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助けられましたです

新! 登場人物が出ます

「姫様!?」



 近衛兵の一人のレギサ・ウェルネスが私を呼ぶ。

 だが私は返事ができない。

 聞こえてはいるのだ。



「そ、んな……」



 たまっていた怨念が、収束していくのだ。

 でも、それは怨念の集合体ではない。

 喰われるために収束している。

 怨念を喰らうなんてまともな存在ではない。

 


 怨念が収束したとき、強力な魔物が出るため、たまりすぎたところでも年に数度は祓わねばならない。

 ここは辺境ということもあり10年以上祓われていなかった。今回私が来たのは怨念がたまりすぎているためだ。私たち王家の血筋は代々『巫女』と呼ばれるジョブにつき、怨念を祓うことを義務づけられている……が、王家が動くような怨念のたまり場など100年に一度あるかないかなのだが……ここにいる騎士爵のやつが報告を怠っていたために発覚した案件なのだが……これはダメだ。


 

 私は神童など呼ばれていたがそれは間違いなのだ。確かに考える力はそこらの子供よりあると自負しているけれど、それでもまだ子供の範囲内で、王家に生まれたがために精神年齢が成長しただけ……つまり私でも恐怖を感じるし、『巫女』なんてジョブについてはいても怨念の祓い方を知っているだけで祓ったことなど一度もない……。



「ぅあああああああああああああああああああああああああああ!!!」



 突然、絶叫が響き渡った。

 その声は怨嗟、悲哀、憤怒など負の概念を受け入れているために発している声だと瞬時にわかった。

 声は……性別はわからないがとても幼い。たぶん私と大差ないはずだ。

 なぜそんな子が……?

 いや、それよりもその子を助けねば。



「レギサ! 連れてきて!」



 大人はダメだ。今の絶叫に警戒の色を高めている。このままでは子供に何かあったら私は悔やんでも悔やみきれない。

 だからまだ少女のレギサに言った。

 レギサは私の意に少し困惑したが、すぐに立ち直ってたぶん子供の下へと走り出した。



「レギサ! 戻れ!」



 レギサの父であるマルクが叫ぶが彼女は止まらない。

 すぐにマルクも走り出した。近衛兵としては褒められた行為ではないが今はできるだけの人数で行ってほしい。

 私はそこで緊張しながら待った。



 

 私は姫様の命令により絶叫の下へと走った。

 先ほどの絶叫が人間のものとも限らないが、ここには人間の言葉を話す魔物などいない。

 父の声が聞こえたが構わずに走る。

 


 いた!

 子供だ。姫様と同じくらいだが……なぜこのような森に?

 倒れていてピクリとも動かないが……魔物による罠も考えて慎重に近づく。

 幸いにも子供は生きていた。

 だが……黒い髪は珍しいな。

 


 罠ではないようだし子供を抱える。

 軽い……姫様よりずっと軽い……。

 見れば身体の肉づきがお世辞にもいいとは言えない。

 食事はどうしているのか……服も農民の子供よりもひどい。

 奴隷の証がないから奴隷でもない。

 


「この馬鹿者がっ!」

「っ!?」



 頭にげんこつが落ちた。

 痛い……とても痛い。私はスピードタイプなので頭には装備を付けていないのだ。



「罠ではなかったからいいものの! 罠だったらお前は敵に囲まれていたのだぞ! それに姫様の周りがその分薄くなるではないか!」



 父上の言うことはもっともだが姫様は3歳ながらご聡明であられる。あの方の命令に意味がないことなどありえないと信じているのだ。

 とはいえ、今はこの場を切り抜けよう。



「父上、今はそれどころではありません。この子を保護すべきです」

「……まったく」



 私は父に抱かれている子供を見て何ともいえない気持ちに陥った。何かがおかしい……。だがそれがなにかはつかめきれず姫様の下についてしまった。




 レギサたちが戻ってきた。マルクに抱かれているのは私と同じくらいの子供だった。黒い髪に女の子みたいな顔、でも男の子とはわかる程度に顔はできている。ただ、痩せていた。今どきの奴隷でもここまで痩せていない。餓死寸前の子供を見ているみたいで少し胸が痛む。

 私は王族だから一般の人たちより食べるものの品質も味もいいのだ……。



 子供のステータスを見ようと『鑑定Lv.5』を持つ近衛兵を呼んだ。

 彼はその子供を見た途端に顔をこわばらせた。



「どうしたの?」



「姫様……正直に申し上げますとこの子はこの年で異常なほどに『痛覚耐性』と『打撃耐性』が大きいです……下手をすると……一般の兵よりも」



 その言葉に全員の顔がこわばった。

 それは私にも意味がわかる……つまり痛みなどが伴う日常を過ごしてきたということなのだろう……子供は家で不当な扱いを受けていたのだろう。

 私の心に怒りの火が燃え上がっていく。



「姫様」

「何?」



 私は声に憤怒を混ぜて聞き返した。



「この子供の一部のステータスに靄がかかっております」



 その近衛兵は困惑した感じで言った。



「?」



 ステータスに……靄?

 どういうこと? ステータスに害を起こす状態異常なんて知らないし、本人がステータスを隠そうとしない限り……

 っ!?



「もしかして……?」



「はい、この子供は何かあります……ステータスを隠す装備が見受けられない以上、スキルを持っています。そしてそれは私の『鑑定』のレベルよりも高いです……。この歳でそれほどなら少し……というよりもとても異常です。日常的に使っていたとみるべきでしょう」



「名前は?」



「スレイス……としか」



「家名がない……平民かしら?」



「いえ……それはあまり考えられません。ここらにいる平民の村はセルメタ村しかありません。そしてセルメタ村は税率が重いですが彼らの結束はかたく、よほどのことがない限りは捨てるなんことはありません。捨てるにしても奴隷として売り払えばいいのですから。逃げてきた……という可能性も考慮せねばなりませぬがどちらにしても日常的虐待は受けてきたのですから話は聞かねばなりません」



 逃げたなんて思っていないだろう。彼は明らかにあのデブ騎士爵のやつを疑っている。

 あいつには3人の子供がいた。容姿は知らないがその末の子供が3歳だったはずだ。

 ここにいる全員もそれを疑っているのが丸わかりだ。

 裏金や己が騎士爵につくために臨時の捨て駒を使った外道な豚が……。



「起きそうね……」


 

 スレイスという名の少年が目をゆっくり開けた。

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