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第四話 中二病な患者は精霊さんと踊る そのいち

毎度ながら短いです。

 輝明が目覚めてから、更に二週間が経った。

 未だに激しく動くと傷が痛むが、今では松葉杖所持での散歩も認められており、担当医高木いわく順調に快復へと向かっているらしい。

 日差しがぽかぽか暖かい、午後三時。

 普段うるさく付きまとう真奈は現在お昼寝中。

 病院の所有する大きな中庭。そこで輝明は、久しぶりに一人の時間を過ごしていた。

「……それにしても広いな。下手な公園よりもあるんじゃないか、ここ」

 そう呟くと、彼は何気なく蚊でもはらうように顔の前で手を振り、中庭を見渡した。

 ところどころに植林や花壇が散見され、更には小さな丘まである。丘の頂上には白い屋根の休憩小屋が設けられており、そこへ至るようにして、中庭の所々をうねうねと散歩道が続いていた。

 休憩小屋には既に幾人かの患者がいるのが見えたため、輝明は丘へは登らずにその周りを縫うようにして色鮮やかな花壇の傍を歩いていく。そして、背の高い木が何本か植えてある中、その木陰に設置されていた白いベンチへと座り込んだ。

「ふう……」

 息をつく。松葉杖で歩くのは、実は普通に歩くよりも大変かもしれない。未だ松葉杖に慣れていない輝明は、そう思いながら辺りを見回す。

 そして、周囲の木や丘によって、そこが人目に付きにくい場所であること、周りに幽霊を含めて・・・・・・人影がないことを再確認する。

「――やっと落ち着ける」

 腰をずらし、背もたれにどっかともたれかかる。病院だから・・・・・などと言ってしまえばその通りなのだが、輝明はこの二週間、常に幽霊がうようよしている中で暮らしていた。好き勝手に壁抜けできる彼らに対してプライバシーなどという言葉は通じない。ストレスたまりまくりである。

 しかも、真奈のように生前の姿のままであるのならまだましなのだが、中には成人指定されそうな程にショッキングな遺体の姿であったり、言葉が全く通じないほどに脳をやっちゃってる感じの幽霊もそこそこ多くおり、輝明の自称ガラスのハートは何度も割れかかった。そのたびに傍の真奈が慌ててハートに入ったヒビを補修するのは、この二週間で最早お決まりのようなものになっている。

(いやあ、真奈がいなかったら僕、今頃どうにかなっちゃってたかもな……)

 肌を撫ぜるそよ風を心地よく感じながら、静かに青空を見上げて輝明はふとそう思った。

 病院には幽霊がやたら多い。そんな中、同じものが見える仲間がそばにいる、というのは、突発的に「見えるようになった」人間である輝明にとって、意外と心の支えになった。これは、その仲間自身が幽霊であっても変わらない。

 世の中の、輝明とは違い先天的に「見える」人たちの大抵は、同じものが見える仲間がいないために孤独感に押しつぶされそうになる経験を持っている――というのだから、それだけ輝明は、なかなかツイている方であった。

 なんだかんだ言って、輝明は真奈を一人の友人として大切に思ってはいたし、上記のことから感謝もしていた。――まあ、本人の前では絶対にそんなことを言わないだろうが。

 最初は幽霊と分かった途端に叫びをあげたくせに、ホントに随分と仲良くなったものである。

「いい天気だ」

 眼前には青く澄みきった大空が広がり、頭上では木々がざわざわと音を立てる。そして目を閉じれば、そよ風が運ぶ夏の匂い。

 いい、天気だ。

 平日である今日、本来ならば他の皆と同じように学校で授業を受けていなければならない、という解放感も相まって、輝明の心中はとても晴れ渡っていた。

 ――だが、まあ。

「……これでお前らがいなかったら、もっと快適なんだけどねえ」

 閉じていた瞳を開き、そう呟くと輝明は小さくため息を吐いた。

(いや、まあ。もう、慣れたからいいんだけどね……)

 輝明は自分の周りに漂う数々の精霊を眺める。陽光降りそそぐ真昼間である今は、彼らのおぼろげな色もくっきりと見分けることができた。

 まず、緑色。こいつは木霊こだま。植物を司っているらしい。

 今は植物に囲まれているから、こいつが一番多い。

 次に多いのが、青色と茶色。こいつは水霊みなたま土霊つちたま。水と大地を司っている。

 あとあるのが、赤色と黄色。それぞれ火霊ほだま金霊かなたまといって、火と金属を司っているらしい。

 以上の緑、青、茶、赤、黄の五種類の色をそれぞれ精霊は持っている。

 森などでは木霊が。海などでは水霊が。農耕地では土霊が。火事現場などでは火霊が。鉱山などでは金霊が多くいる。

 通常、この五種類の精霊たちが一定比率で存在することはありえない。今言ったように、その環境によって精霊たちの比率は偏るものなのだ。

 真奈いわく、精霊たちは自然の力が可視化したもので、「ただそこに在る」だけの存在。特に何かをすことはないし、ましてや彼らと仲良くなったり、彼らを直接利用して何かを為すこともできない。

 できない、はずなのだが――。

「これも一種の才能、だったら嬉しいかな……」

 現在、輝明の周りには多くの精霊が漂っていた。比率はきちんと偏っている。大雑把に分ければ、緑3:青3:茶3:赤2:黄2くらい。

 ……ここで問題なのは、比率の合計が10を超えていることである。本来ならば、この環境において赤色と黄色は殆どおらず、二つ合わせて比率1相当のはずである。それが、なぜか二つとも相応の比率を保っている。

 更には、輝明の周囲にいるこの精霊たち。その数も、少々おかしかった。本来、霊能者にとっても精霊とは偶に見かける程度の存在なのである。間違っても今輝明がしているように、視界を邪魔する精霊をはらうなどという状況は普通起きないのだ。

 ――はっきり言おう。

 山田輝明は、異常に精霊たちから好かれていた。

 それも、常に彼の周りに緑2:青2:茶2:赤2:黄2の一定比率で精霊がまとわりつき、彼と共に移動するほどに。

「ハア。どうせモテ期がくるなら、人間の女性にして欲しかった」

 小さくぼやく。と、そこで輝明はある可能性に気がついた。

 考えてみれば、彼は今真奈をもってして「ありえない」と言わせしめるほどの現象を引き起こしているのだ。もしかすれば、やりようによっては不可能だと言われ続けてきたこと――「精霊の使役」が、できるかもしれない。

(この前「才能無し」って言われてから、こういうことは久しく考えてこなかったけれど……そうか。別に僕自身がすごい力使えなくても、使い魔的な仲間がいればいいんだ……!!)

 まさに目からうろこ。そんな感じの顔をすると、輝明は高鳴る胸を押さえながら考え込んだ。

(まず。まずだ。この、僕の周りを漂うだけの奴らを、どうやって使役する? 言う事を聞いてもらうには、一体どうしたらいい?)

 そして彼は再度閃く。

(いや――思い出せ。精霊は自然の化身なんだ。彼らを使役することが出来たら、たしかになんかすごいことできそうだけれど、考えてもみろ。ただの人間である僕の命令を自然様に聞かせるだとか、大それすぎてるだろう。

 ……そうだよ! 命令なんかじゃない。少なくとも、対等の立場でお願いをするんだ!)

 そして、お願いを聞いてもらえるようになるにはどうすればいいか。

 ――簡単だ。

「友達になればいいのさ!!」

 そう叫び、輝明はバッと立ち上がる。しかし、すぐに腹へ走った痛みに、うめきながら再び座り込んだ。

 うずくまり痛みをこらえる輝明。だが、なぜかその口元はにやりと歪んでいた。

(精霊と友達になるにはどうしたらいい……?)

 ――それも、簡単だ。

(もっと仲良くなればいい!!)

 今、ここに輝明の「精霊さんともっと仲良くなろう計画プロジェクト」が発動した瞬間だった。

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