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探求部の冒険者な日常  作者: シェイド
第一章 探求部ができるまで
16/16

016 勉強会

バゼラート暦1206年07月11日・・・



朝、俺とクゥガ、アーシェの3人はいつものように俺の部屋で朝飯の最中だった。


1人は食事もそこそこに、俺らが食っている間ずっと筆記試験の勉強をしていたが。


今朝は朝食に俺の集落の郷土料理、“冷麦”を出し、2人の大絶賛を経てとても満足しつつ氷にうずもれた麺を取り出し、つゆに漬けて啜っていた。


「アーシェはよくもまあそんなに勉強して頭痛くならないなぁ」


「熱くなるのは構わないが、勉強にだけは俺も熱くなれん」


「・・・」


俺らの声も聞こえないようで、一心不乱に問題を解き続けるアーシェ。


「おいアーシェ?」


クゥガが心配そうにアーシェの顔を覗き込む。


幸い今日は年に数回ある学園の休日だそうで、長期休暇とは違った単発の休みである。


だがおそらく学園側が考えるこの休日の意図は・・・


「明日っからテストなのよ!? なんであんたらこそそんな平然としてられるのよ!!」


勉強しろ、ということなのだろう。


「まぁ俺は学園を楽しむために入学したからな、勉強はいいや」


ちゅるるっと冷麦を啜りながら、俺は言う。


「俺はそんなに優遇されているわけではないが・・・勉強はやる気が起きん」


クゥガもそうらしい。と、いうより、バカだからな、コイツも基本。


会う前から、STR1100のヤツなんてバカだろうとは思っていたが、案の定だ。


ワルサーの情報では、“冒険基礎”の小テストで、2/50という悲惨な結果だったらしい。


・・・まぁ、テストの点数ですら情報で入ってくるワルサーが恐ろしくなったりはするのだが。


閑話休題それはさておき、とにかくテストは全部実技で補うしかないだろう。幸い実技はかなり恵まれているからな。


俺はというと、まあ一応実技免除組ではあるが、当日は本気を出す気満々だ。その結果如何けっかいかんでバトルボールの選手になれるか決まるんだぜ?


実技試験はそれでいいとして、筆記は正直、どうにでもなると思っている。数多のフィールドをみてきたこともあり、授業で聞いた内容など、知っているものが8割だった。


クゥガが悲惨な成績をたたき出したその小テストだって、42/50だったしな。上等だろ。


・・・まぁ、後ろにいたワルサーが50/50なんつー結果だったのは悔しかったが。


アイツの場合、テスト問題調べ上げてるって可能性もあるしな・・・。


「まぁいいや。じゃあ今日はうちでずっと勉強すっか」


席を立ち、食器を片すためキッチンへ向かう。


後ろからクゥガのため息と、アーシェのガッツポーズとともに出るような声が聞こえてきたが、まあいいだろ。


カチャカチャと皿を洗っている間、アーシェがクゥガに勉強を教えていた。


なんだかんだでコイツらと一緒にいて3ヶ月・・・お互いの性格もあらかた掴んだし、仲間と過ごす楽しさも知った。


学園来て良かったな、などと、晴天に舞う風鈴を眺めて呟いてみる。


チリリン、と心地の良い返答が返ってきたことに苦笑しつつ、タオルで手についた水滴を拭う。


「筆記試験には興味ねぇけど、順位が出るらしいからな。頑張ろうか」


伸びをして、アーシェの向かいに座る。


「あ、わりぃ。俺も教材持ってくる」


隣の部屋へと戻っていったアイツが一番ピンチじゃなかろうか。


「にしても、少し暑いな」


俺は手ごろな無記入の紙を手に取り、


「“精製リファイン”」


白い球体にする。


「なにすんの?」


アーシェが不思議そうに爆走していたペンを止めた。


「“練成クラフティング”」


そのまま押しつぶす。


「精錬・扇子」


「・・・ユーヤ、そんなこともできるのね」


アーシェがため息を吐いていたが、気にせずパタパタと煽る。


「まあいいわ・・・」


パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ


「いつまで扇いでんのよ!!」


「えぇ? だってコイツ扇ぎ続けないと消えるし」


「あぁ、そーゆー・・・」


精錬術にはいくつか種類がある。


戦闘中一瞬の効力を発揮する、精錬魔法。この前の幻術師戦で使った落宝金銭粉レジストダストなどがそれにあたる。


次に、一度の戦闘中にのみ姿を顕現し役立つもの。精錬武器と精錬具。デスベアーを倒した時のフレイムブレードや、さきの森と丘で使用したレミーラの魔レンズがそれだ。


他にも数種、トンでも技を秘めているのだが、今は説明することもないだろう。


話を戻すと、どれも効果を発揮し終えれば霧散する。


この扇子などは扇ぐことが“戦闘”であり、それを終えれば消えてしまうのだ。


「・・・ま、もういいか」


扇ぐのをやめると、数瞬ののちに霧散した。


「でさ、ちょっとここ分からないんだけど・・・」


その尖った耳にかかる髪をかきあげながら、俺にノートを差し出してくる。


彼女の指差す先には回復薬がHPを回復する数値に関しての問題が載っていた。


「あぁこれは・・・」


「あ、そっかぁ。・・・フフッ」


俺が教えているときのアーシェは、なぜかとても嬉しそうだった。































「やっぱりバカ? バカなのか!?」


昼飯の後片付けをする俺の耳には、アーシェの暴言とクゥガの焦った声が聞こえてくる。


「だ、だってよ、コレ計算とかできないじゃんか」


「だ~か~ら! 魔法を使役した時間に比例してMPは減っていくの! 最終使用MP÷秒数=一秒あたりのMP使用数でしょうが!!」


「えぇ? わかんねぇよ・・・」


「だからぁ!!!」


昼飯を終えて数分してから、ずっとこんな調子である。


正直俺としてはワイルドビーストのクゥガに特にMP換算を覚える必要性を覚えないのだが・・・テストに出るからしょうがないか。


さて、俺は俺で個別に勉強をしようかな・・・と思ったその時だった。


ピンポーン


誰か来たのだろうか。いつもウチに来るメンバーは揃っているので、見当がつけ辛い。


ともかく出なければならないのは確かなので、問答を繰り返している2人を尻目に玄関へと向かう。


「ほいほ~い」


ガチャ、と扉を開くと、緑色の短髪に鋭い眼つき。見慣れた情報屋が立っていた。


「や! ふむ、やはりキミの部屋はここであっていたかそれにしてもまさかアーシェちゃんのお向かいでかつクゥガの隣とはなかなかどうして偶然とは繋がるものだねいやしかし俺としてはこの区画に同席したかったという思いもすてられないが俺の5階にも立地には満足しているしおっと話が逸れたそうそうテストに関して面白い情報が手に入ったからね教えに来たよ上がっていいかい?」


必殺・マシンガントーク。


ここまで息の続く人は初めてみたってそんなことはどうでもいい。前半はただの寮部屋に対しての愚痴だったしな。


「テストに関する面白い情報? まぁ上がれよ」


どうして俺の部屋を知ったかは知らんが、コイツのことだから驚きゃしない。


「おうそうか、お邪魔しま~す」


スタスタとリビングのほうへ向かうワルサーを眺めつつ、後ろ手で扉を閉める。


「あらら、PT全員集合だったの?」


「よう」


「こんにちはワルサー」


「そういえば俺の部屋に来たのは初めてだったか」


俺はリビングを通り抜ける。ちょうど良いので4人分アイスティーでも淹れようか。


「じゃあ失礼するよ」


そういってアーシェの隣に腰掛ける。クゥガの対面だ。


「んで、その情報って?」


「フッフッフ、悪いがこの情報は有料だ」


怪しげな声色で言うが、


「あそ? じゃあ要らねえ」


「ちょ!? いや欲しいだろ? テストに関する情報だぞ!?」


「有料とか」


語尾にカッコ笑をつけるくらいの勢いで言ってやる。


「頼むって! 俺はその対価が欲しくて来たんだ!」


「・・・なんだ? 金じゃないのか」


「あぁ。頼む! 俺に勉強を教えてくれ!!」


「・・・お前勉強できたよな?」


「あぁ、アレは“冒険基礎”の話だろ? “数値換算”はさっぱりなんだ!」


数値換算、さっきクゥガが頭抱えてたヤツだ。MPやHP、その他能力値に関する諸々の計算処理の科目である。


「あ~。そのくらい対価無しでも教えるって」


俺が優しく苦笑しながら言うと、


「じゃあ別の対価をもらおうか」


「つけあがるなバカタレが」



出来上がったアイスティーにアーシェの魔法で氷を浮かべ、各員の前に出す。


俺自身も席に着き、斜め左に座るワルサーに問いかける。


「それで? テストに関する情報って?」


2人も、俺の発言に賛同するようにワルサーを見た。


「あぁ、実技試験の形態だ」


『!?』


驚いた。これが分かってしまえば、バトルボールに参加できる確率はうなぎのぼりだ。


「そ、そんなのどこで・・・?」


クゥガがキョドるのも不思議ではない。だがまあその質問に関しては、俺とアーシェは“ワルサーだから”で済ませていた。


彼の所属する私立インクアイリ学園特別情報収集兼人為的流出用秘密諜報人員育成機関、略して文芸部の規模はかなりデカい。


総動員して動けばテスト問題を知ることくらいはお茶の子さいさいだろう。


「かなり助かるな」


「ソレ、ズルじゃないのかな・・・?」


アーシェは不安そうだが、ワルサーはにこやかに言い放つ。


「そんな情報を漏洩するほうが悪い!」


「そうかな・・・」


首を傾げるアーシェはさておき、次の言葉を紡がせる。


「それで?」


「あぁ、簡単に言えば、タイムアタックだ」


『?』


「バーチャルルームが今回の試験会場。そこで現われるモンスター、“グリズリー”をいかに速く倒せるかを競うものだ」


グリズリー。簡単に言えばデスベアーの劣化版召喚獣だ。


とはいえ攻撃力は高く、何より体力は多い。タイムアタック以前に俺らのような異質でない、普通の生徒では倒される危険もあるモンスターだ。


「危険じゃないか? この学年じゃ」


「確かにな。んでも、まぁ俺らにとってはそのほうがヒトと差がつき易くて好都合じゃないか?」


言われてみれば。納得する俺の隣で、クゥガが意見する。


「それって、1対1でやるのか?」


「あぁ、そうらしい。幸いバーチャルルームは特別教室棟にいくつもあるしな。1クラス1つのルームを使うことになるだろ」


「おぉ! 熱くなってきたぜ!」


「でもま、筆記試験の翌日だけどね」


アイスティーのストローを加えながらアーシェが言う。その言葉でクゥガは崩れ落ちた。


「まぁとにかく。いい情報も聞けたし持つべき物は友ということで、勉強再開しますか」































「どうせだから晩飯、食ってけよ」


「お? いいのか?」


夕暮れ時、そろそろ集中力が続かないこともあって勉強会はお開きとなった。


帰ろうとしたワルサーを引きとめ、比較的豪華な夕食の準備をする。


「あぁ。幸い肉は大量にあるしな」


ニヤリと笑ってそう言うと、ワルサーも大いに感動してくれたようだ。


「焼肉か!!」


「おう!」


というわけで、4人掛けのテーブルをどかして、リビングの中央に竈を作る。皮袋から取り出したデカい石どもが役に立った。


ついでリビングの窓を全開にする。程よく風が入ってきて気持ちがいい。


「飲み物買って来るね~!」


アーシェとクゥガが嬉々として1階の食堂へと向かっていった。あすこでコーラでも大量に買い占めるつもりだろう。


「明日テストなんだよな、こんな浮かれてていいのだろうか」


置石を積みつつワルサーが遠い目をするが、


「まぁいいじゃねえか。どうせここまで勉強すればテストくらいちょろいだろ?」


「・・・まぁな」


2人して怪しい笑みを浮かべる。


今日はかなり勉強した。元々今回のテスト範囲くらいは沢山のフィールドでの経験が良い予備知識になっているので、知識系テストは余裕だろう。


あまつさえ計算問題系統は今日死ぬ気で教科書を一から解きまくった。


死角は・・・ない!


特にアーシェなんかはかなり筆記でも上位に食い込むのではないだろうか。


「さて、鉄板温めるか」


俺が言うと、ワルサーが魔法を唱える。


「あぁ。fire easy grade first ファイアーボール!」


掌大の小さな火の玉が竈の中へと入り、中を明るく灯す。


「初級魔法にも詠唱必要なのか」


「アーシェちゃんじゃあるまいし。こっちが普通だよ」


今のは超初級魔法だとアーシェから聞いたことがある。


このくらい頭の中で想像するだけで詠唱しなくても発動できるというのが魔法使いの水準らしいが、


「まぁワルサーはシーフだしな」


「そだな」


竈はワルサーに見てもらい、俺は肉を下ごしらえにかかる。


その内クゥガとアーシェも大量のコーラを買ってきて、焼肉ムードが広がっていく。


「よし、できた!」


簡単に胡椒だけで下ごしらえを済ませ、リビングに肉どもを運ぶ。


『キターーーーー!』


そんな声を受けながら、肉を次々鉄板に敷いていく。


ジュゥウウワアアアアアア


肉汁の溢れ出す音が、食欲に一層拍車をかけ次々と箸で肉を取り合っていった。




「ふぅう~~。食った食った」


「あぁ~、美味しかったぁ~」


「熱いぜぇ・・・もう食えない」


「相伴預かってよかったぁ~」


リビングに寝転がり、軽い食休み。体に悪いことは知っているが・・・こうしてたい。


戦場跡と化したリビングは散々たるものだった。


黒い水滴のついた紙コップが転がり、元は箸であった棒たちは適当なところに離れ離れ。所により肉カスが落ちていて、明日の片付けを考えると暗澹たる気分になる。


「ヤダ・・・髪に臭いがついちゃった。ユーヤ、シャワー借りるね・・・」


「う~い・・・」


けだるそうに起き上がり、アーシェはシャワーの方角へと歩いていった。


その数秒後。


「アーシェちゃんのシャワー・・・」


「おいワルサー、テメエ何を考えていやがる」


ぼ~っと天井を眺めながら不穏な言葉を吐くワルサーを睨む。


「お前も信用されてるな・・・男の部屋でシャワーを借りるたぁ・・・」


「あん? いやまぁ」


「ユーヤが甲斐性なしと思われてるかも知れんぞ」


声が震えていることから、笑いを堪えていることが窺える。おいクゥガコルァ。


「それか・・・覗いて欲しいとか、な」


「いやいやいやいやいやいやいやいやいや、アーシェをそんな女にするな!」


ワルサーの表情が、心ここにあらずといった感じだ。


「いやぁ、分からないぜ? 好きな男になら・・・ってな」


「ないだろ・・・」


そう言いつつも顔が熱いのが分かる。


ッツ、何だよもう。


サーっと、拡散された水が流れる音が聞こえてくる。


「な~んか、動きたくねぇな・・・」


「あぁ、気だるい」


2人が口々に言うので、提案する。


「何なら今日、泊まってくか?」


「お? いいのか?」


「やった~・・・」


クゥガは少し遠慮がちに聞いてきたが、ワルサーは気の抜けたコーラみてぇな声で喜んでいた。


「まぁいいんじゃねえか? 暑いし布団敷かなくてもここでごろ寝すりゃいいだろ?」


キュっと音が鳴り、シャワー音が止む。


「やった、ラッキー」


「ちょっと待ってな、脱衣所から枕くらいは持ってくる」


「う~い」


「ほ~い」


俺は立ち上がり脱衣所・・・へと向かった。


「・・・なぁ、ラブコメの予感しねえか?」


「あぁ、だから敢えて指摘しなかった」


「ムフフフフフ」


「ゲヘヘヘヘヘ」


そんな2人の会話の数秒後、悲鳴と、廊下まで魔法で吹っ飛ばされたユーヤと、顔を赤くしてバスタオル一枚で出てきたアーシェが見えたのだった。


「「予想的中♪」」


「・・・お前ら、気付いてて・・・ガクっ」

大変申し訳ありませんが、これから応募作品執筆兼ストックの作成に入りますので、3ヵ月間おまち下さい。

9月には再開いたします。ご迷惑おかけしますが、今後もよろしくお願いもうしあげます。

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