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魔術師のお仕事  作者: 雲先
魔術師ここに立つ
3/10

1-3 魔術師と弱さ

 つんとするプラスチックの燃えた嫌な臭いが充満する暗がりの階段を降りていく。一歩、一歩降りるたびに、自分の時間が残り少なくなっていく気がした。

 私のノミの心臓はバクバク必死に脈動してくれるけれども、私の肺は役割を半分忘れたみたいで息苦しさは良くなるどころか悪くなる一方……。

 最後の階段を降り切った私は、息苦しさで立ってられなくなっちゃた。その場にへろへろになってへたり込む。


 振り返って心配そうな視線を向けてきてくれる輝樹さんを視界のうちに入れながら、私はぼんやりと辺りを見回した。

 入り口もそうだけど、見も知らない場所だった。どこかの地下街だと思う。本来は小さいながらもアーケードを形成していて、店舗も何軒か入っていたみたいだった。本来ならクリスマスが近い今、店舗は躍起になってクリスマスの飾り付けを競っていただろう場所。でも、いまは見る影もなかった。


 置かれているプラスチック製のベンチは半分熔けて、点字タイルが埋め込まれた床には逃げ惑う人たちが落として行った荷物が散乱していた。タイルで模様が付けてあっただろう壁は、付けられた広告の看板ごと真っ黒になっていた。

 昼間、私が命からがら永久さんに助けて貰った地下鉄に似てる。こうして似た現場を見ると、良くぞ生き残った私っと自分に拍手を送ってやりたいぞ……これからどう転ぶかわからないけれどね?


「一体なにが目的なんですか? 私達は同じ魔の道に生きる者で、本来は助け合う筈なのに……なんで同じ魔術師の命を狙うんですか?」


 私の思い切りの質問に、私を見下ろす形になっていた輝樹さんは申し訳なさそうな表情をした。へたり込んだ私の前に屈んで視線を合わせてくれる。その眼鏡を掛けた眼に、私は申し訳ないと言う色があるような気がした。


「沙紀さんは魔に連なる力をどう思いますか?」


「……魔に連なる力? 魔術のことですか? ……私は大きな力だと思います。使い方を誤れば沢山の悲しみを生む力だって……」


 もうどうにでもなれ~って自棄になった私は少しだけ皮肉を込めて輝樹さんの質問にそう答えた。けれども、輝樹さんは私の予想とは正反対の反応で、うんうん頷いて、さすがは永久さんの愛弟子だって一人納得してた。あれ? キレられても困るけど、私の返事に満足してないかな?


 お、おかしくないかな? 普通の悪役はこの場面で雑魚キャラにこんな生意気なこと言われたら怒って、お前なんて消し炭にしてくれる! みたいなこと言うのが正しい悪役だと思うぞ? 

 輝樹さんの反応に一人混乱する私を置いて、輝樹さんは話を進め始める。


「魔術は大きな力。その認識は全ての魔の道に関わる人間の共通の認識でしょう。でも、使い方を誤れば沢山の悲しみを生む……その認識は残念ですけど、全ての人間が持つ認識ではないのです」


 そう言った輝樹さんは私の隣に腰を下ろして、眼を細めて力無く笑う。なんでだろう? 私にはその笑い方が自分自身を嘲笑っている気がした。


「あれは私が永久さんの許から卒業して、間もない頃の話です。一人前の魔術師に速くなろうと躍起になっていた私に『魔術の可能性を一緒に広げよう』と言ってあの人は近づいて来たんです。……今思えば、色々と怪しい所は沢山あったんですけどね? あの時の私は余りにも無知で愚かだった。私は言われるがままに他の師から魔の道を教わりながらも、あの人の下で『聖者の使徒』と言う秘密結社に属して活動するようになったんです」


 そこで一旦話を切った輝樹さんは苦笑いしながら、如何にもオカルトチックな名前でしょう? って私に同意を求めてきた。私は戸惑いながら頷く。


「『聖者の使徒』は表向きは魔術を人類の為に有効活用しましょう、って魔術を研究していた組織だったんですけね? そんなのは表向きだけなんです。本当は強力な、それこそ沢山の悲しみをより効率的に生み出すことが出来る魔術の追求をしている組織だったんですよ。秘密結社って時点で表向きも何もない訳ですけど、あの時の私はそれすら見極める事が出来ないくらい『聖者の使徒』にのめり込んでいたんです」


 輝樹さんは、そこから重たい物を背負ったように苦しげに続けた。


「私は『聖者の使徒』で前々から興味を持っていた、人とは違う存在の研究をしていたんです。運がよかったのか悪かったのか、あの頃の『聖者の使徒』には同じ研究をする術師が沢山いて、私は周りに負けじと躍起になった。気が付けばその分野で組織の一番になるくらいに……でも、それが拙かった。私の研究成果を知った『聖者の使徒』は私に囁いたんです。『君の研究成果を形にしよう』って……私は初め喜びました。自分の研究していたものが評価される。やっぱりそれは嬉しいから……私が研究していた分野は周りから見たら絵空事ってよく言われましたから余計に……」


 あっと思った。評価されたって口にしたときの輝樹さんの表情は、永久さんの家で見た写真と全く一緒だった。ほんわりと笑って……でもその表情は一瞬だけ。その後苦々しいものを噛み締めるみたいに表情をまた輝樹さんは険しくして、続きを話してくれる。


「組織は私にお金と人を与えて研究成果の具体化を求めたんです。私も自分の研究成果の完成を目指した。……白状しますとね、あの時の私は人の命もこの研究を完成させるためなら、費やしても構わないと思って居たんです。妹に、血の繋がらない義妹におかしいと指摘されるまではね」


 ふっと力なく私のことを見て笑った輝樹さんは、沙紀さんと同い年なんですよって言った後、仲良くしてあげて下さいねって続けた。あれ? 何かおかしくないかな? なんかその話をのみ込むと私、殺されない気がする?


 私が目を白黒させている間に、妹の写真があるんですって、輝樹さん嬉々として懐から流行りの四角い携帯電話を取り出した。けれども、携帯電話の真っ黒い画面を見た途端に輝樹さんの表情が険しくなった。私があれ? って思ってる間に、輝樹さんは魔術を行使する呪文を唱えたんだ。


 ひっ! って思わず輝樹さんが行使した炎が見えた瞬間に自分でも可愛くない悲鳴を私は上げた。咄嗟に手で自分の顔を覆ったけれど、何でだろう? 昼間の地下鉄の時みたいに熱さも痛みも感じない。

 恐る恐る手で覆うのと一緒に閉じていた目を開いてみれば、輝樹さんの険しい顔が私じゃなくて、私達の背中にある地下街の入り口に向けられていた。私は顔を手で覆ったまま、輝樹さんの視線を追って固まった。


「っ!! 公っ!?」


 入り口の階段、数段上には公が立っていて、こっちを、正確には輝樹さんを睨んでいた。――って思ったら途端に膝を崩したものだから、公の体は残り少なくなっていたとはいえ階段を転がり落ちてくる。階段の一番下に居た私は、ぎゃーっ!! っておかしな悲鳴を挙げて転がり落ちてくる公を受け止めた。


「ちょっと! 公! 大丈夫!? 輝樹さんっ!! 公になにしたんですか!?」


「っ! 沙紀さんのお知り合いですか? 凄い殺気だったのでつい『圧迫』の術を使いましたけど……」


 階段の下で私が受け止めた公は大事にはならなかったみたい。痛ぇとか呻きながら、上半身を起こした後で私の腕を掴んだ。輝樹さんとは反対の、自分の方に引っ張って、また輝樹さんを睨みつける。

 公の雰囲気は私の知ってる公とはまるで別人で、怖いと思ってしまうほどだった。


「あんた、沙紀をどうするつもりだっ! 自分の私欲を満たすためなら他人を犠牲にしてもいいのかよっ!!」


 公の聞いたことが無いぐらい大きな声に私はびっくりして、思わず目を瞑ってしまう。……いっ意外だぞ。公がこんなに声を張り上げて感情を表に出すなんて……何時も私をニヤニヤ笑って、小ばかにする姿しか私は知らなかったから、ちょっとだけ新鮮。

 一方、感情を爆発させてる公と対する輝樹さんは何でだろう? 断罪の言葉を聞いている筈なのに、目を瞑ってしまった。鈍い私でも簡単に分かるぐらい、嬉しそうに断罪を受け入れる言葉を公に返したんだ。


「そうです。私は私欲のために、幾人も今まで犠牲にして来た罪人です」


 びっくりした。見開いた私の目に、断罪されている筈の輝樹さんはほんわり、あの写真の、永久さんと楽しい師弟関係だった頃のように笑っていたんだ。


 ああっ、この人は裁かれることを望んでいるんだと私は不意に思った。


 輝樹さんは一人立ち上がって、私達から距離を取るみたいに五、六歩前に進み出た。振り返って私達にまたほんわり日向のように笑って、妹さんにおかしいと言われた後のことを話してくれた。


「私は立ち止まって後ろを振り返りました。私が成して来た、偉業と信じるものがこの世のためになっていると思って振り返った。私の成したもので人の世が少しでも良くなっていると、信じて疑っていなかったから……でも、現実に在ったものは、自分でも眼を背けるようなものだけだったんです」


 私と公に背中を向ける、日向のような笑みを持つ人。その声はまるで泣いているように震えていた。


「私は無知で、私欲を追及した自分を恨み、悔やみました。なぜこんな血も涙も無いことに平然と手を出してしまったんだと、なぜ『聖者の使徒』なんて非人道的な組織に身を置いてしまったんだんだと、なぜあんな男の口車に簡単に乗せられてしまったんだと……でも、先人の方々が言うように、『後悔先に立たず』なんです。もう、私は足を踏み入れてはいけない所まで、行ってしまっていた」


「……後戻りが出来ないから、私に止めて欲しかったの?」


 ふっと、私の上から落ちてきた言葉に、私は胸の中に今まで蠢いていたものとは違うものが染み出してきたことを感じた。いつの間にか、私の後ろに居たその声の主を見上げる。


 その人の表情は、びっくりするくらい何もなくて、本当に私の知っている人か疑ってしまう。だって、何時も感情が表に出てる人なのに、今は怒りも、そして、悲しみも何も見出すことが出来ないんだよ……


 輝樹さんはすっと背筋を正した後で、私の後ろに立つ人に深々とお辞儀をした。申し訳なさそうな顔をして挨拶をする。


「お久しぶりです。私の師、黒の魔術師永久さま……言い訳も出来ない、不出来な弟子ですが、どうかお願いです。私の願いを聴いて欲しいのです」


 永久さんは輝樹さんに応えないで、黙って私と公の前に出た。永久さんの黒い背中を座り込んで見上げる私の目には、なんでだろう? いつもよりとても小さく見えて、何も考えずに、黒い背中に今すぐ後ろから抱きついてしまいたかった。でも、私の体は役立たずで、私の意をちっとも受け付けてくれない。


 憎いと思った。私の大好きな人をここまで悲しませる人が、悲しんでる大好きな人に、何もしてあげられない私が……

 助けられるばかりで、私は誰も助けられないんだ……


「……妹を、助けて下さい」


 短い言葉、それが輝樹さんの最後の言葉になった……




 お日様が完全に姿を隠して、でも街の明かりで冴え冴えと明るい道を私と公、そして永久さんの三人で帰り道を歩いていた。


 私がふっと思って周りを見れば、来るときに見た街並みがやっぱり何の変化も無くそこに在って、私は途端にその街並みが憎いと思った。

 今さっき、人が死んだのに、なんでこの街は、人は何も変わらないんだろう?

 自分でも馬鹿なことを考えていることは分かってる。でも、この街が、普通の人達が何も知らずにいることに腹が立った……

 初めは理由も分からなかった。けれども、店先のショーウインドウに、歩く自分の姿が映る度に、少しずつだけど理解が進んでくる。


 綺麗に飾り付けられた洋服に美味しそうな食べ物、季節物のクリスマスの煌びやかな飾り。私は、この街が羨ましいんだ。何も知らずに、ただそこに在ることが許されることが嫉ましいんだ……

 その感情を理解した私に、永久さんの言葉が蘇ってくる。『私達魔術師は、魔術と言う他の人に無い『力』を得て生まれて来る。けれど、同時にその『力』によって『弱さ』も一緒に持って生まれる』

 そうだよ。私達は魔術って言う力を得た代償に、飛び切りの弱さを持ったんだよ。


 苦しいと思った。こんな弱さは要らないのに、なんで神様は私達にこんな弱さを押し付けたんだろう? 

 苦しい、息をするだけで苦しい。

 そこまで考えて、分かった。輝樹さんも苦しかったんだって……


 輝樹さんは力を追求のことで、沢山の人を傷付けてしまった。そのこと悔やんでいた。力を追求するあまり、周りが見えなくなっていたことも……これもある種の『弱さ』の形なんだと思う。輝樹さんの場合は弱さが、力を追求しようとする『欲求』として現れたんだ。『欲求』は輝樹さんの視野を狭めて、正しい判断を輝樹さんに出来なくさせた。


 私の場合は、弱さが劣等感と、嫉妬になって現れたんだ。

 私はこの街の、何も知らない人たち以上に命の心配をしなくちゃいけない。私は他の人が気に掛ける必要がないことも、気にしないといけない……私は他の人より苦労しないといけないんだ。そのせいで劣っている存在だって思ってしまうんだ。だから、私は『普通の人』を羨ましく思ったり、嫉ましく思ってしまうんだ。



 私って……、向いてないのかもしれない……




「永久さん。俺、永久さんのこと大好きですから」


 ……っ!? いきなり何を言い出すんだ公の奴はっ!? はっ!? 周りに人はっ? ……って、私が考え事している間に、永久さんの部屋があるマンションのすぐ近くまで来てたんだ……気付かなかった。


 私は気を取り直して、公の顔をまじまじと見て、真意を図ろうとした。けれども、公は真剣に永久さんのことを見ていて……

 えっ!? もしかして、これって告白っ!? ちょっ! 場所とタイミングを考えなよっ!? ほらっ! 永久さんもきょとんってしてるじゃんっ! それにっ! 公に永久さんは勿体無いっ! 絶対にだめだもんねっ!! 永久さんは私のお嫁さんにっ!!


「ふふっ……ありがとう公ちゃん。私も公ちゃんのこと、大好きよ~」


 はぐっ!? とっ、永久さん! そんな満面の笑みで応える必要なんてないんですよっ! それに永久さんには私と言う者が居ましてっ!!


「でも、無理しなくてもいいのよ? さっきは一応二人に見せないようにしたけど、私は黒を冠する魔術師として、必要なことをしたのは事実なんだから……」


 ……そうか、何を勘違いしていたんだろう私は……


 眼を閉じれば輝樹さんの……最後になる筈なのに、本当に綺麗に笑った顔が思い出せる。永久さんは何も言わないで、私達の視界を自分の黒い外套で遮ってしまった。時間にして五秒に満たなかったと思う。永久さんが無言で横に退いたら、もうそこに輝樹さんの姿は無かったし、そこに人が立っていた名残みたいな物も、私には何も見出せなかった……


 今更だけど、あれから永久さんは一言も喋ってなかった……

 なんて私は馬鹿なんだろう。私の悩み、嫉み、羨望、そういった弱さなんて、永久さんの背負っているものに比べれば、何てことは無いものばかりなんだよね。

 命を狙われるなんて、そんな頻繁なわけないし、私は今身を守る方法を永久さんから教わっているんだよ! 何を心配する必要が有るのさ! 私っ!! 返り討ちにしてやればいい話だよ! 

 他の人たちより苦労人? はっ! 他の人たちより世界が広い分、退屈しないで済むじゃない! 


 私が『弱さ』って思っていたものは、実は物凄くちっぽけな物だったんだよ!


「私はね、まじょ「永久さんっ! 私の方が永久さんのこと大好きですっ!!!」ちょ!? 沙紀ちゃん!?」


 ギュッ! って! ギュッギュッ!! って、私は永久さんに抱き付いて絶賛愛情表現!! 永久さんが眼を白黒させてるけれど、この際そこは気にしないもん。今は公に先を越された分挽回しないとねっ! 

 さっき、公は永久さんのこと大好きって言ったのは、遠まわしに永久さんのこと嫌いになんてなってませんよ~って公なりの表し方だったんだよ。

 悔しいぞっ! 永久さんのこと私の方が公より何倍もっ! 違うっ! 何千倍も大好きだもんっ!! だから、私は公なんかよりも何千倍も永久さんのこと大好きだって示すんだもんねっ!!

 まずは第一段階っ!! ハグっだよハグッ! 同性の特権だいっ!


「大好きなんですっ! 永久さんっ!!」


「…………おい、沙紀っ、お前が永久さんのこと大好きなのは永久さんも、ついでに俺も知ってるから騒ぐな。もう夜っ……」


「っ! うるさいぞっ! 公っ! 永久さんを公なんかにぜーったいあげないもんねっ! 永久さんはオレの嫁だいっ!」


「…………っ! 沙紀ちゃん大好きっ!!」


 おおっ!? 永久さんも応えてくれだぞ! ふふんっ! 見たか公っ! 公なんて敵じゃないぞっ! 永久さんは私のだっ!


「沙紀ちゃんは私のお婿さんなのね? うんっ! いいっ!! それじゃあ今日から同じベットで寝て、あんな事こんな事しましょうね~? 大丈夫っ! 私けっこう得意だから、楽しみにしててね~」



 おっ……おかしくないかな? 永久さんの眼が何だか獲物を捕まえたケダモノに見えるぞ……なんか、頭からガブリッされそうな気がする……って、公っ! なに俺はこれでって、帰ろうとしてるんだっ!? だからっ! じゃあまたな沙紀じゃないぞっ!!

 逃げるなっっ!!


 結局、公の背中を私は永久さんと二人で見送る形になった。薄情者め~って心の中で呟いて、公のやつを見送る。


 永久さんは私を背中から抱きしめて、上機嫌で公に手を振っているみたいだった。私からは見えないけれど、とっても明るい顔をしているんだろうね?

 うむ、満足、満足。私はこれからこの人に頭からカブッて丸呑みにされて食べられてしまうけれど、悔いは無いっ!! ……と思う。


 ふっと、耳元に優しい息遣いが感じられた私は、はっとして公の逃げて行った方向を見るけれど、もうその方向に歩いている人は誰も居なかった……


 ……初めてはお部屋で……お願いします永久さん……


「ありがとう沙紀ちゃん……怖がらないでくれて。今まで、結構な人に人殺しって怖がられて、避けられることが多かったから……ね?」


「……っ! 当たり前ですっ! 私っ! 永久さんのこと怖いなんて思いませんでした。……ごめんなさい。やっぱり少しだけ怖かったです……」


 私は永久さんと一度身を離して向き直る。向き直って見た永久さんの顔は思った通り、淋しげに笑っていてね。その淋しげな姿に私はとっても悲しくなった。


 魔の道はやっぱり、とっても険しい道なんだと永久さんの顔を見て私は実感を強めた。そして、永久さんにまた抱き付きながら、私は思うんだよ。


 この人をまた笑顔にしたいってね。


「確かに、ちょっとだけ怖いと思いました。でもっ! 私はそれ以上に永久さんのことが大好きですっ! だって、永久さんはとっても優しい、いい人ですもん!」


 抱きついた永久さんの雰囲気が柔らかいものになったのを感じた。私はもう一度体を離して、向かい合おうと思ったけれど……あっ? あれ? 何だか永久さんの力が凄くて離れられない……ぞ?


「沙紀ちゃんだ~い好きっ!!」


「っ! はいっ! 私もですっ!!」


 よかった。また永久さんが笑顔になってくれて…………

 あれ? 永久さん? そんな捕まえた獲物を逃がさない的な風に引っ張らなくてもいいですよ?


「さあっ! 沙紀ちゃん! 今夜は一緒に楽しくしましょうね~」


「えっ? ……うっ……お手柔らかにお願いします……」


 やっぱり、永久さんは少しだけ怖いと思った……




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