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ノワールの掟  作者: 棒王円
3/4

魔法のローブ








潮風は何だか湿気を運んで来て、顔がちょっとべたつく気がする。

僕らは港から来る人にローブを売っているような店を聞いてみる。親切な船員さんが来て本通りの一本裏道に魔法道具の店があることを教えてくれた。

お礼を言って手を振ると大きく手を振り返してくれる。


「親切な人がいてよかった」


僕がそういうと複雑な顔をしてガルトが言った。


「お前は単純で良いな」

「ん?どういう意味?」


なんだか良い意味で言われていない気がして聞き返すと、思った通り変な表情のまま肩を竦められた。


「美人は得という事だ」

「誰が美人?」


はあってワザとらしく溜め息を吐きましたって顔をされた。

どういうことですか、それは。


「お前は自分の顔を百回鏡で見るべきだ」

「え、なにそれ。千本ノックみたいで怖いんですけど」

「つまり、自覚しろという事だ」


もう一度何をと聞くのは憚られた。僕の顔の話だろう。

フィギュアみたいな精巧な顔になっている僕の。


好きでこの顔な訳ではないし、これの有用性なんて当分わからない。

自分は気持ち悪いだけのこれは、他人には有効なのだろうか。


「ガルトはこの顔をどう思うんだ?」


僕の本当の顔を知っているはずのガルトは、どういう意見なのだろう。


「凄まじい」

「え、またそれ?」


意見は変わりません的な、ちょっとどや顔で言われて、僕はどう答えたらいいのか悩む。その台詞、基本的に意見がしにくいんですけど。

分かっているのかガルトは続きの話などせずに、教えて貰った通りにあった魔法道具の店の中に入っていく。僕はその店構えが、向こうの世界的に有名なファンタジー小説の杖の店に似ている事に、ちょっとワクワクしながら中に入った。

中に入ってみると案外明るくて、店内も外とは違ってカジュアルな感じで肩透かしを食らった気分だ。


先に入ったガルトを探すと店の中ほどで、見知らぬ人に物凄く接近されていて焦った顔をしている。あっという間に腕を組まれてさらに困った顔になっていた。

ポカンと見ている僕に、二人とも気付いてこっちを見る。


「あら、綺麗な子を連れているのね、お兄さん」


ものすごくナイスバディのお姉さんが、ガルトの腕に絡みついたまま僕を見てそう言った。その声が果てしなく低い声で、僕にはすぐにおかまさんだって分かったけれど、あえて言うような愚は冒さない。

だって怖いじゃないですか。実物のおかまさん。


僕が知っているのはテレビに出ているようなおかまさんばっかりで実物を見るのは初めてなのだけれど、存在感が半端ない。

おかげで店に何の目的で入ったか忘れそうになった。


ああ、そう、ローブだよね。


小さな光を放つ水晶や何やら小刻みに動いている箱やらが置いてある棚の向こうに、杖やローブが売っていた。

僕が服の下がっているハンガーの所に行くと、そのままの体勢でおかまさんがまた声を掛けてくる。どうやらガルトの腕を放す気はないようで。

近くで接客されても怖いから出来ればそのままでいてほしい。

仕方ない。贄になれ、ガルト。


「あなたの身体に合う物は種類が少ないのよ、ごめんなさいね」

「見てみます」

「そ~お?」


僕の返事にはあまり興味が無いというように、おかまさんは指先でガルトの胸を撫でたりしている。僕がちらりと顔を見ると、硬直したまま青い顔で早く選べと無言の圧力をかけてきた。

男として気持ちは分かるから、なるべく早く選んであげよう。

というか、僕が着られるサイズの物は本当に少ししかなくて、結局色で選ぶと黒いローブになってしまった。わずか一分ほどで選んだ僕に、おかまさんが大きな舌打ちをする。


いやいや、僕のせいじゃないからね?


「これを下さい」

「あら、そんな色でいいの?ピンクもあるわよ?」


どうしてみんな僕にピンクを勧めるのか。訳が分からない。


「これで」

「ええと、白金二枚よ」


白金って?金貨じゃ駄目なのかな。


「あの、金貨じゃ駄目ですか?」

「金貨なら、二百枚ね」


高。

金貨をあまり出していないからどうしようと思っていると、ガルトが凄い勢いで白いお金を出して、ローブを掴んで出て行った。慌てて僕もついて行く。


お店から物凄い離れた場所まで走ってから、ガルトが僕を振り向いた。

目が真ん丸に開いていて怖い。


「あれはなんだ」

「え、おかまさんだと思うよ」

「なぜショウは普通の顔をしているんだ、人間にはあんな人種がいるのか」

「え、種族は一緒だよ」


激しく眉を寄せて怖い顔のまま、ガルトが握りしめていたローブを渡してくれた。

とっさに選んだローブだったけれど、肌にしっくりと来る良い布地だった。纏うとサラリとしていて着心地もさることながら、気温までもが変わった気がして驚いた。


「これ、魔法のローブなのかな」

「基本的にローブには全て魔法がかかっている」

「そうなんだ」


納得して頷く。

さっき借りたガルトのローブはどんな効果があるのか分からなかったけれど。

そう思って見ると、僕の目線の意味を分かったのかガルトは自分のローブを指先で軽く撫でた。


「これは姿を見えにくくする効果がある」

「え、何でそんな効果が?」


そしてさっきは効いてなかった気もする。

再び怖い顔をされて僕は視線を逸らした。そんなに不機嫌になられても困る。

ああ、犬がこっちへ向かって駆けてくる。良い日よりだから散歩かな。凄い元気だな。真っ直ぐこっちへ向かって走って来る躍動感が素晴らしい。

って。突進してくるよ!?


避ける間もなく犬とドカンとぶつかった。

跳ね飛ばされて道に転げたけれど、犬は止まる事なく走り去っていく。

どれだけ怖い物が追っかけてくるっていうんだろう。犬のきた方向を見たけれど別に何も追って来てはいない。平和な街並みのままだ。

じゃあ何であの犬はあんなに必死で走って来たのか。


犬の行った方向を振り返って見ると。何と同じ犬がまたこっちに向かって走ってくる。

え?なに?どういうこと!?

またドカンとぶつかった。今度は犬の顔を見てみる。ちっとも楽しそうでは無くて口から泡を吹いて目なんか血走っていて。走り去ったかと思ったらまたUターン。


なに!?どういうこと!?


さすがに三度目は避けようと思ったけれど、避けた方向に犬が走り込んでくるから避けようもなく、また転がるかなって思ったらひょいっとガルトに抱えられた。

犬はガルトにぶつかることはなく、困ったようにたたらを踏んでからうろうろと彷徨う。


「ど、どうなってるんだろう」

「俺が聞きたい。ショウは何かしたのか?」

「昨日此処に来たばかりで、知り合いがあなたしかいない僕にそれを確認すると!?」

「そうだよな」


納得したガルトは僕を抱えたままその場を離れる。犬はついて来ずに同じ場所をうろついていた。何度か振り返り確認をした後で、ガルトが僕を降ろす。

その途端に犬が遠くから走って来た。地面に足を付けているのが探知の元なのかもしれない。僕と同じ考えなのかガルトがまた僕を抱えると手前まで来ていた犬がストップしてうろうろしだした。

僕らがすぐ傍に居るにもかかわらず、だ。


「…これが原因かなあ」


僕がローブをつまんで聞くと、ガルトが眉を顰めた。


「それが?」

「これを着た後にすぐこうなっているだろう?」

「…そうか。それも一理あるな」


僕がローブを脱ぐと、地面を嗅ぎまわっていた犬がその行動を止めて、きょとんとした顔になった。


僕は地面に降りて犬を見るけれど、何の反応もしない。


「これだね」

「それだな」

「…呪いのアイテムってやつ?」

「だろうな」


何で呪われたものをあんなに高く売っているのか。聞きに行きたいけれど、ガルトは全力拒否をしている。行きたくないらしい。


「ガルトの色仕掛けで呪いを解いて貰えないかな」


僕の呟きにガルトが目を剥いた。

ごめんなさい。嘘です。そんなことしません。本当です。

だからそんなに離れないでください。寂しいじゃないですか。


しかし、呪われたままのローブを持っていても仕方が無い。

かと言って呪いを解く方法なんて知らないし。

立ったままぼんやりと考えている僕に、声を掛けてくる人物がいた。


「君、そのローブを着られるの?」

「え?」


見上げると、人の良さそうな男の人が僕を見降ろして笑っていた。

不穏だ。

こんな風に近寄って来る人は、きっと悪人に違いない。

知らない子供に笑顔で話しかけるなんて。腹黒い魂胆があるか詐欺師だろう?


「それは随分と魔力を含んだローブみたいだけど、着ることが出来るって事は君もそうとうに魔力の保有が高いって事になるよね?」

「そうなんですか?」


防具を付ける事に、魔力が関係しているとは思わなかった。

ガルトは言わなかったし。

ん?あれ?

見回したけれどガルトの姿が無い。

もしや気を悪くして何処かへ行ってしまったのだろうか。そんなにおかまさんが怖かったのかな。


僕はもう一度男の人を見上げる。

良い笑顔だなあ。

物凄く信用できなさそうだよ。





2018.1.13 改稿

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