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V-VI  虜囚


 それは夢だったのかもしれない。都合の良い、僕が望んだ夢。



「君は何のためにここにいるの?」

 僕の不躾な質問を、釣り人は少しだけ眉を上げた。でもそれはすぐに元に戻った。そういえば彼の表情はほとんど変わらない気がする。

 それはあの少女のような微笑みしか映さない仮面とは違う。表情がないと言った方が早いかもしれない。

 だが、そこに冷たさはない。ただ感じるのは絶対的な平等。彼は誰に対しても情を抱かない。だから等しく公平なのだ。

「今まで会ってきた人たちは必ず何かの執着を抱えていた。そうすることで自分の存在を保ってる。でも君にはそれが感じられない。

 彼をこの世界に立たせる理由は何なのか。他の住人のような執着でなければ、僕のような目的でもない。別の何かが、この世界に留めている。

「そんなことを知ってどうするんだ? 前にも言ったけど、知らない方が良いこともあるんだよ」

「うん、でも何となく思ってしまったから」

「知りたいと思った?」

「うん」

 釣り人は大きなため息を吐いた。

「君は駒が盤上に立っていることに疑問を持つのか?」

「駒?」

 以前にも同じ様なことを言っていた気がする。

「駒の仕事は与えられた役割を果たすこと。他に理由はない」

「君は自分の意志でここにいるのではないの?」

「それは僕の意志だ。役割を果たすのはここにいるために僕に与えられた条件だから」

「条件?」

「これ以上は聞かない方がいい。何度も言うけど、知らない方が良いこともある。望んで駒や虜囚になる必要はない」

「君は囚われているの?」

「違う。僕はある意味誰よりも自由だ。君よりも。ただ、自由だから孤独なんだ」

 自由だから不幸なんだ。

「自由は不幸なの?」

「君はいろんなものに束縛されて生きている。それはほとんどの人間の誰もが。でもそれは加護でもある。少なくとも君達には決まった誕生と終わりが与えられている」

「君は?」

「僕は自由だ。だから何者にも属さない。束縛されない。だから居場所がない。ここに僕がいるのは僕のワガママだ。そしてその意味を君が知る必要はない」

 知れば不幸になる。そう彼は言った。

「僕は虜囚だよ。知らなくていいことを知ってしまった、自由という名の虜囚。僕の見る世界は誰とも違い、僕の言語は誰とも合わない。ただ一人別の者となってしまった」

 釣り人は上を見上げる。つられて上を見上げた。天井だけが広がり、何もなかった。それでも彼は視線を天へと向けたまま。

 彼は何を見ているのだろうか。天井のさらに上、空のさらに上。

「――天は何処に?」



短くなりましたがいったんここで切ります。

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