神と悪魔
もうすぐ終わりだぁああああああああああ!!
そこまで頑張るぜい!!
読者様! 最後までお付き合いください!!
世界は混乱と恐怖にまみれていた。
ある日神のお告げが聞こえなくなったことが発覚し、それを市井の民に伝わり混乱を起こした。
そして恐怖する。
あの時、バアル・ゼブルが言っていた言葉は本当なのだと。
すべての神も悪魔もいない。
そんな世界に我々は残されてしまったのだと。
そこで各国で世界会議、俗に言うサミットが始まった。
「それでは……会議を始めようと思う」
一人の王様が発した言葉は声がとても沈んでおり、顔色も悪い。
それはこの場にいる最高権力者のすべてもそうであった。
世界を手に入れようと思っている帝国でさえ心なしか顔色が悪い。
「まずは目標の確認だ。あの【暴食】の悪魔、バアル・ゼブルを討伐すること、それで相違ないな?」
各国の王はそれに頷く。
「そしてまずはあの迷宮の危険度の設定だが……災害級と決まった」
その言葉を発した王以外のすべての王が眉をしかめる。
「それは……本当なのか?」
「今まで災害級なぞ出たことなどなかったぞ!?」
「……間違いない。一階層に調査隊を送ったところ五千名の内……帰ってきたのは二桁だ」
それにどよめくしかできない王たちを誰が責められよう?
ちなみに災害級の迷宮とは一階層から準災害級の魔物が出てくる迷宮であり現在この国では確認されていない。準災害級はその名の通り何か行動を起こすたびに災害に近い天災を起こす存在のことを指す。
「今のところの策としては各国の精鋭、そして高ランク冒険者に潜らせる……もしくは彼の者が三か月後に出てきたところを叩くしかないであろうな。迷宮は閉じることもできぬ」
「前者も後者も失敗すれば我々にはなすすべがなくなってしまう……かといって黙ったままやられることなど論外だ」
「この二つから選ぶしかない……か。それならば万全を期して三か月後に――」
【ああ、言い忘れていた】
突如響いた声に王たちは顔を強張らせ、身体が硬直した。
なぜならこの脳裏に響く声はバアル・ゼブル本人だったからだった。
【三か月経った場合、迷宮から魔物を出してから国を襲わせる。もちろん我もいるがな】
クハックハハハハハハ!! と笑う声が響きその声は聞こえなくなった。
「……どうすればいいんだ……」
王の一人が皆の気持ちを代弁した。
◇
歌が聞こえる。
災害級迷宮【蠱毒の坩堝】の傍らで誰かが歌を歌っていた。
彼は一言でいえば【何もない】だった。
眼はある、瞼は閉じているが。
鼻もある、息を吸っている感じがしないが。
口もある、開く気配さえみえないが。
耳もある、音が拒絶するかのように鳴り響かないが。
それでも歌が聞こえる。
~~♪~~
それはとある詩でもあった。
また開く 死への扉が
また続く 生への道が
輪廻を廻りし魂は
心を砕き 体を壊し
すべてを包む
なれど戦は止まぬ
生まれ 壊し また生まれる
我は怖し 彼奴が怖し
哀しきかな 悲しきかな
近しきかな 遠きかな……
歌い終わった瞬間、青年は目を開けた。
否、開けたというより開いたといった方が的確か。
その眼に映るは宿命の敵。
地下5階層に存在する悪魔。
「私は――悲しい」
それは聖母のように慈愛に満ち溢れた声だった。
青年、ナナシ……もとい阿形惣右介は蠱毒の坩堝へと入っていく。
入った瞬間からヴェアウルフが瞬間移動と見まがうばかりの速度で惣右介の懐に入った。
だが、次の行動に移ろうとするヴェアウルフは自分の身体が動かなくなっていたことに気づいた。
「ああ、我が子らよ」
手を掲げ、
「その身に巣食う魔を」
ヴェアウルフの頬をなぞり、
「解き放ちましょう」
光があふれた。
ウヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
その体が浄化されていく。
足元から光の粒子になり天高く昇っていく。
その光は天井に当たっても止まらず、空高くへと昇っていく。
「さぁ、わが子らよ、愛しき御霊より堕ちた欠片よ。おいでなさい」
3対6枚の翼を持つ悪魔王の身体を抱きしめて愛を確かめ、
見上げるほどの体躯に百の眼を持つ百目巨人を祈りの聖句で信頼を確かめ、
三つの首を持ち、吐くブレスは黒く相手を燃やし尽くすまで消えない炎の邪蛇悪竜を聖典に封じる。
「あぁ、わが子らよ、愛すべき子らよ」
死を、生を、そのすべての軛から解き放ちましょう。
◇レディナイト
「大丈夫だよね……?」
ティア・レディナイトがそう漏らすと、そばで、ワウという犬らしき声が聞こえた。
「大丈夫だよね、ルム」
そう、そこにいたのはかつて阿形惣右介に拾われ、そして進化を果たしたフェンリルがいた。
フェンリルは頬を舐めて慰めていたがふと窓の外を向いた。
「ルム? どうしたのルム」
ルムは窓に向かって走り出した。
「ルム!?」
「ウヴァォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」
ルムは遠吠えを始めた。
己が主のために、そばにいられない悲しみを癒すようにルムは何度も遠吠えを始めた。
そばで聞いていたティアも同じように遠吠えは無理でも両手を重ねて祈った。
「スレイス……」
初恋にして、突如として姿を消した友人。
あれから数年が経ち、自分も結婚適齢期に入っているのは確かであるのだが今もくすぶる淡い恋心が彼が生きていると、きっと生きていてティアを迎えにくると信じている。
だから彼に祈る。
「お願い、私の王子様」
この世界を救って……!
根拠などない。
しかしどうしても彼のことが頭に浮かんで仕方ないのだ。
「姫様……」
影でそれを見てレギサは同じように祈りをしていた。
スレイスにはもちろん姫様の願いが叶いますように、と。
「姫様を泣かせるなよ……愚弟」
◇
「ほう? ここまでくるとはな……名はなんと申す?」
バアル・ゼブルは玉座に座りながら目の前にいる神秘的な神の一柱たる姿をした存在に問う。
「阿形、惣右介。またの名を名無之神」
「クハッ! いいぞナナシィ!! お前はまたここに戻ってくると思っていた!! さぁ、始めようじゃないか、世界の命運を決める戦いを!!」
「我が愛し子らよ、我が久遠なる制定者よ、己が道を狭める愚者よ、我は命ず。汝らが愛しきたらんことを、汝らが愚かであらんことを、汝らが己たらんことを……!!」
「【放たれた鼓動は灼熱 刻は絶対零度 血を逆巻け 『語られざるべき導』】」
「【伽藍の洞に住まう悪魔よ 聖なる血はワインに 意思はパンに 既知なる未来は未知なる過去ゆえに去る 『聖人を刺し貫いた聖槍』】」
バアル・ゼブルはすべてを干からび、凍る血を召喚し、
阿形惣右介は神さえ屠るとされる聖人、イエス・キリストを貫いた聖なる槍を召喚した。
そして彼らはぶつかる、己が命を懸けた存在とまで昇華した存在ゆえに生半可な衝撃ではなかった。
下手すれば半径百キロにわたって更地になるほどの轟音と衝撃波が起こり、全てを飲みこまんと一度収縮してから解放される。
この世界にとってダンジョンの中というのは絶対でありどんなことをしても壊れることはない。
そう、星を壊す一撃でもない限り。
神と、悪魔。
対をなす存在の力は今、胎動を始めた。
ドクン




