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大航海時代

作者: 豪陽

王宮の奥の一室、椅子に座っている王に、一人の男が床に平伏して訴えていた。

「賢帝の御末裔にして、国の守護者、いと慈悲深き御方、信仰の擁護者、偉大なる国王陛下におかせられましては・・・」

「儀礼はもう良い。隠密の謁見である。余も時間が惜しい。」王は気乗りしない様子で言う。

「さあ、陛下の思し召しである。早く申し上げろ。」王の横に立っている貴族がとりなす。

「拝謁の栄を賜り恐懼の極みでございます。申し上げたいのは遠征隊派遣の話でございます。」

男は息せき切ったように話し出す。

「神の恩寵と国王陛下の御徳の御蔭をもちまして国は栄え、民は平和を楽しんでおります。豊かなるこの王国で、ひとつだけ不足しているものは何でありましょう?」

男はここで一度言葉を切る。

「早く申せ。」王はつまらなそうに促す。

「ははあ、王国で不足する資源、それは魔法資源、すなわち魔石であります。大魔法時代から千年余り、魔力の湧き出す魔力の脈は枯れ果て、魔石は地の底深く掘りぬいてようやく得られるものになっております。その魔石の鉱脈の採石も年々難しくなり魔石の品位も低下しているのであります。」

「そんなことはわかっておる。」王は不機嫌だ。

「金の時代、銀の時代、鉄の時代か。古代の人々は地形を変えるような魔法を使っていたと聞く。現代の我らは暗号と医療に惜しみ惜しみ使っているのみ。先人の大浪費が恨めしいわい。」

「国王陛下、そこで策がございます。未開の大地に魔石を探すのです。南方遥か『嵐の大洋』のまだ南に大陸が存在します。漂流民の証言、古代の大地理学者の記録、私の研究するところでは確かに南に大陸が存在します。その未踏の大陸を探し出し、そこで魔石を探索するのです。これをご覧ください。」

大事に抱えてきた箱から羊皮紙を広げる。

「これは私の長年の研究と探索により作成した世界地図です。大陸の配置の平衡から考えましても、ここに未知の南方の大陸がなければおかしいのであります。」

「ふむ。それで。」王は促す。

「現代では帆船も進歩しております。これまでになく頑丈で搭載力のある大船を建造可能であります。また航海術においても、天文学と磁針の利用により陸地の見えない大洋の航海でも位置を割り出すことが可能です。今こそ南方大陸へと船出するその時なのです。」

「もし、そこに先住の民がいたら?」

「行ってみなくてはわかりません。先住民がいたとしても文明から離れた蛮地であり、我々で圧倒することも可能であります。そもそも彼の地で文明が発達していたら、陛下の下まで外交使節を派遣しているはずです。」

「ふむふむ。」

「もし、万が一に文明があったとして、他国に先を越されて接触された場合、真に憂慮すべき事態ではありませぬか。」男は殺し文句とばかり、たたみこむ。

「他国に後れを取るわけには参りません。諸王の中の王たる陛下におかれましては、そこで遠征隊に資金を援助していただきたいのです。遠征隊を組織して臣は全知全霊を持って南方大陸を発見し、必ずや陛下に船いっぱいの魔石を献上します。」

「ははははは。此奴、船いっぱいの魔石とほざきおった。今日は愉快な座談であった。」

王は笑って手で合図する。

「ははあ。」

王の側近に促されるまま、男は平伏して後ずさり、部屋から下がった。


王は側近の貴族に問う。

「卿はあの男の話をどう思った?」

「途方もない話でございますね。」

「よほどの愚か者か、あるいは切れ者なのか。」

「枯渇する魔法資源、造船と航海術の進歩、そして他国の存在。雄弁家であったのは認めます。」

「あの者の言うところにも一理はあるな。資金が問題であるが。さて、どうしたものかのう・・・」王は男から献上された地図を改めて見つめるのであった。


結局のところ、王は男の試みに援助することにした。男に船団を託して大洋の向こうに国の発展を賭けることにしたのである。

かくして大航海時代が始まった。枯渇しつつある貴重な魔石を求めて。フロンティアは魔石を追っていく。


それから数百年の時が過ぎた。

漆黒の闇を背景に輝く灰色の砂漠。その上空を金属でできた蜘蛛のような「船」が浮かんでいる。

「ラジャー、飛行管制、最終着陸シークエンスに入る。高度300メートル。」雑音交じりの無線通信。

人類最初の月着陸船はゆっくりと新世界へと降下していく。

枯渇しつつある貴重な魔石を求めて。フロンティアは魔石を追っていく。


読んで頂きありがとうございました。練習用に書いた最初の投稿です。拙い文ですが、少しでも面白いと思って下さったら幸いです。

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