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5:仕事

「許さんッ! 絶対に許さんぞッ!」

 工具を山盛り担いで叔父さんが猛っている。

 でも、僕はその様子をコックピットからモニター越しに眺めているわけじゃない。ちゃんと正面から、自分の目で鼻息の荒い叔父さんの姿を見てる。

 とは言ったけれど、実際はただアルシエルのコックピットじゃないというだけ。その黒く大きな手のひらの上に乗せられて半分捕まってるような状態には違いない。

 それで叔父さんが許さないと言っているのは、もちろん僕を手に乗せているアルシエルに対して。だけれどアルシエルにだけじゃない。

「……どうか、ご理解いただけませんか? イチカくんの手を借りないことには、我々は穏便にアルシエルを持ち帰ることも難しいのです」

「何度頼まれても断る! それをどうにかするのがお前さんたち軍人の仕事だろうがッ!!」

「そこをどうにか……我々としても、いつまでも民間人の少年に頼るつもりはありません。事が終われば必ず、無事に!」

 パカル叔父さんに断固とした口調で突き放されて。でも重ねて頭を下げるのは、ラティさんの上司のハンス・ハンス中尉さんだ。

 背が高くて分厚くがっちりした体に、短く刈り込んだ金髪。それに武骨な風に角ばった顔立ちはまさに軍人って感じで頼もしい。細身な僕としてはこういう骨太なかっこ良さはうらやましいところがある。

「ダメだダメだ! 道理を引っ込ませるにしても無理が過ぎるッ! そもそもこんな制御できないようなモンを作ったのはそっちで、捌ききれずに暴走させたのもそっちだろうが! なんでお前さんらの尻拭いにウチのイチカが手を貸さなきゃならんのだッ!?」

「ぐ、むぅ……」

 それを言っちゃうのは、ハンスさんもラティさんもつらいんじゃないかな叔父さん。

 ハンス隊のみんながフロンティア軍なのは間違いないし、アルシエルもフロンティア軍で作ったものだけれど、ハンスさんとラティさんが作ったわけじゃないんだし。

 ここはちょっと僕が間に入らないと、かな。

「あの、パカル叔父さん? 軍のことでもハンスさん達にもどうにもならないところだってあるだろうしさ、それに僕のことなら……」

「お前は黙っていなさい!」

「は、はい……」

 と、思って助けに入ろうとした僕もぴしゃりと締め出されてしまった。

 口が行き場を無くしてしまったので、僕は仕方なく朝ごはんに持っていたトウモロコシにかぶりつく。

 うん。やっぱり蒸し焼きにしたのにかじり付くのが一番おいしいや。フレークとかだとトウモロコシ感足りなくて物足りないからね。

「いや、お前もそこで引いちゃうなよ」

 そのままトウモロコシの粒を一列一列芯からはがしにかかっていた僕に、呆れたような声がかかる。

「隊長をかばいに入ってくれる気だったんだろ? 自分で決めたんなら簡単に引いちゃダメだろ」

 そう言うのは、ナオト・ピッコロ少尉さん。さらっとした黒髪にちょいと垂れた黒目をした細身の軍人さんだ。

「それはそうかもしれないですけどピッコロさん……」

「あ、ちょっとそのイントネーションは止めてくれ。それだとなんか、ガラティアかお前か、その辺の盾になって死にそう。カッコいいけど、縁起でもねえや」

「はい?」

 何を言ってるのかこの人は。

「……まあ、それはともかく、黙ってろって言われた僕が割り込んでも、叔父さん余計に意固地になるだけですし」

「そんな感じだわな。そこは分からんでもないが」

 思わず下がってしまったのを、さももっともらしくしてしまったけれど、ピッコロさんはうなづいてくれた。

「そういう、ピッコロ……さん。は、隊長さんの助けに行かないんですか?」

「そうそう、それならいいや。で、俺がいっしょくたになって怒鳴られてて、それで何の役に立つってんだ? それよか、瓦礫よけでもしてた方が有意義ってモンだろ?」

 イントネーションに気をつけて呼んだ僕に、ピッコロさんはキシシッと笑う。

 それから前を開けていたスーツを着直して、近くで駐機状態であった自分のライムブラッドに向かう。

 虫の複眼のような大きなカメラアイを備えた明るいグレーの機体。顔だけはアルシエルに通じる所があるけれど、他はまるで似ていない。

 一番大きな違いは片膝立ちになっているその脚だ。人間型でバッタ型のアルシエルとは真逆の膝関節になっている。

 だけれど、LBとして主流派なのはむしろ人間型のほうで、アルシエルのようなのは僕が知る限り他にはいない。

「でも、フロンティアのクラウド……ともちょっと違うかな?」

 だけど、隊長さんとピッコロさん二人のLBは、つい昨日腕を拾った現行の主力機クラウドとも違うようにも見える。

「ええ。二人が使ってるのはクラウドベースのカスタム機よ。クラウドカスタム、ストームクラウド」

「ラティさん」

 そんな僕の疑問に答えてくれたのは、上のインナースーツをさらしたラティさんだった。

「もともとクラウドは、武装の選択と簡単な改装で様々な局面に対応できる優秀な機体だけれど、それをより高出力を要求する実験的な装備に対応できるように改修したものよ」

「実験的な装備……じゃあハンス隊の皆さんは、実験部隊?」

「そうよ。試作品を試験して、そのデータをまとめるのが私たちの部隊の主な任務。だから、こんなとんでもないじゃじゃ馬まで回されたんだけれどね」

 ラティさんはそう言って、苦笑気味にアルシエルを見上げる。

 それにつられて僕もアルシエルを見上げる。

 すると、赤くて大きな目でこちらを見下ろして首を傾げるアルシエルと目が合う。

「よし。やろうか」

 僕は食べ終わったトウモロコシの芯をルカの分解機に突っ込んで立ち上がる。

「パカル叔父さん!」

「口を挟むじゃないと言っただろう!?」

「だから僕も、修理やらやってくるからって!」

「なに? 道具も取りに行けないでどうやって!?」

 まあそうだよね。叔父さんがそう思うのも無理ないと思う。ラティさんだって首をひねってるし。

「いや。頼もしいのがここにいるじゃない。アルシエルに指示してさ」

「はあ!? コイツにか!?」

 アルシエルを腕全体で示した僕を、叔父さんだけじゃなくみんなが大きく開いた目で見てくる。

 そんなにおかしなこと言ったかな?

 いくら軍用試作機って言ったって、ライムブラッドだよ? 場面次第だろうけど、重機以上に働けるに決まってるじゃない。

 それにいくら頑固な自我があるって言ったって、僕は今のところ拒絶されてないって言うか、むしろ親鳥雛鳥な具合になつかれてる訳だし。なら遊ばせておくよりも、僕が指示出して働いてもらうべきでしょう。

「じゃあそう言うわけで、この子にもひと働きしてもらうから……」

「いや、ちょっと待って、待って!」

 でも動きだそうとした僕に、ラティさんからの待ったがかかる。

「あっと、やっぱりまずいですか? 軍の試作機な訳ですし、僕が勝手に働かせるのは」

「それもそうだけれど、いいの? このじゃじゃ馬に巻き込まれたせいでイチカくんは……」

「ありがとうございます。でも、僕なら大丈夫ですよ」

 軍の機密よりも僕の心の心配をしてくれたことは嬉しい。

 やっぱりラティさんは優しい人だ。本当に、どうしてアルシエルが拒絶するのか分からないくらいに。実はただ単純に、お互いにウマが合わないだけなんじゃないだろうか。

「けど、そうですね。心配ならラティさんも一緒にコックピットに入ってくれませんか?」

「え? 私も?」

「うん。それがいいだろう。オーランド少尉、見ていてやってくれるか?」

「隊長? いいんですか!?」

「ああ、構わん。ついでだ、わがままな機械の御し方を近くで見せてもらったらいい」

「うぐっ……わかりました」

 隊長さんの指示に、ラティさんは苦虫を噛み潰したような顔になってうなづく。

「えっと……あんまり、気にしないでくださいね?」

「そういうわけにもいかないわ。そもそもは試作機を扱いきれなかった私の責任には違いないもの」

 慰めになるかわからないけど、とにかくあまり気に病まないようにと僕は乗りやすいように手を伸ばす。僕の手を取ってくれたラティさんだけれど、左右に振られたその顔は晴れないままだった。

「でも、ありがとう、イチカくん」

「い、いえ。僕は何も……」

 危なかった。危なかった!

 キリッとした顔の女性が弱り顔でお礼を言うだけで、こんなにも胸に来るとは思ってなかった。

 思いっきりボケっとしてしまって、危なく引っ張り上げ損なうところだったよ。

 一見すると凛々しいぶん、ふと見えてしまう弱さとのギャップがよけいに鮮やかなんだろう。

 そんな風に分析してないと、手を取ってしまってることでお祭り騒ぎな胸の内に、収拾がつかなくなってしまいそうだ。

「とにかく! 話が決まるまでぼんやり待つだけなんてもったいないし、僕は今できることをしにいくから!」

「おい、イチカ!?」

 頭を切り替えるためにことさら大きな声を出して、僕はアルシエルにコックピットまで運んでもらう。

「ラティさんだけどうにか閉め出そう、ってのは無しだよ?」

 出入り口を跨ぎながら、僕は念のため中へ声をかける。するとギクリとするようにアルシエルの機体が震える。

「……まったくお前ってヤツは……」

 手を引いてるからと油断しないで、牽制しておいて正解だった。

 アルシエルの性能はともかく、こう言うところは全然信用ならない。まあ、飼い主以外には唸って吠える犬のようなものだろうか。ただ人間の10倍程度のボディサイズでそれをやられては、シャレにならない。

 念のため、ラティさんに先にコックピットに乗り込んでもらってから僕とルカが続く。

「ああ、もう!」

 先に乗り込んでいたラティさんはレバーを掴もうとしているけれど、そのたびに逃げられ、逆にぶつかってきたレバーに手を弾かれている。

「アルシエル?」

 悔しそうに拒まれた手を握り締めるラティさん。僕はその横に並んで、アルシエルの行動をとがめる。

 けれどアルシエルはレバーを盛んに動かす。

 そしてモニターには「ヤダヤダヤダ」の文字がいっぱいに。

「駄々っ子か……」

 あまりにも幼いこの拒否反応に僕はため息をつく。そしてラティさんと目くばせをして、シートにつかせてもらう。

「これでいいんだろ?」

 ラティさんを右となりに操縦席についた僕は、レバーから返ってくる手ごたえに苦笑を浮かべる。

「じゃあ始めようか。ラティさんも、いいですよね?」

「ええ。そうね。お願いするわ」

「いきます」

 両手のレバーから僕の指示を受け取ったアルシエルは緩やかに膝を伸ばして立ち上がる。

「よし、じゃあそれとそれ。あとそのあたりのも」

 危なげない立ち上がりに続いて、僕はアルシエルに辺りに集まっていた修理用の資材を抱えてもらっていく。

 その間に僕はタッチコンソールを操作。確認したい情報を呼び出す。

「何を見たいの?」

「基本武装のデータですよ。もう使ったのはありますけど、ちゃんとどんな道具を持ってるのかは調べませんと、ね」

 やがて目当ての情報が画面に現れる。

「頭部エネルギーガン3門に、腕部にブレード……が4本? なんでまたこんなに?」

「あいにくそれは私にも分からないのよ。マニュアルは内部データを呼び出して確認するように、ってテストしてたんだけど、アクセス拒否されちゃって」

「そうなんですか」

 予備としても無駄の多い構成に思えて疑問はある。けれども、知りたいことは知れたので良しとしよう。

 LBの使用しているエネルギーブレードは一般的にエネルギーガンと兼用で、短距離ならば射撃武器としても使える。

 当然出力の調節は可能で、それは今開いている武装カタログからできる。

「うん、うん。了解ですよ」

 僕はコンソールにくるくると指を滑らせてブレードのパワーと長さを調整。これからの作業に最適化させておく。

「じゃあアルシエル、飛んで」

 前準備を整えたところで、僕は向かうべき場所を示して、アルシエルに飛んでもらう。

 飛ぶ、とは言ってもバッタ脚のバネで全力ジャンプ! からのスラスター全開! なんてやるわけじゃない。

 アルシエルに長い脚を限界いっぱいまで伸ばしてもらって、そこからスラスターを噴射。重力と推進力とが釣り合ったところで脚を折り畳み、ホバリングへ。

「いいよ。そのままそのまま」

 それから慎重にスラスターの出力を上げさせていって、アルシエルのボディを緩やかに上昇させていく。

 抱えた物を取り落とさないように昇った先は、ガムで塞がれた内天井の大穴。昨日アルシエルが開けた風穴のひとつだ。

 アルシエルに、自分の壊したものの始末をいくらかでもつけさせてやりたい。それが僕の考えだ。

 薄いガム膜の向こうでは、すでに塞がれた外天井が見える。つまり、このガムが破れても、もう空気は洩れたりはしない。

「いいかい? まず壁材に拾ってきた板をおおよそに合うところに当てて」

 僕の説明を受けて、アルシエルは金属板のひとつをぎざついた穴の縁に当てる。

 その板はガムにくっついてその場に固定される。

 けれどいくらか形をあわせたとは言え、もちろんそれですき間無くぴったりにはまるなんてことはあるわけがない。

 でも、とりあえずはそれで充分だ。

 そうしてアルシエルに持たせていた金属板を次々に、大まかに穴の縁に合わせて配置。これで第一段階が終了だ。

「さて、ようやく次はコレの出番だよ」

 修理の第二段階として、僕はアルシエルに右手首に内蔵のエネルギーブレードを抜かせる。

 けれどグリップ型のデバイスから伸びた刃は昨日とは違い、調整したとおりのちんまりとしたナイフ程度の刃渡りしかない。

「さてアルシエル。ここからは僕の腕にしっかりついてきてよ?」

 僕がそういうと、肘置きになっている部分が展開。その中に収まっていたトレーサーが、僕の腕に自動的に装着される。

 骨組みだけの籠手のようなトレーサーに覆われた腕を軽く持ち上げて、右手で緩く空気を握る。するとそれをきっかけに僕の腕とアルシエルのがリンク。僕の腕の動きそのままにアルシエルの腕が動くようになる。

 通常ならばLBはレバーペダル操作を受けて、地形などに合わせた細かな調整を自動で行う形で動いている。けれども、それ以上にこちらでより繊細な操作を行いたい場面もある。そこで用いられるのがこのアームトレーサーというわけ。言ってみればいまは精密作業モードといったところだ。

 もっともアルシエル相手だと、後ろから手を重ねて作業を教えているような感覚だけれども。覚えてさえしまえば、後は自動でやってくれそうだし。

 そんなアルシエルだから、アームトレーサーがついているかどうかは心配だったけれど、汎用(バーサティル)仕様から大きく離れていないコックピットには要らない心配だったみたいだ。

「イチカくん、本当に大丈夫? 無理してない?」

 そしていざ作業にかかろうというところで、ラティさんから心配そうな声がかかる。

 ラティさんの不安げな視線をたどってみると、ちょうど僕の右手に、アルシエルと重なってエネルギーブレードを握った手に当たっている。

 確かにいま僕が持っているのは、昨日人を殺めた武器だ。直後にあんな取り乱した姿を見せてしまったんだから、ラティさんが心配するのももっともだ。

「大丈夫ですよ。いまは人に向けてる訳でもないですし、怖がってばかりもいられませんから」

 けれど僕は、笑顔と合わせて心配いりませんよ、と返事をする。

 車やら刃物やら、犯した罪と道具とが強く結び付いて、その道具を拒絶してしまう。よくあるトラウマ話だ。

 だけど僕は本当に大丈夫だ。そんなことになっていたとしたらアルシエルと作業どころじゃなくなってるだろう。理屈で分かってるからって、どうにかなるものじゃないだろうし。

 ラティさんに答えた一方で、僕は最低出力のエネルギーブレードの刃で溶かした金属でもって、穴とそれを埋める金属板とのすき間を接着してみせる。

 怯えの無い手際を、心配する必要の無い証明とするために。

「道具は道具ですから。気にしてない訳じゃないですけど、こういう使い方してる分にはまるで問題無しですよ」

 そう。道具に罪は無い。調理道具の包丁が人を刺すこともあれば、鈍器が障害物を破り、脱出路を切り開くこともある。すべては使い手次第。使い方次第なんだ。だから僕は道具を怖がったり憎んだりするよりも、どう活かすかを考えたい。

「そう。強いのね。イチカくんは」

「いやそんな。いざまた人の乗ったのに向けるとなったら、どうなるかは分かりませんよ?」

 でも、兵器に兵器以外の使い方を求めるというのも、ある意味では逃げなのかもしれない。何と戦い、何を倒すために使う力なのか、それを見極めるのも使い方を考えるということなんだろう。

 そんなことを考える一方で、僕はアルシエルの手を誘導して、天井のはんだ付け作業を続ける。

「よし。いいぞアルシエル。上手い上手い」

「それにしても、まるっきり小さな子供に教える風なのね? 勝手に動くのは思い知ったけど、LB相手にはまだちょっとピンとこないわね」

「そうですか? でも、教えてるっていうのは確かにそうですね。どういうわけか、せっかくアルシエルには自分の意思があるんですから、生まれとは違った生き方を選べるようになってもいい。そう思うんです」

「イチカくんがそこまで気に掛けることじゃないと思うけれど?」

「いや、僕もただ何となく放っておけなくてってだけですよ?」

「面倒見がいいのはいいことだけれども、ストーカー女みたいなのまで抱えてしまいそうね?」

「……ごめんなさい。思い出させないでください」

「あっ、手遅れな話なのね……」

 話の流れからよみがえった忌まわしい記憶に、僕はたまらず顔を背ける。あの時のことはもう思い出したくなかったのに……ああ! 窓に、窓にッ!?

 いけないいけない。作業中なのにとり乱してしまった。

 でもやり方を覚えていたアルシエルは、止まっていた僕の手を置き去りに接着作業を続けてくれていたので助かった。

 そうしているうちに、穴を塞ぐ作業は終了。初心者に教えながらにしては、なかなかにきれいに仕上がったと思う。

「うん。いいですね」

 そうして出来映えにうなづいていると、不意にコックピット内に警告が響く。

「なに!?」

「隊長ッ!?」

 ラティさんがモニターに目を向けると、ちょうどそこに小窓が開いてハンス隊長の厚く角張った顔が出てくる。

『昨日交戦したLBの同型機が複数接近中だ。俺とナオトは迎撃に出る。オーランド少尉はイチカ君と残れ』

「りょうか……」

「待ってください! 僕らも出ます!」

『なんだって?』

 ラティさんの返事を遮って反対する僕に、隊長さんの太い眉毛が跳ね上がる。

 隊長さん厳ついから、これだけでも迫力あるなあ……でも、ここで折れたらダメだ。

「連中の狙いはアルシエルなんでしょう!? なら、出ていかなきゃここに、居住区に踏み込もうとするってことですよね?」

「それはそうだろうけれど、やらせないために隊長たちが出るのよ?」

「ですけど、また穴を開けられたら不味いんですよ!」

 壁の穴は今塞いだばかりなんだ。それも応急修理もいいところで。

 中の空気だって、まだ完全じゃあない。

 奴らがもしも突入しようと、壁や天井にもう一度穴を開けたならば、空気が薄くなりすぎてみんな窒息してしまうかも知れない。

 この町が、叔父さんたちのいるここが死んでしまうかも知れないんだ。

 それで僕だけが生き残るなんて、我慢できるわけがない!

「だから、ここをアルシエルと一緒くたに、敵の標的にはしたくないんです! お願いします、行かせてください!」

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