餓えた弱者
今までで一番難しかったかも……。
『小さき者よ。何故、我と相対す?』
荘厳な白銀色の15mはある身体に気高き竜眼。僕を見下すその眼は僕の身体を射抜いた。
僕は目の前しか見えていない。たとえそのぎらついた牙や鋭利な爪が見えようと、僕は止まらなかっただろう。
古竜の殺気で身体が鉛のように重い。
勝てない……。
そう思った。
でもこの餓えた心は、欠けた心には何かが必要なんだ。
だから、
「その、心が、ほしい」
片言のように答えた。
殺気を打ち消すかのように叫んだ。
「あァああアあああああアアアあアアああああアアア!!」
壊れた心で、狂いそうな頭で、木剣を構える。
「双剣歩術・【鏡歩】」
『鏡歩』による緩急をつけた歩法により一直線上にいくつもの残像を作る。
強い相手ほど先読みしようとするために緩急をつけたこの歩法は相手の眼にありえない動きをしている残像が見えているのだ。
ドラゴンが前足を振り下ろす。
「双剣術・【双頭蛇柳】」
攻めと守りの型を合わせた技であり『後の先』と併用する技で次の連撃に入れる力が増える。
相手の攻撃の瞬間に『思考加速』を行い、『攻撃予測』で軌道を確認。
『見切り』で相手の前足が僕の身体の横に来るように『足さばき』で避ける。
『後の先』により木剣に魔力を乗せた一撃。
「双魔剣術・【崩華蹂躙】」
振り下ろした前足の上に交差させた木剣を全力で振り下ろした。
『グォオオオオオ!!』
多少なりともダメージはあったようだがドラゴンからしたら微々たるものだ。
『許さぬ! わが身体に傷をつけたことをその身にて思い知れ!!』
ドラゴンは息を大きく吸い込む、
僕はアイテムボックスから出した『酸性雨』の酸性の水を『水魔法』を使い凝縮。さらに『酸神の加護』を使い王水に変えていく。金すら溶かす酸性の水。王の名をつけるのにふさわしい水。それが王水。
『風魔法』を使い空気による圧力も加える。
30ℓもの王水が直径1mの水塊になる。
まだ足りない。
魔力で覆った手のひらで『怪力』を使い、さらに圧縮。
直径3cmの水塊になった。
『劫火炎弾!!』
【『複合魔法・水風』・『酸水風爆発』!!】
白い炎の弾が飛ぶ。
直径10mはあるかと思われる太陽のような炎塊が僕めがけて飛んでいく。
それに相対するかのように直径3cmの水塊が向かっていき……呑み込まれた。
『クァハハハハハハ!! 軟弱――』
ドッバァアアアアアンッ!!
炎が膨張し、弾けた。
中から大量の水しぶきが部屋全体に霧吹きのように広がった。
『GYAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!??』
ドラゴンが暴れた。
その眼と鱗を溶かされて激痛にのた打ち回って暴れる。
もちろん僕のところにもくる。
尻尾の薙ぎ払いに身体が浮いた。
「ゴフッ!」
たぶん内臓に肋骨が刺さっている。
あっけなくどちらも満身創痍になってしまった。
『殺してやる!! どこだニンゲン!? 殺してやる殺してやる殺してやる!!』
僕は壁にもたれかかっている。
死ぬのは時間の問題だ。
眼が見えていないのをいいことに『原子魔法』による体内組織の再生を開始する。
動けるまで『分散集中』で治療を早め、動き、相手との距離をとってから、『原子魔法』を発動。
頭はせわしなく動いているのでまずは危ない足を切り離す。
「『分解』」
前後の両足の細胞を一つ残らず切り離した。
ブッシャァアアアアアッ!!
ドラゴンの千切った足から血が流れ出る。
それを『水魔法』で僕の口へと導く。
『暴食魔』によってそのエネルギーを喰らう。
『許さぬ! 許さ、ぬ……ゆる、さぬ……ゆ……る……』
失血死によりドラゴンは死んだが。僕は一滴残らず喰らう。
もうエネルギー補填により身体は回復しているが血をいくら啜っても魂は喜ばない。
血がなくなり、肉に食らいつく。
胃に入らずエネルギーとして身体に蓄えられるため、いくらでも食べられる。
「足りない、足りない、足りないんだよ」
喰らう、喰らう、喰らう。
「まだ足りない、全く足りない、この渇きは」
喰らう、喰らう、そして、魂を手に取った。
ドクンッ!
心臓が早鐘を打つ。
【魂の根源を取得しました。これより魂の融合を行います】
「…………」
赤黒い魂が僕に吸収される。
黒い魂の時と同じだった感じ。
ドラゴンの魂がだんだんと僕の魂と融合していく。
心にほんのわずかな修復がなされる。
乾いた魂に一滴の水が垂れた。
ひび割れた魂はまだ治らない。
もっと、いる。
魂が、もっといる。
【ERROR!! ERROR!! 『暴食魔』が進化します!!】
【進化……成功。究極能力『暴食魔』→魔神能力『魔霊王貴』】
【『魔霊王貴』により魂の禁忌を外します】
【『魂の鎖解除』】
【魂の純化率上昇……成功】
【警告警告!! 【下等非凡種】→【下等優越種】→【下等超越種】に進化します】
「っ!!」
魂のヒビにほかの魂が埋めていく。
僕の集めた魂は半分も使っていなかったが『魔霊王貴』により自分以外の魂も純化され、僕に吸収されたからだ。
【進化……成功。【下等非凡種】→【下等優越種】→【下等超越種】】
【種族の進化……成功。【人間】→【仙人】】
【特別能力:『竜麟』を取得しました】
【特別能力:『吐炎』を取得しました】
【特別能力:『竜眼』を取得しました】
【特別能力:『覇気』を取得しました】
【『竜麟』・『吐炎』・『竜眼』・『覇気』がそろったため統合します。……成功。魂の純化能力により神能力『神竜緋王』を取得しました】
【称号・『竜殺し』を取得しました】
【称号・『神の御業』を取得しました】
【称号・『魔神の仕業』を取得しました】
スレイスの身体が変化を始める。
その体は急成長し、全盛期の体へと作り上げられる。
「ぐぅ……!」
身体が、細胞が歓喜の声を上げている。
魂が共鳴を起こしている。
無理やり身体が作り変えられることに想像を絶する痛みが伴い、『狂化無効』がなければ発狂しているであろう痛みだ。
身体が作り上げられると、
【特別技:『気力操作』を取得しました】
種族:仙人による効果か『気力操作』が手に入れられた。
「それより……僕は……ぁ」
意識が途切れた。
また深い闇へといざなう声。
私の魂はいずこにあるのでしょう?




