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探求部の冒険者な日常  作者: シェイド
第一章 探求部ができるまで
5/16

005 職員棟

巨大な円柱・・・そのたとえが一番正しいんじゃないだろうか?


俺の眼前には、そんな塔が建っていた。


これが職員棟だって!?


どんだけ金つかっとんじゃこの学園は!


「南に入り口があるから、そこに向かいましょう」


「・・・おう」


南へぐるりと、塔の周りを行く。すると南にはなんというかもう、フィールドで見た砂漠のような広い校庭らしきものがあった。


もう驚かねぇ。絶対驚かねぇ。


扉の前に辿りついた。ふと西のほう・・・さっき来た方角とは逆のほうを見ると、バカでっかい、さっきの寮が3つ集まったらああなるだろう、くらいの横幅をした建物があった。まぁ流石に低かったが。それでも5階建てくらいじゃねぇか?


「なぁアーシェ、アレは何?」


俺が指差した建物を見てアーシェは、当たり前のような顔をした。


「普通教室棟よ? 私達がこれから普通に座学を受ける場所」


「デカすぎないか? アレ」


「そう?全校生徒6000人が生活するんだから、これくらいが妥当じゃない? ほら行くわよ」


6000人も居るのかぁ。わ~い人がたくさんだぁ! ・・・想像したくもねえな。


じゃああの寮はどうなってんだろう。あとでアーシェに聞いてみようっと。


塔の中に入ると・・・いや、塔の入り口が四角い箱になっていた。人が5,6人は入れそうだ。それを魔法で浮遊させていろんな階にいくらしい。


わあ、ハイスペックぅ。なんだか驚くことばっかりだ。


その箱の中に入ると、いくつかボタンがあった。


アーシェが受付のボタンを押そうとしたのを制し、学園長室を押す。


するとしばらく浮遊感があった後、先ほど入ってきたのとは逆方向の扉が開く。


そしてそこは、突き当りまで広い廊下になっていた。廊下のところどころに扉もあり、職員用の様々な部屋が用意されている。


この廊下の突き当たりに、学園長室があった。・・・ここ何階だろう。


軽くノックをすると、入りたまえ、と厳かな声が響いた。


「じゃあ私は待ってるね」


「わざわざ済まなかった。俺なんかのために付き合わせて」


アーシェが一歩退いてそう言ったので、俺も改めて礼を述べる。考えてみれば、無関係の俺にわざわざ案内までしてもらったからな。


すると彼女は首を振って言った。


「ううん、私も話が聞けてよかったし、何より初めての友達だから・・・」


華が咲いたような笑みに、一瞬脳に衝撃が走ったような・・・。まぁいい。


「俺も初めての友達だよ。アーシェで良かった」


アーシェは顔を真っ赤にして、


「そ、そう・・・」


とか言っていた。会話が続きそうにもないので、俺は学園長室の扉を開く。


「またあとでね。」


アーシェは目を逸らしたまま、頷いた。


・・・さて、学園長室はなかなか綺麗な部屋だった。


正面にはローテーブルを囲むようにして、ソファが二つ。


そして壁には歴代の学園長だろうジジイの顔が烈火のごとく勢ぞろい。


「何か用か?」


ふと声のしたほうを見ると、部屋の奥で男が新聞を読んでいた。


親父と同じくらいの年齢だろうか? 背中に白い翼があることから、天使族セレスティアであることが分かる。


金髪をスポーツ刈りにした、爽やかなオッサンであった。


「この学園に入学したくて来ました。親父から学園長に渡せと、紹介状が」


「紹介状? ふむ、入学試験を受けずに入れるほどの、か・・・?」


オッサンは新聞を適当に投げ捨て・・・オイオイ。


俺のほうへと近づいてきた。


手紙を手渡すと、オッサンはその封をおもむろに破る。


やっぱりこのオッサンが学園長なのか?


「オッサンが学園長なんスか?」


ゴン!


刹那の速さで殴られた。


「誰がオッサンだ誰が。・・・まさかシューヤの息子とはな。とりあえず座ろうか」


オッサンは懐かしげな顔をして俺を見た。


俺はオッサンに促され、ローテーブルを挟んで対面のソファに向き合って座った。


「さて、俺が学園長のケント・ローズベルト。よろしくな」


「はぁ」


紹介状をみせてからどうも砕けた調子に変わった学園長に、少し驚く。


「俺はこの学園でアイツと親友だったからな・・・。その息子が来るとなりゃ、そりゃあ嬉しいさ」


・・・! 親父の親友。このオッサンが?


「・・・お前もし又心のなかでオッサンとか言ってたらガチで殺すから」


尋常じゃない殺気を当てられ、少し冷や汗が背筋を伝う。


だがそんな俺を見て、学園長はニヤリと笑った。


「へぇ。こんだけ殺気を喰らって平気なのか。アイツに似て、肝が据わってんな」


親父に似てるのか、俺は。嬉しいやら悲しいやら・・・。


「それで、入学はいいんスか?」


「あぁもちろん。アイツの紹介だし息子ってことは、精錬術師リファイニストだろ?」


ずいぶん親父は信用されてたんだな・・・それに、多分親父の素性も知ってるな。


「はい。今までずっと親父と旅してきたっスから」


すると、今度は学園長、声を上げて笑った。


「ハッハッハ、そうか。アイツのことだから、鍛えるとか言ってトンでもないやつとやらせんだろ?」


「俺、この前単独でファイアードラグーンとやらされたっス・・・」


俺の怖ろしい過去を聞いて、学園長はまたも笑い出した。


「ハッハッハッハ・・・ひぃ、腹が痛い。だが、シューヤはそれだけお前のことを買ってたんだよ。どうせそれも、最後には倒せただろう?」


「! まぁ、そうですね」


俺よりずっと、親父のことを知っているかもしれないな。


「それにしてもアイツ、12歳のガキにファイアードラグーンとタメ張らせるたぁ・・・俺でもしねえよ」


遠い目をして学園長は言った。そして、俺に向き直ると聞いてくる。


「シューヤは今どこに?」


「迷宮巡りしてくる、とか言ってたっスね・・・」


俺がそういうと、学園長はため息を吐いた。その顔は笑っていたが。


「アイツらしいな。さて、キミには学園に入ってもらう。俺の父親・・・前学園長同様、精錬術師リファイニストは特別カテゴリとして扱うからその都度いろいろ教えるさ。これから受付に行って、生徒証をもらえ。そうすれば、LVがもらえ、能力値が具現化されるから。そして最後に、これは俺から渡しておこう」


そういって学園長は立ち上がり、引き出しをごそごそいじくり、何かを持ってきた。


「これは、シューヤが12歳~15歳だった時の部屋の鍵だ。お前もそれを使うと良い」


指の間から吊る下げられた鍵を手に取り、俺は眺める。


綺麗、が第一印象であった。銀色に輝き、形状がまた美しい。


俺がしばらく眺めていると、学園長は苦笑して言った。


「頼むから“精製リファイン”するなよ?シューヤはそれをやって、一日宿無しだったことあっから」


「ハハ、気をつけます」


俺はそのまま立ち上がり、学園長室を後にした。


「・・・全く、何が紹介状だよ。お前しか知らねえ俺のトラウマ殴り書きにしただけじゃねえか。・・・シューヤ、元気でやってるか?」





















俺が部屋の外に出ると、アーシェは壁に寄りかかっていた。


「あ、おかえり」


「あぁ。とりあえず生徒証を発行してもらうことになったよ」


俺が言うと、アーシェは弾みをつけて俺の正面に立った。


「じゃあ、行こっか」


廊下を戻る。さっきの箱に乗り、今度は受付のボタンを押した。


またも浮遊感。俺はあんまりこれ好きじゃないな・・・。


そんなことを思っていると、扉が開く。さっきとは違い、ロビーになっているようだった。


ところどころに観葉植物や柔らかそうなソファがあり、談笑とかしたら楽しそうだな、と思う。


円形をした大きな部屋で、奥にカウンターのような場所がある。


俺とアーシェはそのまま真っ直ぐ、カウンターへと進む。


そこには、バンダナをして可愛らしい黒のメイド服を着込んだ女性が座っていた。


おばさん、とうには若すぎるし、お姉さんというのは語弊がある。だから女性。うん、良い例えだ。


「こんにちは。何か御用でしょうか?」


「あ、はい。俺の入学手続きと、生徒証の発行をお願いします」


「ちょっと待って・・・じゃあはい、これに手をかざして?」


女性が取り出したのは、吸い込まれるような色をした水晶。どうなんのかな?


そう思いつつ俺はソレに手をかざす。すると横からアーシェが覗き込むように顔を出した。


「そんな覗くほどのモノなのか?」


俺が聞くと、アーシェは頬を掻く。


「そりゃあ、ユーヤの実力は気になるし・・・」


「実力?」


俺がハテナマークを浮かべると、受付の女性は微笑んで答えてくれる。


「はい。もう少ししたら貴方の名前、職業クラス、細かい能力値が数値として現われ、そして新たにLVという概念を加えます。みんな1からのスタートになりますが、初期の能力値は人それぞれです」


「ふ~ん・・・。能力値ってどんな感じで出るんスか?」


「全ての通常値は100です。簡単に言えば、20歳までのうのうと生きた男性一人の数値がオール100。1の増減で、人より1%高かったり弱かったりしますね。世界レベルで優秀な戦士クラスだと、だいたいSTR(腕力)が1500とか・・・でしょうか。あ、今年の入学生には最初からSTRが1100っていう化け物が居ましたね。これからが楽しみです」


・・・1000%増しって何?


しかもソイツまだLV1なんだろ?


俺が困惑に陥っていると、女性は笑って答えてくれた。


「大丈夫ですよ。この学園にはその子より強い人も居ま・・・あ~、いないかも」


はい大丈夫じゃありませんね。チート野郎ですね? 分かります。


「あ、出てきたんじゃない?」


アーシェが言うと、なるほど確かにだんだんと、数値らしきものが現われる。水面のようにゆらゆらとしているが、それは次第に固まっていった。


「みたいだな・・・」


 ユーヤ・ミナモト 12歳 精錬術師リファイニスト LV1


 128 HP(体力)

 789 MP(魔力)

 108 STR(腕力)

 403 DEX(器用さ)

 102 VIT(防御力)

 408 AGI(敏捷性)

 960 INT(知力)

 108 WIS(精神)

 578 LUK(運)                     』


「どう考えても、12歳の少年の数値ではありませんね・・・。これは一人前の冒険者がLVを積んで、やっとの数字ですよ?」


「ユーヤも充分すごいじゃない・・・」


二人に奇異の視線で見られ、正直あまり気持ちのいいものではない。


「じゃあ普通の数値ってどんなのっスか?」


少々俺が唇を尖らせて言うと、女性は笑って一つの生徒証を出した。


「これが一般平均の学生ね」


 〇〇〇・〇〇〇 12歳 魔法使い(ウィザード) LV1


 51 HP(体力)

 201 MP(魔力)

 41 STR(腕力)

 100 DEX(器用さ)

 63 VIT(防御力)

 33 AGI(敏捷性)

 120 INT(知力)

 123 WIS(精神)

 39 LUK(運)                     』


「・・・そうですか」


もはや何も言うまい。確かに俺もチート野郎かも知れない。でもSTR1100よりは遥かにおとなしいチート野郎じゃないか?


俺は魔法は使えないからWIS(精神)は関係ないし、力も必要ない。


精製リファイン”に必要なDEX(器用さ)と、“練成クラフティング”に必要なLUK(運)、そして精錬全てに必要なINT(知力)とAGI(敏捷性)そしてMP(魔力)が高いが、その他STRやVIT、HPといった数値は高くないしな。


「それにしても、精錬術師リファイニストなんてシューヤ先輩以来じゃないかな?」


「先輩?」


女性の言葉に、俺は反応した。すると女性は頷いて答える。


「そうよ。私の5個上の先輩。有名だったし、カッコよかったなぁ」


夢見る少女のような瞳をする女性に、俺はため息を吐いた。


「それ、親父っス」


「えぇ!? すごい縁ね・・・ユーヤ・ミナモトか。本当だ。うん、貴方のことはしっかり覚えておくわ。憧れの先輩の息子ですもの」


「はぁ、よろしくっス」


「・・・さて、生徒証も出来たし、入学手続きは向こうで終わったわ。はい、じゃあこれで貴方もこの学校の生徒よ?・・・入学式は、明後日ね。それまでは学園内を覚えたり、寮でのんびり過ごすと良いわ」


俺は手渡された透き通るようなカードを見る。・・・いつ撮ったのか、俺の写真まで載っていた。


「あぁそうそう、寮の鍵はもらってる?」


「はい、学園長から親父の部屋を」


「シューヤ先輩の!? いいなぁ・・・分かったわ。あとは何も無いわね。・・・じゃあ、またおいでね。貴方といいSTR1100の彼といい・・・そしてアーシェさんのソーサラーといい、すごい逸材ばっかりね、今年は」


そう言う女性の顔は、とても楽しそうだった。

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