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21:暴走

「ルカッ!」

 殴られ投げ出される助手の姿に、僕は追いかけて飛び出していた。

 コックピット前のステップに弾むルカ目掛けてジャンプ。抱き止めるようにキャッチする。

 そこまでは良かった。

 けれど飛びつきの勢い余った僕は、正面を塞ぐLBのボディへ真っ直ぐに。

 僕は体を丸めて、顔からぶつかる所を肩と背中からに変える。

「頼むよ!」

『任セテ』

 痛みを堪えながら、腕の中のルカに吸着アンカーを依頼。目の前の壁に命綱を付ける。

 これでどうにか助かった……かと思いきや、激しい振動がアンカーを通して響く。

「アルッ!?」

 それはアルシエルの悲鳴だ。

 拒否感と嫌悪。濃いそれらの色に染まった叫びに、僕はアルシエルの中に敵をそのままにしてきたことに気がついた。

 次の瞬間、僕らが命綱をくっつけた残骸が薙ぎ倒される。

 アルシエルが寄りかかったLBを力任せに振り払ったんだ。

「うわあああッ!?」

 大きく横に引っ張られる僕たち。その真下を、アルシエルの振り回すエネルギーブレードが通り過ぎる。

 あんなのが当たったら死んじゃうぞ!?

 いまアルシエルは僕の事がまるで見えてない!

 ザッと冷や汗を浮かべながら、僕は倒れる機体からワイヤーを解除。巻き取りながらルカのアポジモーターで姿勢制御する。そして巻き取りが終わると同時にアルシエルに向かって吸着アンカーを射つ。

 行くのなら腕の内側の方だ。その方が安全だし、なによりもアルシエルを落ち着かせないと!

 そう思ってのアンカーだったけれど、振動し続けるアルシエルの装甲に弾かれてしまう。

「なんってぇッ!?」

 計算外れに僕は思わずすっとんきょうな声を上げてしまう。

 ふと、そんな僕の視界が暗くなる。

 いや、めまいがしたとかそんな事じゃない。

 単純に僕の視界から明るさが失われたんだ。

 明るいのは目の前にあるアルシエルの機体だけ。

 影に沈みながら輪郭だけに光を帯びたその姿は、そう、まるで日蝕の太陽のようだ。

 僕がそう連想したところで、アルシエルの額が輝く。

 溢れた輝きは濁流のように影を押し流して広がる。

 触れれば融けてしまう。そう思えるほどに暴力的な光が過ったのはほんの一瞬。

 だけれど、通り過ぎたその後には何もない。

 LBも、建物も、その進路上にあったはずのものが、全部消えて無くなっているんだ。

 僕は正直、これをやったアルシエルのことが怖くなった。

 そんな怯えに固まった僕の体は、緩やかな重力に引かれて地面に落ちる。

 そのままろくに受け身も取れないまま、ゴロンゴロンと転がってしまう。

「う、う……アルは?」

 ぶつけたあちこちからの痛みに顔をしかめながら、僕は近くの壁を支えに立ち上がる。

 そうして探し当てたアルシエルの後ろには、斧を胸から生やした敵が。アルシエルは今まさに、背中から斬りかかられようとしていた。

「アルッ!? 後ろッ!」

 この僕の叫びは届いていないはず。

 だけどアルシエルは振り向きざまに敵のブレードを払い、対の手で一撃。

 それは腰から、コックピットの高さから、機体を上下に両断するものだった。

 あれは助からない。

 躊躇無く相手の命を奪うアルシエルの剣さばきを見て、僕はそう思った。

 そんな僕をよそに、アルシエルは続いて切りかかってきた敵の腕を落とし、その次を隠し腕の突きで串刺しにする。

 そうして瞬く間に襲ってきたものを返り討ちにするやいなやジャンプ。次に目についた強盗風味を踏みつけ、四本の剣を突き立てる。

 そこからまた続けて別の敵へ同じように。さらにまた次に、また別のと次々に跳び移りながら破壊していく。

「アル! 落ち着いてッ! 僕ならここだから、無事でいるから! ルカッ!?」

 僕は無線通信を開いて、落ち着くように呼び掛ける。そうしながら、暴走したアルシエルを招き寄せた実績のあるルカにも頼るけれど、もうとっくに目を点滅させて呼び掛けてくれてる。

 でもアルシエルは手当たり次第に敵を切り捨てて、味方の基地施設もお構い無く蜂の巣にしていく。

 これは僕の声もルカのもまるで聞こえてない。

「どうしたら、どうしたらいい!」

 打つ手が思いつかないことにいら立ちながら、僕は使えるものが無いかと辺りを見回す。

 強盗風味を奪おうにも、辺りに見えるのは大破してるものばかり。

 基地の備品も手近なところでは同じようなものだ。せめて健在なウォーカービークルでもあれば違うのに!

「無い物ねだりは時間の無駄か」

『……ちかくん!? ……うぶ!? 応答……』

 ならばこの身とルカだけで。

 そう心を決めたところで、ノイズ交じりの言葉が届く。

 辺りを見回せば、アルシエルを遠巻きに近づいてくるストームクラウドの三機部隊が見える。

「僕なら大丈夫です! 大丈夫ですよ!」

 僕はルカを頭上に抱え上げて、声とルカの光信号を使って応答。するとハンス隊の皆さんも僕を見つけてくれたみたいで、ラティさんの三番機を中心に僕を保護しにかかってくれる。

「大丈夫!? ケガは?」

 正座するみたいに停まった機体から飛び出したラティさんが、メット同士をぶつけ合って顔を覗き込んでくる。

「大丈夫です。多少体はぶつけましたけど、このとおりです」

「そう。とにかくこのままじゃ危ないから私の機体に」

 僕はラティさんに言われるまま、すぐ前に停まったLBに乗り込む。

 そうしてシートの裏側に回ると、ラティさんは手早く機体を立ち上がらせていく。

 それに平行する形で通信ウィンドウが開く。

『接触。聞こえるな? イチカ君、詳細を聞かせてくれ』

「分かりました。まずアルシエルは今、敵に奪われてます」

 接触回線を開いた隊長さんに求められて、僕は状況説明を始める。

 これまでの流れと、アルシエルが僕とルカの声もまるで受け付けないほどに暴走している現状。

 これらを何一つ包み隠すことなく報告する。

『最悪、と言っていい状況だな……』

 すると隊長さんは武骨な顔を苦々しくゆがめて唸る。

 無理もない。

 アルシエルの高性能ぶりは味方としては頼もしいけれど、敵に回れば厄介なだけでしかない。

 こんな状況になったのも、大きな被害が出たのも、僕が判断をミスしたせいだ。

 ルカをアルシエルに受け止めてもらうなりなんなり、もっと冷静に対応しなくちゃいけなかったのに!

『いやいや隊長。最悪っていうにはまだ一歩遠いんじゃないっすかね?』

 でもそこで、それまで黙っていたピッコロさんが通信に加わってくる。

 まだ最悪ではないというその言葉に、僕ら全員が疑問の目を向ける。

『いやだって、イチカが無事生きてるじゃないっすか』

「そう! そうよ! イチカくんが無事ならまだ止められるかもしれない!」

『……なるほど。確かに、終わったと決めつけるにはまだ早いな』

 どういうこと? 僕が無事ならまだ最悪じゃないって、いったいどうして?

 みんなが何でそんな答えに行き着いたのか僕には分からず、置いてけぼりになった形になる。

「アルシエルに拒絶されずにコントロール出来ていたのはイチカくんだけじゃない」

『もしお前に何かあったとしたら、それこそ壊すしか無くなってただろうな』

「で、でも今のアルシエルには僕の声が届いてなくて……」

「それでも、他の誰かがやるよりはずっと可能性はあるわ! これからアルシエルと潰しあいをするよりは、ずっと被害を抑えられる可能性が!」

 捨て身になってアルシエルを解放する。もう僕にできることはそれくらいしかないと思ってた。

 でもみんなはこんな状態でも、まだ僕にアルシエルを止めるためにできることがあると信じてくれてる。

 だったらそれに応えなくちゃ!

「ありがとうございます。やってみますから、力を貸してください!」

『協力に感謝するのは我々の方だ。口では色々と言っておきながら、結局イチカ君に危険を強いることになってしまってすまない』

「イチカくんのことは私が守るわ。任せて」

『んじゃ、俺と隊長で援護か』

『では、作戦開始だ』

「はい!」

 アルシエルを止める。助ける。そのために僕たちは行動を開始した。

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