13.兄と王女
ヴェルに言い所見せたくて風系最上位魔法テンペストを使い天井を破壊した翌日、俺はその訓練場にいる。
理由はガフェウス陛下に自分で直すなら今回の件は不問にしてくれるって仰っていたので直しに来たわけだ。
付き添いにヴェルとアレーシア、それに監視役の宰相。
俺が逃げ出さないか監視するらしいが別に逃げないし、これぐらいなら問題ない。
「ハヤト兄ちゃんどうする?」
【無限の収納】から黄金に輝く獅子を型取った盾を取り出し右手で持つ。
「こうするんだよ。 起きろ! 百獣の王よ!」
すると獅子の目は赤く光今にも動きそう雰囲気を醸し出す。
……まぁ、実際に動くけど。ヴェルが怖がっちゃうから動かさないけどね。
「何それ! かっこいい!」
「だろう?」
このかっこよさがわかるとはさすがは俺の弟だぜ。
「ハヤト様、その盾は……私を助けた際に壊れた馬車を直した時に使ったものですよね?」
「そうそう。よく覚えていたな」
「私が忘れるわけないじゃないですか! そう、あれは私とハヤト様が初めてあった――」
俺との出会いを思い出し自分の世界にアレーシアは入ってしまった。
ああ、なってしまうとしばらく戻ってこない。それにそろそろ始めないと宰相が言ってきそうだ。
「ハヤト殿早く始めぬか! こちらは時間を割いてきているのだぞ!」
ほら、言ってきた。
忙しいなら来なくたっていいのに……。
「今、始めますよ。まずは骨組みからだな」
黄金の盾に命じた。
「無より作り出せ! メタルクリエイト」
黄金の盾は輝き俺の目の前に山盛りの鉄鉱石が現れる。
「なっ!?」
案の定、宰相は目を丸くさせて驚く。
「わああ! ハヤト兄ちゃん今のなんて言う魔法?」
ヴェルがキラキラした目で聞いてくる。
「これ終わらしてからな?」
「はーい!」
ヴェルは俺の隣に並び大人しくしている。
横目でそんな様子を見ながら続ける。
まずは鉄鉱石から不純物を取り除き鉄にしないとな。
鉄鉱石の山に近づき触れる。
「百獣の王よ!」
再び目が赤く光ると鉄鉱石の山は光だす。光が収まると鉄の山が築かれていた。
久しぶりに使ったが問題ないな。
黄金の盾を掲げると鉄の山は生き物ように動き天井に伸びる。
俺は野球場の天井を想像しながら鉄を操り、あっという間に天井は修復させた。
「よし、最後の仕上げだ。百獣の王よ!」
再び目が赤く光天井に魔法陣が浮かび上がる。
魔法陣には自動修復、自動調整、耐熱、耐寒、全魔法耐性など、大盤振る舞いに付与して完成だ。
「これで終わりかな」
完成した天井をみて満足した俺は振り返ると宰相は顎を外して驚いていた。アレーシアは一度見たことあるからノーリアクション。ヴェルは早く聞きたそうな目をしていた。
そんなヴェルの頭を撫でてから宰相に尋ねる。
「これいいですか?」
「っは! う、うぬ、問題なかろう。我は忙しいゆえ先に戻る」
マントを翻して宰相は去っていく。面白くなさそうな表情していた。
「ハヤト様お疲れさまでした」
「おう」
「ハヤト兄ちゃん! 早く聞かせて!」
「わかってる。とりあえず部屋でな」
「うん! 早く行こう」
ヴェルは俺の手を引っ張て行く。
「私も行きますわ」
そう言いアレーシアも後ろからついてくる。
「アレーシア、公務とかいいのか?」
これでもアレーシアはこの国の王女だ。暇な訳はないと思うんだが。
「はい、公務なら今日分のは昨日纏めて終わらせましたわ」
「そうですか……」
「ハヤト兄ちゃん、アレーシアお姉ちゃん早く行くよ!」
ゆっくり歩いてたらヴェルが起こり気味で言う。
「「はーい」」
俺とアレーシアは声を重ね返事をした。
部屋に着いてからヴェルの質問攻めにあう。俺は【無限の収納】から漆黒の杖以外の武器をテーブルに並べて一つずつ説明した。途中で昼食を挟み、すべてを説明し終わった時には太陽が沈み暗くなっていた。
「では、私はこれで失礼しますわ」
「おう、付き合ってくれてありがとな」
「アレーシア姉ちゃんばいばい!
アレーシアはヴェル手を振り部屋を出ていく。
それから、部屋に夕食が運ばれ俺とヴェルで一緒に食べたあとすることもなくなりヴェルを寝かせた後、俺はアレーシアの部屋の前に来ている。
アレーシアが寝ていないことを願いつつ、扉をノックする。
「アレーシア、俺だ」
返事がなく、寝たのかと思い部屋を立ち去ろうとしたとき扉が開きアレーシアが出てきた。
「こんな夜にどうかされましたか?」
「大事な話があってな、部屋に入ってもいいか?」
「……どうぞ」
部屋に入るとアレーシアの机には書類が積まれていた。どうやら仕事中だったようだ。
「悪い仕事中に」
「構いませんわ。それで大事な話とは何ですか? まさか結婚の――」
「違うから」
「……冗談ですわ。今飲み物を用意しますわ」
アレーシアは棚からテーポットを取り出し、自ら淹れてくれた。
淹れ終わると俺の隣に座り、肩に頭を乗せた。
俺は何も言わずしばらくそのままにする。
「なにも言わないんですね」
「……」
「ハヤト様、膝枕してもよろしいですか?」
アレーシアの要求に俺は頷くとアレーシアは横になり膝に頭を乗せる。
「頭撫でてください」
「はぁ……とことん要求するな……」
「ハヤト様の大事な話って明日出ていくことでしょ? なら、これぐらいはいいじゃないですか」
俺は盛大な溜息をした。
「仕方ないなぁ……」
優しく頭を撫でるとアレーシアの耳が徐々に赤くなってくる。どうやら恥ずかしいようだ。自分で言ってきたくせに。
「アレーシア、明日王城を出るよ。俺が寝ている間ヴェルの事見ててくれてありがとな」
「この事はヴェル君は知っているのですか?」
「まだ、言ってない。明日起きたら言うよ」
アレーシアは溜息をつく。
「それ、ヴェル君怒りますよ?」
「……だよな」
「そうなっても助けませんよ?」
アレーシアはちらっとこちらをみる。
「……その時に考えるわ」
「頑張ってください」
しばらくアレーシアの頭を撫でているとアレーシアが口を開く。
「そう言えばセゾンの事を伝えていませんでした」
「なんかあったのか?」
「アレス副団長からの推薦で騎士団に配属が決まりましたわ。訓練が辛いと愚痴は言っていましたが、人一倍に努力はしていますし、槍術のセンスは誰よりもあることが理由です」
「大出世だな」
「ですね」
そして会話が終り無言の空間の中、俺はアレーシアが良いって言うまで頭を撫でた。
「ありがとうございますハヤト様。明日見送りに行きますね」
「わかった。それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
アレーシアの部屋を後にし月の光が照らされていた廊下を歩きヴェルが寝ている部屋に戻った。
ヴェルの隣で横になり俺は明日の事を考えながら眠り就いた。