俺、もっと頑張る!
遅くなって申し訳ありません。
「さて、まずはあなたの存在というものをお教えいたしましょう」
リブエルガは俺の眼を見ながらあでやかに微笑む。
その微笑みになぜか魂がドクンと脈打つのを感じる。
「私とあなたは同じ運命を持ち、同じく消える存在です」
何を言われているのか理解ができなかった。
まず、言葉を理解するのに情報が足りないのもそうだが 〝消える〟 その言葉になぜかアエリア、ネスア、セリルの顔をが浮かび胸が張り裂けそうに痛んだ。
「どういう、意味だ」
「私は未完成な魂を生む存在。あなたは魂を喰らい己の糧とする存在。どちらも立派な存在よ」
わかっている。
そんなこと……誰に言われなくても俺が一番分かっているんだ。
改めて突きつけられるとこんなに、痛いんだな。
魂が壊れたいと感じている。
壊れて、すべて俺の預かり知らないところで進めてくれと嘆いている。
「……消える……とは」
「そのままの意味よ。天を終わらせるのが私。魔を終わらせるのがアナタ。そして世界に私たちのような存在はいなくなるのが道理よ。知っているでしょう? 人間が至高にして最高だと。分かっているでしょう? この世に神も悪魔も天使もいらないってこと。壊したいんでしょう? この理不尽で不条理な世界を。見てみたいでしょう? 人間がどこまで愚かで、どこまで賢く、どこまで進化できるかを」
頭が壊れていく。
俺の信じていたモノがなくなっていく。
いや、最初から信じてなんていなかった。
全部信じちゃいなかった。
「貴方はどこかで線を引いていたはずよ? 人間から、神から、全てから」
彼女の言葉が頭に無理やり入ってくる。
脳みそをぐちゃぐちゃにかき回されてまた作り直されているようだ。
「そう、最初からあなたはこの世界を壊すために生まれたの」
ピシッ!
何かにヒビが入る。
「だから貴方は世界に望まれて生まれた存在じゃないの」
ピシッ! ビキッ!
ヒビが広がっていく。
「だからあなたは、存在してはいけないの」
バキンッ!
コワレタ。
「UGAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
オレはオンナのクビをシメル。
「ふふふ、殺気がとても心地いいわ。でも――足りない」
バチンッ!
デ、コピ、ン?
「大丈夫」
意識が戻り、混乱している俺に対して、抱きしめ、耳元であでやかに囁く。
「私がそばにおります。ずっと、ずっと、未来永劫そばにおります」
悪魔の囁き。魅惑の甘言。
分かっているのに俺は止められなかった。
そのまま俺は彼女を襲――わなかった。
なぜか、浮かぶ。
アエリアの凛々しくも綺麗な笑顔が。
ネスアの無表情だけど甘えん坊な性格な一面を見せる姿が。
セリルの元気いっぱいで俺の後をカルガモのように引っ付いて離れなかった姿を。
レフェリアの女王様口調だけどどこか抜けている天然で真っ赤に起こる顔が。
「バアル・ゼブル様?」
「……違う」
「? バアル――」
「――違う!!」
俺は遅くともわかってしまったことを。
遅すぎるけどやり直せると信じて言葉を発する。
「俺は、俺は――ナナシだっ!!」
やっとわかった。
ごめんお前らといけない。
――コロセ!!
殺せないよ。
――スベテヲヒテイシロ!!
無理だ。
――ナゼダ、ナゼダ、ナゼダナゼダナゼダ!? クヤシクナイノカ? ニククナイノカ? スベテヲウバッタセカイガ、スベテヲウバッタソンザイガ!! コロセコロセコロセ!! ソシテクラエェエエエエエエエエエエエ!!
「そこまでにしましょう、バアル・ゼブル様。彼に何を言っても無駄なようです」
「なっ!? 貴様……っ!」
リブエルガは俺の背後に素早く回り、首を圧迫して俺の意識を奪う。
「残念です。次起きた時はすべて終わっています」
くそ……レフェリア……ごめん……――
◇
「それにしても予想外でしたね。彼がバアル・ゼブル様にたてつくなんて」
「それだけ今回の憑代が優秀だったのだよ」
「もうお目覚めですか? お早いですね」
「おぬしと交わうのが楽しみだったのだよ」
そういって彼は、今までナナシだったバアル・ゼブル様がそっと私に微笑んでくれる。
ああ、ああ、あなた様が存在すれば私は消えても後悔ありません。
あなた様がいれば何もいりません。
「近うよれ」
私はバアル・ゼブル様に近づき、深く、深くともに堕ちていった。
◇
ここは……?
『やぁ、君はもう死んだ者として扱うことになった』
どういうことだ? 俺は……どうなった?
『乗っ取られたよ。君の精神は永遠に目覚めない』
どうしたらいい……?
『どうしたい?』
……わからない……。
生き返ることも、もうしたくない。
もう、何も、失いたくないんだ。
消してくれ。
全部。
消して……くれ。
『おや? 君にメッセージが来ているね』
…………。
『えっと【帰ってきて】だってさ』
……いやだ。
もう、俺のせいで傷つくのを見たくないんだ。
『ほかにも来ているよ? 【お前がいないと私たちはどうすればいいんだ!】と【……お願い】かな。あと【私たちはお前を失いたくないんだ……!!】だね』
失いたくない……そうだね。
失いたくないよ。俺もずっと失ってばっかじゃないか。
これ以上何を失えって言うんだ。
これ以上どうやって狂えって言うんだ。
「んなこと聞いてへんわ」
不意に響く聞き忘れていた声。
「おや……じ?」
地球にいたころのおやじだった。
「おう、お前の親父や。そしておやじからの一発、や!!」
ゴンッ!
拳骨を落とされる。
頭を押さえてうずくまる俺におやじは、
「でも、頑張った」
そういって頭をなでてくれた。
不意に涙があふれた。
認められたことがうれしくて。
懐かしい手のひらの感触がうれしくて。
「何泣いとんねん。頑張ったんやからあたりまえや。それで、俺は頑張れなんていわへん。あきらめるななんていわへん。お前の好きなようにしたらええ。でもな、女は泣かしたらあかんで? 女は子供と同じで宝もんやさかいに」
「うん……俺、頑張った」
「おう」
「俺、超頑張った」
「そやな」
「でも――」
――もっと頑張るわ、おやじ!!
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