冒険者ギルド
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【勇者を討ちました……『魂の祝福』発動しました】
【ERROR! ERROR! 勇者の練技『限界突破』を強制取得しました】
【魂に刻まれます】
俺はノアちゃんが落ち着くまで抱っこしていたが、そこにネスアが歩いてきた。
「……ごめんなさぃ」
!?
聞こえてきたのは涙声だった。
それに俺は混乱した。
「セ、セリル? 俺は何ともないから! な? 何にも怒ってないよ」
それにセリルはますます涙を流している。
涙が!?
「ごめんなさぁい!!」
それから子供も顔負けでわんわんと泣き始めて……俺はおろおろするばかりで何にもできなかった。
セリルが落ち着いた頃を見計らってわけを聞いてみると先ほど俺が理由も話さずに離れていったのが原因らしい……。
セリルがいやってわけじゃないんだが……。
「えっと……とにかくセリルのことがいやってわけじゃなくて……なんというか……」
「……うん、わかってる。……でも私が原因」
「違うって。これは俺の弱さが原因なんだ。そうだ、俺は弱い、弱くてみじめで、ずっと――」
――救いを求めてて――
「さあ、みんなは焼肉食べて体力つけておいて。これから皇都に行くからね」
アエリアとセリル、そしてネスアとともに話し合いをする。
「まず、俺の力について言っておこう。俺の力は誰もなしえていない『魔法』であり『魔術』ではない。そしてこれは俺以外には誰にも使えないし詳細を教えるつもりはない。注意だけしておくが俺の力を理解しようとするな。そしてできるだけ俺の力を口外しないでほしい」
「「「わかった」」」
?
いやに物分りがいいな……。
「自らが苦労して身に着けた技を今日会ったばかりの私たちが教えてもらえるなんて思っていない。それにその力で国から狙われでもしたらナナシが困るしな」
アエリアはそういっているが……ネスアが簡単に引くとは思っていなかったので拍子抜けした。
「……反省……してる」
本当に反省しているようなので頭をなでてあげた。
俺は子供が大好きだ。
よくも悪くも純真な子供が。
ネスアは少し頬を赤くしてなでられるがままだ。
「じゃあおなかを満たしたら出発だ」
俺は焼肉を早々に食べ終えるとステータスを表示した。
レベル:21
名前:ナナシ(仮)
種族:勇者【限界突破】
年齢:8
HP 429
MP 518
STR 62
VIT 60
DEX 74
AGI 79
INT 124
片手剣術Lv.3(74/100) 投擲Lv.4(26/150) 成長補正(勇者限定)
短剣術Lv.4(5/150) 気配察知
大剣術Lv.3(34/100) 弱眼
双剣術Lv.3(86/100) 隠行
槍術Lv.3(90/100) 高速演算
斧術Lv.3(28/100) 水魔法RANK.2
棒術Lv.4(3/150) 土魔法RANK.3
弓術L.4(5/150) 風魔法RANK.3
打術Lv.3(49/100) 突進
闘術Lv.3(89/100) 盗む《スティール》
獲得P:243
うん?
勇者になってんだけど……
どういうことですか?
「な、なぁアエリア? 勇者ってどうやって生まれるの?」
「うん? 確か……異世界人で勇者と思われたら……だったかな」
異世界人です! でも勇者と思われちゃったの?
どちらにしてもこの状況は芳しくない……!
この世界でステータスを見る人や道具があれば俺が困る。
勇者などどうでもいいんだ。
復讐さえ果たせれば……!
獲得Pを見てみるとこれで今ある練技のレベルを上げることも取得することもできるようだ。あとPで買い物もできるようだ。
ステータス偽装……200P
おっしゃ!!
これなら……!
【200P消費します Yes/No】
迷うことなくYesを選ぶ。
ステータスを偽装した後はみんなで移動したり、休憩中にノアちゃんと遊んだりといつになく善の魂が喜んでいるのがわかった。野営の仕方など教えてもらったりもできた。
女性方を地面で寝かせるのはよくなかったけれど『土魔法』で土だけはふかふかにしてあげたのでふつうよりかは寝やすいはずだ。
皇都についた。
門番には事情を説明して中に入れてもらい、そこでアエリアたちとは一度別れた。
皇王陛下に事情を話すのに俺も呼ばれるらしいから……謁見しろとのこと……。
それぐらいしなきゃアエリアたちが疑われちゃうからなぁ。
そんなことを思いながら俺は冒険者ギルドにやってきた。
看板には剣と盾が交わった状態で描かれていた。
「……緊張するな……」
俺は冒険者ギルドに入った。
入った瞬間に視線が集中する。
右手にはテーブルや椅子、右奥に依頼を張っていると思われる掲示板。
左手には本棚があり、そこに結構な量の本がある。
そして真正面には受付が七つあり、左から1番が新規登録、2番と3番、4番が依頼の申請、または受注で5、6、7が素材の買収などなど。
俺が観察を2、3秒して左手に向かう。
受付のお姉さんは猫耳で獣人だった。
はっきり言おう……好みのタイプである。
というよりも獣人など見たことがなかったから新鮮で思わず見惚れてしまった。
「お、お客様?」
あ、だめだだめだ。困惑している。
「申し訳ありません。新規登録できますか?」
「えっと……年齢制限はないですけど……」
「大丈夫です」
「で、でも」
「大丈夫です」
俺はにっこりと安心させるように微笑んだ。
まぁ、子供だから無邪気にみられているだろうけれど……。
「ガキはママのところに帰ってミルクでも飲んでなぁ!」
ガラの悪いおっさんがにやにやして俺に言った。
それに同調して周りのおっさんどもが下品に笑う。
「お姉さん。で? 登録できるの? できないの?」
「は、はい。これに名前を書いてもらえますか? あと血判が必要ですので指を切ってもらうことになりますが……」
俺は名前を書き、指をナイフで切った。
ジワリと血が出てきたので指定された場所に押す。
すると紙は光を放ちギルドカードとなった。
ナナシ
Fランク
たったこれだけ。
疑問に思った俺は獣人のお姉さんを見ると、
「これでナナシ様は暫定のFランクとなりました」
「暫定?」
「はい。今から出される依頼を遂行できましたら正式に冒険者となり正式なFランクとなります」
「わかりました。では依頼の説明をお願いできますか?」
「……今回の以来はFランクの魔物を倒すことが依頼になります。魔物はFランク以下はいないので倒したらそれ以上は必要ありません」
「わかりました。では行ってまいります」
「ナナシ様。決して無理はなさらないようにお願いします」
「じゃあここでちょっと無理してもらおぉかぁ?」
俺の進路上に柄の悪い男が3人存在した。
俺は気にせずに歩く。
今の俺がどれだけできるか試してみたかったというのもある。
だが、俺だって人間である。
ムカつくのだ、こういう弱いものいじめをしているのを見ると、実際に体験してみると。
邪の魂がざわついた。
口が三日月に歪む。
眼には狂気を宿し、真正面からぶつかった。
「調子にのってんじゃねえ!」
ずいぶん甘いことだ。
武器も掲げずに俺を屈せるとでも?
こぶしが迫ってくる。
力だけにものを言わせた一撃。
はっきり言って何の脅威もない。遅いし、体重移動がまったくなっていない。それに頬に向かっているだけで顎を狙わない。甘い、甘いよ。アマスギルヨ。
俺は内側に潜り込み、相手の手首をもち、バランスの悪い相手を背負い投げした。
途中でその手首を離し、何も問題ないというように笑っている一人の膝の皿を蹴撃で割った。
そこから体勢が低くなった相手の顎に裏拳を叩き込む。
もう一人は剣を手にかけ、俺に振り下ろした。
受付嬢が悲鳴を上げたが俺にとっては『なんだこのキレもへったくれもない斬撃は』と落胆していた。
俺が今、闘技で極めているのは柔の技であり、剣を受け流すなどたわいない。籠手がなかったとしても、だ。
剣の動きが目に見えてスローモーションになる。
俺の手は優しく相手の剣の腹を手で押さえつけ、軌道をずらす。
スローモーションが終わり、剣が俺の左の床にたたきつけられた。
俺は最後の敵にナイフを突きつけた。
「コロスヨ?」
感情など感じさせないただ冷たいだけの殺気。
純情なまでに殺すという意思を乗せた言葉。
ただただ狂気じみた言葉に男は心臓を、魂を握られている感覚を覚えた。
俺はナイフをしまい、ギルドを出ていった。
そのあと、ギルドは何が起こったのかわからないほどに静寂だった。
子供が大の大人を三人のけたのだから。
先ほどの受付嬢も口をあけて呆然としている。
俺は初めての依頼にルンルンしているだけでそれに気づくことはなかった。
後日の王様の謁見など頭に入っていない。
ただ、ただ力をつけ、成り上がり、復讐を果たすため。
許さない。
ユルサナイ。
俺は絶対ニお前ラを殺ス。
邪魔ナド絶対にさセない。
渦巻く狂気に狂いそうになるのを、彼の心が悲鳴を上げているのを彼は自覚していない。
壊れるのか、再生するのか、
ただただそこに在るのか……。
それとも……ないのか。
彼は……まだ空っぽだ。




