逃亡
私は逃げていた。
堅苦しいお家柄からも、自分のやりたいことからも。
私の家は老舗の呉服屋だ。着物や振袖を扱っていて、有名人が通う店だ。私はこの家の長女だ。
家を継ぐ位にあたる長男の私の弟、丸野春遊木はまだ3才で、後継者として不十分だった。それで私がお見合いをして婿養子に入ってもらう計画だった。
お見合い相手は有名デパートの社長の次男。
うまいこと行けば両方にメリットのある見合いだ。
でも、私はこんなしょぼい呉服屋継ぐことなんて絶対嫌だし、ひょろひょろしたお見合い相手と結婚するのも吐き気がするくらい嫌だ。
だけど、私のお父さんもお母さんもお見合いをトントン拍子で進めて、結婚式を挙げる所まで来てしまった。
先に披露宴をやってしまって、白無垢で挙式をあげたいと言ったから、正式に結婚するのは後回しになった。
それで今に至るのだ。
披露宴で無理やり着せられた白いウエディングドレスで駅まで走り、幼馴染みであるカクと一緒に逃げているのだ。
逃げるのは怖い。
捕まったらどうしようもないからだ。
でも、この先に自由が待っているのならば、私は逃げる。
信頼する、カクと一緒に。
さよなら、生まれ育った街、お母さん、お父さん。