禁断の、キャラ飲み会を開催します。
「え~~…それでは、禁断のキャラ飲み会を開催いたしま~すっ」
「イエーッ!ドンドンぱふぱふ~~っ!!」
「はい、では早速、阪本修司先輩に質問っ。『優のウィークポイントって、なに?』」
「っうぇっ! ヒロさん、なんで初っ端が俺なんスか。まだ着いてへんキャラも、ようけおるのに。それに、『惜しみなく奪った愛に~」の、フィエロン夫妻でしたっけ、彼らに話聴く言うてたやないですかっ」
「あ~そのつもりだったんだけどさー…日本時間でPM6時頃、梅田の北●亭に、それぞれ現地集合って言っといたんだけどねぇ…」
「―――ルースのニューヨーク便が遅れてんのよ。で、旦那にメールでせがまれて、マリは健気に関空で待ってるってわけ。ったく。いくら解禁になったからって、フライト中にメール送ってきてんじゃないわよ。マリもほっときゃいいのに」
「あ、サヴィラ姐さんお疲れ様です~~」
ぶつぶつボヤキながら個室の入口に現われた大柄な女性―――サヴィラ・ロスに、暢気にあいさつする作者。
ロンドンからの長時間フライトにあわせてか、いつもよりはラフなスタイルの彼女は、盛大にため息をついてみせた。
「ほんと、お疲れ様よ、ヒロ。もぉーなんなのあの空港は。『関西』なんて言いながら、海の果てって感じじゃない。妙にだだっ広いし。案内表示わけわかんないし。
まぁあんたが言ってたように、ここまでバスで、1時間で着いたからいいものの……飛行機が海のど真ん中突っ切るみたいに降りだした時は、何事かと思ったわよ」
「あー……あの空港には、国内でも賛否両論あるんですけどね。まぁまぁお疲れ様です。ビールでいいですか? 一応ここウォッカもありますけど」
「そうね……今日はシーフードでしょう? だったらマリが自慢してたイチバン、シボリ? とやらをもらおうかしら」
「あ、はい。わかりました。……阪本先輩、呑むのはやいねぇ。生中追加で良い?」
「そんな、作者様にさせられませんて。ヒロさんこそ生でええンですか?」
「あ~…うん。生で。あ、サヴィラ姐さん、こちらは『伝説の魔導士?~』の…不憫キャラ? もしくは便利キャラ? の阪本修司先輩です。センパイ、こちらは『求愛』からのレギュラーキャラ、サヴィラ・ロス姐さんで~す」
「初めましてサヴィラさん、阪本修司言います。修司って読んでくれたら―――ってヒロさん酷いやないですかっ」
「はい、のり突っ込み頂きました~」
「突っ込みちゃうしっ魂の叫びやしっ」
「あらあらなんだか楽しそうな子ねぇ……声はそこそこ響くし、顔もなかなかだし。貴方、今度舞台にでてみない?」
「は? 舞台?」
「あたし、オフ・ブロードウェイの劇場を根城に、舞台のプロデューサーやってんのよ。あ、たまにテレビもね。貴方中々面白そうなカラー持ってるし、舞台映えしそう。どう、ニューヨークでデビュー飾ってみない?」
「あぁ、舞台てその舞台……って、無理無理無理っ! 幼稚園で村の子その1しかやったことない僕が、そないなトコで芝居するなんて、無理ですわ」
「え~大丈夫よ。ウチ、日本人の脚本家いるし、貴方に合う役をあて書きしてもらえば、イけるわよ」
「いや、お気持ちは大変ありがたいんですけど、ホンマ無理ですからっ。それに僕は、他の世界での仕事もありまして」
焦った阪本が、残像が見えるほど高速で手を振っているところに、ルーカス到着。
モノ珍しげに廊下や部屋の中を見回しつつ、個室の入口にたっている。
「…お邪魔いたします」
「おっ、ルーカス氏到着~。お疲れ~」
「はい、お疲れ様です。……遅れてしまったかと思いましたが、まだ集合時間まで間がありますよね?」
そう言いながら、小上がり横にある下駄箱に揃えられた靴をちらりと確認して、下の空いているスペースに、先の先まで磨かれた革靴をきっちり揃えて入れている。
「あぁ、うん。あと15分はあるよ。それに、ルーカス氏達は魔法陣で一発だけど、飛行機の人もいるし。集合時間はあくまで目安だから」
「ルーカスさんお疲れ様です。いま丁度注文するところやったんですけど、ナニ飲まはります?」
阪本がほっとした表情で、テーブルを挟んだ正面に座った上司にメニューを渡す。
「そうですね……。では、お使いだてして申し訳ないのですが……このケイカチンシュ、というのを頂けませんか」
「はい、了解しました。ほな、注文しますね」
「……ユタカさんが、まだのようですね」
かなり広めの個室に集う面々をぐるりと見回して、呟くようにルーカスが言った。
阪本に注文する前、部屋に到着した時からさり気なく探していたのに気づいていた作者は、抑えても浮かんできてしまう笑いをジョッキで隠しつつ、答える。
「あ~…彼女なら、ちょっと前に到着したんだけどね。集合時間まで間があったから、買い物があるとかで外にでたよ。え~と何処行くって言ってたっけ?」
サヴィラやルーカスの到着を見ていたのか、部屋備え付けのインターフォンを押してすぐ来た店員に注文を終えた阪本が、答えた。
「優くんなら、なんやドラッグストアで買い物してくる言うてましたわ。化粧水かなんちゃいます? 異世界のよりはこっちのがやっぱり合う言うてましたし」
「おぉ、さすが一緒に朝を迎えた男! 詳しいね~~」
作者がへらりと笑いながら落とした爆弾に、周囲数メートル四方が一瞬、完全なる静寂に包まれた。
「……ふぅん。他の話でも、なかなか面白い事になってるのねぇ? 舞台人としては、ぜひ詳しく聞かせてほしいわ」
真っ赤なルージュを引いた唇の両端をニイっと上げて、サヴィラがそう言えば。
阪本が半ば覆いかぶさるようにして作者の両肩を掴み、揺さぶった。
「っ、っ、作者様~~~っ! なに言ってやがるんですかっ、もう酔うてはるんですかっ、悪酔いですかっ絡み酒ですかっ」
「えぇ~まだ乾杯前の一杯しか飲んでないのに、酔うわけないよ。いいじゃん別に。過去のことだし。フリーの大人同士なんだし。ねぇ、姐さん」
「まぁ、そうね…。日本人の貞操観念についてはよく知らないけど、欲しい相手は他にとられる前に、さっさと狩らなきゃ。指くわえて見てるだけなんて、愚か者のすることよ」
「ちょっサヴィラさんも、何いうてはるんですかっホンマ勘弁して下さいっ」
「っていうかね~センパイは、もっと喰えないキャラになる筈だったんだよね。優を翻弄させられるようなさ~。なのにう~ん…どっちかって言ったら、翻弄されてる? ヘタレ属性?」
「って、それ作者様のせいちゃいますのンっ、酷いやないですかっ」
「えぇ~…わたしは最初のキャラ設定したくらいで、後は君たちが勝手に動きだしてたんじゃん。ルーカス氏だってさ~」
「……私が、なにか」
「あ、ルーカス氏。さっきから何かしようとしてたけど、作者権限で、ここでは翻訳以外の魔導も魔術も使えないから」
「………どうせ、私は愚か者ですよ、ついでに粘着質ですよ。妹の言うように病んでもいますよ。いつまでたってもユタカさんに気持ちを受け入れてもらうどころか、気づいてさえもらえませんよ」
桂花陳酒のグラスを両手で握り締め、項垂れるルーカス氏。
「うわっ! ルーカス氏が鬱はいったっ。阪本センパイ、後はよろしく~」
「無理無理無理無理、無理ですって! 俺、ただの社員なんですよ、この御方の会社の。いくら魔導禁止言うたかて、こんなブラックホール、どうせえっちゅうンですかっ」
「それはまぁ、年上の余裕で受け止めるとか?」
「いや3つしか変わりませんてっ」
「あれ、そうだっけ……設定集、設定集っと…あ、ほんとだ。センパイが三十路で、ルーカス氏は27歳ね、ふむふむ」
「ちょっ生みの親なら覚えといて下さいよ」
「え、やだ。アインシュタインだって、『調べれば分かるものは覚えてない』って、家の電話番号覚えてなかったじゃん」
「…はぁ……もうええですわ。とりあえず俺にはルーカスさんを浮上させる力なんて、ありません。そう言うのは、優くんに―――」
「ただいま戻りました~~。ってあれ、もう結構集まっていますね。遅れちゃいましたか」
「おぁ! 救世主登場っ! 優くんっ、ルーカス氏を慰めたってヤ」
「え、やですよ面倒くさい」
「……優くん…」
「あ、やっぱり?」
「やっぱりって、分かってるんなら振らないで下さいよ、ヒロさん。大体そう言うのは、『お母さん』の役目じゃないですか。あ、阪本先輩、ピンポン押してくれますか?」
個室入口に靴を履いたまま座り、どこかおざなりに答える優。
それでも傍らのテーブルからメニューを取りあげ、吟味するのは忘れない。
「いや、産んだ覚えないし」
「何言うてるんですか。ヒロさんは作者さんですから、皆のオカンですやろ?」
「え~~年上もいるんですけど~?」
「そンなン関係ないですやン。セバスチャンさんかて50代でしたっけ? やけど、ヒロさんが」
「あ、それ違う。セバスとヤスミーナとアヌリンの産みの親は、彼女だよ。ね?」
「そう…なるんですかね」
「そうなるんです。まぁより正確に定義しようとすれば、セバスチャン本人が、ひとりでに育った、かな。メイドちゃん二人も同じく。作者が思いついたのは、執事様一人とメイドさんが二人いたらいいなぁ。それだけだからね」
「そんなモンなんですか…」
「そんなもんです。例えばさ、子は親から産まれてはくるけれど、それぞれ別の人格を持った他人でしょう? わたしはたしかに貴方達の世界と貴方達自身を創りはしたけど、すべて知ってるわけでも解ってるわけでもないよ」
「はぁ、なるほど……でもその親子に対するドライな考え方は、優くんそっくりですヤン」
「まぁそりゃ、彼女はわたしの分身みたいなものだから」
「あ、やっぱりそうですよね?」
「え、でもセンパイも似てますよね。その飄々としたとこ」
「え~そうかなぁ~~」
「おやおやセンパイ~?『親』に似ているのは、不満なのかなぁ~?」
「ちょっ勘弁してくださいよっ」
顔を少々青ざめさせながら、阪本先輩は別のテーブルへと避難。
「ん~~~。どぅ~もわたしが書く物語の男性は、ヘタレ属性があるんだよな~。でなきゃヤンデレか」
「え、その二択しかないの?……あぁ…でも言われてみれば、納得かも。ルースだって、そのヤンデレ? な要素はあるものね。マリに会うまで、あたしだけじゃなくたぶん本人ですら、そんな性質だと知らなかったようだけど」
「すいません、ちょっと話し切るんですけど。え~と、お姉さんは、英語圏の方ですよね?」
「あぁ、自己紹介がまだだったはね。サヴィラ・ロスよ。サヴィラでいいわ。ロシア系だけど、生まれも育ちもニューヨークよ」
「あ、どうも。初めまして。越谷優と申します。ユタカと呼んでください。…で、サヴィラさんはなんで日本語はそんなにお上手なんでしょう…? ましてやネットスラングのはずの『ヤンデレ』まで通じるなんて。魔導補正ですか?」
「それもあるけどね。ま、『この物語はフィクションです』ってことで」
「……便利ですね、それ」
「うん。それにこの飲み会には、『禁断の』ってつけてるから。きっと読者様は許して下さるよ」
「まぁ~~そうね」
「で、話をもどしてお二方に質問なんだけど。なんでヘタレかヤンデレしかいないんだと思う?」
「あぁ…それ聞いちゃいますか。…サヴィラお姉さま、お願いします」
「あんたもやっぱり作者の分身ね……まぁ、いいわ」
呆れたように斜め前に座る優を眺めた後、ため息をひとつ零し、作者に向き直るサヴィラ。
「そりゃ言うまでもなく、作者の周りに、そう言う男しかいないからじゃないの? …でなきゃ、あんたの過去の男かしら」
「ははははは……サヴィラさ~ん、もうちょっとオブラード~~~」
きっぱり言い切ったサヴィラと、フォローすると言うよりはむしろ傷口に塩を塗りこむような優の口調に、本気でショックを受けて項垂れる作者。
「……薄々は、そうじゃないかなと思ってはいたけど………」
「あたしを産んでくれたのはあんたとはいえ、ここは同じ物語の作り手として言わせてもらうわ。いくら想像の翼を広げようとも、あんたの中に『ナイ』ものは、生まれようがないわよ?」
「…はぁ……うん、まったくおっしゃる通りでゴザイマス……」
「まぁまぁ作者様、そんなに落ち込むことないんじゃないですか? まだ38歳ですよね。これからいろんな男性と付き合って、芸風を広げ―――ストックを増やせばいいのではないでしょうか」
「芸風って言った!……まぁ、芸か」
「芸事の一部ではあるんじゃない?」
「そうね~…でもさ、付き合うって言っても、一応既婚ですから~」
「えっ、そうなんですか」
「あぁ…プロフィールに書いてあったわね、そう言えば。でもその割には、不倫だの略奪だの躊躇なく書いてるわね?」
「ゲイジュツに限界なぞありません!」
「いやそんなドヤ顔されても」
「あぁ、日本語通じるって便利ですねぇ…ドヤ顔通じるんだ。異世界はチート能力でなんとでもなりますけど、こちらの世界では、翻訳しようのない言葉ってありますからね」
「あら、ってことは。ユタカは何カ国語が話せるの?」
「あ、はい。フランス語と英語以外は、ほとんどカタコトですけどね。一応ラテン語系が強いかな?」
「それは日本で学んだのかしら? それとも旅先?」
「言語オタクではないんで、もちろん旅先ですよ。旅行が趣味で、それが高じて異世界でも、放浪中です」
「へぇ、いいわね。あたしも数年前まであちこち行ってたんだけど、最近は仕事で国内とUKくらいしか行けてないのよ。良ければ話を聞かせてほしいわ。今まで行った中でどこが一番面白かった? あ、とりあえず異世界じゃなくて、こっちで」
「そうですねぇ……どこも面白いんですけど、一番印象深かったのはやっぱり―――」
宴会は始まったばかりで、優とサヴィラの話ももう少し聞いていたいのですが。
ちょっと他のメンバーともサシで呑もうと思うので、作者は席を移動します。




