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王命

 遅くなって申し訳ありません……!

 なかなかスランプ状態が抜け出せず……頑張って抜け出しますので応援よろしくお願いします。

 そんな馬鹿な……!



 モルト・レドゥーユは唖然として自軍の敗走を見ていた。

 彼が指揮した軍勢4万に少し届かないくらいの軍勢が数の暴力にさらされるのをただ見ていただけだった。

 ありえない、ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!

 


「逃げるな平民が!」



 彼は敗れた恐ろしさからなんとしても勝とうと躍起になり一人の平民を斬り殺した。

 今までなんとか保っていた士気がそれでダダ下がりになった。

 本来恐怖による統制は徹底していなければならず、己の兵ならいざしらず、各諸侯の私兵、さらには忠誠心のない傭兵、それにモルトに尽くす義理などない王軍二万に恐怖による統率など望めるべくもなかった。



 さすがに貴族を殺すのはまずいので殺しはしなかったが王軍はそのまま手勢を引き連れ、うまく撤退をしていく。



「何を撤退している! 押せ! 押せェ!!」



 もはやここまで来ては意地でしかない。

 瓦解した士気も、軍も、ここから立て直すにはどうしようもなかった。

 そこでモルトは自分に近づいてくる存在を見つけた。



「どういうことだレヴァンディ!?」



 そこにいたのは二万の王軍を束ねるレヴァンディ総隊長がいた。



「見ての通りです閣下。われらは此度の戦は負けと認めました」

「な、何を言っている。まだこんなに残っているじゃないかっ!!」

「いいえ、これだけしか残っていないのです。王軍はこれより撤退に移り、王都へ帰還いたします」

「そ、そんなことが許されると――」

「これは王命です」

「なっ!?」



 背を向け、去っていくレヴァンディ総隊長を呆然と見ているしかなかった。

 それから少しして、己も撤退していく。

 それからモルトは敵に9000近くの損害を与えたが自軍の被害は15000以上と二倍近い損害を受けた。

 9000近い損害を与えたのも彼ら兵たちによる恩恵が多く、モルトの功績では決してない。

 


 ……貴族は私兵を大きく失い、貴族による王の憂いていた反乱の芽が潰されたことは言うまでもない。



 此度の戦により戦勝ムードになっていた雰囲気が一気にどんよりとした雰囲気とは……ならなかった。

 それはナナシがこの国にいるおかげであり、多少は気勢が削がれたもののまだ勝てると国民は信じていた。

 国民ははっきり言って善政を敷くのであれば誰が王様でもいいだろう。

 その国に愛着があったり、王を尊敬しているのはそれほど多くない。

 それはやはり貴族の腐敗が原因だ。

 それを憂いた王が変えようとしているのは民草にわかるはずがなく、ただ噂が飛び交うばかりである。



「モルト。おぬしは爵位剥奪の上、領地と財産の没収じゃ」



「ま、待ってください陛下! 次回こそ、次回こそ挽回いたしますのでぇえええ!!」



 俺は謁見の間にて沙汰を下され衛兵に追い出されたモルトを見て、冷めた気分になっていた。

 今回の敵は20万程度……か。

 そのうち10000程度殺したのはこいつにしてはいい出来だったのだろうな。

 王軍も被害が出たがそれほどではない。

 たぶんまた、俺が出ることになる。

 そう半ば確信に似た思いをしていると、陛下からやはり命が下った。



「さて、此度の戦はナナシ子爵に一任しようと思うがどうか?」



 それに貴族の間に動揺が生まれる。

 一任するということはすべてを任せる。

 軍について王からは何も言えなくなる。

 反乱をたくらむやからがいれば即座に首を狙われるであろうそれを齢9にして新貴族のナナシにやらせるというのだ。

 もし負けた場合は即座に処分されるし、戦に勝つことが最低条件となるがそれでも軍の権限をすべて余すことなく使えることは大きい。

 それに勝った場合の見返りも大きくハイリスクハイリターンである。



「お待ちください! こんな子供にやらせるなどっ!!」

「そうですぞ! 子爵程度にその任が務まるとは思えませぬ!」

「コルパニオン侯爵にこそその任がふさわしいのではないかと」



 王はひそかに反発した貴族とモルトに軍を出さなかった貴族を脳内で保存していた。

 このたびの戦ははっきり言って戦力差が大きく、勝てるわけがないと思っている腐敗した愛国心のない貴族どもが反乱を企てているという情報が〝闇〟から寄せられた。

 その首謀者がコルパニオンなのだ。

 今騒いでいるやつらを〝闇〟に動向を逐一報告せよと合図を送り、口を開いた。



「ならん。此度の戦に勝つにはナナシ子爵しか無理だろう」

「なぜですか! こやつにできてわれらができぬ道理はありませぬ」

「ほう? ならばこの国をコルパニオン侯爵が救えると?」

「はい! 必ずや私めが救って見せます!」



 コルパニオンは太った豚でしかない。

 この国の膿だ。



「なればここで救える根拠を申してみよ」

「ぐっ……それは……」



 冷や汗をかいて目を泳がせるコルパニオン。



「ナナシ子爵はどうじゃ?」

「っは。我々は飛翔魔法にて制空権を制し、空からにてなぶり殺しにしてみせましょう」

「っな!? 飛翔魔法だと!? その魔法はもうすでに失われたはずだ!! でたらめを言うでないわ!!」

「なればこそ証拠を見せましょう。陛下。魔法の使用許可を頂けませんか?」

「うむ。許す」



 俺は風をまとわせ床を蹴り、宙に浮いた。

 それから軽く周りを飛翔してからもとに戻り、一礼した。

 当然ながらこの魔法など俺の魔法を使える奴らは全員使える。



「そ、そんな馬鹿な……」

「き、貴様どうやって……!」

「これで決まったな、で? 異議のあるものは即刻名乗りでよ。これ以上の案が思いつくならばな」



 そこでコルパニオンは何かを思いついたようにニヤリと笑うと、



「一つお聞かせ願いたい、ナナシ子爵殿」

「何でしょうかコルパニオン侯爵殿」

「それは何刻飛べるのだ? よもや敵を殲滅する前に墜落なぞなるまいな? 敵は19万。それを殲滅、または撃退するだけの時間を飛べるのであろうな?」



 その疑問をいまさら気づいたかのように彼らは騒ぎ始めた。



「静かに! で、どうなのだ? ナナシ子爵」



 陛下の問いに俺は笑って答える。



「ええ、飛翔時間は二時間どまりでしょう」

「そらみた――」

「ですが、それだけあれば殲滅するにはたやすいでしょうね」

「――こと……は? 今、なんといったのだ?」

「二時間あれば殲滅するにはたやすいと言ったのですよ」

「そ、そんなことが……!」

「できますよ。それで? ほかに何か質問は?」

「き、貴様! そこまで言うのならば勝たねばその首貰い受けるぞ!!」

「ええ、どうぞ」



 俺の飄々とした態度にコルパニオン侯爵は顔を真っ赤にして地団駄をふんでいた。



「では王命だ。ナナシ子爵、帝国どもを撃退せよ」

「仰せのままに」



 俺は一礼してその命を受け取った。

 さて、ナナの言うとおりにナパーム弾を作るか。

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