かけおち
丸野花通は走っていた。
真っ白なウェディングドレスをドロドロに汚しながら。
履いていた白いハイヒールはどこかで落としてきたらしい、コンクリートが直に足の裏を刺激してくるのが分かった。
同じく、柴 隆國も走っていた。
彼は特に正装という格好ではなく、いつもどおりのくまのイラストがプリントされたTシャツに、真っ黒のスウェット、運動靴、というどこにでもいる服装だった。
ふたりは、駅に向かっているのである。
駅には赤い軽自動車が止まっていた。
「遅い、遅い!」
先に駅に着いたカク、こと柴 隆國は息を切らしながら車の運転席に乗り込んだ。
しきりに後ろを確認しながら少し待つと
「すまん!!おそなった!」
と、マル、こと丸野花通が後部座席に乗り込んだ。
赤い軽自動車はまっすぐ海に向かって走り出した。
「大丈夫だったか?」
カクはハンドルを軽く握っていた。
「あかんで、ナンバー見られてたかもしれんくらい近いとこにいた!結構路地とか入って撒いたつもりやったのに!!」
マルは頭に乗せたヴェールを乱暴に外し、足を組んだ。
「そういえば、私の着替え持った?」
トランクに積んだ旅行カバンを漁る。
「お前のパンツは入れたぜ」
「ほんまにパンツしか入ってへんやん!あんた駆け落ちする気あんの!?」
「あるある、愛してるぜ、マル。」
「分かった分かった、やからちゃんと前見て運転してや。途中でしまむら寄って欲しいんやけど。」
「はいはい、しまむらとかあんのかな、俺らが行くとこに。」
「それは知らん。」
赤い軽自動車はまっすぐ海に向かって走っていた。