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第一話 テンプレ展開を経たからといって、必ずしも異世界転生とかするわけじゃない

このお話は、作者が別で連載しているお話の完結後の時系列に位置する、いわば外伝的なお話です。

もうひとつの方のお話をメインで投稿していきますので、こちらのお話は不定期更新(最低でも二か月に一度は更新する予定)となります。


それでもよろしければ、完結までゆるりとお付き合い下さいませ。

「おばちゃん、今日は何がおすすめ?」

 時刻は午後五時を少し過ぎた頃。

 夕焼けに染まった商店街にて、魚屋で夕飯の材料を買い込んでいる男子高校生がいた。

 中肉中背というやつだろうか。身長はおそらく170㎝台で、特に高いわけでも低いわけでもない。別に髪を染めているわけでもないし、彼が来ている制服にも特に目立つような着崩し方は見受けられない。顔も決して悪いわけではないが、別に特段良いわけでもなく――はっきり言うと、その少年は非常に平凡だった。纏っている雰囲気からして、なんかもう、ありふれていた。

 具体的に言えば、どこの学校のどのクラスにも大抵一人はいそうな、そんな感じ。

 そんな、印象を受ける少年だった。

「さて。魚も買ったし、後は切らしてた納豆を明日の朝飯用に買えばいっか」

 少年――山田輝明やまだてるあきは、魚屋を出るとそう呟く。

 輝明は現在、絶賛として一人暮らしを敢行していた。それというのも、彼の両親――教師をしている――が、二か月前から海外赴任へ旅立ってしまったからであった。なんでもアフリカにある日本人学校とやらに行くのだとか。

 生活費などの仕送りは毎月口座へ振り込んでくれること、少し足を延ばせば近くに親戚の家があること、そしてなにより既に高校二年生なのだからきっと大丈夫だろう、と、まあ、そういう感じで瞬く間に輝明は一人で暮らす運びになっていた。

「……ま、別にいいけどさ」

 輝明はそう呟くと、商店街にある個人スーパーへと入っていく。目当ての物――納豆――を何パックかカゴに突っ込み、ついでに何本かのジュースと菓子も買っていくことにする。

 そうして、彼は買い物かごを提げて、レジ前の列の最後尾へと加わる。

(……ああ、早く帰ってあの小説の続き読みたいなあ)

 なかなか進まない列を無感動に眺めながら、輝明は胸の内に昨晩見つけたネット小説を思い浮かべた。

 たしか、何のとりえもない平凡な高校生である主人公がある日の帰り道、通り魔なのだろう見知らぬ男に突然腹を包丁で刺され、死亡する。しかしその死が新米女神の手違いによるものだったことが判明すると、主人公は出鱈目チートな異能を神から授かり、意気揚々と異世界に転生し、そこで自由気ままに好き勝手に冒険しまくる――と、まあそのような内容であった。

 これは、「異世界転生もの」と呼ばれるネット小説のジャンルの中でもお決まりテンプレと呼ばれる内容で――そして輝明は、このテンプレな異世界転生もの、または異世界召喚ものや異世界トリップものと呼ばれる、そういう手のネット小説が大好きであった。

 まあ、今説明した異世界もののテンプレ云々はネット小説界自体の風潮と言うわけではなく、「小説家になろう」という某大手小説投稿サイト内のみでの現在の風潮、と言った方が正しいのだが。

 そう――輝明は、「小説家になろう」の愛読者だった。

「ありがとうございましたー」

 終始パートっぽいオーラを放っていたおばちゃんの声に見送られ、輝明はスーパーを出、商店街を歩きだす。

 先程、昨晩まで読んでいた小説を思い出したからだろう。その足は先程までより心なしペースが速くなっているようだった。

(なんか、思い出したらどんどん読みたくなっちゃうじゃないかっ……くそう、こうなったら走っちゃおうか? え、走っちゃう? 走っちゃうの、僕?)

 ちなみに言っておこう。輝明は勉強こそそれなりにできるものの、基本的にバカ――というよりアホである。さすが小学生の時、将来は仮面ライダーになりたいだとか作文に書いていた猛者だけのことはある。え? あまり関係ない? あ、そう。

「……っ!? あ、すみま――」

 考え事をしながら小走りしていたせいだろう。輝明は突然、誰かとぶつかってしまった。慌てて謝ろうと顔を上げた彼だったが――その言葉は、最後まで放たれることはなかった。

「――え?」

 ――何故なら、彼の脇腹に、なにか冷たい異物が刺さっていたのだから。

 輝明の目の前には、ぼさぼさの髪に隈のついた顔をした、三十代くらいの男の人が、なにやらいびつにニタニタと笑っていた。

 ――何が何やらわからない。世界から音が消え去り、周りに見えるすべての物の動きが遅延に思え、時間さえも止まってしまったかのように、そう輝明は感じた。

 ……ゆっくり。ゆっくりと。輝明は、ゆっくりと自分の腹を見下ろす。

 そこには、鮮血に彩られた包丁が――ぎらりと、確かに存在していた。

 そして、そのまま――どさり、と。

 気がつくと輝明は地面に倒れ込んでいた。

「きゃ、きゃあああァーーっ!!」

 甲高い女の人の叫び声がツン、と辺りに響き渡り、同時に突然、輝明の周囲に音が戻ってきた。輝明のまわりは、喧噪に包まれており、先程までの無音の、静かな世界は幻か何かであったかのように感じてくる。

 どうやら通り魔らしき男は、刺した後すぐに逃げ去ったようだった。自分の周りで様々な人が大声を上げているのをなんとなく感じながら、輝明はぼんやりとした意識の中で考え事をしていた。

(――ああ、このまま、僕は死ぬのかな……)

 刺された脇腹が痛かった。輝明が今まで経験したどんな怪我よりも、熱く、焼けるように、鋭く――形容できないほどに痛かった。――比喩でなく、本当に「死ぬほど痛い」と、輝明はそう思った。

(――死ぬ、な。こりゃ。うん。死ぬ)

 脳裏に浮かぶは、自室に放置してあった積み本や積みゲーの数々。そして、結局続きを読めなかったネット小説のことであった。

 そして。

 そうして。

 焼けつくような鋭い痛みに薄れてゆく意識の中、輝明は最後に思った。

(さて。とうとう僕にも、テンプレ異世界転生のときが来たか……)

 キタコレ、と。そう小さく呟いて。彼は、そのまま意識を手放した。


     ◇ ◆ ◇


 気がつくと、輝明は四方八方を白一色で統一された空間に横たわっていた。

「白い空間――噂に聞く神の間か。ということは……フッ……死んだか」

 横たわったまま小さくそう呟くと、輝明はニヒルに笑った。

(さて、肝心の神様からご説明でも受けますかね。できればヨボヨボの爺さんより、ぴっちぴちの若い娘の方がいいなあ……)

 ――と。輝明が、さあ、俺の冒険の始まりだぜ、的なことを思っていた時だった。

 突然彼の頭の真横から、大きな、それでいて今にも泣きそうな声が響き渡った。

「『フッ……死んだか』じゃないよ! アキのバカ!!」

 耳の奥がキーン、とする。しかし、そんなことはお構いなしに、輝明は驚いてそちらを見やった。そこには、彼の幼馴染である葉桜留美香はざくらるみかが、瞳に薄く涙をたたえた状態で立っていた。

「る……留美香!?」

「そうだよ、留美香だよ!!」

 見るからにうろたえる輝明。

「で、でも、なぜ神の間ここに!?…………ハッ!!」

 輝明は、突然悲しそうな顔をした。

「留美香……いくら幼馴染で親友だからって言ってもさ、別に僕の後を追わなくてもよかったのに……」

「バカッ!! 変なこと言ってないでよ!! アキってば、いっつもいつも、ほんっとバカ!! 刺されたって聞いて、ほんっとに、心配したんだから!!」

「……え? つ、つまり……?」

 本気でいまいち理解できていない輝明に向かって、留美香は大きな声で言い放った。

「ここは病院よっ!!」

 ――ま、普通そうですよね。


※一部の誤字脱字を編集(2013/1/31)

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