015 開幕戦 後編
茶色の球体がグラウンド上を飛び交う。
その間観客達の喚声はやむ事を知らない。
「す・・・げえ」
吐息のような言葉が漏れる。本当に凄まじいのだ。
選手全員が、人でも殺すのか? ってぐらいの気迫でボールを奪い合う。
時折天使族や鳥人、魔族といった翼を持つ種族が空を飛び、空中戦を行うこともあり壮絶だ。・・・俺も精錬術を使えば飛べないことはないが。
そして、水色のユニフォームを着た中でも、突出した存在が1人居た。
背番号1を背負った彼は、見る限りFの選手だ。
プレイスタイルを見る限り、おそらく魔法剣士系の職業であることが予想される。
種族は多分エルフだろう彼はしなやかに金髪を流しながら、次々と襲い掛かる敵選手を魔法や剣戟、さらには格闘術を駆使して避わしていく。
そして・・・抱えていたボールを手放したかと思ったら、重力にしたがって地面を目指すソレを、思いっきり足で引っ叩いた。
敵選手が目ですら追い着けない中、ボールはゴールを鋭く射抜く。
『わああああああああああああああああ!!!!!』
会場中がさらなる熱気に一瞬で包まれた。
かっけ~・・・。
実況者が興奮を隠すこともなく騒ぎ立てる。
『今日もやってくれましたぁ! 現4年生が誇る無敵のエース、クレイぃいいいいい!!トーレスぅうううう!!!!』
そういえばスタートの時も言ってたか、名前。確か入場の時にも全員の自己紹介してた。俺が忘れてただけだ。
クレイ・トーレス。
彼が会場中を魅了している。
まさにヒーローといった具合だ。
・・・だが、俺はその彼よりも、3年生チームのG、天使族の彼に注目していた。
多分、職業は見たところ盗賊系。
黄色のユニフォームに身を包み、背番号は1。クレイ・トーレスから唯一ボールを奪え、3年生側に流れを持ってくる。
3年生ボールで再びゲームが始まり、ボールをキープするのはその彼だ。
4年生側の槍使い系選手が、武器を構えてその彼に突進する。怖気づくことも一切なく、彼は飛翔して回避した。
そのまま敵陣へ空中から突っ込む。
負けじとばかりにクレイ・トーレスが跳躍だけで彼を見据えると、火属性魔法ファイアークラッカーを放つ。が、彼はその魔法をさらに回避する。
クレイ・トーレスの口元がつりあがった。「かかったな」とでも言いたげである。
次の瞬間、4年生チームの魔族が、翼を広げてGの彼をしとめにかかった。
・・・だが。
彼は突進してくる魔族の少女を見つめて微笑み、ボールをさらなる高みへと放り投げた。
『!?』
会場中の総意がソレであった。彼の奇怪な行動に対する、声にもならないような驚き。
だがその行動は、一瞬で意味を成す。
そのボールを放り投げた先の上空には、3年生側の鳥人の少女がタイミングよく飛び上がっていた。
そしてそのまま、上がってきたボールを敵側ゴールに思いっきり蹴り飛ばす。
瞬間、蹴り放たれた球体はネットに突き刺さった。
『・・・わ、わあああああああああああああああ!!!』
一瞬の夢から醒めたように、会場はまたも沸きあがる。
『エイミー・ネイディスの華麗なるシュートでしたぁ!! だが会場中が唖然となったのはやはり、この男のプレーでしょう!!! 変幻自在の司令塔! インクアイリ至高のG! バジルぅううううううう!!!デリアーーーーーーール!!!!!』
『ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』
バジル・デリアール・・・やっぱり今日見に来てよかったぜ。
「あの人かっこいいよねぇ」
隣でアーシェが言う。だが恍惚として言うのではなく、真剣に将来の“敵”として鋭い眼光とともに見据えているのだから彼女らしい。
「あぁ。俺の目標が出来たよ」
「ユーヤ、Gするつもりなの?」
「あぁ。やっぱりカッコいいからな。アーシェは?」
「私はもちろんFよ! クレイ・トーレス先輩以上の存在になってやる!」
飲み干したコーラの紙コップを握りつぶしつつ、アーシェは希望の宿った瞳をクレイ・トーレスにぶつけていた。
バゼラート暦1206年05月17日・・・
「いやぁ、昨日の開幕戦は凄かったなぁ!」
「確かにな。1対1のまま終わっちまったが、白熱した闘いが見られたんだ。満足だよ」
ワルサーと2人、自分の机の上に座って、昨日の試合についてのトークを繰り広げる。
今は既に昼休みのため、教室内にはそこまで人は居ない。
ワルサーはおおげさに手を広げ、自分のポジションである先輩を盛大に褒め称え始めた。
「なんてったって、クレイ・トーレス先輩だろ! ハンパないぜあのキープ力とシュート力は!」
「俺的にはやっぱ、バジル・デリアールさんだな。当面の目標が出来たぜ」
そんなことを話していた矢先のことだった。
名前も未だ覚えていない同級生の男子が、俺たちの座席とは正反対の入り口らへんから忌々しげに俺を呼んだ。
ちなみに言っておくと、俺とワルサーはクラスの一部から結構嫌われている・・・いや妬まれている。
実技免除組だからな、気持ちも分からないではないが。
というわけで、邪険に扱うような声のかけかたをするわけだコイツらは。
「おいミナモト、こっちに来い」
「は? 用があるならテメエが来いよ」
「ッツ! 先輩が呼んでんだよ! 実技免除組だからっていい気になってんじゃ」
「構わない。失礼するよ」
『!?』
一瞬で五月蝿いハエのことなどどうでもよくなってしまった。
ワルサーが、驚愕の表情を隠せないまま必死に声を絞り出す。
「な・・・なんでクレイ先輩が・・・?」
「お、名前を覚えてもらえているとは嬉しいな」
そう、男にしては襟足の長い金髪、輝かんばかりな碧の瞳、爽やかな笑顔、横に尖った耳・・・噂の冷め切らぬ話題の人、クレイ・トーレス先輩であった。
彼は俺たちの居る窓辺にまで、どこまでも堂々とした態度で歩み寄る。
いつの間にか教室の外には大量のギャラリーが出来ており、あまりに多すぎて教室内にまで少し溢れているサマだった。
「ユーヤ・ミナモト君はキミか。黒髪に黒い瞳。うん、間違いない」
1人にこやかに頷くクレイ先輩。いやいやいやいやマテやオイ。なんで俺に?
「俺がそうっスけど・・・なんでクレイ先輩がここに?」
「ハハハ、それはごもっとも。いや、キミの将来を見込んでね・・・いや、キミとリーフィアさんか。キミ達2人が2学年に上がったとき、きっとバトルボールでとんでもない力を発揮するだろうと思って、どんな面構えなのか拝みに来ただけさ」
俺とリーフィア・・・リーフィア・ローズベルトか。彼女と俺の共通点はなんだ?
・・・。
「あぁ、親父関連ですか」
俺が納得いってクレイ先輩に問うと、親指を突き出して笑った。
「ご名答。楽しみだよ、キミ達と戦うのが」
「いえいえそんな。プレッシャーかけないで下さいよ」
「そうか。キミはバトルボール選手になろうとは思っているのかい?」
「もちろん。といっても親父とは違って、G志望ですが」
俺がそう言うと、自分の顎に手をやりクレイ先輩は「そうかそうか」と頷いて言った。
「確かに、キミのスペックを見る限りはそのほうがいいかも知れないね」
「!? 分かるんですか?」
「生徒証の細かい数値は分からないけれども、どれだけ修羅場をくぐってきたかとか、判断力に優れていることは分かる。やるヤツにはやるヤツの、臭いがあるからね」
臭い・・・?
「ハハハ、腕なんか嗅がなくていい。そうじゃなくてね、歴戦の戦士のオーラ、とでもいうのかな」
「はぁ」
「まぁいいや。時間をとらせて申し訳なかったね。じゃあ失礼するよ」
颯爽と踵を返し、クレイ先輩は去っていく。
詰まっていたギャラリーも、先輩を避けるように道を譲る。
「ありがとう」
嫌味ったらしくなく、それでいてぞんざいでもない簡潔な挨拶と微笑みに、女の子は恍惚と、男子連中は嫉妬に狂った瞳を映し出していた。
う~ん、やっぱり違うなぁ。
「ユーヤ!!」
「どういうことだよ!!!」
どたどたと、アーシェ、クゥガが教室に闖入してくる。
そんなクゥガをまじまじと見つめ・・・。
「うん? どうしたユーヤ」
「いや、やっぱりクレイ先輩は違うなぁ、と」
「テメエ!! 俺と比べたろ今!!」
頭がヤツの腕に巻き込まれ、ヘッドロックを喰らう。
「ヘッドロックとか子供かよ・・・ってイデデデデデデデデデデ!!!!」
こんのSTRはマジバケモンだって。
万力にはさまれたような痛みに顔をしかめつつ、俺はみんなに向き直る。
「クレイ先輩と知り合いだったの!?」
「うんにゃ」
「なんでそんなアホの子みたいな表情なのよ・・・」
アーシェがため息をつくと同時、今度はクゥガの尋問が始まる。
「じゃあどういう絡みだったんだ?」
「将来を見込まれたのさ、ボクは」
「なんでそんなクソ貴族口調だよ・・・」
クゥガもため息をつく。
さすがにノリも面倒になってきたので、あらかたの説明をざっとしてしまった。
「・・・ふぅん、お前の親父ねぇ」
「ってことは、宣戦布告みたいなものかしら?」
「まぁ、そうなるな」
俺が頷くと、今まで黙っていたワルサーが口を挟んできた。
「これはもう、是が非でもバトルボールに参加して全校一位を取らないとな」
「そうだぜ! 男は熱く生きるものだ!! 頂点を目指して我武者羅に生きる!!! これぞ男道!!!!」
「別に男道求めてねえよ」
軽くツッコミを入れて、俺は周りを見る。
「とにかくライバル視してくれたんだ。俺らでバトルボール勝ち取ろうか」
ワルサーが笑顔で頷いた。
クレイの職業詳細
魔法と剣術を同時に扱える、オールラウンダー的存在。
どんなPTと組んでも戦闘で活躍できる、いわばエリート職業である。
魔法戦士
↓
魔法剣士
↓
ブレードマジシャン
↓
スペルダンサー←今ココ!
↓
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