金田紗希 病状証拠映像
こんにちは、にとろんと申します。
今回で私の病気、最終回でございます。そして、これは私の初投稿作品の最終回でもあります。
多少過激な描写が含まれておりますので苦手な方はお気をつけくださいませ。
なお、あとがきにてネタバレをしているので、先に本文を読んでいただくことをオススメします。
それでは、どうぞ。
お母さんが帰ってまた病室は私一人になった。でも、もう寂しくない。私の左腕には絵里さんにもらった宝物があるから。
晩御飯を食べて、食器をさげて、あとは消灯の時間を待つだけだ。そういえば今日は眠くならなかったし、だんだん病気も良くなっているのかもしれない。私はワクワクしながらベッドに寝転がっていた。
そんなとき、病室のドアが開いた。入ってきたのは見たこともないおじさんとなぜかひどく暗い顔をした絵里さんだ。
「え、どうかしたんですか……?」
「紗希ちゃん、この方は有名な先生でね、もしかしたら紗希ちゃんの病気を治せるかもしれないんだ。」
「え、私の病気を?本当にですか?」
「はじめまして、紗希ちゃん。君の病気については聞いているよ。私は樋口、精神科の、簡単に言えば心のお医者さんなんだ。」
心のお医者さん。私の心はどこかおかしいのだろうか。樋口先生の口調は決して嘘ではなさそうだったけれど、自分では信じられなかった。
「とりあえず紗希ちゃんにはあるビデオを見てもらうよ。中原くん、お願い。」
樋口先生がそう言うと絵里さんはDVDを私のベッドの隣にあるテレビに入れた。映像がはじまる。
まず、青色の背景に「金田紗希 病状証拠映像」の文字が浮かぶ。
金田紗希、私の名前。あとの文字は難しくてほとんど読めなかったけれどかろうじて読めた病から私の病気に関する映像なんだろうと予想できた。
画面が切り替わる。私の病室だ。私が御飯を食べている。音声はなくて、映像だけみたいだ。いつの間に撮られていたんだろう。なんだか恥ずかしいし少し嫌な気持ちになったが、治療のためなんだと思って我慢した。
画面の中の私は肉野菜炒めを食べ終わると食器をさげにベッドから降りた。メニューからしてお母さんがシュークリームを持ってきてくれた日だ。あれ、そういえば私シュークリーム食べたっけ。
誰もいない病室の映像に私が戻ってきた。確かこのあと突然眠くなったんだ。
映像では絵里さんがシュークリームを持ってきて。
私はそれを喜んで受け取って。
絵里さんと話ながらたべて。
絵里さんとお話して。
絵里さんが何かを言って私に手を振って。
私は、絵里さんに飛びかかった。
目を疑った。信じられなかった。信じたくなかった。
しかし、画面の中の "私" はまるで獣のように絵里さんに襲いかかり、その首を爪で思い切り引っ掻いた。
倒れる絵里さん、上に乗る私、病室に駆け込んでくる何人かの大人。私は取り押さえられて、何か注射のようなものを打たれて、まるで突然寝たかのようにその場に倒れこんだ。
映像はそこで終わり。
「あ…………え…………?」
今自分が見せられたものが理解できない私は言葉になっていない声を漏らしていた。心臓が高鳴る。脳みそが沸騰しそうで、自分が自分でないようだった。今すぐにでも叫びだしたかった。そして、私は
そのベッドの上の少女は突然そばにいた中年の医師に襲いかかった。隣にいた看護師が医師と少女の間に入り、医師はなんとか逃げきれたが、その看護師の首にはすでに少女の歯が食い込み、赤黒い液体を垂らしていた。コヒュー、コヒューという間抜けなラッパのような音が看護師の口から漏れていた。駆けつけた他のナースたちによりその少女は取り押さえられ、睡眠薬を打ち込まれた。
看護師の腕にある赤色のミサンガがさらに深い赤色へと染まっていた。
目を覚ますと視界にはいつもと違う天井があった。
体を起こそうとしたが、動けない。私のベッドの周りは透明のカーテンで囲まれていて、四肢には太いベルトのようなものがついている。部屋中によくわからない機械が置いてあって、静かな音をたてている。
左腕に赤色のミサンガがついているけれど、なんでこんなものをしているのかわからない。
私は、入院している。
私の病気 最終回を読んでいただき、ありがとうございました。
前書きにも書きましたがここで、簡単にこの物語の解説、ネタバレをしたいと思います。
まず、紗希の病気についてです。紗希は学校でいじめにあっており、ある日ついに発狂してしまい、クラスメイトを怪我させて精神科のある病院へと入院させられることになります。
クラスメイトたちがお見舞いに来なかったのはこのせいですね。
また、これをきっかけに紗希は精神的に不安定となり、何か自分の精神に強い影響があったときに発狂してしまうようになります。
そこで、なるべく発狂をさせないように紗希には突然眠くなる病気であると嘘を教え、まるで普通の患者であるかのように扱われることになり、作中のような状況となります。大部屋に他の患者がいないのは、どんな影響を与えるかわからないという点と、発狂した紗希に襲われないようにという意味があります。
続いて、絵里さんについてです。絵里さんは普通の看護師であり、紗希の病気についても知っています。紗希の病気はやはり怖いものですから絵里さん以外の看護師は紗希にあまり親しく接しませんでした。しかし、それを見かねた絵里さんは紗希に親身になって接し、結果入院生活においての紗希の精神的なよりどころとなりました。これには絵里さん本人も気づいており、可能な限り紗希の精神に影響を与えないようにしています。それでもたまに発狂してしまうこともあり、その際は睡眠薬で紗希を無理矢理眠らせて対処しています。紗希の記憶がとんでいるのは無理矢理眠らせているからです。シュークリームの時に首を引っ掻かれ、さすがに入院をすることになりましたが、それでも彼女は諦めずに紗希がもっと安心できるようにとミサンガを作ります。赤なのは作者の趣味です。ちなみに、物語の最初の方の手首の引っ掻き傷も紗希によるものです。猫ではありません。
最後に、樋口先生についてです。彼は本当に精神科の医師であり、紗希の治療を頼まれました。そこで、自分の現状を把握させて少しずつでも改善していこうと考えて、「金田紗希 病状証拠映像」を撮影し、紗希に見せます。結果はご覧の通りですが。最終的に紗希は絵里さんを殺してしまい、危険だと判断されて集中治療室でベッドに張り付けになります。
以上がネタバレです。わかりにくい点が多々あったと思います。すみません。初めはハッピーエンドにしようかと考えたのですが、自分はいつもハッピーエンドなのでたまにはバッドエンドにも挑戦したいと思い、このようなエンディングとなりました。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。私のような初心者の残念な小説もどきなど誰にも読まれないだろうと思っていたのでPV数がついたときにはたいへん感動しました。
また機会があれば他の作品も書いていきたいと考えておりますので、お暇なときにでもお付き合いください。
それでは、ありがとうございました。