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IV-II  順番




 僕は世界の根源を知りたいのだろうか。

 いや、知りたいのは目的の為。それが僕の目的に繋がると考えたからだ。それは直感としか言いようのない根拠のないもの。しかしそれが正解かそれに近いものだと確信している。

 釣り人は僕に目的を果たすのは自分の力でしなければならないというようなことを言っていた。あの老女も僕自身が辿り着かなければならないと言っていた。ならこの二つはきっと交わっている。世界の根源と僕の目的。この二つは密接な関係にある。世界の根源を知ることが僕の目的を果たすことに繋がっているのだ。

 老女の助言に従い僕はそれに気付いている人間の話を聞くことにする。自分の力でできることはほとんどないに等しい。なにせこの世界には十人に満たない人々と深い森しか存在しないのだ。

 あの森に行くことも一つの手だろう。しかし何も知らずに行くのは危険だと僕の勘が言っている。行くなら情報を集めてからでも遅くはないだろう。

 さて、話を聞くにしても、僕の知りたい情報を持っていそうな人は誰だろうか。

 釣り人は訊いても間違いなく教えてはくれない。僕の目的に手は貸さないと断言しているのだから。

 他には? あの少女はこの世界で生きていく上での成り立ちを知っている。しかしそれはおそらく他の人達も知っているのだろう。釣り人が異端であることに気付いている。しかしそれがなぜなのかは知らない。よって彼女に訊いてもあまり期待はできないだろう。

 他には? 司書は知っていても興味がなさそうだ。あの膨大な本の中に僕が知りたい情報があるとは思えない。ならば誰に?

 しばし考え込み、僕は一つの結論に辿り着く。




「それで出た答えが私か」

 薄汚い部屋で僕を迎えた研究者は以前来た時と何も変わってはいない。相変わらず部屋は足の踏み場もないほど散らかっているし、彼の服も相変わらず汚れている。ただ元の色がわからないほど汚れた白衣だけが、彼が研究に携わる人間であることを思い出させてくれる。

 突然来訪した僕を、彼は喜んで迎えてくれた。普段よほど話し相手に恵まれていなのではないだろうか。もっとも僕自身、彼の話し相手になりたいとは思わないが。

 ここに来たときも、司書の彼はかなり複雑そうな、変なものを見るような目で僕を案内した。おそらく彼と話がしたいなんてよほどの暇人かきちがいしかいないのだろう。

「あの人とそれなりにつきあえるの俺くらいだよ。まあそれも利害の一致でしかないけどな」

 そんなことを言っていた。

 そして僕は今研究者と向かい合っている。座ることを勧めてくれたが丁重にお断りした。そもそも座る場所なんてないのだが。

「まあ君の答えは間違ってはいない。確かに私は君が知りたいことのほとんどを説明できるし、それを言ってはならないというルールにも縛られていない」

 ならばと思ったが、

「しかし君は順番を間違えている。私の所に来るのが早すぎる。おそらく私の所へ来るのは最後がいいだろう」

「順番なんて必要なんですか?」

「若い者はせっかちだね。順番を間違えれば同じ情報を与えられても正しく受け取ることができない。君の考えは間違ってはいないが、時期を誤っている。そんなに焦らなくても答えは君の元にやってくる」

「それはいつですか?」

「そう遠くはない。私が言えるのはそれだけだ。君が望もうと望むまいと答えは君の元へやってくる。そうすれば自ずと正しい順番がわかるようになる」

「僕にはそれほど長く時間はないんですが」

「そんなこと構ってくれはしないさ。それが君の持つ時間のギリギリであったとしても、時期は変えることができない。しばらく流れに身を任せたらいい。君の進むべき道は抗うことではない。身を任せることだ」

「それで僕の目的は果たせると?」

「私は君の目的が何なのか知らされていない。しかしだいたいの検討はつく。しかしそれが合っていようがいまいが、やり方は変わらない。君にもいつか選択の時が訪れる。抗いたければその時にするがいい。しかし今は違う」

「そんな適当なことでいいんですか?」

「世の中はなるようになっている。君が適当と感じても、それが流れだ。君は魔王や運命に立ち向かう勇者や英雄ではない。自分で道を切り開く必要はない。最初から用意されているのだから無理に手に入れようとする必要もない。運命に文句がないのなら従えばいい。ただそれだけだ」

 なんだか釈然としないが、確かに悲劇のヒーローにわざわざなる必要はない。たとえ適当であっても、それが僕の求める道ならそれを黙って受け入れるのが賢い選択だ。今はその時を待てばいい。

「君がそれでも手に入れられない答えがあったとき、その時私の元に来るといい。それまでは何も考えず、じっと待っているといい」




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