007 一日の終わり
職員塔もとい職員棟の前を通り、塔を中心に作られた十字路を北へと向かう。
するとしばらくして、普通教室棟のように幅広いわけでもなく、寮のように高層なわけでもなく、職員棟のような塔でもない、たくさんの建物が渡り廊下を通じて迷宮のようになっている場所へと辿りついた。
「・・・いろんな意味ですごいな。この学園は」
「そうね。ここが特別教室棟。私は魔法使い科、戦士系なら戦士科の教室があるのだけど・・・ユーヤはどこだろうね?」
特別教室棟の前に立ち尽くし、俺とアーシェはそう語った。
だが、アーシェの疑問は全くだ。俺はどこの教室に行けばいいんだ・・・?
そういえば学園長が言っていたか。俺は特別カテゴリだと・・・これのことを言っていたのか?
まぁ、いずれにせよ入学式には分かるだろう。
「本当に、どこだろうな・・・。いいさ、とりあえずどんなところか、見てみたい」
俺がそういうとアーシェは頷き、一番近くにあった建物のドアノブを回して引いた。
その部屋は正方形の真っ白い空間。何も置いてはいなかった。
「なんだ・・・?ここは。」
「ここはバーチャルルームね。幻術師の技を用いて真っ白な空間を作り出し、いろんな状況をセットして動き方を学習する。どのクラスの人間もここで学ぶことはあると思うわ。」
なるほどな・・・と頷いて、ふと考えた。
これって・・・幻術に既にハマっていないか?
・・・殺気!?
「アーシェ!跳べ!」
「へ!?」
驚いたものの、アーシェは瞬時に飛び退さる。
するとアーシェの居た足元に、スパイクと呼ばれるレンジャー系クラスの技・・・床から槍が飛び出す仕掛けが作動した。
「何よこれ!」
「ッツ、誰か居るのか!? 幻術師が!」
「どうしよ!幻術なんてどうやって・・・!?」
アーシェは幻術戦は初めてだったらしく、デスベアーとの戦いで見せた冷静さがどこにもない。
っと、俺の足元にもスパイクが襲う。
「ッツ!“精製”!」
皮袋から瞬時に、“月光蝶の鱗粉”と“ヴォイドの瞳”を取り出し、“精製”して球体にする。
怪しげな黄金色の球体と、どす黒い球体が出来た。
「“練成”!」
両手を合わせ、カオスを作り、押しつぶす!
「精錬・落宝金銭粉!」
俺が手を広げると同時に、黒金色の粉末が霧散していき・・・白い空間は只の木造の部屋となる。
落宝金銭粉は、全ての魔法効果や幻術を打ち消す精錬術。
この素材のレア度は高いが、親父と各地を旅してきた俺はこんなもの、腐るほど持っている。
そしてこの部屋には、一人の女性が立っていた。
「ふ~ん・・・私の幻術を破るなんてね」
「あ、貴女は!」
どうやらアーシェは知っているらしい。この学園の関係者であれば、教師であろう。
年齢はだいたい25歳前後。黒のローブを纏い、怪しげで妖艶な顔立ち。赤茶色の髪の毛は、優に腰まであるのでは?
「知っているのかしら?私は教師のアルファです。職業は幻術師よ」
「・・・どうでも良いっスけど、なんで俺たちにこんなことを?」
あら、と微笑んで、アルファと呼ばれた女性は言う。
「私が精神統一して幻術空間を作っていたところに、貴方達が来たのですよ?」
あ~・・・言われてみれば、勝手に入ったの俺らだわ。
「そうっスね。俺たちが悪かったっス」
「あら、そうですか。でも今の技は・・・精錬術師? 幻術師戦にも慣れているとすると、相当修羅場をくぐって来たのですね?」
彼女の茶色い瞳を見ていると、全て見透かされるような気がする。
俺は黒髪頭をガシガシと掻きながら、苦笑した。
「まぁ、それなりに」
「フフ、魔法使いの貴女も、瞬間の判断が出来るようにね? 実力、というより能力的には、貴女も彼に劣らず優秀ですから」
「~~~っ!ど、努力します!」
羞恥に頬を真っ赤に染め、アーシェは言う。確かに俺よりも戦闘面ではかなり優位だろうしな。
「じゃあ、またね。特別教室棟は今、先生方が使用しているから、近づかないほうが良いですよ」
「分かりました。では」
俺はアーシェを連れ、この部屋を後にした。
この学園に来て、最初の夜。
俺は夕飯も自炊するべく調理をしていた。
キッチンから見える景色はもう暗く、火属性魔法を使った明かりだけが、西の教室棟や職員棟にポツポツと灯っている。
結局あのあとは普通教室棟も行けないということだったので、適当に道順や、中庭などといった休憩スポットの場所を覚えた。
アーシェは先生との戦いのあと酷く不機嫌で、正直参った。
多分幻術相手に何も出来なかったのが悔しいのだろう。
・・・で。
「ユーヤぁ!ご飯まだぁ!?」
「待てって!もう少しだから!」
リビングのほうから“不機嫌”の声がする。
なぜか知らんが、夕飯も俺のところで食べるらしい。
アーシェの部屋のキッチンが不憫だ・・・まぁ食堂使う奴も結構いるみたいだし、キッチンの有無はあんまり関係ないのかもな。
俺は今、適当にトーストを焼いてグラタンをオーブンに放り込み、果実ジュースを絞っている。
オーブンがグラタンを作れるほどハイスペックだったことには驚きだが。
んで、皮袋の中に何かの折に入っていたミキサーを使ってミックスジュース。
・・・なんだか明日の朝食はこれの残りでもいい気がするな。言い換えると、夕食っぽくない。
チーン、と気持ちの良い音がして、グラタンが焼けた。鍋掴みを手に嵌め、そのままテーブルへと持っていく。
「アーシェ、鍋敷きテーブルの中央に置いてくれ」
「分かった・・・あ!グラタン!!」
分かった・・・まではかなり不機嫌だったのに、グラタンだと知った途端テンションを上げる。
食料の力って素晴らしいな。・・・ここまではしゃぐのはやっぱり、12歳のガキだからか?
まぁ俺もだが。
トーストを数枚焼き、グラタンのおともに。ミックスジュースをコップに注げば、今日の夕飯は完成だ。
鍋の中にあるグラタンを深皿に取り分けると、アーシェはホクホク顔でその皿を自分の前へと寄せる。
「いっただっきまーす!」
ずいぶん嬉しそうなのは良いんだが・・・。
「なぁアーシェ」
「ムグ?」
俺はまだ食べ始めてもいないっちゅーにコイツは・・・。
「もしかして、これから毎日こうなるの?」
「?」
俺は食事の乗ったテーブルと、俺自身、アーシェを順に指差して言った。
つまり・・・。
「これから毎日、俺のところに飯食いに来るのか?」
「あ・・・あはは・・・えっと・・・これからはちゃんと食材をもってきます!!」
・・・。
まぁ人数多いほうが美味しいしな・・・それなら経済的にも問題ないか。
「そうしてくださいね?」
ニッコリ微笑んでやると、アーシェはコクコクと青褪めながら頷いていた。
俺はミックスジュースをあおり、グラタンに手をつけた。
「あのさ、ユーヤ?」
「どした?」
フォークを止めて聞いてくるアーシェに、俺は疑問符を浮かべる。
「今度さ、料理教えてよ。」
あぁ~・・・食堂行くとか言ってたし、料理できないクチかこの子。
ってか、昼にしてた決意みたいなのは、これのことか。
「分かった。朝は忙しいから、夕飯な?」
「うん!」
アーシェは元気よく頷いた。結構可愛いんだよな、そういう仕草がさ。
お、自分で言うのもなんだが、美味いなグラタン。
「すっかり忘れてたけどさ、あの召喚獣なんだと思う?」
おおう、俺もすっかり、だったぜ。
アーシェの疑問に、正直俺は唸るしかない。
「・・・とりあえず今の俺たちには、警戒することしかできないんじゃないか? ターゲットが誰かも、敵が誰かも分からないし」
「そうね・・・嫌な感じ」
確かにな。召喚獣、しかもかなり強かった。召喚獣の実力は、召喚士の実力と比例する。アーシェが苦戦していたんだ。かなりの手練と見ていいだろう。
「明日はどうする?」
アーシェが問いかけてきたので、俺は思っていたことを述べる。
「とりあえず部屋が寂しいし、食料も買い込んでおきたい。この袋の中は極力、非常用に残しておきたいからな」
「だったら北の門を出ればそっちに街があるわ。私もいろいろ買いたいし、ユーヤに渡す食材も、ね」
ね、じゃねえよ全く。と苦笑した。
「じゃ、明日も一緒に行動しようか。入学準備ってことで」
「分かった!」
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