009 入学式
ジリリリリリリリリリリリリリリリ・・・
昨日ドワーフのおばちゃんから買った、目覚まし時計が鳴り響く。
「うるせぇなぁ・・・」
目覚まし時計を引っ叩き、俺は布団から起き出した。
昨日と同様、シャワーを浴びてから制服(着崩しver)を着る。
昨日ベルトも買ったので、それを締めるとなかなか良い感じだ。
白い二つ穴のベルト。これは、クロコダイルの皮だろうか?
まぁいい。昨日の残りで朝食にするか・・・。
昨日の残り・・・アーシェが焦がしたカレー。
はぁ。
一日置いたカレーは健康に悪いらしいが、美味しいので気にしない。
それをトーストに載せて食う。で良いか。
味気ないので、それにサラダを付ける・・・どうせアーシェも来るだろうから二人前だ。
俺が朝食のセットを終わると同時に、インターホンが鳴る。
そういえばこれ、どういう魔術なんだろう。
「おはよ~!」
「はよ」
アーシェはリビングに上がると、そそくさと既に自分の席と化した右奥の椅子に腰掛ける。
俺はその正面に座り、朝食をとることにした。
「入学式・・・これから私の主席生活が始まるのね・・・!」
やたら意気込んでいる目の前のがり勉を見てため息を一つ。
「まぁ、うん。頑張れ」
朝食を手早く済ませると、時刻は08:00。
一昨日渡された群青色のスクールバッグに皮袋を放り込み、一応ブレザーも入れて準備完了。
「さて、俺は準備できたよ」
「あ、待って。私部屋に鞄忘れた!」
とりあえず二人で俺の部屋を出て、アーシェはバタバタと正面の自分の部屋へと入っていった。
俺が部屋の前で待っていると、ところどころの部屋から生徒が出てきては四角い箱のほうへと向かっていく。
中には二人連れなんかも居たり、先輩のような人・・・背が高い人も居た。
別にこの階が一年生の寮、というわけでもなさそうだ。
そんな時ガチャ、と正面の扉が開いて、見慣れた少女が出てくる。
容姿端麗な金髪エルフ。サイドテールにまとめた髪は、あるくたんびにピョコピョコ揺れる。
チェックのミニスカートと白ブラウス、赤いリボン、灰色のブレザー・・・彼女がソレを着るとやっぱり可愛らしい。
「・・・? なに?」
「いいや? 行こうか」
二人で並んで廊下を歩く。窓がないので、天気などは分からなかったが。
四角い箱にのり込み、浮遊感を感じてからエントランスへと降り立つ。
自動っぽい扉が開き、外の気持ちよい天気が目に入った。
「あぁ~、やっぱり気持ち良いよね」
「そだな」
呟きつつ、俺は外の人口の多さに驚いていた。
6000人が通う学校・・・全寮制であるからには、この通学時間帯は人で溢れかえっているのは仕方がない。
だが・・・
「壮観、だなぁ・・・」
かなり広いと感じた東エリアから普通教室棟への道も、歩きにくいとまでは言わないが人が多い。
「さ、私達も行こうよ」
アーシェに促され、俺も歩き出す。
ザワザワと、話し声もよく聞こえる。それはほとんど上級生のもので、多分入学前に友達がいるというのは珍しいことなのだろう、同級生と思しき人はだいたい一人で歩いている。
学年章などがあれば分かりやすいのだろうが。
「改めてみると、教室棟がデカいのも納得だわ」
俺が感心とともに呟く。何故って、俺の周りにいた沢山の人々が次々に棟に吸収されていくからだ。
パンクしねえのか? と危惧したいくらいにな。
俺らもその流れでエントランスへと辿りついた。
巨大なホールになっていて、左右に軽くカーブした階段が上へと登っている。
「ほえ~・・・すごいな」
「だよね・・・あ、あそこに掲示板があるよ!」
アーシェの指差す先には、確かに文字の羅列された掲示板が、かなり横幅広くに渡って有った。
「クラス決め・・・か」
「なんか私、緊張してきた。ユーヤと同じクラスがいいな・・・」
そんなことを言うアーシェの不安そうな顔がまた保護欲をそそられるほど可愛い。
さて、着いた。
1組から順に、自分の名前を探していく。一クラス40人らしいな・・・。
1組には居ない。2、3、4・・・
周りの連中も同じように探しているらしい。1000人が探すものだから、先生らしき人たちも騒ぎ立てている。
「ほら! 自分のクラスが分かった奴はとっとと行け!」
上級生は、何か懐かしげな笑みを見せながら、階段を上っていく。おおかた、いつかの自分もああだったなぁってところだろう。
さて、自分のクラス探しに戻らなければ。
15、16、17・・・あ、居たぁ!
1年17組・・・・語呂悪!?
地図で場所を確認すると、どうやら6階のようだ。一年ごとに1階ずつ下がっていくみたいだな。2年生は5階、3年生は4階、と。
んで、地下に屋内集会場か。
さぁ、アーシェはどうなったんだ?
「アーシェどうだった!?」
俺が聞くと、まだ探している最中のようだ。人が多すぎて、アーシェ一人見つけるのにも一苦労だぜ。
「・・・ユーヤ!何組!?」
「俺17」
「17・・・私18だよ・・・」
凄くしょんぼりした表情のアーシェ。むぅ・・・隣か。いやそれでもラッキーだけどさ。
「いいじゃん隣なら。近いし、一緒に行こうぜ」
「うん・・・そうだね」
確かに友達が誰も居ない不安ってのはあるかもな。最も、俺に友達が居た経験もないのだが。
階段を上り、6階へ進む。これ中々に堪えるな。いい運動になる。
階段を上りきると、左の壁に看板があった。どうやら、ここも寮と同じようなつくりらしい。
コの字型に右には1組から6組、折り返して7組からずっと左へ行って、左側の奥は19組。そしてその正面に20組があり、今居る階段の左隣が25組、と。
とりあえず俺たちのクラスは左側にあるので、左側に進路を取る。
俺の17組の前に着くと、アーシェは寂しげに
「また後でね・・・」
と微笑んだ。・・・う~ん、なんか弱弱しくてひっかかる。
そんなことは良い。俺はクラスに入ることにした。
「・・・これが教室か」
思わず感嘆を洩らす。
整然と規則的に並んだ机、本でしか知らなかった黒板。想像よりでけぇ。
そして、生徒はほとんど座っていた。
黒板には、席割りだろうか?貼り紙がしてあった。
俺の席は・・・お、窓側後ろから2番目か。
いそいそと、その席に向かう。
俺が着席すると同時に、鐘の音がなった。
キーンコーンカーンコーン・・・学園に来てから何度か聞いた音だが、ここに居るとずいぶん身近に感じるな。
そして、担任であろう教師が・・・ってアイツかよ。
「おはようございます。私が今日からの担任を勤める、アルファです。職業は幻術師。よろしくお願いしますね」
最後のよろしくは、明らか俺に視線を合わせていた。
一昨日ハメられた、幻術使いだった。
「はぁあ~・・・何でこうなった・・・」
一人ため息を洩らすも、彼女の扇情的な容姿に鼻の下を伸ばす男子生徒は多かった。
「ではまず、自己紹介をしましょうか。まだ入学式までは時間があることですし」
そう言ってアルファ・・・いや先生と呼ぶしかないのか。先生は廊下側一番手前の生徒を壇上へ引きずり出した。
「あ、えぇっと・・・アスタ・エンジャー。職業はクレリックで種族は人間です」
それを皮切りに、次々と順番に自己紹介をしていく。
最初のコイツはクレリック・・・回復系魔法使いの第一段階だな。
俺は実力を見分けるために一人一人を見据えていくが・・・一昨日受付の女性に見せてもらった“一般的な12歳”にそぐわない、平均的な連中しか居なかった。PT組もうとは思わないな、正直。
要約すると、俺やアーシェはかなり異質だったということだ。
リラ森林で見たような連中がこの学年の平均だとすると・・・な。
しばらくして、俺の順番が来る。
「ユーヤ・ミナモト。精錬術師の人間っス。よろしく」
俺が壇上でそういうと、大多数は頭にハテナを浮かべていた。
まぁアーシェも知らなかったらしいし、仕方ないか。だが、俺の後ろ、つまり一番後ろの奴は違った。
俺を見て口元だけで笑いながら、頷いている。
俺と交代で壇上に上がったそいつは、鷹揚に自己紹介を始めた。
「僕はワルサー・スティングル。職業はシーフで、種族は鳥人。よろしく。知っている人もいると思うけど、情報屋をやってる」
・・・コイツは確かに能力値高いわ。
俺や、推測で見たアーシェよりは低いと思うが、それでもこの中では突出している。特にAGI(敏捷性)が。
鋭い目つきに、緑色の髪・・・そして鋭利な爪。必要時には翼を広げて空を飛ぶという鳥人の少年。
それにしても情報屋ね・・・。
俺の後ろに座ると、シャーペンか何かで、背中を突っついてきた。
「18組のアーシェ・クラルヴァインとはどういう関係だ?」
・・・とりあえず情報収集能力はすげえことが分かった。
「情報料10000ルクだな」
「な!?」
ニヤリと笑って俺は言う。何せ情報屋だ。情報の売り買いもするのだろう。
「ぼったくりって言うんだぞ。そんな金額、生徒会長の弱みレベルだ」
コイツがそんな情報持っているのなら是非買ってみたいものだ。
「ま、情報屋なら自分で調べろ」
「お、いいね。そういう挑戦なら受けるぜ!」
・・・別に俺とアーシェには何の関係もないのだが。
情報屋、コイツとは友達になって損はなさそうだ。
友達で損得を考えるのはどうかと自分でも思うけどな。
「俺はユーヤだ。よろしくなワルサー」
「おう、まさか精錬術師にめぐり合うとはな。よろしくユーヤ」
「はーい、じゃあ連絡が入りましたので、皆さん移動しますよ~」
適当に俺らが会話している途中に連絡があったようだ。
先生の引率で、俺たちは地下・・・屋内集会場へと集まる事になった。
席に座ると、俺は結構舞台から遠い。
隣にワルサーがいるので、くだらない情報を聞き流して暇つぶしにしていた。
学園長が出てきて、話を始める。
あのオッサン、仕事の時はサスガに威圧が強い。いや、威厳というべきか。
「オッサン、プライベートは面白いんだけどな。フレンドリーだし」
「そうなのか!? よし、その情報いただき! あとで真偽を確かめて売る!」
「へぇ」
となりでワルサーが意気込んでいる。
っつーかコイツ、情報屋としてはかなり信用あるのかもな。
人がボソッと呟いた情報を捉え、真偽を確かめるために奔走する。
コイツの持つ情報は全て真実と言ってもいいかも知れない・・・。まだ保証はないが、そんな気がした。
『新入生代表 リーフィア・ローズベルト』
なにか拡声でもしているのか、やけに響く声が聞こえる。
俺ら新入生席の前方から、一人の女子生徒が立ち上がった。
白銀の長髪を流し、颯爽と歩く。背中に白い翼が見えることから、多分天使族であろう。
「あれ、学園長の娘だぜ?」
「そうなんだ?」
ワルサーの情報に頷く。ってかお前、商品をそんなに浪費して良いのか?
「・・・この小春日和に、私達は晴れてこの学園に入学する事が出来ました・・・」
ありきたりな文章を朗々と語るその女子生徒。
ワルサーも俺も、欠伸をかみ殺してその話を聞いていた。
あれ、そういえばアーシェは・・・
きょろきょろして探すも、見当たらない。
「アーシェ・クラルヴァインを探しているのか? 情報料100ルクだな」
「子どもの使いか! ・・・まぁいい。後払いで」
「毎度!」
俺が言うと、ワルサーはなにやらポケットから帳面を取り出した。メッチャ黒い。びっしり文字が書いてある。
「彼女は18組出席番号2番だから・・・あそこだ。」
なんで他生徒の出席番号を把握している・・・?
そう心の中で突っ込みつつも、ワルサーが指差すほうを見る。すると、少しうとうとしたアーシェを見つけた。
「お前・・・何者?」
「言ったろ? 情報屋だって」
あっけらかんと笑うワルサー。コイツは敵に回さないようにしよう。
下手したら社会的に抹殺されそうだ。
さて、そんなこんなで入学式は終わり、俺たちは教室へと戻された。
俺たちが全員席に着いたのを確認すると、アルファ先生はいろいろ手紙を配る。
時間割表なんかも載っている。なんだか新鮮だな。
「さぁ、じゃあ今日はお仕舞い。明日からは授業になりますから、頑張ってくださいね」
先生の号令で、みんなゾロゾロ帰り出す。友達が出来た奴もいれば、出来なかった奴もいるようだ。
「ユーヤぁ、居る!?」
扉を開けてアーシェが入ってきた。
俺が手を挙げると、こちらへ向かって歩いてくる。
「帰ろ」
「おう、じゃあなワルサー」
俺はワルサーに手を振る・・・が、なぜかアイツはアーシェの場所を当てたときに持っていた帳面を持って、こちらを観察していた・・・。あ、100ルク払うの忘れた。
「あ、そういえば、見せてくれるよね? アーシェ」
「え? 何を?」
アーシェとの帰路。まだお昼前ではあるが、特にこのあと用事もないので帰宅することにした。
「生徒証」
「あ・・・そういえば」
苦々しげな顔をするアーシェに、俺は笑って言う。
「約束だろ? まぁ嫌ならもう少し待つけど」
「・・・まぁいいわ。はい」
アーシェは俺にカードを差し出した。
『
アーシェ・クラルヴァイン 12歳 ソーサラー LV1
300 HP(体力)
699 MP(魔力)
98 STR(腕力)
101 DEX(器用さ)
134 VIT(防御力)
107 AGI(敏捷性)
608 INT(知力)
598 WIS(精神)
107 LUK(運) 』
どこまで俺と違うのか、自分のも出して見比べる。
『
ユーヤ・ミナモト 12歳 精錬術師 LV1
128 HP(体力)
789 MP(魔力)
108 STR(腕力)
403 DEX(器用さ)
102 VIT(防御力)
408 AGI(敏捷性)
960 INT(知力)
108 WIS(精神)
578 LUK(運) 』
・・・やっぱり俺に比べてWIS(精神)やらHPやらが高いな。
「なんでこんなに高いの隠してたんだよ」
苦笑する俺に、アーシェはうつむいて言う。
「だって、ユーヤのが凄いじゃん」
そんなことはまるでない気がするのだが・・・。
確かにアーシェは俺のINTのようにずば抜けた数値はないが、どれも高数値を出しており、かなりハイスペックだ。
「ソーサラーに必要な点は全部ハイスペックだ。これからLVアップもあるだろうし、自信持っていこうぜ。」
「・・・なんか励まされると余計に腹立つ~~~~!」
ぷっくぅとむくれて、俺の背中をポカポカ叩いていた。
普通教室棟6階・・・PC向け説明っつーか図byユーヤ(00=階段)
19・18・17・16・15・14・13・12・11・10・09・08・07
廊 下
20・21・22・23・24・25・00・01・02・03・04・05・06
寮の図(板・・・看板。箱・・・四角い箱っつーかエレベーター)
2076・・・2100・板・2050・・・2026
廊下
2075・・・2051・箱・2001・・・2025