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異常の正常化

 今後の展開を悩み中……

 俺はやっと門から出て森へと向かった。

 門番が何やら渋い顔していたが仕事なのか否定はしなかった。

 さて、切り替えよう。



 森の中を疾走する。

 森の広さはそれなりだが魔物はそれなりにいるのだ。

 知恵も何もない魔物が。

 この森に出るのは小鬼ゴブリン魔小猪スモールボア中鬼ホブゴブリン大鬼オーク森狼フォレストウルフ魔幼虫キャタピラー森大鳥フォレストバードなどなどetc.

 あと例外がいるがそちらは気にしなくてもいい。



 刺された傷跡が疼いている。

 脳が敵となる存在の惨殺を望んでいる。

 魂が震えた。



「ミツケタ」



 口が歪む。

 魂が歓喜に所有者の身体を動かす。

 斬った。

 斬った斬った斬った。

 殺した。

 殺した殺した殺した。

 足りないと叫ぶ。

 悪鬼羅刹のごとく叫ぶ。

 身体は血に濡れないところが少ないくらいに穢れた。

 そんな穢れさえも愉悦を感じた。

 身体の疲労など感じない。



 斬れば、傷つき。

 触れれば、濡れる。

 動けば、屍を築く。



 空っぽだった。

 なぜか、彼はまがい物だった。

 本物など知らない。

 知るはずがない。

 だって存在しないのだから。



「あは、あははははは。アハハハハハハアハハ!!」



 私が僕でいられる。

 僕が俺でいられる。

 何を望む?

 復讐だ。

 再生だ。

 


 魂が共鳴した。

 決して混じることなし、善と邪の魂が。

 脳に火花が散った。



【ERROR!! ERROR!!】



 魔物の血により更なる魔物が集まる。

 それはもはや作業ですらない。

 魂を修復させるための儀式だった。



【ERROR!! ERROR!!】



 剣が折れた、でも止まらない。



【ERROR!! ERROR!!】



 矢が尽きた、でも止まらない。



【ERROR!! ERROR!!】



 拳が痺れる、でも止まらない。



【ERROR?】



 システムが疑問を持った。

 疑問は広がる。



 終わった。終わってしまった。

 敵の姿などどうでもいい。

 ただ身体を傷つけ、命を奪い、魂を吸収する。

 さらなる進化のために。

 勇者の更なる高みのために。

 


 混沌……その場を一言で表すのならその一言だけ。

 綺麗に首だけの子鬼ゴブリンがある。

 引きちぎったかのように四肢が欠損した森狼フォレストウルフがある。

 何かわからない肉の塊もある。

 血に濡れぬ場所は少なかった。

 


【ばあるぜぶる】



 システムが何かを思い出したかのように表示された。

 魂を喰らい、自らの糧とする七つの大罪の1柱。

 システムがなぜそれを表示したのかわからない。

 だが同時に理解していた。

 それが何かのカギになるのだと。

 自分には鍵穴が存在するのだと。



「…………」



 楽しい、悲しい、ひと時を終えた。

 魔物はいない。

 森に存在するが近づかない。

 知ってしまった。

 どんな敵にも立ち向かう魔物が知ってしまった。

 次元の高みに、己の恐怖という感情の発露に、

 知られてしまった。

 聖人たる悪魔に知られてしまった。

 魂の……感情を。



「はぁ……はぁ……」



 ナナシは周りを見た。

 時間は1刻も経っていない。

 誰もいない。

 戦闘の名残がそこかしこにある。

 武器は……刃こぼれをしたナイフを持っていた。



 ケインズは昨日Cランクになったばかりの冒険者だ。

 Cランクは一流の冒険者の門をやっと叩いた、というところだ。

 それなりに実力がついてきたと思っているし、森での魔物では物足りないと思っていた。

 そんなある日だった。

 魔物が大量発生しているとの情報が冒険者ギルドに伝えられた。

 急いで緊急依頼が出され、森に向かった。

 その依頼は緊急ということで冒険者ギルドおよび皇都の衛兵たちが防衛を残して森に向かった。



 ――ありえない――



 それがその場にいた全員の言葉だった。

 目の前には子供がいる。

 いや、いるだけならいい。

 この森では薬草など子供が小遣い稼ぎにくることもある。

 だが、だがその子供は薬草など求めていなかった。

 縦横無尽に動いている。

 動くたびに魔物が死んでいく。

 


 どうなっている!? と誰かが叫んだ。

 指揮官らしき男だった。

 男は叫び散らすだけで何も指示しない。

 というより指示などできるはずがない。

 この状況を見て、誰が、子供を助けようなどと思うのだろう。



 笑っていた。泣いていた。笑い声をあげていた。嗚咽すら聞こえていた。

 おかしかった。矛盾していた。

 愉悦を感じている? 悲しんでいる?

 聖人なのか? 悪魔なのか?



 誰もが戸惑った。

 そして動けなかった。

 一人が笑った。

 一人が泣いた。

 一人が吐いた。

 一人が逃げ出した。



 混沌だった。



 俺は……人間だ。

 なのに……なんで?

 空っぽなんだ。俺はどこにもいない。

 心が、感情が、魂が空っぽだ。

 見せかけだ。

 食べる、貪欲に、食べる。

 満たすために食べるんじゃない。

 空っぽだから食べるんだ。

 埋めても、埋めても埋めても埋めてもなくならない。

 


 どうすれば埋められる?



【……復讐】



 そうだ、復讐だ。

 ではどうすれば、復讐できる?



【力をつける】



 その通りだ。

 だから、



【異常=正常 『ERROR(誤りは)()NORMAL(正常)IZATION(なり)!!】



 異常じゃない。

 俺にとってこれが正常。

 俺を殺された。

 母を殺された。

 恋人を殺された。



 ――なら俺も殺そう――

 ――人間が殺すならば――

 ――俺もまた人間であろう? ――



 因果を不変に、結果を変える。

 法則を乱し、概念を崩そう。

 異常は正常であり、俺は正常なのだから。

 


 冷たいなぁ、暗いなぁ、怖いなぁ――



 ――空っぽだなぁ――



 ナナシは、変える。

 異常を正常に変える。

 だから、



「ごめん」

「ありがとう」

「さようなら」



 魂が……混じる。

 善と邪の魂が混じった。

 純粋なる邪であり、悪辣なる善の誕生だった。

 ここに完成した。

 いや、崩壊した。

 新たなる魂の確立であり、崩壊だ。

 それがスピリットという名の練技スキルであり能力アビリティなのだ。

 誰が信じよう? 魂による強さがあるなど。

 誰が応えよう? 魂たる存在に。

 誰が……救えよう? 純粋たる邪を。

 誰が……壊せよう? 悪辣たる善を。



スピリット:『正常化ノンエラー』を刻みました】

【『魂の祝福』を発動します】

【魂の概念破壊……確認。次元構築……成功。魂の定着……肯定】



「もっと……愛されたかった」

「もっと……愛したかった」

「もっと……もっと――」



 ――生きたかった――



 空っぽは彼により否定される。

 概念を否定。

 次元を否定。

 肯定せしは己の生き方だろうか?

 それとも……

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