出会い
8年前。当時17歳。
どこにでもいる普通の女子高生。
ルーズソックスにミニスカートが定番だった。
某ドラマの芸能人に憧れ、ブレザーにブラウスとネクタイ、チェックのスカートという制服を着たいがためだけに選んだ、黎明高等学校。
共学校ということもあり、女子はオシャレに余念がない。
放課後はトイレの鏡とにらめっこ。
ヘアアレンジに、メイクに、スカート丈をチェックし、友達の佐々木唯に問う。
「どう?変じゃない?つけました方がいい?」
「瑛美は元が可愛いから、つけましなくても大丈夫よ。髪は巻いとく?」と、唯はカバンからアイロンを取り出した。
ーおぉっ、私はそこそこ可愛いらしい。
自慢ではないが、告白されることはまぁあるし、告白すればまぁオーケーされる。
実際、見た目って大事なのかな。
そもそも私だって、背が高くて、かっこよくて、オシャレな男子には自然に目がいくものだ。
ならば、男子だって一緒でしょ。
可愛かったり、美人だったり、スタイルが良ければ、自然に目がいくはずだ。
見た目で第一次審査突破ってとこだろう。
そして次は第二次審査突入。
要は性格。中身ってこと。
おもしろくて、優しくて、大らかで……。
求めてしまえば切りがない。
そして最終審査は、お互いの相性。
実は最終審査が一番大事だったりするのかもしれない。
ピロン。ピロン。唯の携帯にメールが届いた。
ブレザーのポケットから携帯を手に取り、
「瑛美!そろそろ行かないと。男性陣カラオケボックス到着するって。」
「やばい。急ごう!」
いそいそとメイク道具をカバンに突っ込んで走り出す。
向かう途中、友達二人と合流し、カラオケボックスに到着した。
今日はいわゆる合コンってやつだ。
女子四人。男子四人。
人数は割り切れても、そううまくはいかないもので、お気に入りが誰かに集中すると厄介だ。
そう、面倒くさいことになる。
その場合、私は平和主義な人間だから、競うことなく流れに任せてしまう。
気に入った男子が、友達と付き合ってもなんとも思わないのか?
答えは……なんとも思わない。
なぜなら人を、男子を本気で好きになったことなんて一度もないからだ。
そんなに魅了する男子なんて、スカウトされて今頃テレビに出てるでしょう。
それに歳頃男子の頭の中なんて単細胞。
私は「キャーキャー」騒いでるくらいがちょうどいいのだ。
「ごめん。ごめん。待たせちゃった?」
唯が謝り、笑顔でごまかす。
「いやいや、大丈夫。それより唯!今日レベル高いなー」
馴れ馴れしく唯の肩に腕を回す男子。
ー誰だ。こいつ。唯の友達かな。
こういう人はまず却下。
完全に見た目で判断してるし、何を考えているのかその先を読めてしまう。
「とりあえず適当に座って、飲み物頼んで自己紹介しよう!」
ーほらほら、仕切り始めたよ。
こういう人も必要だけど、私は苦手なタイプである。
「なに飲む?」
右隣から声がした。
第一次審査落選。
顔はタイプではない。身長も普通。身なりも普通。雰囲気も普通の男子が声をかけてくれた。
「あっ、じゃぁウーロン茶お願いします」
答えながら、私はキョロキョロ見まわした。
高校二年生。彼氏はいません。
合コン来てても、実は内緒で本命がいたりするのは承知だ。
今日もそれなりに楽しめれば良しとしよう。
苦手な人が、
「飲み物も頼んだことだし、自己紹介しよう。それじゃぁクルクル巻の君から」と、目が合う。
クルクル巻って。私のこと?
ーもっと別な言い方あると思う。
心の声を悟られないように、
「初めまして。栗田瑛美です」
作り笑顔で、名前だけさらっと言い終えてソファーに腰掛ける。
その時だった。
四角い箱で囲まれた部屋に、スポットライトが照らしだし、きらきらと光が差した。
薄暗い部屋の離れた席で、存在感を漂わせ、目が釘付けになった人。
「吉田悠斗です。ども。よろしく」
照れくさそうに指で鼻をこすりながら、下を向いてそのままソファーにもたれる。
今までの17年間。
それなりに好きになり、それなりに付き合って、それなりに恋というものを経験はしてきたはずだ。
吉田悠斗。
ただ不思議と、柔らかい雰囲気のあなたには、きらきらした瞬間があった。
今でも忘れない。あなたに出会ったときのこと。