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謁見フラグ?

 成り上がり……するかもしれない。

 でも……政治的なことは苦手……

 走る、走る。

 その身に善悪の魂を持ちながら、心臓が悲鳴を上げても走り続ける。

 女性の悲鳴の下へと。

 


 見えた。

 三人の女性が一人の少年を守りながら戦っている。

 相手は盗賊だ。

 数は……木の上に3匹、そして騎乗しているのが15匹、あとは30程度。

 盗賊はねちねちといたぶっているようだ……。

 女性方の体には小さな傷がいくつもなっている。

 少年は……装備だけ立派なガキだ。

 それも足を引っ張ってばかり。



 俺はまず盗賊を殺せることに喜び、

 女性方を助けることに歓喜した。



 じゃあ……殺戮の始まりだ。



 まずスローイングナイフを片手で三本持つ。

 弓をもち、隙だらけの木の上にいる盗賊3匹に向けて投げる。

 さすがに距離があるため足の付け根を狙った。

 見事に命中し、何が起きているか分かっていない3匹は落ちていく。さらに下には俺が土で作った槍が数本生えている。

 むろん刺さった音なんて女性方を襲っている盗賊たちは気がつかない。

 俺は盗賊から武器の類をマジックポーチに入れ、ナイフを持ち気配を殺しながら後ろにいた首領だと思われる男のうなじにナイフを突き立てた。

 その際首領を蹴飛ばし大きな音を立てさせる。

 みんながこちらを向く。そして驚いている隙に近くにいた盗賊の首にナイフを一閃。

 吸い込まれるようにそれは横一文字に軌跡をなぞり、一瞬後に血が噴き出す。

 そしてその間にも俺は手を休めない。

 やっと正気に戻ったみたいで盗賊が俺の方を見て叫ぶ。



「このクソガキャァアアアアアアアアアアアアアア!!」



 俺はスローイングナイフを両手の指に一つずつ挟み合計8本投げた。

 それぞれが騎乗していた男の喉に埋まった。

 ナイフの軌跡にまたもや呆気にとられた盗賊たちを一閃の下に殺していく。

 悪鬼羅刹。

 盗賊にとってはそう映っただろう。まだ10にも満たない子供がただただ死体を製造していくのだから。何の冗談だと思うだろう。

 だがこれは現実であり、さらに自分たちが死ぬイメージを明確にした盗賊たちは恐慌状態に陥った。

 その時にはすでに馬上に盗賊はいない。

 さらに逃げようとした盗賊たちは一斉に転ぶ。

 その足には土によって拘束されていた。

 いつの間に? 詠唱なんかなかったし魔法陣もなかった。

 それがさらに盗賊たちの頭を混乱させていく。

 だが現実は許してくれない。

 現実は……いつだって非情だ。



 最後の一人になった盗賊は哀れにも命を乞う。

 


「俺の質問に答えろ。俺が嘘だと断定した場合は容赦なく殺す。余計なことをしても殺す。自害も許さぬ。さて、質問だ。お前らの住処はどこだ?」



「ど、洞窟に住んでいる! ここから南にある岩壁の一部に植物が生えていてそこに洞窟を隠している! そこにある金ならやる! だから、だから助けてくれぇ!」



 俺は『索敵サーチ』を使い、証言通りだとわかった。

 


「次の質問だ。貴様らは何が目的でこの女性方を襲った?」



「ゆ、勇者は高く売れると思ったんだ!」



 勇者……ね。

 確かに気になっていた。

 俺と同じ黒い髪と黒い目の少年。

 顔立ちは結構な面だがピアスとかつけて女癖と頭の悪そうな少年だ。歳のころは18くらいか?

 間違いなく俺と同じ日本人……。



 コロセ!



 っ!!

 ぁ、くそ! 忌々しい……! くそ! くそ!

 責任転嫁も甚だしい!

 あいつが悪いんじゃない、そう思っても俺の邪の魂は嫉妬と憎悪に少年を殺したく思う。



「そうか」



「あ、ああ。だ、だから――ゴボッ!」



「じゃあな名も知らぬ盗賊」



 首にナイフを穿ち、返り血が俺を濡らす。

 それが心地いいと思ってしまう。

 魂搾取の時間だ。



 魂を喰らった後、女性方に向き直る。

 まだどうなったのかわかっていない。理解できていないようだ。



 俺は勇者なんぞにかかわりたくなかったのでさっさと洞窟まで行こうと思い、背を向けた。



「お、おい待てよガキ!」



「……なんだ?」



 イラッとしたが律儀にも返してやった。



「そのナイフよこせよ。ガキが使っていいもんじゃねえ」



 勇者はにやにやしながら俺に近づいてくる。

 女性方が困った顔して俺にすまなさそうな視線を送る。



「断る」



「ああ!? いいからさっさとよこせよっ!」



 俺の肩に触れた瞬間に腕をひねりあげた。



「俺に気安くふれるな。穢れる」



「痛っ! 離しやがれくそガキ!」



 女性方が俺に近づいてきた。

 一応警戒だけする。

 その間も魂を奪えと俺の魂が暴れるが理性で押さえつける。



「少年。すまない。これでも召喚された勇者殿なので離してあげてほしい。それと助けていただいてありがとう」



 赤毛のりりしい女性が俺にぼそっと漏らした。



「君すごいね! ボクも君みたいに早く動けたらいいのになぁ」



 ボブカットのボクっ娘が元気な笑顔で俺に尊敬のまなざしを向ける。

 ……なんかくすぐったいな。



「助太刀……感謝」



 魔法使いの銀髪の少女が無表情で言った。



「おいっ! お前ら俺を助けろよ!」



「勇者殿は少し反省したまえ」



「役に立たねえくそアマがっ! 俺は勇者だ! お前らの代わりなんていくらでもいるんだぞ!!」



「わかった。じゃあ私たちはここでお別れだ」



 こいつがどれだけクズなのかわかった瞬間だった。



「お、おい待てよアエリア!」



「私の名前を気安く呼ばないでくれ。ああ、少年。それはもういいから適当に転がしておいてくれ」



 俺は言われた通り手刀でクズを気絶させて転がしておいた。



「改めて、ご助力感謝する。私はアエリア。サリエス皇国第三騎士隊隊長だ」



「ボクはセリル。所属は第ニ騎士隊副隊長。よろしくね!」



「ネスア……第一魔法師隊隊長……よろしく」



「俺の名前はない。旅人だ」



 アエリアが代表して聞いた。



「名前がないとは?」



「前の名前は捨てた。今は見聞を広めるために旅をしている。……そうだな、ナナシって呼んでくれ」



 それにアエリアたちは驚いている。



「失礼だが……歳はいくつだ?」



「8歳だ」



 それにまた驚く三人……ネスアはどうかわからないが雰囲気的に驚いている……と思う。



「……ナナシ。助けてもらい厚かましいが頼みたいことがある」



「なんだ?」



「盗賊の住処に案内してほしい。むろん財宝などは国に私から申請してナナシの所有財産とするように手配する。ただ、奴隷がいた場合は国に保護させてほしい」



 奴隷……か。

 元日本人の俺には許せない制度だ。



「国では奴隷はどういう扱いだ?」



「奴隷は主に3種類あって、借金奴隷、犯罪奴隷、違法奴隷となるが違法奴隷のほとんどが盗賊から流れてくる。私たちは王に任ぜられ勇者殿と一緒に魔王を倒しに出発したのだがすぐにこれだ……今回の勇者ははっきり言ってもうダメだ……じゃなかった。それで違法奴隷の処遇だがすぐに隷属の首輪を外されて自由になる。違法奴隷には解放後少しだけだが保障されるからそのまま国民になるもよし、元の国や村に帰るのもよしとなる。そのあたりは陛下が徹底なされているから問題はない」



 借金奴隷は金が払えない、もしくは金が必要で奴隷になった者たち。

 犯罪奴隷はその名の通り犯罪を犯した、もしくは国に敵対した敵国の兵などがなる。

 違法奴隷は正式な奴隷ではない。

 それを鑑みるにサリエス皇国の皇王は賢王だろう。

 ふむ……だとしたら問題はない。

 俺は頭がいい方ではないので戦いなどの効率化はできても政治などどうでもいい。とにかく奴隷たちがどういう扱いによって国に対する対応を変えるつもりだった。

 そこまで偉くはないけど……。



「……わかった。では案内する」



「感謝する」



 三人が一斉に頭を下げる。



「こ、こんな子供に頭を下げないでくれ」



 はっきり言って恐れ多い。

 態度的には好ましいが平民の子供に頭を下げたなんて噂が立ったらアエリア達は笑いものにされてしまう。



「ナナシ君っておかしいね~」



 クスクスとセリルが笑った。

 俺の顔は赤くなっていることだろう。

 それを見てまたもや3人は笑った。

 アエリアはどちらかというと苦笑ではあるがセリルは元気に笑い、ネスアはちょっと微笑んでいる。

 三人はとにかく美女に美少女だ。

 そんな女性方から微笑まれて照れない男はいるのか? いやいない。



「さ、さっさと行こう!」



「ナナシ君ってかわいいね~」



 そう言ってセリルが僕の頭をなでる。

 俺より年上ではあるが身長的には俺と同じくらいだ。

 お姉さんぶりやがって……。

 そういえば……レギサ姉さまやティア、ルムたち元気にしているかな……。そこら辺の情報も収集しなければならないな……。マルクさんもまだいるかな……。

 ここが同じ世界だということを祈りながらどれだけの年月が経ったのかを調べる必要もある。

 できればそんなに経っていませんように。



「…………」



 考えている間ずっとセリルになでられていた。

 俺がムスッとしているのを知りながらなでている。

 女性を乱暴に扱うことは許されないのでなされるがままだ。



 俺は先頭を歩き、洞窟までついた。

 そこの植物などをナイフで切り飛ばして中に入ると2手に道が分かれていた。

 索敵サーチを使うと右の道は奴隷置き場のようだった。

 女性の奴隷が結構いた。

 まだ手を付けられていないようでなによりだ。

 高く売るためか?



「右手に奴隷たちがいるようです」



 俺が先頭でドアを開けた。

 そこには女性の奴隷たちが裸で檻に入れられていた。

 眼福なのか目に毒なのかわからないが俺は背を向けてアエリア達にあとは任せた。

 女性たちは泣きながらアエリア達に感謝を述べて仲間たちと抱擁していた。



 ……異世界って……こんなにも美女や美少女がいるのだろうか……。

 異世界に来てから美女や美少女にしか会ったことがない……。

 それはまぁいいとして奴隷の女性方には少しだけ待ってもらってもう一つの道を進み、ドアを開けた。

 そこには武器やら財宝やらそれなりにあった。

 それらはいったんアエリアたちが預かる。一応皇王陛下に証拠品やらで見せるためだ。

 女性たちの服はすぐに見つかった。それらを持ってアエリアたちは戻り、俺は洞窟の入口で待つ。

 盗賊がこれで全部とわかったわけじゃないからだ。

 盗賊の人数とかも聞いておけばよかったと思ったのはこの瞬間だった。

 警戒を最大限にしてアエリアたちを待つ。



 盗賊は出ることもなくアエリアたちが出てきた。

 みんな外の空気を吸っている。

 また涙を流すものもいた。

 善の心が喜んでいる。

 こんな空間が俺は好きだった。

 みんなで笑えて、生きていることや自由について喜び合うことのできるこの空間を……。



 ここからサリエス皇国はここから歩いて一日半といったところにあるらしい。

 あれ? なんか謁見するようなフラグを立てたような……。

 き、気のせいだよね?

 政治の道具とかにされないよね? ね?

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