002 探求部の日常
用語集をちょろっと。
HP・・・いわずとしれた、体力
MP・・・これもよく知られる、魔法の体力
STR・・・腕力、攻撃力に影響
DEX・・・器用さ。命中率や回避率などに影響
AGI・・・素早さ。スピードやジャンプ力など、身体能力に影響
VIT・・・体力、防御力、スタミナに影響
INT・・・知力。攻撃魔法の威力などに影響
WIS・・・精神力。魔法防御力や回復魔法の威力に影響
LUK・・・運。確率魔法などに影響
バゼラート歴1208年04月04日・・・
私立インクアイリ学園。
大陸有数の超名門冒険者養成学校である。
12歳から18歳の少年少女が一堂に帰して学ぶ学び舎ともなるので、もちろん敷地は広い。
直径5kmにもなる円を描いたような敷地を有する学園で、東西南北に各一つずつ正確に設置された校門のため、“巨大な方位磁針”とも呼ばれている。
学園内部は、南に生徒が実技授業や一騎打ちをするのにも使う広大な校庭。
東に全校生徒を収容できる全寮制学園ならではの学生寮。
西に各HRを行う普通教室を集めた普通教室棟。
北に特別授業や職業別授業を行うための特別教室棟。
そして中央には職員室や理事長室、国からの視察を招くための応接室などを集めた職員棟がある。
北西にはバトルボールや武闘祭を行うコロセウムがあったりもするのだが。
・・・とにかくデカい。
そして、もちろんこの学園が物語の舞台なのだが、その真の主軸となるのは・・・職員棟。
主人公は決して先生などではない。学生である。にも関わらず物語の主軸が職員棟である理由、それは、“探求部”の部室が応接室だからであった。
なぜか、は、物語を進めていくうちに分かるだろう。
探求部・・・それは“フィールド”に散らばる沢山の財宝や名声を得るべく、他者の頼みを聞くという名目で冒険を楽しむ我らの部活動だ。
俺はこの部活に生きる意味っつーか・・・生きがいを感じている。
だってやっぱりさぁ、人生って冒険してナンボだろ?
byユーヤ・ミナモト
放課後・・・今日は依頼がなく、各々がのんびりと応接室で過ごしていた。
なんと言っても、この革張りのソファが心地良い・・・本当に俺達が使っていいのか? と最初のうちは思ったものだけれど・・・。
まあ慣れだよ慣れ。
俺はソファに横になり、天井を見上げて過ごす。
少し伸びてきた黒い前髪がうざったく、払う。
・・・そういえば紹介がまだだったな。
俺はこの探求部の部長をやってる、人間のユーヤ・ミナモトだ。
黒髪黒瞳、この世界ではかなり珍しい色の髪と目が特徴だから、よろしくな。
シャンデリアの輝きが目に眩しい。
ふとシャンデリアから目を逸らし、応接室の最奥を見た。
大きなテーブル越しに、革張りの社長チェアー。その向こうには、青空が眺められる。
一面をガラス張りにしており、部屋が南を向いているため日光の差し具合がちょうど良かった。
そして何より校庭を一望することができるこの場所は、特等席を手に入れたような錯覚に陥る。
ドワーフの少年たちが総合格闘をしている姿が見えるが、課外授業だろうか・・・?
「ユーヤ・・・何をじろじろと見ているのかしら?」
「別にお前見てたわけじゃない」
そうだった。ソファに寝そべりながら窓の外を見るということは、あのテーブル越しにある社長チェアーを貫通視していたことになる・・・否、社長チェアーに踏ん反り返っているお嬢様を貫通視していたことになるんだよなぁ。
探求部部員、天使族のリーフィアである。
白髪赤瞳、背中に生える白い翼を引き立たせるような黒のゴスロリファッション・・・。
「いくらわたくしが美しいからといって、見惚れる必要はないのではありませんこと?」
「どんな誤解だバカたれが」
まあ確かに美しくはあるのだが、と内心では思いつつ、社長チェアーをクルリと回し腕を組んで俺に正対して見つめてくる彼女に向かって、ため息を一つ。
もちろん寝っ転がりながら。
すると俺の転がっているソファの上から声がした。
「なぁ、そんなダラダラしてんだったらイッチョ付き合えや」
声のしたほう・・・最初のようにシャンデリアを眺めていた体勢をとると、シャンデリアと俺の間に、金色の瞳と褐色の肌、赤い髪を持ついかにも野蛮そうな青年の顔が入っていた。
探求部部員、半竜人のクゥガである。
半竜人は戦闘モードに入ると鱗に覆われた竜人化をするが、それ以外の時はあまり人間と変わらない。
違いは鋭い牙くらいだろう。
「・・・何にだよ?」
「新しい技を開発したんだ。そのえじ・・相手になってくれ」
「今餌食って言おうとしたよな!? そうだよな!?」
「・・・まぁどっちでもかわんねえだろ?」
当たり前・・・むしろ呆れたような表情でそう言ってくるクゥガ。
「いやいやいやいや!!」
いや死ぬし!! お前とやったら俺死ぬし!!
ちなみに言っておくと、コイツのSTR(腕力)値は学園でも最高クラスである。
慌ててソファを転がり脱出を試みる・・・が、首根っこを掴まれ宙ぶらりんにされてしまう。
「えぇい離せ!!痛いのは嫌だ!!」
空中に浮いたまま、じたばたと抵抗を試みる。
「ユーヤってホント、子どもですわねぇ。でも身長は伸びたのかしら?」
リーフィアが首を傾げて聞いてくる。まぁ確かに、出会ったころはそう身長変わらなかったからな。
今では俺のほうが頭一つ分デカい。・・・まぁ、クゥガはその俺より頭一つデカい気がするが。
「っつーか子どもってなんだし!」
「それについては同感だ」
「お前ら! なに共感し合ってんだよ!!」
しみじみと頷くクゥガにツッコむ。
クゥガの力には敵うわけが無いと内心諦めながらも、じたばた抵抗を続ける。
「ハッハッハ、熱い男にそのような小さい抵抗など無駄だ!」
誇らしげに言うクゥガ。うぜぇクソ!
ハタから見たらかなりシュールな絵面だろう。
すると、応接室の扉が勢い良く開き、見慣れた猫耳少女が入ってきた。
その様子に、俺を拘束していた二人組も意識を逸らす。
た、助かったぁ~・・・。
彼女はヒラヒラと紙切れと尻尾を振りながら、さも楽しそうにスキップでこちらに来る。
「先輩!依頼ですよ!・・・何してるんですか?」
俺らの状況を見てそう思うのはけだし当然だろう。
人差し指を頬にあて、首を傾げるしぐさはとても愛らしい。ついでに後ろでくゆれる尻尾も愛らしい。
対して、首根っこ掴まれて宙ぶらりんの俺・・・。
「ところで、何の依頼なんだ?」
片手で俺を掴みつつ、もう片手の指をバキボキ鳴らしながら満面の笑みで問うクゥガ。
「もう迷子の猫ちゃん探しなんかはゴメンですわよ?」
手をパタパタとしながら、遠慮を示すリーフィア。
そんな二人の様子にため息を吐き、一応新入りである彼女・・・探求部部員、獣人族のシェリルは紙切れ・・・依頼用紙を読み始める。
「アシッドワイバーン3頭の討伐依頼です」
「おお!いいねいいね!!」
戦闘狂のクゥガは、ワイバーンと聞いてテンション上がりまくっている。
「・・・フィールドは?」
未だ首根っこを掴まれたまま、俺が問うと、シェリルはにこやかに返してくれた。
「はい、“モールスの森と丘”、ワープゾーンを使えばすぐに到着できます!」
バタン!!
「もう申請は済ませたよ。準備が出来次第行くからね」
シェリルが時間を言ったと同時、俺がもっとも長い付き合いをしている少女が応接室へと入ってきた。
耳がとがっていること、それが特徴の探求部副部長。
エルフ族の金髪美少女、アーシェだ。
カツカツと俺たちの前を通り過ぎながら、満面の笑みで俺に(・・)言う。
「久々の冒険依頼、頑張ろうねユーヤ!」
「なんでユーヤだけだよ?」
クゥガのツッコミはもっとも。まぁいつもこうだしな・・・。
そんなことはおかまいなしに、アーシェは応接室左側にある武器置き場から自分の杖を持ち出し言った。
「ほら、さっさと行こう! 探求部、始動だよ!」
『おう!』
俺達もそれぞれ武器を取り出し、彼女のあとに続いていく。
やっぱり最初の一文訂正!
今日も我らが探求部は依頼を受理し、遂行中だ!
次回から、本編。
主人公が私立インクアイリ学園に入学する前の話から、この仲間たちとの出会いの章を書き始めます!
ちなみに探求部メンバーのLVとクラスは意図的に伏せましたので悪しからず。
出会ったときに、ということで!
・・・っつか挿絵デケぇ。