理する。足りなければ王都を出る前に買おうと思っていたがそこまで減っていなかった。
そんな感じで時間を潰していたら部屋に訓練を終えたヴェルが戻ってきた。その後ろからアレーシアとセゾンが続く。
「ヴェル訓練お疲れ」
「うん」
俺に抱き着き顔を埋めるヴェル。
「二人とも見送りありがとな」
二人にお礼を言うとアレーシアはヴェルに近づき言う。
「ヴェル君また遊びに来てね?」
ヴェルは俺から体を離しアレーシアに抱き着く。
「うん、また来るねアレーシアお姉ちゃん」
涙声でヴェルは答える。次にセゾンがそんなヴェルの頭を撫でながら言う。
「ヴェル君また来るっすよ!」
「うん! セゾンも元気でね!」
……すっげぇ感動的なところなんだけど、いつでも戻ってくれるんだけどね、実は。まぁ今は言わなくていいかな。
「じゃあそろそろ行くわ。ヴェルこっちきて」
「うん」
名残惜しいそうにアレーシアから離れ俺のもとに。
「それじゃあ、またなアレーシア、セゾン。転移」
ヴェルをしっかり掴み転移を唱える。体がふわっと感じたと思うと一瞬で視界が変わるり俺の家の居間に飛んだ。
「ここが、ハヤト兄ちゃんの家?」
「そうだよ」
俺はヴェルを連れて外に出て、あらかじめアレーシアに頼んでおいた馬に先にヴェルを乗せて馬の紐を引き外壁の門に向かった。
門を潜り俺も馬に跨りゆっくりと川沿いに沿って進む。
「どれくらいで着くの?」
「王都からだと馬で一週間ぐらいかな」
転移を使えば一瞬で着くけど、今回は急ぎの旅でもないし、それにもう一つの目的のヴェルに世界を見せることだから今回は使わないのだ。
「そうなんだ。海楽しみだなー」
「じゃ少し飛ばすからしっかり掴まっていろよ!」
「はーい」
茜色に染まる空の下、俺は馬を走らせた。