まずは飯だよね!
奴隷の女性たちを助けた後、人数を数えてみた。
合計14人もいた。
下は俺より若い6歳程度から一番上は24歳程度。
それぞれ美幼女、美少女、美女だ。
はっきり言って場違いだ……俺が。
お忘れなきよう言っておくが俺は男だ。
確かに日本人特有の童顔も相まってまだ少年としか見えないけどそれなりには身長がある!
「そういえば……失礼だがアエリアたちは若くないか?」
そうなのだ。どう見ても一番上のアエリアが20代中間程度……その若さで女の身なのに騎士の隊長に副隊長、そして魔術師団の隊長なのだ。
この国では女性の方が強いのだろうか……?
「それは……その、あいつのせいなんだ」
アエリアが口にするのも嫌だといった雰囲気で口を開いた。
「私たちは本来隊長などと呼ばれない……二階級特進でこのようになってしまったんだよ」
「あいつって……勇者か? それに二階級特進って……」
それは俺にもわかった。二階級特進は軍では殉職した者に勲章として贈られる栄誉だ。
こちらの世界でもそういうことがあるのだとしたら……彼女らは捨て駒と言える。
少し、皇王に対して怒りを覚える。
その怒気を感じたのかセリルがあわてて、
「陛下のせいじゃないよ! ボクたちが望んで志願したんだから」
それに同調してネスアが、
「誰も……勇者と行きたくなんてない……結果的に誰かに危害が及ばないように私たちが志願した」
そういうことか……。
「……これからどうするんだ? 今戻ったらアエリアたちが罰されないか?」
「それは大丈夫だ。陛下からは勇者が粗相を起こした場合は見限っていいとおっしゃられていたのでな。たぶん私たちは騎士をやめることにはなるだろうがあいつと旅をするなんてまっぴらごめんだ。昨日の夜だって私たちに夜這いをかけようと計画していたみたいだしな……!」
怒りで顔が赤くなっている。
とてもいやだったらしい……。
「まぁ、そのあとボクたちは冒険者にでもなるつもりだよ。一応騎士としてそれなりに戦えるからね……さっきは見苦しいところを見せてしまったみたいだけど」
そういってセリルは苦笑した。
……俺も冒険者になるのだが……まず地理などを調べたりしなければならない。
ティアたちに会わないといけないからな。
ルムを呼び出した方がいいのだろうか……?
ティアのそばにいるからいきなりいなくなったらティアが困るだろうし……。
「あなたは……?」
ネスアが俺に問いかける。
「俺は……」
言うべきか迷う。
冒険者になれば嫌でも顔をあわすし別に話してもいいか。
「冒険者になるだろうな」
「ああ、それなら私たちと一緒に動かないか? はっきり言うとナナシの力は惜しい。利用するつもりはないが私たちは女だし守ってくれる男性がいいんだ。ナナシならできると見込んでお願いする」
……確かに助けたのにまた襲われたなんてことになったら困る。
助けたものには助けたものの責任というものがある。
助けた後の保障までして初めて助ける責任をまっとうできる。
ばっさりと断るのは簡単だ。だけど助けた以上は最後まで助けたい。彼女らが強くなればそれも解消されるだろうし強くなるまでという条件付きでパーティを組むか……。
「わかった。だけど俺の助けがいらなくなったら言ってくれ」
「……それでは私たちが恩知らずになってしまう。何か私たちにできることはないだろうか?」
確かに彼女たちからすれば都合のいい話ではある。
恩を感じても仕方がない。
恩返しか……何かあるか……?
「何か思いついたら頼ることにする」
そういうとアエリアが満面の笑みでうなずいた。
これで正解だったらしい。
「じゃあちょっと獲物を狩ってくる。アエリアたちは休んでいてくれ」
「私も行った方が……」
「いや、彼女たちについてあげていてくれ。心に刻まれた恐怖はすぐに回復しない。俺は男だし不器用だから女性を安心させる方法なんて知らないから」
「……そうか、わかった」
俺は走り出した。
索敵を使い、次々と獲物をしとめていく。魔小猪が大量にいたため、『風魔法:螺旋槍』で仕留めていく。
『風魔法:螺旋槍』は貫通力に優れた魔法で一直線にしか飛ばないが銃弾並の速度で飛んでいくから避けるのは難しく、さらに鉄板5mmの厚さでも貫通するという優れもの!
原理は簡単で空気を圧縮した小さな矢印を作り上げ、先を螺旋型にして飛ばすだけ。推進力の元となるのは矢印の棒の部分でそこから圧縮した空気が爆発するようにできている。その爆発する風の向きも考えて回転するようにできている。これのおかげで最大4回の圧縮爆発による推進力を持つ。
ただ……全力で撃ったら衝撃波ができてその直線状2km、幅10メートルが何もない場所になってしまい、周りの木々にも少なからぬ影響を与えたため本当に危険な時しか使わないと心に決めた。
閑話休題。
それで少ないときでも3体同時に殺したりして約20前後殺し、血抜きをした。
そこから毛皮を剥ぎ取り、内臓も捨てて……魔石だけは取っておく。肉をマジックポーチに入れてアエリアたちの下へと戻った。
「今から川に案内するからそれまで食えないけど我慢してね」
俺は今ノアちゃんと手をつなぎながら川に向かっている。
ノアちゃんは6歳の美幼女で俺に懐いた。
今ノアちゃんはご機嫌で鼻歌を歌っている。
くぅ~
ノアちゃんのおなかから可愛らしい音が鳴った。
ノアちゃんは赤くなっておなかを抑えている。
「着いたよ。じゃあ食事にしますね」
「何か手伝えることってある?」
セリルが尋ねたので、
「火って使えるかな? 俺、生活魔法使えなくて……」
「うん、わかった」
魔小猪と一緒に乾いた木の枝はとっておいたのでそれを使い火をつけた。
俺は『土魔法』を使って簡易的なバーベキューセットを作った。
『土魔法』はLv.3になったころから錬金ができるようになったため土を鉄に変えることはできるようになっているのだ。
ただ、金や銀などはできない。もちろんオリハルコンもヒヒイロカネもミスリルもだ。いつかはできるようになりたいが焦る必要はない。
急がず、焦らず、俺は着実に復讐へと足を進めるのだ。
邪の魂が狂気に震える。
あわてて口を押えて三日月に歪むのを抑えた。
幸いにも見られることはなく……というよりも突然出てきたバーベキューセットに驚いているようだ。
俺は正気を取り戻し、みんなに声をかける。
「今から肉を焼いていきますのでみなさんは自由に食べてくださいね? えっと箸と皿をお配りしますので、あ、コップも必要――」
「……待ちなさい」
ガシィッ!
肩がみしみし言っています……子供にかけるような力じゃないよね?
俺の肩をつかんだのはネスアだった。
「な、何?」
俺は少しどもりながら応えた。
「これ……どうやったの?」
声は平淡だが目はらんらんと輝き、顔は息がかかるほどに近づいている。
「こ、これって……?」
俺は美少女の顔が目の前にあることを意識しながら何とか声を絞り出した。
「無詠唱に魔法陣なしの魔法……おとぎ話だと思ってた。それに『土魔術』の錬金には必要魔力量が多く誰もなしえていないはず……」
あ……う、迂闊だった……。この世界の魔法は魔術であって魔法ではないのだ。
俺が使っているのは魔法であり、魔術ではない。
つまり……
「どうやったの……?」
もう接吻ができそうなくらいまで近づいたネスアになされるがままだった。
「ひ、ひとまず離れよう?」
「絶対に離れない」
これが恋人同士の会話ならばとてもうれしかっただろうが今の彼女は蛙をにらむ蛇そのものである。
顔が熱い……。
「ネ、ネスア。それじゃあ話せないから少し離れましょう? ナナシ君が困っているわよ?」
ナイスだセリル!
「や」
なんと可愛らしい返事でしょう……。
彼女の甘い匂いが頭を支配していく。
ウバエ
っ!!
俺は徐々に黒い感情になっていく。
ウバエ オカセ メチャクチャニシロ コノヨノスベテ テハジメニ カノジョヲ
フクシュウダ
フクシュウシロ
タイセツナモノ ウバッタ ヤツラニ
オノレノ タイザイヲ
ぅあ
あァああ
「……ごめ、ん、少し、離れて」
俺はそれだけ言葉にした。
かすれた声だった。
苦悶に満ちた声音だった。
それを聞いてネスアは肩を離してくれた。
俺は2、3歩よろめいて尻もちをついた。
その顔は青色を超えて土気色にまでなっていた。
俺の魂は壊せという。
俺の魂は嫌だという。
「ごめ、んね。少しだけ、休む、から一人にさせて」
俺は痛々しい笑顔を浮かべると森の中に入っていった。
「……どうしよう」
私は彼を困らせてしまった。
怒っているだろうか……?
私は昔から人見知りで感情を見せることが苦手だった。
知らない理論の魔術。
魔術陣を必要としない魔術。
それらが知りたいがために彼との関係を壊してしまったのかもしれない……。
「大丈夫だよネスア! ナナシ君の器がそんなに小さくないって」
「でも……でも……嫌われたかも……」
「いずれにせよ何かわけがありそうだな……あの反応は何かを思い出したかのような感じだったからたぶんネスアのせいじゃないさ。それにそのようなことで嫌うような狭量な男ではないと思うぞ? 私たちのためにここまでしてくれたんだからな」
そうだといいんだけど……。
大丈夫かな……。
あの時見せた苦悶の表情……あれは……おかしい。
何がおかしいのかと問われてもはっきりとは言えないけれど、何か矛盾していた。
何かに抵抗するかのように……。
どうにかできないだろうか……?
そうして彼のことを考えている自分に気が付いた。
おかしい……私が。
一人の男に興味を持つことはなかったのに今はどうしても気になってしまう。
でもこれは好意であってまだ恋ではない。
彼は純情だ。
まっすぐなんだとすぐにわかる。
でも、何かがねじ曲がっているような、歪んでいるような気がしてならない。
考えてもあまりに判断材料が少なく、私は彼が来るまで焼肉には手を付けないでいた。
その時だった。勇者が現れたのは。
女性の悲鳴があがった。
まずい、ノアちゃんを人質に取られた……!
「へっへっへ。こりゃ揃いもそろって綺麗なやつらばっかりだなぁおい?」
「いやっ! たすけてっ!」
「くそガキがいねえのはわかってんだよ!! お前らは俺のもんだ。絶対に犯して――」
ヒュンッ! ビィイイン!
その勇者の開いた口に矢が突き刺さり、絶命した。
こんなことをするのは彼しかいないだろう。
「お兄ちゃぁああああああん!!」
森の中から長弓を携えて現れたナナシにノアちゃんは泣きながら抱きついた。
ナナシは抱っこして頭をなでてあげていた。
「怖かったね。もう大丈夫だから安心して。悪い人は俺が退治してあげたからね」
「ぐすっ、ぅう」
その姿を見て、悩んでいたのがようやく晴れていくようだった。
彼がそんなことで嫌いになるはずがないとわかったからだ。
そう思うと、どうしても魔術のことを知りたくなる……。
我慢だ、我慢。まずは謝ってからだ。
私は彼の下へと歩き出した。




